〇黒背景
蝶子「どうも」
蝶子「座敷童子です」
蝶子「本名はチョウピラコ」
蝶子「ある家に住み着いてからは「蝶子」と呼ばれています」
蝶子「皆さんご存じの通り、座敷童子は住み着いた家に幸福をもたらします」
蝶子「昔から引く手あまたで、それはもう重宝がられてきたものです」
蝶子「おらがひとたび住み着こうものなら」
蝶子「ほれ！」
蝶子「おりゃ！」
蝶子「ぱんぱかぱーん！」
蝶子「てな具合に、実に様々な幸福がその家には訪れるのです」
蝶子「ところが」
蝶子「そんな座敷童子の有難みがちっともわからない家族も」
蝶子「世の中にはいるのです・・・」

〇屋敷の門
「アホかー!!」

〇広い和室
蝶子「ホンマにええ加減にせえよお前ら」
蝶子「マヨヒガちゅうのはそんなんとちゃうねん」
水上晴香「何がよ！ ちゃんとやってんじゃない人助け」
蝶子「あれのどこが人助けじゃ！ 本気で言うてんのか？」
水上朝香「晴香ちゃんは喋りが下手なの～」
蝶子「お前は何も喋ってへんやないか！」
水上夕夏「要するに人に対する愛情が足りていないのよ」
蝶子「絵に描いたような非情な顔してどの口で言うとんねん」
水上儀介「まぁまぁ」
水上儀介「皆、マヨヒガというものをもっとよく理解すべきだぞ」
蝶子「お前が一番理解してへんのじゃ！」
水上儀介「え!?」
水上儀介「・・・蝶子？ 蝶子がいない！」
蝶子「おい・・・」
水上儀介「蝶子、どこへ行った～」
蝶子「都合悪くなると見えないフリするのやめえ」
水上儀介「あ、いた」
蝶子「シバくぞ」

〇広い和室
蝶子「ええか？ マヨヒガ言うんはなぁ」
蝶子「いわゆる「迷い家」 訪れたものに幸福を与えるんや」
水上晴香「この水上家が幸福をもたらすってわけね！」
蝶子「ただし、誰もがたどりつくわけやない幻の家なんや」
水上朝香「この家に蝶子ちゃんみたいな力があるんだね～」
蝶子「その通りや！」
水上夕夏「でも、あなたがいるのに必要あるかしら？」
蝶子「約束したはずやで」
蝶子「おらが水上家に留まる条件として、この家はマヨヒガとなる」
蝶子「今まで得てきた幸福を少しずつ他人に譲り渡すんや」
水上夕夏「さもないと、蝶子がこの家を去った途端これまで幸福だった反動が押し寄せる・・・」
蝶子「そういうこっちゃ」
蝶子「違えれば途端に水上家は崩れ去るで」
蝶子「おらはすぐにでも水上家を去りたいんや」
蝶子「それを忘れるんやないで儀介！」
水上儀介「ちょ、蝶子が見えない！」
蝶子「もうええわ！」

〇屋敷の大広間
蝶子「ほらほらほらほら！」
蝶子「言わんこっちゃない ええんか？」
蝶子「崩れていくよ～？ 水上家亡んじゃうよ～？」
水上儀介「皆、落ち着け！ 大丈夫、水上家には座敷童子がついている」
蝶子「お前、話聞いとったんか？」
蝶子「この家がマヨヒガとしてしっかり機能せん限り崩落は続くで」
水上晴香「要するに、蝶子の「アホかー!!」の数だけ気にしておけばいいのよ」
蝶子「「いいね！」の数みたいに言うな」
水上朝香「は～い、蝶子ちゃんフォローしました」
蝶子「お前はガキやからシバかれへんと思うなよ」
水上朝香「まったまた～」
蝶子「まったまた～ってなんやねん」

〇風流な庭園
蝶子「ほな、しゃあない」
蝶子「今から、マヨヒガの住人として練習すんで！」
水上朝香「練習？」
蝶子「シミュレーションや、シミュレーション」
蝶子「危ないから庭に出てやるで！ おらってホンマに優しいわ」
蝶子「よっしゃ、夕夏おいで！」
水上夕夏「や、やったろうじゃない」

