魔法使いの竜葉

さつまいか

第4話 約束(脚本)

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〇幻想
沙利「う、ううん・・・」
ヴァンパイア「無事転移できたようだな・・・」
沙利「そうね・・・」
  沙利とヴァンパイアがいたのは、
  幻想的な、いかにも魔術で作られてる、
  と思わせられる空間だった。
沙利「えっと・・・ 早速本題に入るけど、 杏奈の力って何、なの・・・?」
  沙利が心配そうに、そう声をかける。
ヴァンパイア「あ、ああ・・・ これを知ったのは杏奈を見つけて 2年ほど経った時だったか・・・」
  その日、天気はヴァンパイアたちが
  住んでいるところでは珍しい雨だった。
ヴァンパイア「我は、杏奈が濡れていないか心配になって 様子を見に行き__」
ヴァンパイア「__驚愕した・・・」
ヴァンパイア「__杏奈は、自分の周りの地面から 葉を生やし、屋根のようにして 自身を守っていたのだ」
沙利「それって・・・」
ヴァンパイア「沙利も知っているのか? 〈葉使い〉(リーフユーズ)の存在を」
沙利「え、ええ・・・ 私の故郷に伝わる神話で よくその言葉が出てくるの」
  沙利の故郷では
  自然にまつわる話がたくさん
  残されているらしい。
  その話の中で、葉を題材にした話には
  必ずというほど〈葉使い〉という単語が
  出てくるのだ。
沙利「だから私の故郷では、 葉の魔術を使える魔術師でも 崇められているのだけど・・・」
ヴァンパイア「・・・そうだったのか。 葉の力を、自由に操る者、 それが〈葉使い〉・・・」
ヴァンパイア「杏奈は、何故かそれの使い手だったのだ。 本来ならば、人間になど 宿るはずもない力なのだが・・・」
沙利「そう、ね。 神話にも、そのようなことが書かれていたわ」
  葉の力を使える魔術師なら
  葉属性の魔術を扱うだけで、
  実際に葉を生み出すことはできない。
  だが、杏奈はそれを具現化していたのだ。
  そして、ヴァンパイアは
  〈葉使い〉と結論付けた。
  本当に〈葉使い〉ならば、他にも
  葉に魔力を注ぎ込んでアイテムにしたり、
  バフ・デバフ効果のある魔術を核にして
  葉を作ると、それ相応のポーションに
  することもできる。
ヴァンパイア「いわば、サポーターのような存在に なるわけだが・・・」
沙利「__杏奈にそれは想像できないわね・・・」
沙利「彼女は、どんな戦闘でも 前線で戦おうとするから・・・」
ヴァンパイア「それは、見ているだけでも想像はついた。 そんなことを杏奈に告白したら、 彼女の戦い方が変わってしまうのではないか、」
ヴァンパイア「と思ってしまってな」
沙利「そう・・・」
沙利「でも、大丈夫よ!」
ヴァンパイア「え?」
  ヴァンパイアが、
  拍子抜けした声を出す。
沙利「杏奈はそんなことじゃ、 自分の意見を曲げない少女だもの 力を告げたって、それを使って 自分の工夫で乗り切ってしまうわよ」
  ふふ、と沙利は思い出したように笑う。
ヴァンパイア「ふ、それは想像できないでもないな」
  沙利の笑いにつられ、
  ヴァンパイアも面白げに笑う。
ヴァンパイア「よし、ありがとう、沙利よ 我は覚悟を決められたようだ」
沙利「そ、う・・・ よかったわ、あなたが決心してくれて。 この町に来てくれて」
沙利「ありがとう・・・」
ヴァンパイア「なっ、そんなことを言ったら 照れるではないか・・・」
沙利「そんな・・・ 私はお礼を言っただけよ?」
ヴァンパイア(それでも、 我は嬉しかったのだ・・・)
  ヴァンパイアは人知れず、
  胸中でそう呟く。
沙利「さあ、杏奈も待ってるわ 帰りましょう、か」
ヴァンパイア「ああ、そうだな」
沙利「杏奈に__」
ヴァンパイア「真実を伝えるために」
  二人が口を揃えて言った瞬間、
  意見が一致し、目の前が光った。

〇風流な庭園
沙利「ふぅ、無事帰ってこれたようね・・・」
ヴァンパイア「そうだな しかし、ここは杏奈の家ではないのか?」
沙利「え?そうだけど・・・」
ヴァンパイア「杏奈は家で待っておく、 そう言っていたのに ここには杏奈の魔力が感じられないのだ・・・」
沙利「え?!私たちがさっきいたところから 家まであまり距離なんかないのだけれど・・・」
ヴァンパイア「・・・杏奈は、自分から話しかけるのが 得意、なのだろう?」
沙利「え、ええ・・・ でも、それがどうかしたの?」
ヴァンパイア「それは同時に話しかけられやすい、 ということにもなり得ないか?」
  ヴァンパイアが呆れた表情で沙利に尋ねる。
沙利「杏奈なら、ありそうね・・・」
ヴァンパイア「だから、誰かに話しかけられているのでは と思ってな」
沙利「なるほど・・・ ヴァンパイアさん、あなた冴えているわね・・・」
ヴァンパイア「む、そんなものか? 沙利よ、少し様子を見に行かぬか?」
沙利「ええ、そうね 杏奈が色々とごめんなさい・・・」
  沙利は、申し訳なくなって、
  ヴァンパイアに謝る。
ヴァンパイア「そんなことはよい。 ほら、行くぞ__」
  二人は、先ほどヴァンパイアと出会った
  道に向かって歩き出した。

