Cherry blossom memories チェリーブロッサム・メモリーズ

貴島璃世@りせチャンネル

第三章 悲しい秘密(脚本)

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〇草原
  VR世界が間もなく10月を迎える頃・・・
  草原を渡る風は大地の匂いがした
  秋がすぐそこまで来ている
  僕とユリは、いつものように丘に登り、草原を吹き渡る風を眺めていた

〇電脳空間
  ユリに惹かれている僕がいた
  もちろん、彼女の可愛らしい外見はただのアバターに過ぎない。そんなことはわかっている
  アバターはその時のユリ本人の感情すら精巧に表現できる。しかしアバターはアバターだ
  ログイン時のセキュリティ個人認証により、ユリ本人が女性であるのはシステムで保証されている
  でも、それだけだ
  ユリ本人は、どんな女の子なのか僕は知らない
  だから・・・知りたかった
  ユリは、どんな子なんだろう
  僕は・・・本当の君に会いたいんだ
  君をもっと、知りたいんだ
  でも・・・現実の僕はパソコンオタクの引きこもりで、同級生の女の子とまともに会話したことすら無い
  だから・・・・・・

〇草原
Yuri「ねえユキヤ。桜が咲くまであとどれくらい待てばいいかな」
Yukiya Tagami「えっ。ああ、ええと」
Yukiya Tagami「ここはもうすぐ10月だから、6ヶ月の半分で、現実時間で3ヶ月だね」
Yuri「3ヶ月か・・・」
Yuri「間に合わないかもしれない」
Yukiya Tagami「間に合わない? 何が間に合わないの?」
Yuri「あのね」
Yuri「わたし・・・」
Yuri「あと少ししたら・・・ユキヤに会えなくなる」
Yukiya Tagami「えっ!? どうして!?」
Yuri「ここへ、来られなくなる」
Yukiya Tagami「な、なんで? どうしてなのさ・・・」
  するとユリは、こう言った・・・
Yuri「わたしは・・・余命宣告を受けているの」
Yukiya Tagami「えっ・・・余命・・・宣告・・・?」
Yuri「うん」

〇魔法陣2
Yuri「前に病気で療養中だって、ユキヤに言ったでしょう」
Yukiya Tagami「あ、ああ・・・」
Yuri「血液の病気なんだよ。きっと治るって、信じて頑張ってきたんだけどね。どんどん悪くなって・・・」
Yuri「主治医の先生には、持ってもあと3ヶ月ぐらいだと言われている」
Yukiya Tagami「うっ・・・嘘だよね・・・ジョークなんだよね!?」
Yuri「今まで黙っていて・・・ごめんなさい」
Yukiya Tagami「ジョークじゃ・・・ないのか 本当・・・なの?」
Yuri「最初は風邪だと思った。それで家の近所にある、子供の時からお世話になってるクリニックで診てもらったの」
Yukiya Tagami「・・・・・・」
Yuri「診てくれた先生が、だんだん怖い顔になって、すぐに大学病院を紹介されて、精密検査を受けた」
Yuri「自分では風邪だと思っていたから、何て大げさな検査をするんだろうと思った」
Yukiya Tagami「ユリ・・・ねえ・・・」
Yuri「初めてわたしがここに来た日のことを覚えてる?」
Yukiya Tagami「ああ、うん もちろん」

〇電脳空間
Yuri「あの時は、あと半年の命だと言われてた」
Yukiya Tagami「半年・・・そんな・・・」
Yuri「でも、まだ体調がそんなに悪くなかったから家にいた。だから、わたしの部屋のパソコンからここにアクセスできたの」
Yukiya Tagami「ああ、そう・・・なんだ」
Yuri「そのあと、病院のベッドにいる時間の方が長くなってきてね。入院して家に帰れなくなったら、もうここに来られない」
Yukiya Tagami「・・・・・・」
Yuri「わたし、桜が見たい。春がやってきて真っ先に咲く桜が大好きなんだ」
Yuri「元気な頃はね。毎年、お弁当を作って家族でお花見をしたんだよ」
Yuri「父さんと母さんとわたしと妹の4人でね。でも、わたしは次の春まで待てない」
  そうか・・・そうだったのか
  本当の桜はもう見られないから
  僕が造ったこの世界の桜を・・
Yuri「ある日、何気なくネット検索したら、まるで本物のような桜が見られるVRがあるっていう書き込み見て、それでここに辿り着いたの」

