緊急取調室家族

ちろり

アクリルの仮面をつけろ!の巻(脚本)

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〇警察署の入口
  2024年 警視庁

〇作戦会議室
  取調室
悪い警官「おぅ!佐々木!ネタは上がってんだよ! お前がやったんだろ!」
容疑者1「けっ俺ぁ弁護士が来るまで 一言も話さないぜ」
悪い警官「ふざけた事言ってんじゃねぇぞ、コラ!」
いい警官役「まぁまぁ、落ち着け」
いい警官役「佐々木よ、お前の故郷の山形じゃそろそろ 雪がちらつく頃だろう──」
いい警官役「お袋さんは渋柿を軒先に干してさ お前に干し柿を作ってくれた──」
容疑者1「──」
いい警官役「白い粉を拭いた干し柿を、お前に差し出す お袋さんの手は赤切れでいつも真っ赤だ」
いい警官役「野良仕事に家事、内職までやっても」
いい警官役「お前ら子供たちに食わせてやれる 甘いものは干し柿っきりだ──」
容疑者1「くっ──」
いい警官役「でもな、そんな貧しい中でも、お袋さんは」
いい警官役「決して人様に後ろ指を指されるような ことはするなと 教えてくれたんじゃないのかい──」
容疑者1「‥刑事さん──」

〇作戦会議室
「はい、このような古典的な人情刑事の 泣き落としは」

〇説明会場
面 百子(班長)「令和の現代、通用いたしません─」
面 百子(班長)「今、求められるのは容疑者に寄り添い その心に入り込み、自白を引き出す」
面 百子(班長)「「家族」なのです!」

〇警察署の入口
  2024年、複雑化する犯罪に対応すべく
  警視庁は特別事案対応聴取室を設立
  黙秘を続ける容疑者に
  その家族になりきって自白を促す
  スペシャリスト達
  関係者は畏怖を込めて彼らをこう呼んだ
  緊急取締家族と──

〇薄暗い廊下
二鳥刑事「こんなフロア、あったっけ?」
二鳥刑事「ここか、特別事案対応聴取室 通称「キントリ家族」」

〇会議室のドア
「失礼します」

〇研究施設のオフィス
面 百子(班長)「あら、見ない顔ね キントリ家族に何か御用?」
二鳥刑事「自分は捜査三課の二鳥であります」
二鳥刑事「秋葉原フィギュア窃盗犯について」
二鳥刑事「取調べのご協力をお願いしたく 参上致しました!」
面 百子(班長)「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
面 百子(班長)「ここは確かに変わり者の吹き溜まりだけど」
面 百子(班長)「仕事はキッチリとやる主義よ」
面 百子(班長)「秋葉原のフィギュアといったわね?」
二鳥刑事「はい、立て続けに6軒、同じ手口で高価なフィギュアばかりが盗まれまして」
二鳥刑事「防犯カメラの映像から被疑者を特定したのですが、これが頑として口を割らず」
二鳥刑事「勾留期限も迫る中、確たる証拠も出ず 捜査も行き詰まってる状況です」
面 百子(班長)「フィギュアってのはアニメ系の?」
二鳥刑事「はあ、美少女アニメのキャラクターのようであります」
面 百子(班長)「じゃ、大根、一発締め上げて来て─ 妹属性でいいんじゃない」
 大根ダリア「へーい ──オタクか、のらねえなぁ」
面 百子(班長)「いい、私達は見えない仮面をつけて 他人に成りきるの!」
面 百子(班長)「さあ、つけて、アクリルの仮面を!」
二鳥刑事「そこはガラスじゃないの!?」
面 百子(班長)「じゃ二鳥さん、だったわね?」
面 百子(班長)「30分後に大根を取調室に向かわせます 準備よろしく」
二鳥刑事「承知しました!」

