第六話(脚本)
〇都会のカフェ
ツクヨミ「・・あぁ、 今日も疲れた」
ウエイトレス「お待たせしました」
ツクヨミ「おーーー、 来た来た おまえがいるから 今日もがんばれたよ」
淡雪「あ、 ありがとうございます」
ツクヨミ「うわっ、 いつの間にそこにいたんだよ」
淡雪「そのイチゴパフェが このテーブルに来てすぐですけど」
ツクヨミ「じゃあ、わかるでしょ? 俺はパフェに向かって話しかけているんですよ」
ツクヨミ「仕事終わりのこの幸せな時間を 邪魔しないでくれますか?」
淡雪「それは失礼しました」
淡雪「こちらも大事な話がありまして、 仕事帰りのタイミングを 待っていたんですよ」
ツクヨミ「先にパフェを一口食べていいですか? 淡雪さんが来ると あんまり良いことがないので・・」
淡雪「どうぞ食べてください。 報告を伝えるだけなので」
パクッ
ツクヨミ「ん~、甘い、美味しい。 この一杯のために頑張ってきたー」
ツクヨミ「・・・報告?」
淡雪「はい、最近頑張っていらっしゃるようで ありがとうございます。 神でもない人が願いを叶えていることに社長は感謝していました」
淡雪「安受神社の神様にも状況を話すことができています。戻ってほしいとも伝えました」
淡雪「ただ、 パソコンがハッキングされまして・・・、 お願いを叶えた数が改ざんされてしまったようで・・」
淡雪「詳しい数を伝えられなかったんです」
ツクヨミ「じゃあ、今まで叶えた願いの数が・・」
淡雪「えー、増えています」
ツクヨミ「増えて・・・る?」
淡雪「はい、百万ポイントほどになっています」
淡雪「・・あ、ポイントのことは気になさらないでください。こちらの物差しなので」
淡雪「それで安受神社のポイントを確認してこい、と言われまして」
ツクヨミ「はぁ」
ツクヨミ「・・・それでどうやって?」
淡雪「神社に樹齢三百年の木があると思います」
淡雪「心願成就するとそこに感謝のエッセンスが溜まるようになっています」
淡雪「昔は、それを一年に一回、出雲大社に持ち寄って、社長がその量に応じて特別ボーナスをあげるというのが風習だったのですが、」
淡雪「今はパソコンで一括管理していますので、 確認のために持ってきてもらうということになっているんです」
淡雪「なので、その木を調べれば、 願いを叶えた数値がわかるということです」
ツクヨミ「はい、わかりました。 ・・それで、終わりですか?」
パクッ
淡雪「・・あの、そのイチゴパフェ、 もらってもいいですか?」
ツクヨミ「えっ、自分で頼めばいいでしょ」
淡雪「私、いま、お金がないんですよ」
淡雪「二か月前に仏像を買ってしまいまして、」
淡雪「・・社長である神様から、 君にぴったりの仏像があるから買いなさいって言われたんです」
淡雪「百万円だって言われて、一回は断ったんですよ。 でも『おまえは地獄に落ちたいのか』って言われて、仕方なく、買ったんです」
淡雪「24回払い・・ 生活に困窮している私・・ どうやってそんな高そうなイチゴパフェを 食べればいいんでしょうか?」
ツクヨミ「わかりましたよ。 食べていいですよ。 ・・でも、このスプーンでいいですか?」
淡雪「安心してください。 マイスプーンを持っていますから」
ツクヨミ「・・多分、 それ、騙されてると思うんですけど・・」
淡雪「では、すみません。 隣に移動しますね」
ツクヨミ「そんな近くに寄らなくても・・」
淡雪「いただきまーす」
ツクヨミ「(うわ、めちゃくちゃ良い香り)」
パクパク、もぐもぐ
・・パクパク・・
ツクヨミ「うわ、一瞬で、 半分食われた」
淡雪「ケチケチしないでください。 まだ半分残っているじゃないですか」
ツクヨミ「いや、 もうムースとジャムしか残ってないですよー」
淡雪「あっ・・・そのようですね。 では、身体でお支払いいたします」
