第5話 杏奈の成長(脚本)
〇風流な庭園
杏奈「あー、疲れたぁ・・・ ヴァンパイアさんと出会って、 学院の教師の人と約束して・・・」
沙利「そうね・・・ じゃああなたのことについて話してもいい?」
杏奈「うん! こっちに防音の部屋があるから、 そこでお願い!」
〇屋敷の書斎
杏奈「なんだか久しぶりだなぁ、ここにくるの」
沙利「杏奈の家にこんな場所があっただなんて・・・ しかもここは地下でしょう?」
杏奈「うん、そうだよー」
杏奈「・・・それで、あたしの力って、何だったの?」
心配そうに、沙利に聞く杏奈。
沙利「これは、あなたの今後の戦い方に 関わってくることなのだけれど、 それでも聞いてくれる?」
杏奈「・・・うん! それでもっと強くなれるのなら!」
杏奈はぐっ、と拳を握りしめる。
沙利「そう・・・分かったわ じゃあ、説明するわね、杏奈のことについて」
〇屋敷の書斎
30分ほどして。
杏奈「えぇ!? あたしが〈葉使い〉(リーフユーズ)!? そんな、特別な努力もしてないのに・・・」
沙利から全ての話しを聞き終え、
杏奈は心配どころか、驚愕していた。
それもそうだ。
杏奈は魔術師をも越える魔術の
使い手になったも同然なのだから。
杏奈「ふふん、剣もできて魔術も使えて・・・ おまけに武器も作れちゃうなんて! 天才美少女杏奈さん現る! なーんて!」
杏奈は・・・
完全に浮かれていた。
沙利「杏奈?あなた、今の立場が分かっているの?」
杏奈「え?」
沙利「あなたは知ってたから 助かっているけれど・・・ そもそも〈葉使い〉の存在を 知らない人もいるのよ?」
杏奈「えぇ!? 昔からおとぎ話で話されていたから あたしには関係深いことなんだけどなぁ」
沙利「人それぞれ、なのよ_ それで、杏奈の力を見て敬う人もいると思うけれど 異能の力だと言ってあなたを避ける人も出てくるはずよ」
沙利「模擬戦に勝って、学院に入れたとしても、 まず入学の仕方が普通じゃないし、 その上おかしな力を持ってる、」
沙利「なんて噂になったら いくら私でも、対処しきれないかもしれない・・・」
杏奈「沙利、そこまで心配してくれていたんだね・・・ ありがと!」
杏奈「でも、大丈夫だよ? つかかってきた人たちなんか、 実力で証明できればいいんだから!」
沙利「・・・杏奈らしいわね」
沙利「でも、今までの戦い方の ままで続けていくの?」
杏奈「うん!最初は慣れないかもだけど、 剣で戦いながら、葉の撹乱も入れるの 沙利が聞いてきた話が本当なら、」
杏奈「ポーションも作れるんでしょ? だったら本当にいいじゃん! あたしたちの目的、まお__」
沙利「杏奈っ! ここが防音だったとしても、 それだけは言っちゃだめよ! そういう約束でしょう?」
杏奈が言いかけたことを、
沙利の声が遮る。
杏奈「う、うん・・・ そうだった・・・ごめん」
沙利「分かればいいのよ それに、私も言いすぎたわね・・・ ごめんなさい」
杏奈「沙利が謝ることなんてない。 ほら、あたしは一週間後に向けて はやく訓練がしたいの! 沙利っ、手伝って?」
沙利「そう、ね・・・ ええ、分かったわ! 模擬戦、絶対二人とも、勝ちましょうね!」
二人は、より力を高めるための
誓いをしたのだった。
〇風流な庭園
一週間後。
今日は模擬戦当日だ。
