君が死んでしまった暁に

猪野々のの

第一話(脚本)

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〇和室
  四月四日、午前七時の日曜日。目覚まし時計のアラームと同時に自覚してしまう。
  ・・・・・・また、戻ってきてしまった、と。
田沼隼人「はぁ・・・・・・」
  大きな溜息をひとつ。もはやテンプレート化とした現実に心が廃れてしまう。
  僕はこの時間から同日の十六時四十四分、二階堂先輩の死までの一日を永久に繰り返している。
  何度も、何百回も経験して言葉や行動に変化を来しても着地する結末は同じ──先輩の死。
田沼隼人「・・・・・・あと二分、か」
  携帯のアラーム停止から一分が経過。
  七時三分を迎えた頃、彼から電話が来る。内容は部活、卓球の練習を誘う連絡。
  既に何度も経験した身として、こうなることは揺るがないようで。
  少しでも変化を、と思い心苦しいが断ることや別の提案をしてみたが結果は良い方向には動いてくれない。
  どんなに試行錯誤をしても最終的には同じ日をループ。明日は永遠に訪れない。想い、好意だって伝えることも・・・・・・。
田沼隼人「いや、諦めるな」
  これではヨヒトに嗤われてしまう。人は愚かな者だと、また・・・・・・考えろ。
  思考を精一杯働かせろ。
  どうやって先輩の死を回避出来るのか、明日を無事に迎えるためにまず行動をしよう。
田沼隼人(何かまだ試していないこと・・・・・・ あっ)
田沼隼人「僕の方から電話、はしたことないような?」
田沼隼人「・・・・・・時間がない、ものは試しだ」
  連絡ツールから先輩を選択、何も考えずに電話アイコンをタップ。
  そしてワンコールも終わらないうちに死んだはずの彼の声が十数分ぶりに耳を擽った。
二階堂玲央「『もしもーし、隼人? おっはよー』」
  元気、明るい。それらを持ち合わせた彼に安心感と・・・・・・動揺が僕の心を静かに揺さぶる。
  そう、ここから先は当たって砕けるしかないノープランなのだと。
田沼隼人「お、おはようございます。その、元気ですね」
二階堂玲央「『ああ、俺はいつも絶好調だぞってな。つか、俺も今から隼人に電話しようって思ってたところだからビックリしたー』」
田沼隼人「あ、あはは・・・・・・。それは奇遇、ですね」
  知ってます、と言えないのが歯痒い。
  以前のループにて死の事実を・・・・・・先輩にこれからどうなるのか、を伝えたことがある。
  当然それは避けるべき行為だったが、僕だけでは力不足だと感じて禁忌に触れてしまった。
  幸い、彼は難なく僕の言葉を信じてくれたが因縁を断ち切ることは不可能。
  むしろ、あの顔を・・・・・・不安に満ちた普段の彼とは別人のような表情は今でも忘れられない。
  だから、この問題は僕が一人で解決しなくては。
  他でもない二階堂玲央先輩と、何の変哲もない明日を歩むために。
二階堂玲央「『それより、隼人。何か俺に用があったか? お前から電話って珍しいよな』」
田沼隼人「え!」
田沼隼人「ええっと・・・・・・その大したこと、ではないのですが」
田沼隼人(落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け・・・・・・っ)
  携帯を持つ右手が小刻みに震える。
  先まで変わり果てた姿の彼と会話している違和感、もきっとあるのだろうけど・・・・・・。
  それ以上に好きな人と画面越しでも繋がりがあると思うとやたら緊張してしまう。
  彼と話す時だけ妙に吃る癖も治したいのに、優しい先輩はそれさえも個性だと受け入れてくれる。
  僕がこの町、籠池市に来たあの時だって──。
二階堂玲央「『おう、どうしたー?』」
田沼隼人「そ、その迷惑でなければ・・・・・・先輩と、遊びたいなっと思って」
二階堂玲央「『俺と?』」
  きっとここで僕から何も提示せずとも先輩は誘ってくれる。
  部活動の練習と題して近所の体育館、卓球場へ行くことになる。経験上、ほぼ絶対に。
  しかし、彼と過ごす穏やかな時間と引き換えに帰り道に交通事故や死に繋がる出来事が確実に起きる代償付きで。
  今回も恐らく例外はなく、同じ・・・・・・けど、それでは変わらない。前に進めない。僕がやらなくては、変わらないと。
  じゃないと、また・・・・・・!
田沼隼人「し、進級も控えてて・・・・・・その、先輩は受験生になるのでそういった機会も少なくなってしまうかと思って」
田沼隼人「あ、でも嫌なら断ってください!」
二階堂玲央「・・・・・・」
  暫しの無言。
  なぜこういう時、まともな言い訳や働きかけが出来ないのだろうと思う。
  約半年前、都会から犯罪者の息子として烙印を押された僕に周囲が白い目で見る中、彼は笑顔で手を差し伸べてくれた大切な人。
  絶望の中を彷徨っていた際に、何の意図なく救ってくれた。
  初めはただの憧れ。明るくて誰にでも平等な懐が広い先輩。
  次第に憧れだったものが恋心だと気付いたのは果たしていつのことだったか。
二階堂玲央「『ははっ、そっかそっかー。何があったか知らねぇが隼人からの誘いを俺が断るわけないだろー』」
二階堂玲央「『ってか、俺も似たような要件だったし』」
田沼隼人「そう、なんですね」
二階堂玲央「『ああ。あと俺相手に卑下も謙遜も必要ないぞー。で、隼人はどこか行きたい場所とか何か候補はあったりするのか?』」
  従来・・・・・・これまで通りなら練習に誘うという内容だろう。
  僕自身が言動に変化を来すことで大小なりでも結果が異なることは確認済み。
  たとえ行動を起こさなくても、必ず死に辿り付くことも。
  ──だから回避する手段はただひとつ、二階堂先輩と可能な限り行動を共にして、あらゆる手段を試す。
  たとえ・・・・・・【今回の彼】に対して屍を生み出すことになっても。
二階堂玲央「『おーい、もしもし隼人?急に黙ってどうしたー?』」
田沼隼人「あぅ、すみません。ちょっと考え事をしていて。その、せ、先輩は・・・・・・あっ、えっと」
二階堂玲央「『ん? ・・・・・・慌てなくていいから。隼人のペースで、ゆっくり話してくれ』」
田沼隼人「は、はい・・・・・・。ありがとう、ございます」
  顔は見えないのに、たぶん彼は今、凄く優しい顔をしている。他の誰でもない僕に、耳を傾けてくれている。
  ・・・・・・答えなきゃ、あなたを必ず救うって。
田沼隼人「あ、あの・・・・・・! 僕、先輩と一緒に──」

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