〇電脳空間
Yuri「わたし、ヴァーチャルでもいいから桜が見たい。満開の桜の下で花の甘い香りを嗅いで、ハラハラと花吹雪が舞う中を歩きたい」
Yuri「でも、いくら2倍の速さで季節が進むといっても、この世界の桜が咲いた頃には、わたしはもう・・・いない」

〇電脳空間
  嘘だと思いたかった
  全部ジョークだと言って欲しかった
  でも、自分のことを淡々と話すユリに、深い悲しみを感じた
Yukiya Tagami(僕に何ができる? ユリのために、何ができる?)
Yukiya Tagami(考えろ 考えるんだ)
Yukiya Tagami(ショックを受けている場合じゃない! 考えろ!)
  2倍でも遅いのなら、VRのシミュレーション処理速度をもっと早くすればいい
  しかし・・・それは・・・難しい
  とても難しい
  でも・・・

〇草原
Yukiya Tagami「僕がなんとかする!」
Yuri「えっ・・・」
Yukiya Tagami「君に桜の花を、満開の桜を君に贈るよ」
  やってみなければわからない
  君のために
  やるんだ・・・絶対に
Yuri「本当に? そんなことできるの?」
Yukiya Tagami「うん。だから、もうすぐいなくなるなんて言っちゃダメだ」
Yuri「ありがとう ありがとう。ユキヤ」
Yuri「何だか疲れちゃった・・・今日は帰るね」
Yukiya Tagami「またね またここで・・・」
  ユリに続いて、僕も急いでログアウトする

〇男の子の一人部屋
Yukiya Tagami(ユリに桜を見せるためにはプログラムを改修しなくてはならない)
  僕が創り上げた世界は小さいけれど、とても精巧にできている
  植物の成長と季節の変化を忠実にシュミレートしているので、いくらバーチャルでも季節をいきなり春に切り替えることは不可能だ
  無闇に時間経過速度を上げたらコンピューターの処理が追いつかず、最悪、VRが破壊されてしまう
  いろいろ試したが、どれほど頑張っても、結局、現在の1.2倍程度までしか時間の流れを早めることがでないことが判明した
  元々、現実時間の倍速という現在の設定が限界に近いのだ
  今以上に無理に加速すると、様々なサブプログラムやプラグインの処理が付いて行けず、やがて全体が破綻してしまう
  1.2倍では今と大して変わらない
  持っても3カ月の命だと言ったユリ。その言葉が示すのは最大で3カ月であって、丸々3カ月の猶予があるわけではない
  それぐらいは僕にだって分かる
  間に合うだろうか?
Yukiya Tagami「くそうっ」
Toshio Tagami「ユキヤ。入ってもいいか?」
Toshio Tagami「おまえの高校復帰について話し合いたい」
Yukiya Tagami「ダメだ。僕はすごく忙しいんだよ」
Toshio Tagami「おまえがやらなくてはいけないのは、自分の大切な将来を考えることだよ」
  そんなことは・・・わかってる・・・
Toshio Tagami「学校のこともあるが。リハビリをやらないと一生歩けなくなる。主治医の先生も言っていただろう」
Yukiya Tagami「どうせ僕はもう歩けない。リハビリはやってみたけど駄目だったじゃないか!」
Toshio Tagami「一回だけだろう。何度もやって徐々に慣らしていくんだよ」
Yukiya Tagami「・・・・・・」
Toshio Tagami「入るぞ」
Toshio Tagami「ユキヤ。おまえがこんな体になったのも私のせいだ。だから・・・」
Yukiya Tagami「父さんは悪くないって! この前も僕はそう言ったよね!」
Toshio Tagami「そうだった でも父さんは責任を感じている」
Yukiya Tagami(責任・・・僕は自分が造った世界に関して責任がある。ユリの願いを何としても叶えてあげたい)
Yukiya Tagami「時間が欲しい リハビリもやる。学校も行く」
Yukiya Tagami「でも今は・・・お願いだ。父さん 3日くれないか」
Toshio Tagami「リハビリを始めるなら早い方がいい 何なら明日からでも・・・」
Yukiya Tagami「頼むよ父さん。一人の女の子の願いを叶えてあげたいんだ。それは僕にしか出来ないんだよ」
Toshio Tagami「ん?女の子・・・だって?」
Yukiya Tagami「すごく大事なことなんだよ! VRを、僕の『チェリーブロッサム・メモリーズ』を急いで改修しないといけないんだ!」
Toshio Tagami「どうした? 何かあったのか?」
Yukiya Tagami「VRに手を入れたい。処理速度を上げたい でもどうしたらいいのかわからないんだ!」
Toshio Tagami「・・・父さんが力になれるかもれない」
Yukiya Tagami「えっ!?」
Toshio Tagami「父さんに話してごらん」
  そうだ。父さんはITエンジニアだった
  僕のVRの立ち上げも、父さんに手伝ってもらった
  ユリとの出会いのいきさつを
  僕は父に話した

