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〇オフィスのフロア
太刀狛ふとし(お、床に紙が散らばってる)
太刀狛ふとし「よいしょ」
太刀狛ふとし「いだだ、ぎっくり腰が」
飯矢倉あおい「太刀駒さん私の机物色しないでください!」
太刀狛ふとし「そんなつもりじゃ」
木打ましゅと「太刀駒さんデータ入力終わりました?」
太刀狛ふとし「まだです、すみません」
木打ましゅと「こんな所で遊んでる場合じゃないでしょ」
木打ましゅと「今日は年度末の打ち上──」
飯矢倉あおい「(太刀駒さん誘い忘れてました)」
木打ましゅと「──」
木打ましゅと「🙏」
太刀狛ふとし「??」

〇古いアパートの一室
太刀狛ふとし「畳、腐ってるか? じめついた臭いがする」
太刀狛ふとし「え、俺? スンスン」
太刀狛ふとし「俺を送り出す会なんて開かれないと思ってたけど」
太刀狛ふとし「打ち上げにハブられるのは堪えた」
太刀狛ふとし「(ちゅうー)」
太刀狛ふとし「インスリン注射が痛くないなんて、知りたくなかったなあ」
太刀狛ふとし「これで定年、か 特撮しか楽しみがない」
太刀狛ふとし「明日から何して生きていけばいい」
太刀狛ふとし「というか、俺の人生なんだったんだろう」
  プルルルル
太刀狛ふとし「もしもし ああ母ちゃん」
太刀狛ふとし「うん、まあまあ元気 それより仕送り、少なくてごめん」
太刀狛ふとし「遠慮するなよ 体の方は?」
太刀狛ふとし「ああ、腰は今日もやっちゃったけど、俺は問題ない 母ちゃんこそ起きられるのか?」
太刀狛ふとし「定年お疲れ様、か、ありがとう」
太刀狛ふとし「ん? そうだよ、今パーティだよ だから、もう切るよ」
  ピッ
太刀狛ふとし「47年頑張って、労ってくれるのが母親1人とはな」
太刀狛ふとし「目が霞んできたな 症状かな」
太刀狛ふとし「年取ると独り言が増えてやだな」
太刀狛ふとし「こんな俺にも、何かご褒美があっても──」
太刀狛ふとし「えっ誰? いつから!?」
天使「懇切丁寧に説明するつもりでしたが、待ちくたびれました」
天使「えーーい」

〇商店街
太刀狛ふとし「ハッ ここは?」
太刀狛ふとし「か、体が縮んでる!」
太刀狛ふとし「いでで たくま達にいじめられた痛みがある」
太刀狛ふとし「ってことは──」
太刀狛ふとし「嘘だろ? あのクリスマスイブだ」
太刀狛ふとし「人生にしょぼくれた臭いの付いた、あのクリスマスイブだ」
太刀駒ふさえ「何ぶつぶつ言ってんの」
太刀駒ふさえ「もうパートの時間だから、プレゼント、何か欲しいなら言いな」
太刀狛ふとし「え、えっと」
太刀駒ふさえ「欲しいもの、ないのかい?」
太刀狛ふとし(改めて見ると、高いなあブレイブソード)
太刀狛ふとし(予算オーバーなんだよな)
太刀駒ふさえ「いけない、もう時間! 遅刻したらクビになっちゃう」
太刀狛ふとし「あ、あれが欲しい!」
太刀駒ふさえ「わかった。覚えてたら買うから、先に帰りな」

〇公園の入り口
太刀狛ふとし「はぁ あの日に戻ってやり直しても、俺なんて結局この程度」
二瀬典子「まずいです、失くしちゃった」
太刀狛ふとし「これは──変身ブレス」
太刀狛ふとし「そういえば、この溝に落っこちてたっけ」
太刀狛ふとし「めちゃくちゃ欲しいぞ・・・」
  スッ

〇安アパートの台所
  翌朝
太刀狛ふとし「記憶の通りだと、プレゼントは──」
太刀狛ふとし「やっぱり、敵女幹部のハートアローだ」
太刀狛ふとし「ちくしょう この日だ」
太刀狛ふとし「この日ふて寝をして、約束をすっぽかして、いじめられるのがエスカレートして、俺のしょぼくれた人生は決定づけられたんだ──!」
太刀狛ふとし「ふあ、眠く──ZZZ」
天使「やっぱり、1度やり直したくらいじゃだめですね」

〇商店街
太刀狛ふとし「ハッ ここは?」
太刀狛ふとし「嘘だろ? あのクリスマスイブ──」
太刀狛ふとし「また!? もう1回チャンスがあるってことか?」
天使「コクリ」
太刀狛ふとし「こ、今度こそがんばるぞ」
太刀駒ふさえ「何ぶつぶつ言ってんの」
太刀駒ふさえ「もうパートの時間だから、プレゼント、何か欲しいなら言いな」
太刀駒ふさえ「覚えてたら、買って帰ったげるよ」
太刀狛ふとし「あの、ブレイブソードが欲しい!」
太刀駒ふさえ「ぶ、ぶれいぶ?」
太刀狛ふとし「説明しよう!」
太刀狛ふとし「ブレイブソードとは──云々かんぬん斯々然々」
玩具屋のおばあちゃん「お母さんもう行っちゃったよ」
玩具屋のおばあちゃん「ぶれいずそおど、あたしがちゃんと伝えよう」