〇空っぽの部屋
  取調室
大根変身「失礼しまーす」
二鳥刑事「君は (えっ大根さんなの!?別人じゃん!!)」
大根変身「人形ヒトシの妹の明里です お兄ちゃんがこちらにいると言うので」
フィギュア窃盗犯 人形ヒトシ「ちょ、待て、俺はお前なんか知らないぞ!」
大根変身「やっぱりお母さん伝えてなかったのね── 私、あなたの腹違いの妹の明里です」
大根変身「お母さんが、私と父の元から去って15年 あなた方家族を恨んだ事もあったけど──」
大根変身「離れて暮らす母やあなたを、遠くから ずっと見てきたの──」
大根変身「お兄ちゃんなんか、欲しくなかったけどね!」
大根変身「でも、男の子たちにいじめられた時なんか、「こんな時、お兄ちゃんがいてくれたらなあ」なんて思ってたの──」
二鳥刑事「うわっツンデレの切り替えが早すぎて クラクラするわ──」
大根変身「お兄ちゃん、フィギュアとったの? サイアク、人間としてサイテーだよ!」
フィギュア窃盗犯 人形ヒトシ「いや!?」
二鳥刑事「ツン」
大根変身「でもね明里、お兄ちゃんの気持ちもわかるの、お兄ちゃん純粋すぎるんだよね」
二鳥刑事「デレ!」
大根変身「あのアニメの風香ちゃんが好き過ぎて、他の誰にも渡したくなかったんだよね!」
二鳥刑事「ツンデレの波が激しくて難破するわ」
大根変身「お兄ちゃんの手、大きくて優しいじゃない」
大根変身「その手が汚れてるなんて、明里耐えられない!」
大根変身「いつか一緒に暮らせる日が来たら、その手で守ってもらえると思ってたのに──」
フィギュア窃盗犯 人形ヒトシ「アカリ!」
大根変身「お兄ちゃん、警察の人に謝って 罪をつぐなって! 明里も一緒に謝って、許してもらえるよう お願いするから!」
フィギュア窃盗犯 人形ヒトシ「うん、うん──」
二鳥刑事「ツインテールの妹属性すげー!」

〇研究施設のオフィス
二鳥刑事「先日のフィギュア窃盗犯の件、ありがとうございました」
二鳥刑事「正直、こちらの噂には半信半疑でしたが、 大根さんのあの演技力には驚愕しました」
面 百子(班長)「ふふ、彼女は憑依型だからね 別人格が降りてくるの」
面 百子(班長)「妹だろうが、叱ってくれるお姉さんだろうが自由自在よ」
二鳥刑事「はぁ、凄いものですね!」

〇研究施設のオフィス
  管内にて幼児誘拐事案発生!
  捜査一家および機動捜査隊は
  緊急配備展開のこと──
二鳥刑事「誘拐か!」
面 百子(班長)「これは── うちも万一に備え、待機! 情報共有と推移を逐次確認のこと」
越智 瑠夏「了解です!」

〇研究施設のオフィス
  36時間後
如月警視「面くん、誘拐事件の被疑者が逮捕された」
面 百子(班長)「思ったより早く確保出来ましたね」
如月警視「それが喜んでばかりもおられんのだ」
如月警視「身代金受渡しを利用して 犯人を確保したが、人質となった 子供の行方がわからんのだ」
面 百子(班長)「共犯者が人質に危害を加える可能性は?」
如月警視「状況から見て単独犯だが 人質が監禁されているのなら 生命維持のリミットは72時間──」
面 百子(班長)「つまり36時間以内に人質を 救出しないと命が危ういと──」
如月警視「この事案、キントリ家族に任された」
如月警視「私も含めキントリ家族の 総力戦でいく─ 必要なものは全て揃える」
面 百子(班長)「至急、メンバーを招集します あとバックアップとして二鳥刑事を お借りします」
如月警視「よかろう」

〇研究施設のオフィス
  12時間後
  リミットまで残り24時間
面 百子(班長)「二鳥君が調べた犯人木下のプロフィール、 卒業アルバム、成績証明書から 勤務先のタイムカード」
二鳥刑事「DVDレンタル、ネット通販の購入履歴、ドライブレコーダーの記録まで 出来る限り揃えました」
面 百子(班長)「木下の口を必ず割らせる!」
面 百子(班長)「さぁ、つけるのよ アクリルの仮面を!」
二鳥刑事「やっぱりガラスじゃないんだ!?」

