『禁煙失敗!!』(脚本)
〇ダイニング(食事なし)
川野剛「(もぐもぐ)」
由美子「(お菓子もぐもぐ)」
悟「(スマホ見てる)」
るる子「(無表情)」
川野剛「御馳走様と」
川野剛「さて食後の一服」
川野剛「と見せかけて」
ドンッ!(机を両手でたたく)
川野剛「今日は重大な発表がある!」
由美子「?」
川野剛「今日をもって」
川野剛「父さんは!」
ぐしゃっ!(握り潰す)
川野剛「禁煙する!!」
〇黒背景
『禁煙失敗!!』
〇電車の座席
ガタンゴトン
川野剛「と啖呵を切ったものの」
川野剛「正直自信がない」
川野剛「家族の反応も、そりゃそうだ」
〇黒背景
〇ダイニング(食事なし)
川野剛「ってリアクション薄いな」
由美子「だって 禁煙するって何回目よ」
川野剛「えーと 7回目かな」
悟「9回目だよ 父さん」
川野剛「いや、今回は今までとは違う マジの禁煙だ」
由美子「それ前の時も言ってたわ」
川野剛(確かに、思い返せば)
〇病院の診察室
医者「1日100本? ダメ!禁煙しなさい!」
川野剛「分かりました 本数を半分に!」
医者「ダメ!完全禁煙!」
川野剛「来週、いや来月から」
医者「今日から!分かった? 病気になってないのが奇跡なくらいだ!」
〇ダイニング(食事なし)
川野剛「俺は禁煙する!でなければ死んでしまう!」
3ヶ月後
川野剛「3ヶ月頑張ったんだ。 1本、1本くらいなら・・・」
川野剛「スーハー ああ、美味しい。 天国だ」
〇テレビスタジオ
「世間では禁煙が大ブームとなっております」
「世はまさに大禁煙時代!」
川野剛「乗るしかない!このビッグウエーブに!禁煙だー!」
1ヶ月後
川野剛「スーハー タバコの波の飲まれるなら本望だ」
〇占いの館
占い師「うひひ。 今年の運勢は、」
占い師「最悪!最悪の最下級よ!」
川野剛(!)
占い師「あなたを不幸にするアンラッキーアイテムは」
占い師「白くて細いもの!」
川野剛(煙草じゃないか!)
占い師「手放せば人生マーベラスだわ。 うひひひ」
川野剛「よし!禁煙するぞ!うひひ」
5日後
川野剛「スーハー 占いなんて信じるか! 煙草は人生のラッキーアイテムだ!」
〇ダイニング(食事なし)
川野剛「確かに散々失敗してきた ただ俺も馬鹿じゃない」
川野剛「作戦がある」
「皆で頑張ろう作戦」
川野剛「皆にも協力してもらう」
川野剛「まず母さん。 これ」
由美子「大好きなコーンコーンのBBQチーズ味! 私の生きがいよ!」
川野剛「ふん!(一気食い)」
由美子「ああ!何すんの!」
川野剛「俺が禁煙中は母さんはスナック菓子禁止!」
由美子「えっ!そんなの無理よっ!」
川野剛「痩せたいが口癖、 なのに毎日バカ食いして、太る一方!」
川野剛「健康診断でも引っかかってる、 これは母さんの為でもあるんだ」
由美子「私、どうなってしまうか・・・」
悟「アハハッ母さんも頑張れよ~」
川野剛「悟! お前は他人の失敗や不幸を喜び過ぎだ!」
悟「え?」
川野剛「浪人生。しかも今年で二浪目。 なのに最近勉強に身が入ってないだろ!」
川野剛「スマホで動画を見てる時間が長すぎる!」
川野剛「面白失敗動画、 スカッと動画、 芸能人の謝罪会見、 etc」
川野剛「多少の息抜きはいいが、 内容が内容だ、度が過ぎるのも良くない」
川野剛「長時間スマホ禁止!!」
悟「(別にこっそり見ればいいか) まあ分かったよ」
川野剛「通信契約を0.2ギガのSSSプランに変えといた!」
悟「0.2って低すぎない? 悪い視力検査かよ! 20ギガですら全然足りてないのに!」
川野剛「そして最後、るる子!」
るる子「だっる」
川野剛「まだ言ってすらないのに・・・これだから年頃は」
川野剛「とにかく、 俺の禁煙が、皆の為にもなる! 一緒に頑張っていこう!」
〇黒背景
〇電車の座席
川野剛「今回こそ絶対成功させる」
川野剛「最大の敵はストレス。 とにかく穏やかに過ごさないと」
ドタドタドタ
