余命家族との出会い(脚本)
〇病院の診察室
医者「遠山さん」
遠山想「は、はい」
医者「残念ながら、完治する見込みはありません」
遠山想「そんな・・・」
遠山想「ど、どのくらい生きられますか?」
医者「そうですね・・・3年といったところでしょうか」
遠山想「3年・・・」
〇病院の診察室
余命宣告をされた想は、絶望の淵に立たされた。
〇汚い一人部屋
遠山想(19)大学生
両親を事故で亡くし、一人暮らし
余命宣告を受けて以来生活が荒れている
遠山想「もう終わりだ・・・いっそ死にたい」
想は裏アカに気持ちを吐き出すため、スマホを開いた。
遠山想「ん? これはなんだ?」
想はおすすめの中から気になる投稿を見つけた。
余命宣告された人たちだけで一緒に暮らしませんか? #余命家族
遠山想「余命家族・・・」
遠山想「怪しいな。だけど──」
〇島国の部屋
遠山想(幼少期)「パパ―! ママ―! 大好き!」
想の父「ははっ パパも想が大好きだ」
想の母「ふふふ ママもよ」
遠山想(幼少期)「わーい!」
〇汚い一人部屋
遠山想「また家族ができたら幸せになれるかもしれない」
想はその晩、アカウント主にDMを送った。
〇一戸建て
それから3週間後――
想はアカウント主の自宅へ赴いた
遠山想(緊張するなぁ)
遠山想「ご、ごめんください」
〇シックな玄関
斉藤賢治「よく来てくれたね! 僕が斉藤だ」
遠山想「と、遠山想です よろしくお願いします」
遠山想(いい人そうでよかった)
斉藤賢治「こちらこそよろしく! 家族になってくれる人は君を入れて5人で、1人はもう来ているよ」
遠山想(どんな人たちなんだろう)
〇明るいリビング
斉藤賢治「こちらが小野寺夢さんだ」
遠山想(女子高生かな)
斉藤賢治「年齢的には遠山くんがお兄さんになるのかな」
遠山想「頼りないですけど・・・よろしくお願します」
小野寺夢「・・・」
斉藤賢治「小野寺さん?」
小野寺夢「帰る」
夢は不機嫌そうにリビングを出ていった。
遠山想「僕のせいでしょうか・・・」
斉藤賢治「いや、遠山くんは悪くないよ」
遠山想(一目惚れならぬ一目嫌い・・・ショックだ)
斉藤賢治「いくつになっても女心の解読は難しい」
遠山想「えっ?」
斉藤賢治「あ、や・・・妻と子どもに逃げられてね でも、もう昔の話だ。ははっ」
遠山想(みんな色々抱えているんだ・・・もしかしたら小野寺さんも──)
遠山想「僕、追いかけてきます」
斉藤賢治「ああ、僕は夜ご飯を用意しておくよ」
夢のことが心配になった想は玄関へ向かった。
〇シックな玄関
遠山想「小野寺さ──」
遠山想「わ!?」
想が玄関を出ようとした瞬間、外から来た誰かとぶつかった。
相沢未来「きゃー、ちかん、ちかん!」
遠山想「ええ!? さ、さわってない!」
相沢未来「きゃは! ちかん、ちかんー!」
遠山想「そ、そんな・・・」
相沢万由子「こら未来! ごめんなさい、うちの子が・・・」
相沢未来「ちかん、ちかんー!」
相沢万由子「覚えたての言葉を何度もくり返すのよ」
遠山想(その言葉、どこで覚えたんだろう)
相沢万由子「あの、もしかして余命家族に応募した方?」
遠山想「は、はい。遠山想です」
相沢万由子「私は相沢万由子で、この子は未来です ほら、ごあいさつを」
相沢未来「みらいちゃんー! 4さいだよー!」
遠山想(この子も余命宣告を・・・まさか、な)
相沢万由子「もう帰るの?」
遠山想「いえ・・・応募者の女性を探しに行きます」
相沢万由子「さっき制服の女の子が公園に走って入っていくのを見かけたけど、違うかしら?」
遠山想「そ、その子です! ありがとうございます」
相沢万由子「気をつけてね」
相沢未来「きをつけー! まえならえー!」
