第三話(脚本)
〇広い和室
ペラ、ペラ、ペラ
タケハ「あー、漫画にも集中できないや」
コマ「タケハ様」
タケハ「なに~ なんか用?」
コマ「今日は、一日でも早く 神様が帰ってくるように 神社の再建を・・」
タケハ「その話はやめてくれないか」
コマ「しかし、お兄様は頑張って参拝者の願いを叶えようとしています」
タケハ「・・・」
タケハ「多分君にはわからないよ。 兄のことをこんなにも嫌いだったと、 数日前に気付かされた弟の気持ちなんてね・・」
コマ「・・・・・」
タケハ「兄は母親の愛情に甘えて、 好きなことばかりやって、 姉は父親の寵愛を一心に浴びた」
タケハ「僕はそんな家庭のバランスを取っているつもりだった。 ・・いつかは自分にもその愛情が向けられると、どこかで信じていた」
タケハ「でも、母は何も言わず家を飛び出し、 父はヒルコ姉ちゃんがおかしいと言い出して、」
タケハ「精神病院に連れていく途中で 交通事故に遭って亡くなったんだ」
タケハ「ヒルコ姉ちゃんは僕の 唯一の理解者だったのに、 父さんは僕から引きはがすように 天国に連れて行った」
タケハ「すごい悲しかったよ。 僕はすべてを失ったような気がした。 でも、兄も同じ境遇なんだとすぐに気づいた」
タケハ「だからこそ、 兄ちゃんとは仲良くやらないといけないと思っていた。 ・・でも、この前久しぶりに会ってお願いされたとき、」
タケハ「僕はこの人を 本当は、こんなにも嫌いだったと知ってしまったんだ」
タケハ「ひとつひとつの言葉が、 つららみたいに、鋭利で冷たくて・・・」
タケハ「・・もう顔も見たくない。 思い出したくない」
コマ「すみません、 私はこの家族が温かみにあふれるものだと 信じていましたから、 その言葉を聞いても、すぐには飲み込めません」
タケハ「見た目ではわからないよ。 狛犬・・・」
タケハ「なんだか呼びづらいな」
コマ「「コマ」と呼んでもらうように しております」
タケハ「そうか・・ コマは温かいな。 なんだかじいちゃんを思い出すよ」
コマ「私もお爺様のことは格別慕っておりました。 心が揺れている参拝者には必ず声をかけていました」
コマ「彼のおかげで何人の人が 生きる気力を湧き立たせたことか。 私は歴代の神主の中でも1,2を争う人格者だと思っております」
タケハ「ふっ、 なんだか嬉しいな」
タケハ「もし コマが良かったらまた来てよ。 じいちゃんの話をもっと聞きたいな」
コマ「私にできることなら 何でもする所存です」
タケハ「あ、でも、 これ以上、兄ちゃんの話はやめてくれよ。 神様なんていないと思ってるし、 神社の再建にも興味はないんだ」
タケハ「僕は朽ちるように この神社で死んでいく。 それだけだ」
コマ「・・・ はい、心にとどめておきます」