杏奈「うぅ・・・ 今までやれるだけのことは してきたつもりだけど、 やっぱり緊張するなぁ・・・」
沙利「大丈夫よ、杏奈 精一杯、私たちでできることを やりましょう?」
杏奈「うん、そうだね!」
沙利(それにしても、ヴァンパイアさんが 一週間経っても私たちに 顔を出さなかったのは気になるわね・・・)
沙利(模擬戦が終わったら入学するにしても、 準備が必要でしょうから、 その間に探してみるかしら・・・)
杏奈「?沙利、どうかした?」
ヴァンパイアのことを心配している
沙利を見て、杏奈がそう尋ねる。
沙利「いいえ、何でもないわよ さあ、先生も待ってるはずだわ、 行きましょう」
杏奈「うん!」
杏奈にばれないように誤魔化しつつ、
二人はリュース中央広場に向かった。
〇基地の広場(瓦礫あり)
杏奈「うひゃー、本当に広場って言うのかな? ここって」
二人が戦闘場所に指定したところは、
瓦礫の山が放置されていた。
沙利「そこはもう気にしないで おきましょう・・・?」
杏奈「うん、あたしたちが特訓してきた成果、 見せないと!」
二人は一緒に住む前からこの足場の
悪いところで日々訓練してきたのだ。
たとえ学院の教師といえど、
負けるつもりはない。
沙利「ええ!」
10分ほどして。
学院の教師「き、君たち、もうきていたのか・・・ 朝早くからありがとう」
やっと、学院の教師が来た。
ここが広場だと分からずに
迷っていたのかもしれない。
杏奈「いえ、大丈夫です! では早速お願いします!」
学院の教師「ああ、よろしく頼むよ そういえば、君たちの名前、 聞いていなかったね」
杏奈「あ、えと、あたしは枝里源杏奈です!」
学院の教師「杏奈さん、ね」
杏奈「はいっ!」
沙利「私は紀事沙利、です 先生は、何と呼べばよろしいでしょうか? 先生、では何かあなたを 呼んでいる気になりませんので・・・」
留瑋「沙利さん、ですね えっと、僕は留瑋(ルイ)とでも呼んでください」
留瑋「戦闘前に名前を聞くことも大事ですね」
教師__留瑋がははは、と明るげに笑う。
杏奈「では模擬戦、お願いします!」
留瑋「ああ、まずは杏奈さんからでいいかな?」
杏奈「はい!」
沙利「杏奈、頑張ってね」
沙利が中央に歩いていく
杏奈に向かって応援の言葉をかける。
沙利(この模擬戦では 剣術だけで戦うのよね、杏奈・・・)
沙利は人知れず、そう呟く。
そう、今日の模擬戦では杏奈は〈葉使い〉の
力なしで戦うことにしたのだ。
力がばれてしまっては、
合格点を上回っていても入学させて
くれないかもしれない。
それは、異世界で沙利と話していた時に
ヴァンパイアが呟いていた言葉だ。
沙利は心配させまいと思い、
ヴァンパイアが言ったこと、というのは
内緒にしている。
留瑋「ルールは僕を一度でも傷つけたり、 戦闘がままならなくなったりしたら 合格、です」
留瑋「それじゃあ、始めます、よ」
杏奈「はいっ!」
その杏奈の声で、戦闘が始まった。
杏奈「・・・召還、ロングソード」
杏奈「留瑋先生っ、行きますっ!!」
杏奈は自慢のロングソードを
召還魔術で異空間から呼び出し、
留瑋に突っ込んでいく。
留瑋「くっ、重いっ・・・」
留瑋(こんなに早い動きで、剣も強い・・・ どれだけ練習したんだ? それに、ここは足場も悪いのに・・・)
杏奈(よしっ、このまま行けばっ!)
