家族愛も有料ですか?(脚本)
〇一戸建て
とある平日の朝──
〇二人部屋
ジロー(どうすっかなぁ)
ミナ「お兄ちゃん、どうしたの? この世の終わりみたいな顔して」
ジロー「もうすぐ『ガッタムロボ』の 新作ゲームの発売日なんだ」
ジロー「なのに今、残高0円なんだよ!」
ミナ「絶望的だね」
ミナ「おこづかいもらったばっかりなのに どうやったら0になるの?」
ミナ「ママたちに『頼み事』しても もう少し残るはずでしょ?」
ジロー「こないだ母ちゃんに 忘れ物を届けてもらったら 罰で5000円引かれたんだよ!」
ミナ「うわぁ」
ジロー「あとは雑巾2枚縫ってもらったら消えたな」
ミナ「今の時期はお金かかるよね」
ミナ「稼ぐ方法かぁ・・・ テストで満点とってボーナスを狙うとか」
ジロー「オレが満点なんてとれると思うか?」
ミナ「・・・」
ジロー「黙るのはやめろ」
ジロー「次におこづかいがもらえる日は ゲームの発売日のずっと後だし、 いい方法ねーかな」
ジロー「そうだ、ミナ!」
ジロー「5円やるから今日の新聞回収 代わってくれ!」
ジロー「何もしないで5円手に入るんだから 悪い話じゃないだろ?」
ミナ「確かにオイシイけど、たった5円じゃ お兄ちゃんの状況は何も変わらないでしょ」
ジロー「塵も積もれば山となる! 5円を笑うヤツは5円に泣くんだよ!」
ジロー「頼む! どうしても金が必要なんだ!」
ミナ「それ小学3年生のセリフじゃないよ」
ミナ「はぁ・・・しょうがないなぁ」
〇明るいリビング
ジロー「おはよー、父ちゃん! 新聞とってきたぞ!」
大治「今日はジローが担当なのか」
大治「ご苦労さま。ほら10円」
ジロー「サンキュー!」
ジロー(ミナに払った分を引いて これで5円のもうけ・・・っと)
ジロー(さて、次はどうやって稼ごうかな)
???「ギャワ~~!! 寝坊した!!」
大治「あぁ、やっとイチカが起きたみたいだ」
ジロー(そういや、ねーちゃん昨日・・・)
ジロー(へへっ、いいこと思いついたぜ!)
〇シンプルな玄関
イチカ「あっ、お弁当持ってかなきゃ!!」
イチカ「ママ―、お弁当はー!?」
カナコ「できてるわよ。 さっきジローに渡したけど」
イチカ「ジローに? ・・・ヤな予感」
ジロー「ん、ねーちゃん」
イチカ「き、気が利くじゃない・・・」
イチカ「・・・で、いくら?」
ジロー「1500円になりまーっす」
イチカ「高っ!!!!」
イチカ「えっ!? なんで!? いつもは300円じゃん!」
イチカ「内訳どうなってんの!?」
カナコ「まず、ママから説明するわね」
カナコ「あんた、昨日の夜遅くになって 「あ、明日は給食ない日だった」とか 言い出したでしょ?」
カナコ「確かに、いつもは300円で お弁当作りを引き受けてるけど」
カナコ「今回は特急料金としてプラス200円で、 500円にしておいたわ」
ジロー「んで、ママの代わりに玄関まで 弁当を運んだオレの手間賃で 1000円のってるぜ」
イチカ「いやいやいやいや!!」
イチカ「特急料金はしょうがないけど 運んだだけで1000円!? ぼったくりじゃん!」