〇風流な庭園
蝶子　酔っ払いバージョン「す、すんまへん」
蝶子　酔っ払いバージョン「気が付いたら、いつの間にかこの家にいて・・・」
水上夕夏「それは、お困りでしょう」
水上夕夏「今、タクシーを呼びますね」
蝶子　酔っ払いバージョン「えろうすんまへん」
蝶子　酔っ払いバージョン「北千住で乗り換えて階段ぎょうさん上ったとこまでは覚えてまんねんけど」
蝶子　酔っ払いバージョン「って、アホかー!!」

〇風流な庭園
蝶子「たどり着いた人間をマヨヒガがソッコーで帰してどないすんねん」
水上夕夏「素早い対応は喜ばれるわよ」
蝶子「マヨヒガにタクシー呼ぶな！」
蝶子「次！」

〇風流な庭園
蝶子　老婆バージョン「ここはなんて不思議な家なのでしょう」
蝶子　老婆バージョン「見えない力で体が引っ張られるんです」
水上晴香「では、いい病院をご紹介しましょう」
水上晴香「水上家御用達の大病院ですので、きっとすぐ直りますよ」
蝶子　老婆バージョン「おお、ついでに持病のリウマチも診てもらいましょうかね」
蝶子　老婆バージョン「って、アホかー!!」

〇風流な庭園
蝶子「人が神秘的な話をしとんのに、リアルな超高齢化社会に引き戻したんなよ！」
水上晴香「身体を労わってあげているのに、文句を言われる筋合いはないわ」
蝶子「いや、身体が悪いわけじゃないのよ」
蝶子「マヨヒガの話はただでさえ「この人大丈夫？」て思われんねん」
蝶子「下手に病人扱いしたら怒られますよ」
蝶子「次！」

〇風流な庭園
蝶子　喪服バージョン「娘を亡くしたばかりで、毎日悲しみにくれております」
蝶子　喪服バージョン「そんある日、導かれるようにこの家にたどり着きました」
水上朝香「娘さんに会いたいんだね～」
蝶子　喪服バージョン「もう一度会うことができるでしょうか!?」
水上朝香「朝香が娘さんのいる場所に逝かせてあげるよ」
蝶子　喪服バージョン「こわっ!!」

〇風流な庭園
蝶子「幸福をもたらせって言うとるやろ！」
水上朝香「願いをかなえてあげたの～」
蝶子「主旨はおうとるけど命を奪うな！」
水上朝香「惜しい！」
蝶子「惜しくない」
蝶子「妖怪を怖がらすなよ、ったく・・・」
蝶子「次！」
水上儀介「皆、精進が足らんぞ！ わしが見本をみせてやろう」
水上儀介「さぁ、蝶子！ 始めようか」
蝶子「お前はええわ」
水上儀介「え!?」

〇広い和室
蝶子「かくなるうえはしゃあないな」
蝶子「おらを気にせず水上家４人だけで一度話し合うてみ」
水上晴香「私は最初のフィーリングが何より大切だと思うの」
水上夕夏「そうね、色々考えても時間が無駄なだけだわ」
水上朝香「朝香はたくさん待つの好き～」
水上夕夏「ちょっと、それじゃ筋が通らないわ」
水上晴香「でも、お父様みたいにずっと黙っているのは卑怯よ」
水上儀介「何を言う それも一つの方法だよ」
蝶子「ほほう」
蝶子（なかなかどうして しっかり家族で話し合うとるやないか）
水上晴香「それよ！」
水上晴香「ロン！」
水上朝香「朝香も当ったり～」
水上儀介「うがあ!!」
水上晴香「親の倍満は24000！」
水上夕夏「お父様、今の振り込みで飛びですわ」
水上儀介「とほほ」
蝶子「麻雀すなー!!」

〇屋敷の門

〇広い和室
水上晴香「誰か来たわ！」
蝶子「マヨヒビトや！」
水上儀介「よし！任せろ」
蝶子「お前は行くな」
蝶子「夕夏！練習の成果見せてみいや」
水上夕夏「ええ、のぞむところよ」
水上夕夏「行ってくるわ！」
水上晴香「頑張って、姉さん！」
水上夕夏「任せなさい」
蝶子「なんだかんだ言ってもさすがは長女、落ち着いとる」
蝶子「何も言うことはないわ 頼んだで」
水上夕夏「ふっ、終わったわよ」
水上晴香「姉さん、やったのね！」
蝶子「マヨヒビトは？」
水上夕夏「帰ったわよ」
蝶子「帰った？」
水上夕夏「晩御飯前だからって言って丁重にお帰り頂きました」
蝶子「・・・さよか」
水上夕夏「?」
蝶子「ってどアホー!!（最上級）」

〇屋敷の門