ツクヨミ「・・いや、急にそんなこと言われても・・」
淡雪「お寺に何かあったときには、 全力で、身体を張って、 お助けいたします」
ツクヨミ「そのことですか・・ 私はてっきり・・」
淡雪「あ、そうだ」
淡雪「コマさんから 勾玉をもらいましたよね?」
ツクヨミ「あぁ、もらったけど」
淡雪「気をつけてくださいね。 あれはコマさんの命の一部です。 傷つけたり壊したりしたら、 コマさんがどうなるか」
淡雪「私にはよくわかりません。 上司に聞いても、 例がないことでわからないと サジを投げていました」
淡雪「私、見たことないので、 ちょっと見せてもらえますか?」
ツクヨミ「どうぞ」
首から外した勾玉を、水をすくうような
淡雪の小さな手に乗せた。
淡雪「へぇー、これですかー」
淡雪「・・・確かにコマさんの意識を感じますね」
淡雪「これを触りながら心の中で叫べば、 コマさんに聞こえるような気がします」
淡雪「ツクヨミさん、 試しにコマさんを 呼んでみてくれますか?」
淡雪「勾玉を触って、念じてみてください」
ツクヨミ「えぇ、まあ、いいですけど 〈こんな夜に呼んでどうするんだろ〉」
ツクヨミは勾玉を握ると、
一瞬、熱が大きく奪われたような気がしたが、すぐに熱くなってきて、咄嗟に手を離した。
ツクヨミ「熱っ ・・今のは?」
淡雪「コマさんに伝わった ということじゃないですか」
〇都会のカフェ
風の音が背後に聞こえて振り返ると、
そこにはコマが忽然と現れていた。
コマは身構えて辺りを見渡したが、
そこが喫茶店であって、
ツクヨミの前にパフェが置いてあるのを見て、止めていた息を吐いた
コマ「どうかしましたか」
ツクヨミ「いや、何もないんだけど、 試しに呼んでみたらって淡雪が言うから・・」
淡雪「すみません、 ちょっとした好奇心で・・」
コマ「・・・・・」
淡雪「あと、・・あと神社に行かなくてはいけなかったので、終電に乗り遅れないように、コマさんに送ってもらおうかと思いまして・・」
コマ「・・それは構いませんが、 どこか腑に落ちない部分があります」
コマ「信頼関係に関わりますので、 これからは別の方法でお願いします」
淡雪「・・すみません」
コマ「素直に謝られて 許さないわけにはいきませんね」
コマ「それでは、神社に行きましょうか?」
淡雪「あっ、ちょっと待ってください。 人が美味しそうに甘いのを食べてるの好きなんです」
淡雪「ツクヨミさんが食べ終わるまで 待ってもらえますか?」
コマ「・・まあ、いいでしょう。 私もその感覚を味わいたいので、 ツクヨミ様の食べる姿を見ることにしましょう」
じーーーーーーー
ツクヨミ「・・・・・ そんな見つめられたら食べにくいだろ。 さっさと神社に行けよ」
淡雪「一緒に神社に行きませんか? タケハさんとも和解が必要だと思うのですが、いかがですか」
ツクヨミ「ムリムリムリ。 タケハとは性格も考え方も違うんだよ。 あんなシスコンに俺はなれない」
コマ「タケハ様をそんな風に言わないでください。 彼はヒルコ様の死をなんとか乗り越えようと頑張っているのですよ」
ツクヨミ「・・弟の話はやめてくれ。 パフェがまずくなる」
淡雪「じゃあ、いいです。 ツクヨミさんが不機嫌になったので、 もう行きます」
淡雪「さあ、コマさん早く行きましょう」
コマ「わかりました。 では、さっそく行きましょう」
コマ「では、急に瞬間移動をして みなさんをびっくりさせてもいけないので、 人目につかないところに行きましょうか」
淡雪「はい、お願いします」
ツクヨミ「ちぇっ、 一人で食べようと思ってたのに、 ・・・誰かが来て、去っていくと 寂しいもんだな」
ツクヨミ「・・・あぁぁ、もう、 コンビニでスイーツでも買って 家でやけ食いしてやる」