イチカ「てか、結局ママも玄関まで来てるし!! ママが持って来てくれたらよくない!?」
ジロー「ふーん・・・じゃあこの弁当は いらねーんだな?」
カナコ「残念~! 今日はイチカの大好きな ママ特製の唐揚げなのに~」
イチカ「ううう・・・」
イチカ「・・・は、払います! 払えばいいんでしょ!」
ジロー「まいどあり~」
イチカ「とほほ・・・チョー高くついた」
カナコ「これに懲りたら、お弁当の日は 早めにママに伝えることね」
ジロー「オレは何回でも運んでやるぞ? 1000円で」
イチカ「その手数料が一番納得できてないから!」
大治「ジローは商売上手だな」
大治「ところで2人とも、時間はいいのか?」
「え?」
大治「学校」
「そうだった!!」
「行ってきまーす!!」
ミナ(お兄ちゃんもお姉ちゃんも 子どもっぽくて呆れちゃう)
ミナ(わたしのほうがよっぽど大人だよね)
ミナ「行ってきまーす」
大治「行ってらっしゃい」
カナコ「じゃ、私たちも行きましょうか」
〇一戸建て
静江「金成さんのお宅は いつも賑やかでいいわねぇ」
カナコ「おはようございます、静江さん」
大治「今日も騒がしくて、すみません」
静江「いいのいいの。散歩がてら毎日 楽しく聞かせてもらってるわよ」
静江「家族でもお金でやりとりするっていうの アタシは全然アリだと思うのよ」
静江「だってウチの息子たちときたら ごはんを作ってあげても 洗濯してあげても、」
静江「『やってもらって当然』 みたいな態度なんだもの」
静江「・・・あ、引き留めちゃって ごめんなさいね」
静江「お仕事頑張ってきてちょうだい」
〇空
〇空
〇明るいリビング
その日の夕方──
ジロー「うりゃっ! ていっ! ガッタムロボ、ここで必殺技だー!」
イチカ「たっだいまー」
イチカ「あんた、またゲームしてんの?」
ジロー「おう。もうすぐ新作が出るから 内容を復習しとかねーと」
イチカ(勉強もこれくらい熱心にやれば ママも喜ぶのに・・・)
イチカ「あれ、ミナは?」
イチカ「あんたがゲームしてると 「もっと静かにやって!」って 注意しに来るじゃない」
ジロー「・・・そういやアイツ、見てねえな」
イチカ「いつもなら、もうとっくに 帰ってる時間なのに。 どうしたんだろ・・・」
――ピンポンピンポーン
???「あんたたち、大変だよ!!」
イチカ「あの声・・・ 静江おばあちゃん?」
〇シンプルな玄関
イチカ「そんなに慌ててどーしたの?」
静江「ミ、ミナちゃんが・・・!」
〇土手
ミナ「た、助けて・・・!!」
〇川沿いの原っぱ
ジロー「ミナ!?」
静江「アタシが買い物帰りに見つけたときより だいぶ流されてるよ・・・」
静江「今はなんとか中州の端に生えてる 木にしがみついてるみたいだね」
静江「さっきイチカちゃんが 大人を呼びに行ってくれたから、」
静江「あんたは、助けがくるまで ミナちゃんを勇気づけてあげておくれ!」
ミナ「ううっ・・・」
ミナ「もう、ダメだよぉ・・・!」
ジロー「・・・っ!」
静江「待ちな、ジローちゃん! 何する気だい!?」
力尽きたミナが木から手を離した瞬間、
ジローが川に飛び込んだ!