〇電脳空間
Toshio Tagami「ふむ。その子の話の真偽はこの際置いておこう。問題は、タイムスケジュールを早めたいのにできないと言う点だな」
Yukiya Tagami「そうなんだ。今の仕様がもうすでに限界に近い」
  父は一度だけ僕のVRに入ったことがあった。だからそれがどのような物なのか知っている
Toshio Tagami「あそこは、昔、おまえと行ったあの丘そっくりだ。とても良く再現されている。風が頬を撫でる感触・・・花の香りまでするからな」
Yukiya Tagami「うん。そうだね」
Toshio Tagami「またあの場所に・・・行きたいか?」
Yukiya Tagami「えっ」
Toshio Tagami「まあ、その話は後にしよう」
Toshio Tagami「おまえのシミュレートは正しいと思う。無理に処理速度を上げたらアプリケーションだけではなくコアCPUもいかれる」
Toshio Tagami「かと言って、おまえの世界の再現レベルを落としたくないだろう?」
Toshio Tagami「解像度を落とせば、簡単に処理速度アップできるが・・・」
Yukiya Tagami「ダメだよ父さん そんなことをしたら意味がなくなる」
  現実と区別がつかないほどリアルを追求したのが僕のVRだった。だからこそユリは僕の世界を選んでくれたんだ
Toshio Tagami「では、軽微な改修で我慢するしかない。おまえの判断は正しい」
Toshio Tagami「あとはその女の子次第だな」
Yukiya Tagami「そうなんだけど・・・」

〇男の子の一人部屋
Toshio Tagami「おまえの事情はよく分かった。母さんにも心配するなと言っておく」
Yukiya Tagami「・・・ありがとう、父さん」
Toshio Tagami「ユキヤ・・・どんな結果になっても自分を責めるんじゃないぞ」
Yukiya Tagami「え・・・」
Toshio Tagami「その子が好きなんだろ」
Yukiya Tagami「そ、それは・・・」
Toshio Tagami「だったら尚さらだ。おまえはその子のために精一杯やってるよ」
Toshio Tagami「生気を失くしてドロンとしていたおまえの目は、今は生き生きと輝いている」
Toshio Tagami「懸命に生きようとしているその女の子も同じだろう」
Yukiya Tagami「そうだね・・・」
Toshio Tagami「人は、今を精一杯生きるしかない。未来は常に未定だ」
Toshio Tagami「父さんに手伝えることがあったら何でもするから言いなさい」
Yukiya Tagami「うん。ありがとう」
Toshio Tagami「父さんは何があっても、おまえの味方だよ」
  励ますように僕の肩をポンと叩いてから、父は部屋を出て行った
  ありがとう
  父さん

次のエピソード:第四章 初恋のキス。そして君は僕に別れを告げた。

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