長女は家族を養いたい~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

夢で逢えたら(脚本)

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灰色サレナ

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〇黒背景
  静かな闇の世界で上も下も無い中、弥生は目を開ける。
  ゆらり、ふわり、と・・・・・・風もないのに身体は揺らぐ。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「真司」
  弟の名を呼ぶ・・・・・・されど答えは返らない。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「文香」
  妹の名を呼ぶ・・・・・・声は暗闇に吞まれ拡散した。
  ――誰か応えて。
  そんな弥生の思いは届かない。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「お母さん」
???「・・・・・・・・・・・・・・・・・・名は?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「夜ノ華《やのか》」
???「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「お父さんは・・・・・・幸太郎《こうたろう》」
???「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・名は?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「・・・・・・・・・・・・誰の?」
???「――肝心な者の名が抜けているんじゃない?」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「そっか・・・・・・・・・・・・弥生。私は日下部弥生」
???「――探すと良いよ」
  弥生はどこかぼんやりした思考の中で明確なその言葉を記憶にとどめる努力をする。
  霞がかって上手く思い出せない声にもどかしさを感じながら。
  必死に頷いて・・・・・・でもその身体はどこまでも自由が利かずに段々と弥生に苛立ちをもたらす。
???「――大丈夫、今は無理だから」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「覚えていられるの?」
???「――少しは・・・・・・でも、ちゃんと覚えてる」
  夢の中なんだろうな、と。
  弥生はおぼろげに理解する。
  しかし、同時にあがいても無駄だという事がわかってしまい諦めた。
  弥生は元々夢を見た後その内容を覚えていたためしがないのだ。
???「――――そうそう、良いよ。リラックスしてくれたほうが私は楽なの」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「またあなたに会える?」
  淡い期待を弥生は精一杯言葉に乗せる。
  すると・・・・・・黒一色の世界に初めて他の色がぽつんと光った。
???「もちろん」
  そして明確になる言葉。
  明らかな声の高さとしっかりとした口調。そして柔らかい響き・・・・・・。
???「絶対に・・・・・・会えるから。諦めないで」
  弥生にとって一番懐かしくて、甘くて、取り戻したい――の香り。
  夢の中であろうと、走馬燈《そうまとう》であろうと、この二年間決して姿を見せてくれなかった・・・・・・大好きな人の姿。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「おかあ・・・・・・」
  最後まで弥生が言い切るのを待たずに、無情にもずぶり、と今まで柔らかく弥生を包んでいた何かが粘度をもって沈めにかかる。
???「探してね皆で・・・・・・」
日下部 弥生(くさかべ やよい)「うん!!」
  きっとこの夢を忘れる。弥生はそんな確信を持っていたが・・・・・・それでも・・・・・・
日下部 弥生(くさかべ やよい)「必ず! 見つけるから! 私・・・・・・がんばってるから!!」
  あっという間に胸まで沈んでも、苦しい位に締め付けられる全身の圧迫感にも負けず。
  弥生は叫ぶ。
夜ノ華「うん」
  顔まで沈むほんの一瞬、淡い桜井の色をした唇が笑みの形に変わるのを弥生には確かに見た。

〇簡素な部屋
  朝日と木の香りに弥生は起こされる。
  おなかに乗った文香の左足を丁寧に除けてあげて、上半身だけをむくりと起き上がらせる
  ゆっくりと窓からのぞく青空にその双眸《そうぼう》を向ける。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「・・・・・・探さなきゃ」
  心地よい目覚めに思い出せずとも幸せな夢。
日下部 弥生(くさかべ やよい)「忘れない内にエキドナさんにも話して・・・・・・」
  視線を落として弥生は自分の手のひらをじっくりと見る。
  お世辞にも綺麗とはいえない、マメが潰れた跡や擦った跡は目を凝らせばすぐにわかった。
  16年間慣れ親しんできた自分の身体。
  マメは酒屋さんでバイトした時、重たいビールケースを運んでできたもの。
  擦った後はロープを縛る時にこすれて皮がむけた痕
日下部 弥生(くさかべ やよい)「もしかしたら転生じゃなくて・・・・・・転移?」
  いろいろな推測が弥生の頭をめぐるがさすがに確信まではいかない・・・・・・
  そういう時はどうするのか。弥生は両親から学んでいる
日下部 弥生(くさかべ やよい)「夢の件も・・・・・・ここの世界の事も、知るために『探さなきゃ』」
  ぎゅっと握った両手は知らず知らずの内に力が入り、弥生は苦笑した。
  この世界で目覚めてまだ数日、やっと疲れが取れたかな?
  そんな程度なのにもう行動を起こそうとしている自分の気の早さに弥生はため息をつく

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