長女は家族を養いたい~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

姉は考える、姉も考える(脚本)

長女は家族を養いたい~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

今すぐ読む

長女は家族を養いたい~凍死から始まるお仕事冒険記~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇洋館の一室
エキドナ・アルカーノ「ふむ・・・・・・」
  エキドナが左手の人差し指を額《ひたい》に当てて考え込む。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「やっぱり難しいですか?」
  木のトレーに淹《い》れたての紅茶を乗せて来た弥生が苦笑いを浮かべてエキドナの対面に座る。
  そのままお互いの前にほかほかと湯気を漂わせるカップを置いた
  相談の内容としては単純で『文香と真司を学校に通わせたい』という事
エキドナ・アルカーノ「そうだねぇ、この村にも学校というか学び舎として一応は村長の自宅が解放されているけど・・・・・・」
エキドナ・アルカーノ「四則演算、読み書きが出来たら上出来な部類なんだよ」
エキドナ・アルカーノ「何せ教科書が無いし教員免許を取った教師が居る訳でも無いしね」
  真司と文香は習う事が出来たとしても、それぞれ中学校二年生と小学校二年生、教える側に回るレベルとなってしまっている。
  社会性を学ぶにしても文香はともかく、真司が小さい集落の閉鎖性に苦手意識を持っているので中々に敷居《しきい》が高い。
  こうしてエキドナの拠点となっている家屋も弥生たちが住まわせて貰ってるが、そのままという訳にはいかないと弥生は考えている。
  反対にエキドナの方はその内、家族を探しにこの村を離れるつもりなのでこの家屋を譲ってもいいかなぁ。とまで思ってたりした。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「お仕事と言っても畑を耕したり薬草採取したりだけですもんねぇ。どうしたものか・・・・・・」
  弥生は少しぬるくなったティーカップを両手で包みうなだれる。
  エキドナは天を仰ぎ鼻腔《びこう》をくすぐる花の香りを楽しむ。
エキドナ・アルカーノ「日本人は勤勉だねぇ、この村でのんびりスローライフを楽しむのも一興《いっきょう》とおねーさんは進言するよ」
エキドナ・アルカーノ「この辺は街道の中継になってる村だから西のウェイランドも東のミルテアリアも警備の騎士を出しているし」
エキドナ・アルカーノ「冒険者と呼ばれる何でも屋も結構立ち寄るから相当治安はいいよ。弟君が懸念《けねん》している閉鎖的な雰囲気も少ないしね」
  実際エキドナの言う通り、結構な頻度《ひんど》で人が訪れるノルテリアの村は普段見ない顔の人でも大して気にしない。
  門番も治安が良すぎるがゆえに仕事と言えば門を開ける事と村の子供がこっそりと外へ抜け出さないように見張るくらいだ
日下部 弥生(くさかべ やよい)「確かに・・・・・・」
  弥生も苦笑しながらエキドナに同意する。
  かく言う弥生自身もこの数日間、村で過ごして実感したのはかなり居心地は良い。
  エキドナの提案通りにこの村に住むのも有りだとは思っていた。しかし、どうしても一昨日に見た夢が弥生の中で引っかかっている
  今は席を外している真司も文香もそれぞれ違う夢ではあるが『探す』の一点においては共通しているのが不気味と言えば不気味だった
日下部 弥生(くさかべ やよい)「ここで過ごすのも悪くないと思うんです。でも・・・・・・なんかこう落ち着かなくて」
エキドナ・アルカーノ「昨日言っていた夢の話かな?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「・・・・・・はい」
エキドナ・アルカーノ「僕自身は弥生・・・・・・君の判断にできる限り協力はするつもりだよ?」
  エキドナの声音は穏やかでこうしたらいい、ああしたらいいと言う押しつけがましいものではない。
  可能性と現実を確認して相手の判断を促すような流れを作る
日下部 弥生(くさかべ やよい)「・・・・・・どっちかの国に行ってみたい、です」
  だからこそ弥生の口からは自然とその言葉が紡がれた。
エキドナ・アルカーノ「ふぅん・・・・・・ならちょうどいいねぇ、実は近い内にウェイランドに行くつもりだったから・・・・・・一緒に行かないかい?」
エキドナ・アルカーノ「一人旅は寂しいからすごく助かるんだよねぃ・・・・・・ああ、もちろん今日明日ではないから安心していいよ」
エキドナ・アルカーノ「少し旅についての実地研修もしたいしねぇ」
  最初からそのつもりだったエキドナがあっという間に話を纏《まと》めてしまう。
  あまりにも自分たちに都合のいい流れに、弥生があうあうと視線を泳がせつつもまずはお礼をエキドナに伝える。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「ありがとうございます。でも・・・・・・良いんですか? 私たちきっと足手まといに」
エキドナ・アルカーノ「ストップ」
  エキドナがしゅたっ! と手を挙げて弥生の言葉を遮った。
  その顔に浮かぶのはふにゃりとした・・・・・・まるで日向ぼっこをするような猫を連想させる笑み。

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:絶望……それはいつもあなたに

成分キーワード

ページTOPへ