〇公園の入り口
太刀狛ふとし「だめそう」
二瀬典子「ブレス、一体どこ〜?」
太刀狛ふとし「こんなことしても何にもならないのに」
  スッ

〇安アパートの台所
太刀狛ふとし「似てるけど、これ安いやつだ」
太刀狛ふとし「違うんだよ母ちゃん」
太刀狛ふとし「ZZZ」

〇商店街
太刀狛ふとし「今度こそ」
太刀狛ふとし「母ちゃん、ブレイブソードはDXじゃなきゃだめなんだ」
太刀駒ふさえ「何だいいきなり」
太刀狛ふとし「ブレイブソードが欲しいんだよ」
太刀狛ふとし「高いけど、ここで買ってもらえないと一生後悔するんだ!」

〇クリスマスツリーのある広場
太刀狛ふとし「うおおおお」
太刀駒ふさえ「なんだ、このオーラは」
太刀狛ふとし「母ちゃんにも見えるか、このツリー!」
太刀狛ふとし「俺、特撮が好きなんだ!」
太刀狛ふとし「母ちゃんが大変なの、分かるんだけど、どうしても欲しいんだ」
太刀狛ふとし「今日くらい、強くなりたいんだ」
太刀狛ふとし「とんでもなく不幸って程でもない、」
太刀狛ふとし「幸せとはけして言えない、」
太刀狛ふとし「そんな未来が待ってるかもしれないけど」
太刀狛ふとし「チャンスは1度きりだから、今日から変わらなくちゃダメなんだ!」
太刀狛ふとし「今日だけは全員、幸せじゃなきゃイヤなんだ!」
「クリスマスだから──!」

〇公園の入り口
太刀狛ふとし「♪」
二瀬典子「どこにもな〜い」
太刀狛ふとし「お姉さんここだよ」
二瀬典子「ありがとう、これでこの星は、まだ廻れます!」
太刀狛ふとし(毎度毎度、変な人)

〇異世界のオフィス
  30年後
太刀駒ふさえ「こんな遊園地のオーナーになるなんて」
太刀駒ふさえ「あのクリスマスに欲しいもの買ってやってよかったよ」
太刀駒ふさえ「ふとし」
太刀駒ふとし「母ちゃんに贅沢させられて、ヒーローショーもやり放題」
太刀駒ふとし「あの時踏み出してよかった」
太刀駒ふとし「最高の人生だ!!」
天使「いい感じですね」
太刀駒ふとし「うん!」
天使「では、そろそろ戻ります」
太刀駒ふとし「戻る?」
天使「これ、夢なので。 元の人生に戻りましょう」
太刀駒ふとし「やり直した筈じゃ──」
天使「言いませんでした? 人生のご褒美に、過去をやり直す夢を見せてるんです」
太刀駒ふとし「聞いてないよ」
天使「ごめんなさい でも30年前なので時効」
太刀駒ふとし「これ、本当の人生じゃ」
天使「ないんです」
「そんな、嘘の人生なら、何のためにこんなに、頑張って──」
太刀狛ふとし「しょぼくれた臭いの染みついた人生に、 意味なんてないじゃないか」
太刀狛ふとし「この人生にいさせてくれよぉ」
天使「でも、あなたは嘘みたいに平凡な人生も、成功者の人生も、頑張ったじゃないですか」
天使「あなたはずっと、何もいいことがなくても、 いい人だった」
天使「それだけで、尊いことなんです」
太刀狛ふとし「明日から、何して生きてきゃいいんだ」
天使「今のあなたなら、自信を持って進めるはず」
天使「さあ、この剣を手に取って」
太刀狛ふとし「──」
太刀狛ふとし「──!」

〇古いアパートの一室
太刀狛ふとし「んあぁ朝か」
太刀狛ふとし「あれ? この町ってこんなに」
太刀狛ふとし「清々しい香りだったっけ?」
太刀狛ふとし「そうか、大家さんちの梅、」
太刀狛ふとし「咲いたんだなあ」

コメント

  • 全部夢だったわけですが、彼にとっては意味のあることだったように思えます。
    何度もやり直しをして、結局のところ元に戻って、そこから先がまだありますからね。人生って。

  • もう一つの人生のふとし顔変わりすぎ(笑)ギャグ要素に笑いながらも、とても切ないお話でした🥲自分の人生をどう脱臭して、どう香りづけていくかは自分次第!?何か教訓を学ばせていただいた気がします☺️
    毎回キャラ紹介が凝っていて面白いです(笑)

  • 過去をやり直して立派になって…姿もだいぶ変わってしまって…と思ったら夢だったのですね笑
    しかしこの夢のおかげで心情の変化があったようでよかったなぁ。

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