杏奈は地面を蹴り、
留瑋の腕めがけて剣を振るう。
と__
留瑋「風魔術__〈風切〉(エアストラッシュ)!!」
杏奈「うわぁぁ!?」
杏奈はつんのめりつつ、
留瑋が放った風魔術を避ける。
杏奈「んもう、もうちょっとで剣が折れちゃう ところだったじゃないですかー!!」
留瑋と少し距離を取りつつ、
杏奈はそう文句を言う。
留瑋「剣士だったら、一番大事なものをまず 壊しにいくのが戦闘の基本です__」
杏奈「くっ・・・! 先生は魔術を使える格闘術師なんですねっ」
煙幕の中から留瑋が格闘術を仕掛けてくる。
杏奈はそれを受け止めれない、
と判断し、受け流すにとどまる。
杏奈「はぁっ、はぁ・・・」
杏奈(さすが教師と言うだけあって強い・・・ 沙利が教えてくれた、あれを使うか・・・)
息を整えつつ、杏奈はそう考える。
留瑋(・・・? こちらの方が優位な状況で 目をつむっている? 何か策があるのか・・・)
__と。
杏奈「__アニマルストーム!!」
三毛猫「ニャーァァ!!!」
杏奈が生み出した光の中から、
猫が飛び出してきた。
それだけではない。
ツキノワグマ「ヴォォォォォオ!!!」
ポメラニアン「ヴゥゥゥ・・・ゥワンッ!!!」
ホワイトウルフ「グルルルルルゥゥゥゥ・・・」
ヘビ「シャァァァ!!!」
ゴリラ「オォォォォ!!!」
次々に動物が留瑋に襲いかかっていく。
留瑋「うわぁぁ!? な、何なんだ、この動物たちは!」
杏奈「あたしが手なずけた家族です! ふふん、どうですか?」
ポメラニアン「わぉっん!!」
杏奈「ポメちゃん、ありがとね~!」
さっきまで留瑋を襲っていたポメラニアンを
杏奈がよしよし、と撫でる。
留瑋の服は、動物たちの襲撃によって
既にぼろぼろだった。
杏奈「どうです、先生? これがあたしの力です!」
杏奈「剣術ではまだまだですけど、 動物の扱いには慣れてるんで・・・」
杏奈がへへ、と照れくさそうに笑う。
留瑋「た、確かに、テイマー術は君の力だ。 これは・・・」
留瑋「合格にしようじゃないか」
ふっ、と留瑋は笑い、杏奈の合格を告げた。
杏奈「えぇ!?本当ですか! ありがとうございますっ」
沙利「端の方で見ていたけれど、 杏奈、すごかったわ!」
沙利「あなた、一週間の間によく頑張ったわね!」
試合が終わったのを見計らって、
沙利が杏奈にこちらに向かいながら
声をかける。
杏奈「うん!でも、これは沙利が 指導してくれたおかげだよ!」
杏奈「ほんっとに、ありがとう!!」
杏奈の成長を見届け、微笑む沙利。
留瑋「杏奈さんとの試合、こちらとしても いいものでした」
留瑋「また、機会があれば杏奈さん、 手合わせ願えますか?」
杏奈「はい、もちろんです!」
沙利「留瑋先生、ありがとうございます」
沙利「連戦になりますが、 次に私とお願いできますか?」
留瑋「ああ、杏奈さんに技を教えたのが君なら、 戦うのも楽しみだよ」
沙利「そう言ってもらえて光栄です では、始めましょう」
さっきとはまた、
違う空気が広場を過ぎていった。
沙利「いきます・・・ 手加減無用でお願いしますよ?」
留瑋「ええ、ですが少女を傷つけたとなれば 教師の名に泥を塗ってしまう」
留瑋「状況に応じて、ですね」
沙利が魔術を練っている中、
留瑋は独り言のように言い、微笑する。
沙利の周りが赤く光る。
バフ効果を付与する魔術のエフェクトだ。
沙利「行きます!!」
沙利「〈水流乱舞〉(ウォータースプライト)、です 知っていましたか?」
バフの魔術によって無詠唱で
放てるようになった水属性魔術を
連射する沙利。
留瑋「知ってはいるっ、が 単純に構成できるために対処が困難・・・」
留瑋「でしたね、確か」
沙利「その通りです、先生 先生でも、この量は耐えられないでしょう?」
留瑋(くっ・・・彼女の言う通り、 この量の水を浴びるといくら僕でも 低体温症になりかねないな・・・)
留瑋(それならっ・・・!)
留瑋はある魔術の構成にとりかかる。
それは、一秒足らずで完成した。
留瑋(・・・シールド)
沙利「くっ、シールド、ですか・・・」
留瑋が展開した無詠唱のシールドに
苦戦している様子の沙利。
留瑋「ああ、これなら君も太刀打ち__」
留瑋は勝ちの表情を浮かべる、が__
沙利「できない、とでも?」
沙利が自信満々にそう言い放つ。
沙利「留瑋先生、 私を甘く見すぎではありませんか?」
沙利「・・・〈凍冷水〉(アイウォース)!!」
留瑋(なっ、氷魔術!?)