遠山想(なんだかにぎやかな家族になりそうだな)
こうして想は公園へ向かった。
〇公園の砂場
想は迷いながらも公園へたどり着いた
遠山想「はぁ・・・ここか」
遠山想「あ、小野寺さん!」
小野寺夢「なんでつけてきたの・・・ストーカー」
遠山想「僕は痴漢でもストーカーでもない!」
小野寺夢「痴漢?」
遠山想(あ、それは未来ちゃんに言われたんだった)
小野寺夢「まあいい、私は帰るから」
遠山想「待って! どうして急に帰るなんて言ったの?」
小野寺夢「あなたには関係ない」
遠山想「でも──」
小野寺夢「ほら、さっさと行って」
遠山想「あの、さ」
小野寺夢「なによ?」
遠山想「小野寺さんはここに何分くらいいた?」
小野寺夢「はっ? ・・・15分とか? それが?」
遠山想「ずっとここにいたんだね」
小野寺夢「だ、だからなによ」
遠山想「本当に帰りたかったら、15分もここにいないと思うんだ」
小野寺夢「そ、それは・・・」
遠山想「もし僕のことが嫌いで余命家族を辞退しようとしているなら、僕が消えるよ」
小野寺夢「えっ・・・」
遠山想「誰かと一緒にいたい気持ち、誰もいない家に帰りたくない気持ち、すごくよくわかるんだ」
小野寺夢「・・・」
遠山想「だからせめて、小野寺さんには幸せになってほしい」
遠山想(本当は僕も余命家族になりたかったけど・・・これでいいんだ)
遠山想「じゃあ、元気でね」
想がきびすを返すと、突然夢が想の手首をつかんだ。
遠山想「お、小野寺さん?」
小野寺夢「さ、斉藤さんが・・・」
遠山想「斉藤さん?」
小野寺夢「あなたがお兄さんになるって言ってて・・・そんなに気安く決めないでほしかった」
遠山想(そういうことか・・・女心は難しい)
小野寺夢「私、お兄ちゃんがいたの」
小野寺夢「お母さんが男の人と蒸発してから2人暮らしだったけど、やさしくて大好きだった」
遠山想(過去形・・・ってことは──)
遠山想「お兄さんはいまどこにいるの?」
小野寺夢「去年死んじゃった」
遠山想「そんな・・・」
小野寺夢「私も同じ病気ってわかったから、死んじゃうんだ」
遠山想「小野寺さん・・・」
想は泣きはじめた夢に、ハンカチを差しだした。
遠山想「これよかったら・・・あ、嫌いな人のものじゃいやかな」
小野寺夢「き、嫌いなわけじゃ・・・あ、ユリ柄」
遠山想「これ、母さんの形見なんだ」
小野寺夢「あなたもいないんだ、お母さん」
遠山想「両親ともに事故で・・・」
小野寺夢「そっか・・・」
気まずくなった2人の間に沈黙が流れる。
〇公園の砂場
そして空は、夕焼けに染まりはじめた。
遠山想「もうすぐ夜だね」
小野寺夢「うん」
遠山想「あのさ」
小野寺夢「なに?」
遠山想「僕たち、もうひとりじゃないよ」
小野寺夢「えっ?」
遠山想「僕たちの帰る家には、家族がいる」
小野寺夢「・・・」
遠山想「今日会ったばかりなのに、僕たちにご飯を作ってくれる人がいるんだ」
小野寺夢「ご飯・・・」
遠山想「だから今日は、一緒に帰ろうよ」
少しの沈黙の後、夢は静かにうなずいた。
小野寺夢「わかった」
遠山想「ほんとに?」
小野寺夢「でも、ひとつだけ約束して」
遠山想「約束?」
小野寺夢「その・・・あなた、お兄ちゃんに似てるの だから──」
夢は想の瞳をまっすぐに見つめた。
小野寺夢「もう、『消える』なんて言わないで」
遠山想「あっ・・・」
想は夢に『僕が消える』と言ったことを思い出した。
遠山想「ごめん・・・もう言わない。絶対に」
小野寺夢「よかろう」
遠山想「よ、よかろう?」
小野寺夢「なんてね。帰ろう」
遠山想「小野寺さん、初めて笑ったね」
小野寺夢「わ、笑ってないし・・・変態」
遠山想「僕は痴漢でもストーカーでも変態でもない!」
小野寺夢「なにそれっ、ふふ」