〇寂れた村
沙利「杏奈、どこにいるのかしら・・・」
ヴァンパイア「ふむ・・・ ここは意外と広いのだし、 二手に分かれぬか?」
沙利「そうね・・・ じゃあ、あなたは西側をお願いできるかしら?」
ヴァンパイア「ああ、杏奈が見当たらなかったら またここに戻ってくることにすれば、 入れ違いにもならないだろうしな」
沙利「えぇ、よろしく頼むわね」
  そう言って、二人は杏奈を探しに
  逆の道に駆けて行った。
  少しして。
沙利「杏奈ー? 近くにいるなら返事してー?」
  さっき通った道付近に来た沙利は、
  杏奈に向かって呼び掛ける。
  と__
学院の教師「おい、君・・・ さっきから言っているように、 僕は怪しいものじゃない」
学院の教師「なのに、なぜさっきから 泣きそうな目で僕を見ているんだ?」
沙利(杏奈、本当に話しかけられていたのね・・・ それにしても、あれは、誰?)
沙利(見た感じ、 どこかの教師のような装いだけど・・・)
  杏奈を見つけ、近くの物陰に隠れて
  沙利は成り行きを見守る。
杏奈「だ、だって・・・ 何者か聞いても、そればっかりだったら 不安にもなるでしょ・・・」
学院の教師「あ、ああ、それはすまない・・・ 僕は教師だ」
杏奈「え?教師って、学院の? ここから一番近い学院って言っても 王都の隣町だよね!?」
杏奈「なんでそんな都会の人がこんな田舎町に?」
  杏奈は唖然とする。
学院の教師「ああ、それは__」
学院の教師「このような場所だと、学院に来たくても 色々な理由で来るのを諦めていたり、 そもそも学院の存在を知らない人もいる、」
学院の教師「ということを聞いてね」
学院の教師「田舎にこそ逸材がいるんじゃないか、と思い 僕が赴くことにしたんだ」
学院の教師「まぁ、いわば・・・ スカウト、だ」
沙利(なっ!? ってことは、杏奈はスカウトされているの? しかも、学院に)
  学院とは、剣士や魔術師を
  一人前にするために育てる機関だ。
  無事卒業できれば、騎士団に入れる確率も、
  ぐんとあがる。
  普通ならその学院に赴いて
  入学試験を受けなければ
  入れない仕組みなのだが、
  この教師が言っていることが本当なら__
沙利(入学試験なんか受けなくても、 学院に入ることができるということ・・・?)
  二人の話を盗み聞きしつつ、
  沙利はそう考える。
杏奈「えぇ!? お金も少ないし、学院なんて 夢のまた夢と思っていたけど・・・」
学院の教師「それが叶うかもしれない、ということだ」
学院の教師「どうだ?僕との模擬戦に勝ったら 学院には入れるようにしようとは思うのだが・・・」
杏奈「えぇぇぇ!? いいんですか?!その、模擬戦! ぜひやりたいですけど、 あたしをスカウトするなら__」
沙利(もしかして杏奈、私も模擬戦が出来るように 頼んでくれようとしてる? でも友達とか軽い言葉だと、受け入れられないかも・・・)
沙利(よし、ここは!)
  沙利は何かを決心したのか、
  二人の前に歩を進め__
沙利「杏奈、ここにいたのね えっと、その方は?」
  何も知らないふりをして、話しかけた。
杏奈「なっ、さ、沙利!? どうしてここに?」
沙利「ああ、話が終わって戻って来ても 杏奈が家にいなかったから 探しに来てたのよ」
杏奈「そういうことか・・・ごめんねー!!」
杏奈「あ、えっと、この人は__」
  杏奈がしどろもどろになっていると__
学院の教師「あ、僕は王都の隣にあたる町の 学院の教師をしているものです えっと、あなたはどちら様でしょうか?」
  教師が沙利にそう名乗る。
沙利「えぇ、学院の教師の方が なぜこんなところに? 学院の知名度でもあげに来たのでしょうか?」
  全てを知っている沙利は、
  半分冗談めかして教師に尋ねる。
学院の教師「えぇ・・・まあ、そんなところです この可憐なお嬢さんを学院に スカウトしていたところだったのです」
学院の教師「模擬戦をしてもらい、お嬢さんが 僕に勝ったら学院に入学できる というシステムで」
杏奈「へへ、まあそういうことなんだけど、 もしあたしが受かっても そんな遠いところになんて 一人では行きたくないから・・・」
学院の教師「お嬢さんにとって、そこの方は大事な人、 なのですか?」
  杏奈の呟きに対し、教師がそう質問する。
杏奈「えと、まぁ、そういうこと、です」
沙利「えっと、先生、 質問、よろしいでしょうか?」
  杏奈と沙利の関係を知った教師に、
  沙利が質問する。
学院の教師「はい、何ですか?」
沙利「先生にとっては、杏奈が受かっても 行きたくない、なんて言い出したら 困りますよね?」
学院の教師「え?はい、それはまあ・・・」
沙利「私もその模擬戦 受講しても、よろしいでしょうか?」
杏奈「え?沙利!?」
沙利「だって、杏奈は私がいないと心配だもの それに、私も強くなりたい その気持ちは一緒だから」
杏奈「沙利・・・」
学院の教師「わ、分かりました・・・」
学院の教師「ですが、僕がスカウトしていないので 受かったらそこのお嬢さんは 学院に必要な物はこちらで全額負担しますが」
学院の教師「あなたは、半額負担しなければ ならなくなってしまいます、 それでもよろしいでしょうか?」
学院の教師「お金にお困りなのでしたら 僕の同僚が今こちらに向かっているので その方たちのスカウトを待った方が__」
沙利「いえ、大丈夫です 模擬戦はいつするのですか?」
  教師の気遣いもきっぱりと断り、
  沙利は聞き迫る。
学院の教師「え、ええと・・・ こちらも準備などが必要なので、 一週間後、などでいかがですか?」
杏奈「はい、あたしは大丈夫です!」
沙利「私も、です ご配慮、感謝致します」
  杏奈がにこりと笑い、沙利が頭を下げる。
学院の教師「えっと、場所は__」
沙利「この付近に目立たない広場があるので、 そこでどうでしょうか? 目立たなくても 見つけられるとは思うので__」
杏奈「あ、確かに! リュース中央広場、だったっけ?」
沙利「ええ__ じゃあ、 その日までよろしくお願いします、先生」
学院の教師「ああ、こちらこそ、だ 君たちの力、楽しみにしているよ」
  そう言って、二人は教師と
  模擬戦の約束をしたのだった。

