エピソード1「運命」(脚本)
〇学校の昇降口
伊藤 日向「なんか久しぶりだね、この三人で帰るって」
半田康太「本当だな」
乾隆「うん、そうだね。なんか懐かしい・・・」
乾隆、伊藤日向、半田康太は高校の昇降口でそれぞれ靴を履き替えながら言った。
〇ゆるやかな坂道
半田康太「しかし驚いたな。サッカー部の練習が今日はなかった。日向も今日なかったんだけ?」
伊藤 日向「そうそう!吹奏楽ってほぼ毎日練習あるはずなのに」
伊藤 日向「部室行ったら顧問が『今日は部活休み!!』って突然言い出して・・・びっくりしたよ」
半田康太「それは驚くわ・・・隆も今日、用が無かったのも驚いたけど」
乾隆「うん。塾がね」
乾隆「お母さんが急に連絡してきたんだ。塾の先生が『今日は休み』って」
半田康太「へぇ──そんなことあるんだな。俺ら三人、今日は暇って」
伊藤 日向「でも、こうして私たち三人一緒に帰ってるじゃん!・・・嬉しいな」
半田康太「嬉しい?なにが?」
伊藤 日向「私、たっくん、こうくん、」
伊藤 日向「こうして帰っているのが」
乾隆「・・・確かに、そうだね。僕も嬉しいよ」
乾隆「塾で勉強ばっかりでしんどかったから」
半田康太「俺も」
半田康太「サッカーしていてしんどいとか思ったことはないけど」
半田康太「隆と日向といるほうがいいや」
伊藤 日向「サッカーより?」
半田康太「おうよ!」
伊藤 日向「私たちには幼馴染の証、お揃いのブレスレットがあるから!」
乾隆「そうだね、ブレスレットを失くさない限り、僕たちは」
半田康太「ずっと一緒だ!離れていても!」
夕暮れの坂道、隆と日向と康太は笑い合った。
三人はいつも一緒だった。
幼稚園からの幼馴染で小学校、中学校も同じだった。
そして高校も同じだった。
彼らは互いに嫌がることなく、ほぼ三人で行動していた。
こんな毎日がずっと続く
三人の幼馴染の日常はずっと続く・・・
続くとそう思っていた──
〇戦場
次の日
西洋の城のような高校はあちこちに火と煙があがっていた。
・・・・・・キィ──ン!
煙の中からおぞましい怪物が出てきた。
いくつものの目玉をギョロギョロとさせ、不気味な音を鳴らしていた。
キィ、キィ、キィ──ン!!
こっ、こっちに来るな──!!
いやぁぁぁぁっ!!来ないで──!!
──ドシュ!
逃げ惑い、叫ぶ人々の声が辺り一面、静かになった。
怪物が出した触角の先が刃物のようなものによって、人々は後ろから突き刺された。
女の子「うわああああんっ!ママー!!」
人々が無残に殺された血しぶきの光景を見てしまった女の子が泣き叫んだ。
・・・・・・
怪物は無言で
いくつもの触角を伸ばして泣きわめく女の子に向かっていた。
その時、
半田康太「これでもくらえ!!バケモンがッ!!」
バシュ!バシュ!バシュ!
ギャオオオオッ!!
康太が銃を構え、怪物にめがけて目玉を的確に撃った。
撃たれた瞬間、怪物は断末魔のような叫び声を出し
灰となって消えた。
半田康太「大丈夫か?」
女の子「あ、ありがとう!おにいちゃん!」
半田康太「おうよ!それより・・・迷子か?嬢ちゃん」
女の子「うん・・・ママとはぐれちゃって・・・」
半田康太「そうか・・・」
半田康太「よし、わかった。俺も一緒に探すよ。はぐれないように俺の後ろにいろよ」
女の子「うん!ありがとう!」
〇荒廃した街
女の子の母親「ありがとうございます!なんとお礼したらいいのか・・・」
康太は迷子になっていた女の子の母親を見つけた。
半田康太「いえいえ!自分の使命を全うしただけなので気にしないでください!」
爽やかな微笑みで康太は堂々と答えた。
その微笑みに救われたように母親もつられて微笑んだ。
女の子の母親「本当にありがとうございます!それでは私たちは避難所に向かいます」
女の子「またね、お兄ちゃん!」
女の子は元気に手を振り、母親はお辞儀した後去った。
康太が手を振っていると
「お──い!!」
乾隆「・・・ハァ・・・ハァ、康太やっと見つけた!」
息を切らしながら走ってきた隆。
半田康太「・・・隆?生きてたのか!!」
半田康太「日向は?確か、隆と同じ部隊に配属されているんだっけ・・・」
乾隆「うわぁ!抱きつくなよ・・・はぐれたんだ」
半田康太「・・・なに?」
──C部隊、乾隆とH部隊、半田康太に通達。至急基地に戻れ。繰り返す・・・
半田康太「俺たち呼ばれた?」
〇基地の倉庫
人類戦線基地の倉庫前。
遺体収納袋が大量に並べられていた。
半田康太「・・・・・・嘘、だろ」
乾隆「ひなちゃん・・・・・・やっぱり」
そのなかに、血まみれに「伊藤日向」の安らかに眠る遺体が袋の中に収まってた。
半田康太「日向が死んだって・・・・・・」
半田康太「嘘ですよね!?先生!」
担任「・・・嘘じゃない。目の前のことが現実だ」
担任「・・・それにお前たちに渡したいものがある」
半田康太「・・・これって」
隆と日向と康太のクラスの担任が二人に渡した。
血があちこちついたブレスレットだった。
担任「怪物が伊藤隊員を刺したまま彷徨っていた」
担任「俺たちの部隊で倒したあと、伊藤隊員の遺体を回収した時、見たことあるブレスレットだったからな」
担任「もしかして、と思ったが・・・やはりお前たちお揃いのブレスレットだったか」
乾隆「・・・はぐれる前、ひなちゃんが忘れ物があるって言ってた・・・」
乾隆「さっきの戦場まで戻って、取りに行ってたんだ・・・」
乾隆「取りに行くのはやめといたほうがいい、って言ったのに・・・」
乾隆「・・・う、うわああああんっ!!」
半田康太「なんでだよっ!!・・・クソっ!」
あの時、
来たるべき怪物との戦闘前、もっと一緒に帰る日を作ればよかった、と隆と康太は思った。
怪物との戦闘訓練を受けていたなかでささやかな日常をもう少し送ればよかったと後悔した。
昨日、運命の前日だった。
大切な人と永遠の別れを告げる運命の前日であった。
何も特別な事をしてなくても、ただ一緒に歩いて家に帰るということだけで幸せを感じられる、最高の仲間ですね。友情の証、形あるものとは別に、3人の胸にはもっと大事な宝物があるはずですね。
急に世界が一変して驚きました!
こんな世界になっても、自分の使命を全うできるのは本当にすごいと思いました。また元の世界にもどって、平和な日常が戻るといいですね。
穏やかな日常風景から一転、翌日にこんなことになるのかと話の展開に驚きです。前半部とラストとの落差が大きすぎます。読後もう一度読み返したくなりました。