シェアハウス【ファミリー】

咲村まひる

新しい"家族"のはじまり(脚本)

シェアハウス【ファミリー】

咲村まひる

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〇一軒家
  これは
  とあるシェアハウスに住みはじめた
  新しい”家族”の
  再生の物語──

〇明るいリビング
大家さん「お集まりいただきありがとうございます」
大家さん「みなさんには今日から、この家で”家族”として一緒に暮らしていただきます」
大家さん「お察しのことと思いますが、私のほうから一応メンバーの紹介をしますね」
大家さん「まずは”お父さん”」
お父さん「・・・よろしく」
  妻に先立たれ
  子どもたちにも見捨てられてから
  淋しさのあまり子どもの誘拐をくり返した
大家さん「続いて”お母さん”」
お母さん「よ、よろしくお願いしますっ」
  夫は浮気し家を出ていき
  残った娘からは嫌がらせの日々で
  自傷をくり返していた
大家さん「次は”お兄ちゃん”」
お兄ちゃん「いやぁ、家族ができるなんて嬉しいなぁ~」
  天涯孤独な身の上で
  あらゆる非行をひと通り経験した
大家さん「さらに”お姉ちゃん”」
お姉ちゃん「ど、どうも・・・」
  毒親に育てられ
  両親から何度も殺されかけた
大家さん「最後に”僕ちゃん”」
僕ちゃん「不束者ですが、よろしくお願いします」
  犯罪をくり返す両親をとめるために
  やむなく殺害してしまった
大家さん「以上のメンバーで、とりあえず1年間ここで暮らしていただきます」
大家さん「なぜここに来ることになったのか」
大家さん「あるいは自分の名前さえ、特に必要がなければ明かさなくて結構です」
大家さん「ただ、全員が心に負った傷を癒やすためにここにいることを忘れずに」
大家さん「この家の中にいるあいだだけは、どうか”家族”としてふるまってください」
大家さん「元は他人である夫婦や、人間ですらないペットですら家族になれるのですから」
大家さん「あなたがたもきっと本当の家族に──」
大家さん「互いに”心の拠り所”になれると、私は信じています」
大家さん「──ここまでで、なにか質問は?」
僕ちゃん「はい」
大家さん「どうぞ、僕ちゃん」
僕ちゃん「先程、家族ごっこは家の中だけでいいと仰いましたが」
僕ちゃん「言い換えれば、外では家族の振りをしなくてよいということでしょうか?」
大家さん「そうですね」
大家さん「ここがあくまで”シェアハウス”だということは、ご近所のみなさんもご存じですから」
大家さん「外でまで無理に演じることはありません」
大家さん「いずれは自然に家族としてふるまえるようになると、私は嬉しいですが」
僕ちゃん「そうですか・・・善処はします」
大家さん「他には?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
大家さん「特にないようですので、ここからは家族の時間にしましょう」
大家さん「一緒に暮らしていくために必要なルールなどを、みなさんで話し合って決めてくださいね」

〇明るいリビング
僕ちゃん「・・・誰も仕切らないなら、僕が仕切りますけどいいですか?」
お父さん「い、いや、それはさすがに・・・」
お父さん「ここは一応父親として、わしが仕切ろう」
お母さん「そうですね、ご負担でなければお願いします」
僕ちゃん「助かります」
お父さん「まずは・・・そうだな」
お父さん「みんながいつ家にいるのかわかったほうが、”母さん”が動きやすいか」
お母さん「そうですね、食事の準備もありますし」
お兄ちゃん「えっ、ご飯つくってもらえんの!?」
お兄ちゃん「超ラッキーじゃん」
お姉ちゃん「親がいれば、普通は用意してくれるんだもんね・・・」
僕ちゃん「なるほど、どうやら僕の両親も普通ではなかったようで」
お母さん「あらまあ・・・」
お母さん「用意したものを食べてもらえるなら、私も一生懸命つくりますよ」
お父さん「じゃあとりあえず順番に、普段なにをしているか言っていくか」
お父さん「わしは近くの鉄工所で働いておるから、朝早めに出て夕方帰ってくる感じだな」
お母さん「私はスーパーのレジ打ちのパートをしています」
お母さん「シフト制だから日によって時間が違うけど、朝夕のご飯はつくれるようにしますから安心してください」
お兄ちゃん「俺は・・・」
お兄ちゃん「実は今ニートなんだけど、明日からバイトでも探しに行ってくるっす」
お兄ちゃん(・・・・・・)

