1章-01.状況整理①(脚本)
〇シンプルなワンルーム
橘 優人「――――――――???」
フワフワとした気分の中、徐々に意識が戻ってくる──
――ユウトは、ゆっくりと目を開け、はっきりと覚醒した。
橘 優人「・・・」
橘 優人「・・・・・・!? ここは・・・・・・っ!?」
キョロキョロと周りを見渡すと・・・
懐かしさ溢れる部屋に居た。
綺麗に片付けられた勉強机・・・
その上にポツンと置かれているスマホ・・・
清潔感のあるフカフカのベッド・・・
毎年誕生日に買ってもらったおもちゃ達。
そう──
異世界《ノアン》に行く直前までいた・・・
地球にあるユウト自身の部屋で立ったまま覚醒したことに気づいたのだ。
橘 優人「ど・・・!! どどどどどういうことじゃ・・・!?!?」
橘 優人「はっ!しまった!! 混乱して大声を出してしまった!」
橘 優人「落ち着け――。 落ち着け――。 わし!!」
はやる気持ちを抑えながら現状を整理することにした。
橘 優人「そ、そうだ! わしは、確かに死んだはず・・・・・・!!!」
異世界《ノアン》で息を引き取った感覚は、確かに今も残っている。
あれだけ探しても帰還方法は見つからなかったのだ。
なのに、なぜ――???
もしかして、死ぬ事が帰還方法だとでもいうのか?
いやいやいや!!!
笑えない冗談だ!!!
はっ!まさか!!!
橘 優人「これはもしや夢か?!」
橘 優人「・・・・・・ヴッ! いたっ!!」
思いっきりほっぺをつねってみるとかなり痛かった。
橘 優人「や・・・・・・やはり夢じゃない?」
赤くなってしまったほっぺを擦りながら考える。
思いのほか力強くつねってしまい、少し涙が出てきたようだ。
橘 優人「・・・んん??」
橘 優人「―― ・・・手が小さい・・・!?!?」
橘 優人「そういえば――。 なんだか、身体が軽く感じるな・・・」
橘 優人「視界もなんだか低いような・・・」
橘 優人「『テステス!テステス!』 ・・・やっぱり声も少し高く感じる!!」
橘 優人「・・・まさか・・・!!!!」
ひとつの可能性に気づき、急いで近くにあった姿鏡で自分自身を確認してみると・・・
橘 優人「・・・え?」
橘 優人「ちっさ!!」
橘 優人「し、しまった!!!」
橘 優人「あまりの衝撃で、また大声を出してしまった!!」
そう──。
体全体をペタペタ触ったり手足を動かしたりして確認してみたが、やっぱり子供の頃に戻っている。
橘 優人「この姿・・・小ささは・・・」
橘 優人「小学生・・・か?」
異世界《ノアン》では、有名な某映画の魔法使いのおじいちゃんのような姿だった・・・。
自身のことも〝わし〟呼び、そして死因も老衰である。
・・・ふと、 異世界《ノアン》でのある出来事を思い出した。
〇怪しげな酒場
異世界《ノアン》・・・
いくつだっただろうか・・・。
姿も歳相応になった頃・・・
悪友の【勇者】に言われたのだ。
【勇者】老人「その歳で〝僕〟呼びってどーなの?」
橘 優人(老人)「ヴッ・・・!!!!」
そんな【勇者】は国王になったにも関わらず、その風格を1ミリも感じさせずにケラケラ笑いながら言い放ったのだ。
もちろん人前では、気をつけていた。
だが、気を抜くと〝僕〟呼びだったのだ。
痛いところをつかれムッとしてしまったユウトだが、その後の【勇者】の言葉にさらに驚愕になる。
これからはいついかなる時も、自身のことを〝わし〟と呼ぶように。これは王命だ。
ケラケラ、ヒーヒー笑いながら冗談のような王命を言いつけられ、自身の呼び方を強制的に変えられたのだった・・・!!!!
〇シンプルなワンルーム
橘 優人「・・・」
橘 優人「この姿だと、わし呼びの方が違和感だらけだよねっ? 僕呼びは、おかしくないはず!!」
橘 優人「――もう、王命は関係ないよね?」
橘 優人「・・・・・・!!!!!! 〝僕〟呼びに戻そう!」
橘 優人「〝僕〟はユウト!!」
橘 優人「〝僕〟はユウト!!」
橘 優人「〝僕〟はユウト!!」
橘 優人「よし!! これで、きっと〝僕〟呼びになる・・・はず!」
橘 優人「・・・」
それにしても・・・・・・。
よく状況が分からないな・・・。
そもそも、異世界《ノアン》で数百年生きた僕が死んで目覚めたら小学生頃の姿になっていたのだ。
つまり異世界《ノアン》に行く直前のような姿なのだ。
まるで、これまでのことが夢だったような――。
橘 優人「ま!!まさか――!! 異世界《ノアン》に行ったこと自体が、実は夢だった・・・とか!?」
橘 優人「!!!!!!!!!!!! まさかの夢オチ・・・・・・・・・ッ?!」
いやいやいや。
あんなに家族に会いたくて・・・
地球に帰りたいのに帰れなくて・・・
諦めて空虚になった気持ちが夢オチっていうのは、さすがに冗談がキツい・・・。
そして、異世界《ノアン》でも、たくさん怪我もしてるしかなり痛かったのも覚えてる。
これはさすがに夢オチということはないと思うけど・・・・・・。