遠山想「ははっ」
こうして2人は、余命家族のもとへ帰った。
〇おしゃれなキッチン
斉藤賢治「いやぁ、まさか僕の発言のせいで怒らせちゃったなんて。ごめんね」
小野寺夢「いえ、大丈夫です」
斉藤賢治「あれ、小野寺さん明るくなったね もしかして2人はそういう仲に──」
遠山想「さ、斉藤さん、お腹すきました」
遠山想(また小野寺さんを怒らせちゃうところだった)
斉藤賢治「そうだったね。じゃあ、佐藤家の記念すべき最初の晩ご飯といこうか」
小野寺夢「佐藤家?」
斉藤賢治「斉藤のSに、相沢のAに、遠山のTに、小野寺のOを組み合わせて佐藤家の誕生だ!」
遠山想「い、いいですね」
小野寺夢「・・・」
斉藤賢治「照れるな~。今夜はフォアグラの筑前煮だ!」
小野寺夢「意外と変な人だね、斉藤さん」
遠山想「そうだね・・・でも、楽しいかも」
斉藤賢治「あちち!!」
遠山想「大丈夫かな?」
小野寺夢「私、手伝ってくるね」
相沢未来「え~ん!!」
遠山想(未来ちゃんの泣き声だ。どうしたんだろう?)
想はリビングへ様子を見にいった。
〇明るいリビング
遠山想「大丈夫ですか?」
相沢万由子「うん。未来はたまに夢を見ながら泣くの」
遠山想「夢?」
相沢万由子「そう。きっと亡くなった実母が恋しいのよ」
遠山想「え、相沢さんは──」
相沢万由子「この子の実母は私の姉。出産と同時に亡くなってから、私が育ているの」
遠山想(そんなに辛い過去が・・・)
相沢万由子「やっぱり私じゃダメなのかな」
遠山想「そんなこと──」
相沢未来「えーん!! めんさかいいんになれなかったよぉ~」
遠山想「メンサ会員・・・」
相沢万由子「寝ながらでも覚えたての言葉をくり返すのね」
遠山想(一体どこで覚えたんだろう)
未来はあまりの寝相の悪さにリビングからダイニングへ寝転がっていった。
相沢万由子「もう、あの子ったら・・・私の育て方が悪いのかな」
遠山想「そんなことないです! 相沢さんはいいお母さんです」
相沢万由子「あ、あら、照れるなぁ」
相沢万由子「それに、いいお兄ちゃんができてよかった 私も未来も最後まで楽しく生きられそう」
遠山想(やっぱり2人も余命宣告を──)
斉藤賢治「みんなご飯だぞー!」
相沢万由子「いきましょう」
遠山想「は、はい」
〇おしゃれなキッチン
この日佐藤家は、
初めて食卓を5人で囲んだ
斉藤賢治「どうだい? フォアグラの筑前煮は?」
小野寺夢「おいしい。フォアグラとこんにゃくがこんなに合うなんて・・・」
相沢万由子「トリュフの天ぷらも風味が豊かですね」
相沢未来「きゃびあもち~」
遠山想(やっぱり佐藤家はにぎやかだ)
遠山想(みんなそれぞれ悩みを抱えているけど──)
遠山想「家族って、いいですね」
全員「うん!」
こうして『#余命家族』からはじまった5人の生活が幕を開けた。
みんな複雑な事情と余命という期限を抱えているからこそ、大変ですがわかりあえるところもあるのでしょうか。
これから切なくも明るく温かい家族生活が始まるのでしょうか。
心に残るお話にはなりそうですね。
死への恐怖、死に至るまでの不安、こういったものはなかなか共感するのが難しいために、余命宣告された際に孤独感を抱くとよく耳にします。そんな中、恐怖感や不安を共有できる「家族」、貴重な存在かもしれませんね。未来ちゃんのような存在は特にw
フォアグラの筑前煮……デロデロに溶けてしまわないか心配になってしまいましたww
実は私たちも全員が「余命」の状態にあるのに、日頃は永遠に命があるかのように無駄に日々や時間を費やしてしまいがちですよね。自分の命に限りがあると知ったからこそ感じることができる人との触れ合いの喜びや愛おしさなんかを新生の佐藤家から感じました。