〇コンビニのレジ
  うちで働きたいだって?
  前科モンなんか雇えないよ
  どうせなにか盗む気なんだろ?
  どうせ
  俺を信じてくれる人は
  どこにもいない──

〇明るいリビング
お兄ちゃん「・・・・・・」
お母さん「あら、どうかした? ”お兄ちゃん”」
お兄ちゃん「いえ・・・」
お父さん「もし仕事が決まるまでに小遣いが必要なら、うちの工場にくればいいさ」
お父さん「雑用ぐらいならさせてやれる」
お兄ちゃん「・・・えっ?」
お兄ちゃん「い、行っていいんすか!?」
お兄ちゃん「俺、いわゆる”前科者”なんすけど・・・」
お父さん「わしもそうだから気にするな」
お兄ちゃん「お、お父さぁぁああん!!」
お父さん「抱きつくな!」
(前科者なんだ・・・)
お姉ちゃん「ちなみにあたしは高校生で、近くの立符高校にかよってます」
お母さん「部活とかやっているのかしら?」
お姉ちゃん「ええと・・・」
お姉ちゃん「サ、サバイバル部に入っていました」
お姉ちゃん「いつ家から放り出されてもいいようにって・・・」
「・・・・・・」
お母さん「じゃあこれからは好きな部に入れますね!」
お母さん「遅くなりそうなときは連絡ください」
お姉ちゃん「わ、わかりました!」
僕ちゃん「僕はしがない小学生ですし、まだ部活に参加できない学年ですので問題ありませんね」
お母さん「この辺だと、立符小学校?」
僕ちゃん「そうです」
お母さん「じゃあ給食があるわね」
お母さん「他のみんなは、お昼をどうしているのか教えてもらえますか?」
お母さん「必要であれば、お弁当もつくりますよ!」
お兄ちゃん「ハイハイ俺欲しいっす~!」
お父さん「わしも今までは味気ないコンビニ弁当ばかりだったから、つくってもらえるなら嬉しいが・・・」
お父さん「なんだか”母さん”だけ負担が大きすぎないか?」
お母さん「あら、そう思ってくださるなら、みなさん家事を手伝ってもらえると嬉しいです」
僕ちゃん「当然です」
僕ちゃん「ここはシェアハウスなのですから、共用部分は全員で管理すべきですし」
お父さん「・・・それは違うだろ、”僕ちゃん”」
お父さん「”家族”なら、本来協力するのはあたりまえのことなんだ」
僕ちゃん「そう・・・でしたね」
お母さん「まあまあ、まだみんな慣れていないでしょうから、徐々にで大丈夫ですよ」
お母さん「それより、”お姉ちゃん”はお弁当いりますか?」
お姉ちゃん「お弁当・・・」
お姉ちゃん(・・・・・・)