(乗客達が激しく下りていく)
川野剛「痛って」
川野剛「ふー。 落ち着け、イライラしてはいかん」
〇オフィスのフロア
上司「ぺらぺらぺらぺら」
川野剛(朝礼長過ぎだろ(イライラ))
〇オフィスのフロア
プルルルル(電話のなる音)
川野剛(誰か電話に出ろよ。 イライライラ)
〇コンビニのレジ
川野剛「焼きそばパンが売り切れ!?」
川野剛「イライラ」
店員さん「何かお探しですか?」
川野剛「タバ」
店員さん「タバコ?」
川野剛「いや、タマゴを」
店員さん「はい、おでんの玉子ですねー」
〇オフィスのフロア
川野剛「(玉子もぐもぐ)」
女性社員「あの、前々から伝えたかったことがあって」
川野剛「え? (なんだ?ドキドキ)」
女性社員「川野さんって、ウミガメみたいな顔してますよね」
川野剛「(グサッ)」
〇オフィスのフロア
「何で俺が使う時に用紙切れるんだ! イライラ」
川野剛(やってられるか! 煙草・・・は吸えないんだ、クソ)
部下「川野さーん、煙草休憩行きましょ!」
川野剛「今の俺に話しかけるなー!」
部下「ひーっ!」
〇雑踏
川野剛「・・・」
川野剛「どうにか仕事を乗り切った・・・ が限界に近い」
川野剛「目を閉じれば幾千の煙草」
川野剛「はあ、しんどい・・・ とにかく家に帰ろう。家なら安心だ」
〇ダイニング(食事なし)
川野剛「ただいま~ 母さん、やばい限界だ、助けてく」
由美子「お菓子ぃー!お菓子を食わせろー!」
川野剛「暴君と化した母さんがいた」
川野剛(ひとまず退散だ)
〇部屋のベッド
川野剛「ふう」
川野剛(母さん、食べずに我慢してくれてるんだな)
川野剛「心が折れそうだ」
川野剛「でも、やるしかない」
〇学生の一人部屋
「入るぞ」
川野剛「どうだ、勉強の方は」
悟「ぼちぼち。 禁煙の方はどう?」
川野剛「全然平気」
川野剛「いや」
川野剛「正直辛い」
悟「無理しないほうがいいんじゃ? もう吸いなよ? (ニヤニヤ)」
川野剛「悪い癖出てるぞw」
川野剛「人の不幸は蜜の味、か」
川野剛「そういう動画もそんなに好きか」
悟「・・・」
悟「なんでだろう。自分でも分からない。 気づいたら見てるんだよね」
悟「何かね、安心するのかな」
悟「でも後で毎回思う」
悟「なんで俺、 人の不幸で喜んでるんだろうって」
悟「自分がすっごく嫌になる」
悟「父さん、俺って最低な人間だよね?」
川野剛「シャーデンフロイデ」
悟「え?」
川野剛「分かるよ。 俺もさ、朝電車にギリギリ乗れなかった人を見ると、妙に嬉しかったりする」
川野剛「わはは。俺も最低だ!」
川野剛「そういう感情をシャーデンフロイデというらしい。 人間、誰にでもある感情みたいだぞ」
悟「そうなんだ」
川野剛「なあ」
川野剛「もしもだ」
川野剛「俺が1年程禁煙したのに ある日急に我慢できず吸っちゃったら」
川野剛「どうだ?」
悟「・・・ ふふふ めっちゃ面白い」
川野剛「なら それを楽しみにしといてくれ」
川野剛「だからそれまではお手軽な不幸を楽しむのは禁止。 父さんで思いっきり笑う為にな」
川野剛「少なくとも、悟の受験が終わるまでは何があっても禁煙するからな」
悟「うん」
川野剛「俺は負けないぞ」
〇可愛い部屋
「るる子、いるか?」
るる子「入ってこないで!」
「ごめんごめん、じゃあこのまま話すぞ」
るる子「何?」
「なあ、父さんのこと嫌いか?」
るる子「別に」
「ウザいキモいって感じか」
るる子「・・・」
「まあそうだよな!わはは!」
「でも、どうやらそれが普通らしい」
「女性は、 大人になる過程で父に嫌悪を抱くようになってるんだとさ」
「そこで、考えたんだ」
るる子「えっ?」
るる子「うわっびっくりした! えっ何?パパ?」
着ぐるみ父「るる子、かわいいもの好きだから、 これなら大丈夫かなと」
るる子「いや、そんなんしたって」
るる子「あれ? んーあー、ギリギリ平気かも」
着ぐるみ父(着ぐるみ越しでもギリギリなのか!)