〇先住民の村
  杏奈の家の帰り道。
杏奈「あれ? 沙利、あのヴァンパイアさんはどうしたの?」
  ふと気付き、杏奈は尋ねる。
沙利「ああ、彼女なら杏奈を探しに 逆方向に行ったけど 私たちの魔力を感知して 追いかけてくると思うわよ__」
ヴァンパイア「ちょっと! 待ち合わせ場所も言ってあったのに 二人だけで帰ってるなど・・・!」
杏奈「う、噂をすればなんとやら、だね・・・」
沙利「え、ええ・・・」
沙利「ごめんなさい、ヴァンパイアさん・・・ 別に、そんなつもりはなかったのだけれど 成り行きで・・・」
  沙利が早口で言い訳を口にする。
ヴァンパイア「はぁ・・・ まあ魔力を通して二人の会話は聞いていたから 大体はどういうことなのかは分かったが・・・」
杏奈「ええ!? 知ってたなら怒ることなんてないでしょ!?」
ヴァンパイア「そ、それでも 怒りたくなる時だってあるのだ・・・」
杏奈「そ、そうなんだ・・・」
沙利「あら?」
沙利「そういえば、ヴァンパイアさんはなんで この町で杏奈を探していたの?」
沙利「杏奈の過去とか模擬戦についてとか、 あわただしくて 真の目的を聞きそびれていたけれど」
  沙利がふと気付き、ヴァンパイアに尋ねる。
ヴァンパイア「あ、ああ・・・ そ、それは、、」
  ヴァンパイアは気まずそうに、
  ふいっ、と目を反らしてしまう。
杏奈「大丈夫?ヴァンパイアさん・・・」
ヴァンパイア「すまない・・・ 少し、一人にさせてくれ・・・」
  ヴァンパイアはそう言うと、
  魔術を使ってどこかに転移してしまった。
沙利(どうしたのかしら・・・ 何か、言いたくないことだった?)
杏奈「ヴァンパイアさんのことは気になるけど、 今は目の前のことに集中しなくちゃ! 一週間後なんだよ?模擬戦は!」
  不安に思っている沙利をみかねてか、
  杏奈が明るくそう言う。
沙利「・・・っ、ええ、そうね それと杏奈、ヴァンパイアさんと話して来た ことについても打ち明けたいわ 家に、戻りましょうか」
杏奈「うん!沙利の昼ごはん楽しみだな~ って、もう2時!?」
杏奈「うう・・・晩御飯まで絶品料理はお預けかぁ・・・」
沙利「もう、杏奈ったら そんなことで悔やまないの 毎日作ってあげるから・・・ね?」
  ふてくされていた杏奈に対し、
  沙利が励ましの言葉をかける。
杏奈「うん!そうだね! じゃあ帰ろっか」
  二人は、家までの道を歩いて行った。

次のエピソード:第5話 杏奈の成長

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