〇教室
  お母さんがお弁当をつくってくれるなんて、初めてだ・・・
  ・・・う・・・ぐぇ・・・っ
  どうせ
  すべての行動は
  あたしを殺すため──

〇明るいリビング
お姉ちゃん(・・・ううん、ダメよ)
お姉ちゃん(みんなは前の家族とは違うんだから・・・まずは自分から、信じてみないと!)
お母さん「”お姉ちゃん”?」
お姉ちゃん「あ、すみませんっ」
お姉ちゃん「お弁当、お願いします!!」
お母さん「ふふ、わかりました」
お母さん「じゃあみなさん、明日から楽しみにしていてくださいね」
僕ちゃん「・・・・・・」
お母さん「あ、”僕ちゃん”にはおやつを用意しておいてあげますからね!」
僕ちゃん「べ、別に嬉しくはないですがっ」
僕ちゃん「ありがとう、ございます・・・」
お父さん「家事の分担はどうする? 今のうちに決めておくか?」
お母さん「そうですね、とりあえず自分ができそうなものを言ってもらえれば・・・」
僕ちゃん「僕が適切に役目を割り振りますよ。そういうの、得意ですから」
お母さん「じゃあ決めちゃいましょうか」
  ──1時間後──
お父さん「これでさしあたり必要そうなことは大体決まったか」
お母さん「そうですね」
僕ちゃん「・・・最後に僕から、ひとついいですか?」
お父さん「なんだ?」
僕ちゃん「・・・・・・」

〇高級マンションの一室
  また簡単に騙せたぜ! 俺たち天才かもな
  違うわ、あいつらがバカなのよ
  これでまたしばらく豪遊できるぞ
  でも、もしかしたら見られたかも・・・
  なぁに、殺せばいいだけさ
  どうせ
  僕の言うことなんて
  誰も聞いてくれない──

〇明るいリビング
僕ちゃん(でも僕は、もう諦めたくない・・・!)
僕ちゃん「僕らは”家族”になったんだから、お願いだから犯罪とか絶対やめてくださいね」
僕ちゃん「特に前科持ちのふたり!」
「はい・・・」
僕ちゃん(もちろん僕自身も、だけど)
お兄ちゃん「じゃあ俺からもひとついいっすか?」
お兄ちゃん「”家族”になったんだから──」
お兄ちゃん「みんな、明日から敬語やめましょうね🧡」

〇明るいリビング
  ──翌朝──
お母さん(お弁当はばっちりできた!)
お母さん(けど、渡すのはやっぱり少し怖いな・・・)

〇アパートのダイニング
  弁当なんかいらないってば!
  どうせ
  用意したものはすべて
  捨てられて──

〇明るいリビング
お母さん(・・・ううん、きっと大丈夫よ)
お母さん(昨日はみんな、欲しがってくれたもの)
お父さん「”母さん”、そろそろ仕事に出る」
お母さん「あ、はいっ、じゃあこれ」
お父さん「ああ、ありがとうな」
お母さん(ほっ)
お父さん「・・・・・・」
お父さん「ちょっと、変なことを聞いていいか?」
お母さん「な、なんでしょう?」
お父さん「みんなは今日、ちゃんと家に帰ってくるんだよな・・・?」

〇和室
  なんで誰もいないんだ・・・
  誰も・・・
  どうせ
  わしは最期まで独りで──

〇明るいリビング
お母さん「なに言ってるんですか」
お母さん「帰ってくるに決まってるじゃないですか!」
お父さん「そうか・・・」
お父さん「そうだよな・・・」
僕ちゃん「”お母さん”、敬語出てますよ」
「わぁっ!?」
  こうして始まった
  新しい”家族”の物語
  はたしてどんな日々が
  待っているのだろうか──?

コメント

  • みんなそれぞれがとてつもないトラウマを抱えていて、それをきっとこれからも、色んな場面で思い出しながら、乗り越えていくのかなぁと思えました✨

    重い話と現状の明るい話のミックスになり、重い話のみだと苦くて飲めないとしても、このお話の進め方なら、読み進めていけそうと感じました✨

    みんなに幸せになって欲しいですね✨😊🌸

  • ライトな入りで始まる咲村作品は、実はだいたい重いんや……(
    くっ、導入部なんて酷い!続きは課金ですか?この疑似家族がどうなるのか私、気になります!

  • 5人それぞれから、不安感とぎこちなさが感じられて、見ていてドキドキしました。この”家族”もですが、実際の家族も、信頼と思いやりが大切なのだと再確認させてくれるステキな物語ですね。

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