それいけいしいけ(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
石井「ばっかもーーん!!」
その日、石井家で怒声が響いた。
暦「なんでだよ! いいじゃないか!」
石井「ならぬ、断じて認めん・・・ まさかお前が・・・」
石井「まだ学生なのに結婚しようだなんて!!」
琥珀「お義父さん、あまり怒鳴ると血圧が上がりますよ」
石井「誰がお義父さんだ! 血圧は上が120の下80、正常値だ! さりげなく健康を気遣う良い子ちゃんぶるな!」
暦「琥珀とは将来を誓い合った。 絶対幸せにする。なあ、いいだろ親父」
石井「駄目だ! お前は東方大学の主席なんだぞ! 将来を期待されてる! 成績にもしもがあったら・・・」
琥珀「私、副主席ですからその時はお義父さんの娘が主席になりますわ」
石井「だ・か・ら! お義父さん言うな!」
暦「くそっ、だったらこんな家出てってやる!」
石井「何を馬鹿な、私はお前の輝かしい将来を思って・・・」
琥珀「彼、頑固なんです。こうなったら聞かないんですよ」
石井「だからお前が恋人だなんて認めとらん言うとろうが! 第一出会って半年だと?」
暦「愛の前に時間なんて関係ないことは相対性理論が証明しているっ!」
石井「・・・あぁ、そうか。ならば出て行け!」
石井「ただし出て行くなら半径1km以内にしろ。生活費は毎月25日でいいか」
親バカも良いところであった。
暦「あぁ、それで頼む。 じゃあ出て行くぞ、親父!」
琥珀「お義父さん、また会いましょう」
石井「・・・だからお義父さんやめろって言っとるだろうに」
母「あらあら、お父さん落ち込んじゃって」
石井「だからお義父さんやめ──ってお前か、見苦しい所を見せたな・・・」
母「あの子の頑固っぷりはお父さん譲りよ。果たしてどちらが先に折れるかしらね?」
石井「・・・ふん。私はテコでもシーソーでも動かんからな」
〇女の子の一人部屋
暦「はぁ、親父の奴なんで認めてくれないんだ・・・俺が頼めばなんでもしてくれたのに」
琥珀「お義父さんにも考えがあるのよ」
暦「それは分かるけどさ・・・ 勉強だってぶっちぎりで主席だ。全講義A評価だ。結婚出来ない方がかえって勉強が捗らないくらいだ」
琥珀「ごめんなさい、私が気に入って貰えなくて・・・」
暦「琥珀は悪くない! 悪いのは親父だ!」
琥珀「でもあなたのお父さんは立派な人よ。こんなにも息子を思いやってるんだから」
暦「そうかなぁ・・・」
琥珀「・・・お互い少しだけ歩み寄る必要があるかもね」
暦「親父が歩み寄るとは思えない。だからこのままここで2人で暮らそう」
琥珀「うーん・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
石井「あいつ今頃どうしてるかな・・・風邪引いてないかな・・・」
母「お父さんはほんと心配性ねぇ」
石井「あいつは私の後を継ぐんだ。あいつもそのために頑張ってきた。今さら見捨てられるか・・・!」
母「お父さんも普段からそんな素直なら良かったのにねぇ」
石井「・・・だが交際はやはり認められん。どこの馬の骨とも分からん女と・・・ うちは一族優秀なんだぞ!」
母「はいはい」
〇女の子の一人部屋
暦「じゃあお休み、琥珀」
琥珀「えぇ。お休み」
暦「(新しい場所でもなんとか上手くやれそうだ。俺は親父に頼らなくてもやれるんだ!)」
暦には父親に頼りきりであるという自覚は無かった。
〇おしゃれなリビングダイニング
暦は夢を見た。
暦「お父さん! また100点だったよ!」
石井「素晴らしい。素晴らしいぞ! 流石私の息子だ!」
石井は満足げに暦の頭を撫でる。
母「この子はきっと天才よ」
暦「簡単すぎて20分で解けたから暇だったよ」
石井「そうか! くそ、日本にも飛び級制があればな・・・ こうなったらアメリカに・・・」
母「ダメよ、この子が離れるなんて嫌だわ」
暦「うん、僕もお父さんの後を継ぐんだ!」
石井「暦ぃ・・・」
母「あらあら、あなたったら・・・」
暦「お父さんが僕の憧れなんだ。 僕もお父さんみたいな立派な警察官になるんだ!」
石井は警察庁長官、つまり警察のトップをしている。
暦にとって最も尊敬する人物であり、同時に最も高い壁だった。
石井「お前なら私の後を継げる! 私の息子だからな!」
暦「うん!」
しかし石井はまもなく失脚した。
部下が汚職事件を起こし、その責任を取ったのだ。
お陰で石井は優秀であるにも関わらず冷遇されてしまった。
しかし石井は部下を庇ったことを後悔していなかった。
代わりに暦がトップに立ってくれる、そう信じていたから。
暦はそんな父を理解し、ますます勉学に励んだ。
〇女の子の一人部屋
暦「(なんだか懐かしい夢を見たな)」