〇空っぽの部屋
  タイムリミットまであと12時間──
大根変装3「‥武、あなた昔はそんな子じゃなかったじゃない──」
木下老人「何だよ、この茶番はよ 死んだお袋の双子だなんて どんなRPGだよ」
木下老人「まったく何もかも気に入らねえ 人生はクソな百鬼夜行だぜ」

〇研究施設のオフィス
二鳥刑事「大根さんの憑依アプローチでも 効果なしか」
如月警視「何かないか、面くん?」
面 百子(班長)「難しいですね‥木下にとってのバラの蕾 それが分かれば── (VTRを見る)」

〇空っぽの部屋
木下老人「まったく何もかも気に入らねえ 人生はクソな百鬼夜行だぜ」

〇研究施設のオフィス
二鳥刑事「百鬼夜行って何でしょう? (スマホで調べる)」
二鳥刑事「百鬼夜行、さまざまな妖怪が夜中に行列して歩くこと──」
二鳥刑事「転じて悪人がはびこり、勝手気ままに悪事をはたらくこと、か お前も百鬼の1人じゃねーか、何言ってんだ」
面 百子(班長)「百鬼夜行── 二鳥くん、それよ! 今から言うものを、すぐ手配して!」
面 百子(班長)「久々に室長の出番ですよ 室長には木下のクラスメートになってもらいます!」

〇空っぽの部屋
如月警視「木下、久しぶりだな」
木下老人「誰だよ、お前ら馴れ馴れしい」
如月警視「高校の時、一緒だった東だよ こっちは、ほら同級生の浅川──覚えてないか?」

〇小さい会議室
二鳥刑事「友人、そして面さんは高校のマドンナ役か」

〇体育館の裏
越智変装「木下、お前新しいゲーム買ったんだろ? 一緒にやろうぜ!」
 大根変装4「東ひどいよ!今日は私と遊ぶはずじゃない」
越智変装「そっか、浅川も一緒に行こうぜ 木下いいだろ?」

〇小さい会議室
二鳥刑事「マジか!CG背景で 回想シーンまで演じてる!」

〇実家の居間
越智変装「これか?新しく買ったソフトって?」
 大根変装4「百鬼夜行?怖いやつ?」
越智変装「バイト代つぎ込んで買ったんだろ?」
木下老人「これは、あの夏の── いや、マドンナが家に来た事なんてない」
越智変装「これは‥結構難しいな」
 大根変装4「東しっかり!」
越智変装「木下、これ悪いけどクソゲーじゃね?」
木下老人「そうだ、百鬼夜行は俺が初めて稼いだ金で 買ったゲーム、完全なクソゲー」
木下老人「でも、あの夏、確かに時を忘れて やり込んだ─」

〇空っぽの部屋
如月警視「木下、あの夏に帰ろうぜ」
面 変装「木下さん、まだやり直せるわよ」
木下老人「俺、随分遠くに来ちまったな」

〇小さい会議室
二鳥刑事「落ちた! 俺が秋葉原で買ってきたファミコンで 事件解決だ!」

〇空っぽの部屋
木下老人「何でも自白するから 百鬼夜行やらしてくれ〜!」

〇研究施設のオフィス
二鳥刑事「百鬼夜行がゲームとは─ よく気づきましたね」
面 百子(班長)「RPGって言葉でピンと来たの 人生がクソゲーだと例えてると」
二鳥刑事「あのゲームが木下の バラの蕾だったんですね」
面 百子(班長)「そういう事ね」
  劇終

コメント

  • この設定、楽しいですねー!二鳥刑事の心のツッコミがいいですねー!
    それにしても、ファミコンユーザーが「老人」となる時代なんですね…(遠い目)

  • 昭和は泣き落とし、令和で緊急取調室家族を使っても、やっぱりどんな悪人でも【家族】からのアプローチには弱いものなんだなあと思いますね。大根役者ならぬ、素晴らしい俳優さんたちですね。

  • 決めゼリフの「アクリルの仮面」の破壊力がすごいですね。ガラス=昭和からアクリル=令和に仮面の素材も進化(?)したんですね。リハーサルの許されない一発勝負の芝居に毎回ハラハラしそうだったりそうでもなかったり。役者の名字が大根だったり、小ネタも楽しめました。

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