辺り一面が氷で囲まれた。
広場の外に出ていた杏奈が
ギリギリ圏外になっていることに安堵する。
留瑋「氷魔術は水魔術とは違って 高性能な技術が求められる・・・ 君は、氷魔術を主体とする魔術師なのか?」
留瑋が驚愕しながら、沙利にそう尋ねる。
沙利「まあ、そうですかね・・・ 留瑋先生、これでは体の温度を保つのにも 一苦労、ですよね?」
留瑋「そ、それはそうだが その条件なら沙利さんも一緒だろう?」
沙利の言葉に、留瑋は反論する。
沙利「いいえ、違いますよ先生 今の私には、絶対耐性がありますから」
留瑋「まさか・・・!」
沙利「そうですよ 私が無詠唱にするために使用した バフ効果のものと 勘違いしていたかもしれませんが、」
沙利「これは、寒さを軽減してくれる魔術です 他の誰もやり方は知りません」
沙利「魔方陣は展開していませんし、 私が作り出したものですから」
沙利は胸を張り、留瑋にそう言い迫る。
留瑋「くっ、確かに、僕は沙利さんを 甘く見すぎていたようだ・・・」
留瑋「僕の完敗、だよ」
沙利「じ、じゃあ・・・!」
留瑋「ああ、合格、だ」
沙利「ありがとうございます、先生」
沙利「また、先生に戦闘を 申し込んでもよろしいでしょうか? 次は、正々堂々と」
留瑋「はは、君に隠し事は通じないみたいだ・・・」
留瑋「喜んで受け入れよう 自分にデバフ効果なんて かけるものじゃないしね」
沙利「そうですね もし戦闘中に想定外のことが起こった時に 大変ですし・・・」
沙利と留瑋が、そんな話をしている時__
杏奈「沙利!すごかったよ~!!」
杏奈「あたしよりもやすやすと勝っちゃうなんて!」
広場の外で観戦していた杏奈が、
こちらに駆けてきた。
__もちろん、
火の簡易魔術で周囲を温かくして。
沙利「ありがとう、杏奈」
沙利「これで二人とも、学院入学決定、ね」
杏奈「うん!沙利もだけど、留瑋先生も、 ありがとうございます!」
留瑋「いや、僕はただ才能を見込んで 模擬戦を提案しただけだよ」
沙利「それでも、です」
沙利「それと__先生、そちらの学院には いつ行けばいいのでしょうか?」
沙利が、一番大事なことを留瑋に尋ねる。
留瑋「そうだな・・・ 2日前には呪符か何かで 連絡するつもりだけど・・・」
留瑋「君たちは入学、というより編入になるから、 今の時期だと二学期が始まる 一ヶ月後くらいになる、かな」
杏奈「一ヶ月・・・!」
杏奈「沙利、それくらい時間があったら 特訓し放題だね!」
やったー!!と、喜ぶ杏奈。
沙利「杏奈、はしゃいでるところ悪いけど・・・」
そんな杏奈に沙利が割って入る。
沙利「ここから学院まで、早くて一週間はかかるわ それに制服の仕立てや、編入なら 学院のルールもしっかり頭に入れとかないと」
沙利「・・・多分、自由に特訓できるのは 二週間が限界じゃないかしら」
杏奈「そ、そんな・・・」
杏奈「でも、1日もないわけではないから」
杏奈「いいってことだね!!」
沙利「ふふ、そうね・・・ 私の心配は杞憂だったみたい」
杏奈の笑顔を見て、沙利がほっとする。
留瑋「沙利さんが言ったように、学院に入るには することがたくさんある・・・」
留瑋「それまで、力を高めておいてください あと、武器の新調も」
杏奈「はい!」
沙利「ええ!」
二人は同時に返事をする。
杏奈と沙利の学院編入が、
決まった瞬間だった。