ジロー「ミナ・・・待ってろ!」
30分後──
静江「2人とも無事でよかったよ。 でも、まさか・・・」
静江「あんなに浅い川だったとはねぇ」
イチカ「ホントホント! ジローが飛び込んだって聞いて マジ焦ったけどね」
近所のおじさん「釣りをする人くらいしか知らないけど、 このあたりだけ浅瀬になってるんだよ」
近所のおじさん「2人は本当に運がよかったね」
ジロー「でも、ミナ。 なんで川なんかにいたんだ?」
ミナ「それは・・・ 川にすんでる魚を調べる宿題が出て」
イチカ「それさ、大人と一緒にしなさいって 先生言ってなかった?」
ミナ「・・・」
ミナ「・・・大丈夫だと思ったんだもん」
静江「まあまあ・・・ ミナちゃんも反省してるだろうし、 お説教は家に帰ってからにしなさいな」
ミナ「あの・・・お兄ちゃん」
ジロー「ん? なんだよ」
ミナ「助けてくれたから、お礼に お金渡したいんだけど・・・」
ミナ「川に落ちたときに 全部流されちゃったみたいなの」
ミナ「ゲーム買いたいのはわかってるけど・・・」
ミナ「次のおこづかいの日まで待ってくれない?」
ジロー「・・・」
ジロー「バーカ」
ジロー「妹を助けんのに、金なんかいらねーよ!」
ミナ「え・・・」
静江「ミナちゃん、こういうときはね 『ありがとう』って言えばいいんだよ」
ミナ「・・・」
ミナ「ありがと、お兄ちゃん」
ジロー「・・・おう」
イチカ「ジロー、いいとこあるじゃん。 ちょっとだけ見直したかも」
ジロー「う、うるせーな」
ジロー「アニメ版『ガッタムロボ』の中に 妹を助ける話があって、 そのセリフを真似しただけだし!」
イチカ「ふーん?」
近所のおじさん「うちの息子も『ガッタムロボ』が好きで 僕も一緒に見てるけど・・・ 主人公に妹なんていたかなぁ?」
ジロー「お、おじさんが忘れてるだけだろ!」
ミナ「・・・」
〇一戸建て
その日の夜──
〇明るいリビング
大治「そんなことがあったのか・・・」
カナコ「ミナもジローも無事でよかったわ」
ジロー「ま、オレにかかりゃ これくらいどーってことないって」
カナコ「何言ってるの! もう二度とこんなことしちゃダメよ!!」
ジロー「わ、わかったよ」
ジロー「でもさー・・・」
ジロー「オレいいことしたわけだし ボーナスくれない?」
大治「そうだな・・・ いいんじゃないか、ママ」
ジロー(よーし、発売日に間に合うかも!)
カナコ「無茶して心配かけたんだから、 ボーナスなんて無いに決まってるでしょ!」
大治「う、うん、そうだな。 ママの言う通り!」
ジロー「父ちゃ~~ん!?」
大治「すまん、ジロー・・・ ママには逆らえない」
ミナ「あの・・・ママ」
カナコ「なぁに、ミナ」
ミナ「わたしからもお願い」
ミナ「お兄ちゃん、わたしのために すごく頑張ってくれたから ボーナスあげてほしい」
ジロー「ミナ・・・」
カナコ「・・・ミナがそこまで言うなら 考えておくわ」
ジロー「オッシャー!!」
イチカ「え~、ずる~い!」
イチカ「あたしだって、おじさんを呼びに チョー走ったのに!」
ジロー「オレは命がけでミナを助けたんだから 当然だろ?」
イチカ「そうだけど~!」
ミナ「ふふっ」
〇空
お金より大事なものがあると
気づきかけたものの──
やっぱりビジネスライクな
金成家であった
家庭内の行動をすべて金銭に換算する一家のドタバタ、楽しく拝読しました。ママより弱いパパ頑張れ。リアル社会では「経済観念がある」ことと「拝金主義者」とは別物であることを親が子どもにしっかり教えないとですね。
ビジネスライクながらも愛情溢れる金成家、楽しいですねー!「無償の愛」という言葉がありますが、「有償の愛」だってあってもいいかもっと思ってしまいましたね。子供達が恋愛や結婚をしたとき、相手と「価値観の相違」がすぐ生じそうな気がしますがw
家族の中でくらい無償の愛を感じたいと思う反面、自分がこの家の子供だったらきっと頭フル回転で稼ぎに行くだろうなと思いました(笑)お手伝いとお小遣いの最終形態みたいなところは、実際やってみると面白いかもですね!