琥珀「おはよう。どうしたの?浮かない顔して」
暦「あぁ、たいしたことないさ」
琥珀「嘘。元気ないじゃない」
暦「あぁ、昔の夢を見たんだ。 それでちょっと親父のことを思い出して、な」
暦「親父は立派な警察だった。いや、今でも立派だ。 俺は間違ってるのかな・・・」
琥珀「半分はね。後はあなたとお義父さんが気付くだけよ」
暦「どういう意味だ?」
琥珀「ふふっ、秘密!」
〇おしゃれなリビングダイニング
石井「暦・・・」
母「あなたったらまだ引きずってるのね」
石井「あいつには期待してたんだ! お前なら分かるだろう!」
母「でもね・・・あの子にはあの子の人生があるのよ。 それを尊重してあげるべきではないかしら?」
石井「それは、そうだが・・・」
母「あなたの無念はよく分かる。 でも知ってるでしょ? 暦があなたのために勉強頑張ってること」
母「だからあの子の事を信じてあげて」
石井「・・・そうか、そうだな・・・」
〇女の子の一人部屋
暦「あっ親父生活費振り込んでくれた。これでしばらく安泰だぞ!」
琥珀「そう。でもね、これはお義父さんのおかげでもあるのよ」
暦「だって親父が認めないから──! 親父は俺たちを見捨てたんだぞ!」
琥珀「見捨ててないわよ。 本当に見捨ててるなら生活費なんて振り込まないわ。頭のいいあなたなら分かってるはず」
暦「それは、そうだが・・・」
琥珀「お義父さんは帰ってくるのを待ち望んでるわ。だからもう一度話し合いましょう」
暦「しかし・・・」
琥珀「じゃないと私は出て行くわ」
暦「そんな! いや、俺も分かってたんだ。親父に甘えてるって。 ・・・分かった」
暦「(そうだ、俺は親父に頼りっきりだ。自立しないとな・・・)」
〇おしゃれなリビングダイニング
石井「なんのようだ? 今更のこのこと」
暦「親父、すまなかった。俺、親父に甘えてた。親父はこんなに俺のこと考えてくれてるのにそれを利用してたんだ」
石井「・・・今更気付いても遅い」
暦「だから親父、俺は誓う! 俺は親父にもう頼らない! そりゃ学費は頼るが・・・でも精神的には頼らない」
石井「そこの娘・・・君、名前はなんという」
琥珀「琥珀です」
石井「君が暦を説得したのかね」
琥珀「私は説得なんてしていませんわ。 彼が自分で気付いたんです」
石井「・・・そうかね」
石井「・・・」
石井「分かった。お前達の交際を・・・結婚を認める」
暦「本当か!? 親父!」
石井「好きにするがいい。雛鳥で無くなった以上面倒を見る道理はない」
暦「親父、ありがとう! 俺は絶対親父の息子に相応しい警察官になってみせる!」
石井「・・・ふん」
琥珀「・・・ありがとう、お義父さん」
〇結婚式場のレストラン
石井「うっうぅ・・・暦・・・おーいおいおいおい・・・」
母「あなた、息子の晴れ舞台なんだからちゃんと見てあげて」
「汝暦、病めるときも貧しいときもこれを愛すことを誓いますか?」
暦「誓います!」
そして二人は口付けをした。
石井「(幸せになれよ、暦・・・)」
〇おしゃれなリビングダイニング
石井「ばっかもーーん!!」
石井家に再び怒声が響く。
石井「まだ学生なのに子供が出来ただと!? 私は認めん!!」
暦「でももう出来ちゃったし・・・」
石井「お前は勘当だ! 出て行け!」
暦「あぁ! こんな家出てってやる!」
こうして暦達は再び3日間ほど家出した。
〇おしゃれなリビングダイニング
7年後
緋翠「おじいちゃん見て! 鶴折れたよ!」
石井「おぉ! 流石私の孫だ! お前は天才だ!」
緋翠「えへへ」
琥珀「緋翠ったら本当におじいちゃんのことが大好きね」
緋翠「うん! おじいちゃん大好き!」
石井「くぅっ・・・こんなに可愛い孫と立派な娘を持って私は幸せだ・・・」
暦「ただいま! 遅くなった!」
緋翠「もー、ほんとに遅い。おじいちゃんはいつも構ってくれるのに・・・」
暦「いや、それは親父が隠居してるから・・・」
石井「そういうわけだ。悪く思うな暦」
暦「くそ、警察官として登り詰めたら残業詰めでこのザマだよ・・・とほほ・・・」
緋翠「なんてね。パパ大好き!」
暦「・・・緋翠」
緋翠「あれ、首に口紅ついてるよ? おかしいね?」
琥珀「・・・あなた?」
暦「いや、違うんだ、これは上司の付き合いで無理やり・・・」
石井「ばっかもーーん!!」
石井家には今日も怒声が響いた。
いや、生活費振り込むんかーい!
って、ツッコんでしまいました🤣
AIで娘を生き返らせるシリアスな話も良かったですが、「いしいけ」はなんだかんだ親は子を思い、子も親を思う仲良し家族でほっこりしました。それにしても生活費をもらう家出は羨ましすぎる。
最後、まさかの展開でした! てっきり父親の為にりっぱな警察官をしていると想像していたら。今度こそ、勘当されてしまうのかもしれませんね!