るる子「多分1分が限界かな」
着ぐるみ父(1分・・・恐るべし思春期の父嫌いパワー)
着ぐるみ父「でさ、るる子にはいくつか一緒に頑張って欲しいんだけど」
るる子「うん」
着ぐるみ父「とりあえず、時々こうやって話して欲しい」
着ぐるみ父「この格好で来るから」
るる子(まあそれなら)
るる子「やばい、なんかムカついてきた」
着ぐるみ父「えっ?もう?」
るる子「今、ウザさがお腹の辺りから込み上げてきてる。そろそろ噴火しそう」
着ぐるみ父「分かった分かった! 出る出る!」
るる子「あぶなかった」
〇ダイニング(食事なし)
家族が、家庭が暗い
最近は特にそうだ。
それに
皆どこか自信なく生きているように思える
由美子「あら、るる」
〇部屋のベッド
数年前、会社を辞め起業した
最初は上手くいっていたが、
甘くはなかった
程なく雲行きが怪しくなり、
結果、事業をたたむこととなった
前社の退職金も全て消えた
不安やストレスで、
やめていたタバコも再開してしまった
あの時くらいからだろうか
家庭から笑顔が少なくなったのは
〇ダイニング(食事なし)
るる子「ママ平気?さっきなんかヤバかったよ」
由美子「うん、もうピーク越したわ」
るる子「パパ平気かな?」
由美子「どうだかね」
由美子「お父さんね、昔禁煙に成功したことあるのよ」
るる子「え?」
〇部屋のベッド
「頭が痛い、割れそうだ」
「気持ちが悪い、吐きそうだ 目の前もチカチカする」
由美子「るる子、 小さい頃、気管支が少し弱かったから」
由美子「それで禁煙したの」
るる子「そうなんだ」
由美子「その時も相当苦労したんだけどね」
「何かを変えないといけないと思った」
「考えを押しつけたり無理に頑張らせることは嫌いだ。 避けてきた。 自分も、家族にも」
「けど、家族皆で一緒に目標を決めて、 それを達成できれば また」
〇ダイニング(食事なし)
〇部屋のベッド
「その為には、俺が先頭きってやらなきゃ。 カッコいい所を見せる」
「いや」
「カッコ悪くても、惨めでも それでも頑張る姿を、見せるんだ」
川野剛「我慢だ」
〇ダイニング(食事なし)
川野剛「よし、24時間禁煙成功だー!」
由美子「やったわね」
悟「一先ずおめでとう」
川野剛(正直きつかった)
由美子「はいこれ、るる子から」
由美子「お守り替わり、だってさ」
川野剛「ん、メモがついてるな」
「せいぜい頑張って」
〇玄関内
川野剛「色んなストレス」
川野剛「でも大丈夫。 だって俺には・・・・・・」
川野剛「行ってきます!」
剛(44才)
禁煙成功期間:1日
お父さんには家庭や職場でいろんなストレスがあるんだな、と妙に感心していたら、不意打ちのウミガメに笑ってしまった。あと、お父さんが言及していたシャーデンフロイデの話も興味深かったです。
私の親も喫煙者で、タバコ辞める辞めるって何年もいいながら辞めれてないから少し呆れていたのですが、喫煙者あるあるなんですね!😂
でも、自分がタバコ辞めるために家族がお菓子とかスマホとか我慢しろって言われたら私なら反抗しちゃうかもです😂