シンガポールはいいところ(脚本)
〇屋敷の大広間
多聞 桃「もう学校に行く時間なのに‥」
多聞 蜜柑「じい様の話は何だろうね?」
多聞 草「とりあえず先に着替えない? 遅刻しちゃうよ?」
多聞三十五「ドローン!」
多聞三十五「いやいや、待たせてすまなかったな」
多聞 桃「じい様!」
多聞 蜜柑「じい様!」
多聞 草「じい様!」
多聞三十五「さて、桃、蜜柑、草よ、お前達にもそろそろ我が家の正業である、忍者としての生き様を伝えて行こうと思う」
多聞 桃「はい!」
多聞三十五「いいか!わが多聞家は日本国内に現存する最後の忍者の末裔じゃ!」
多聞 蜜柑「じい様!日本には他にも忍者がいるはずですが!」
多聞三十五「うむ、確かに!」
多聞三十五「しかし、わし言っているのは、実際の命をかける忍びの稼業‥」
多聞三十五「忍者としての活動! 略して忍活を行っている忍者の事じゃ!」
多聞 蜜柑「じい様、妊活とはいかに?」
多聞三十五「蜜柑よ、字が違うぞ!そちらの字では世のご夫婦方が日夜励んでいる行いになってしまう」
多聞 桃「じい様!では任活でありますか?」
多聞三十五「桃よ、それでは任侠活動、いわゆるヤクザ関連になってしまう」
多聞 草「じい様!じゃあ認活ですね!」
多聞三十五「じゃあ‥?」
多聞三十五「それに草よ、認活とは何をする活動なのだ?」
多聞 草「認活、それは世間に認めてもらうための活動です!」
多聞 草「承認欲求を満たすために行われる、たいして面白くも無く、再生数も低いユーチューバー活動という事になりますね!」
多聞三十五「‥‥」
多聞三十五「とりあえず、お前の毒のある発想を置いておくとして‥」
多聞三十五「草よ!再生数が低いからと言って面白く無いわけではないぞ!」
多聞 草「じい様!それはじい様のチャンネル「忍じいちゃんのニンニン日記」の事を言っているのですか?」
多聞三十五「そうじゃ! わしのチャンネルでは常に面白い動画を発信しておる‥」
多聞三十五「だが!今だ世間に知れ渡っておらんため、残念ながら再生数が伸びていないのだ!」
多聞 草「じい様!その動画ですが!」
多聞三十五「なんじゃ?草よ?」
多聞 草「この前の動画「超超超大盛ペヤングを3日間で食べてみた」を見ました!」
多聞三十五「おう、そうか!あれは中々の苦心作でな、さすがのわしも満腹じゃったぞ!」
多聞 草「じい様!あれを3日で食べたなら、 それはただの食事です!」
多聞三十五「何と!?」
多聞 桃「しかも少食です!」
多聞三十五「なっ?」
多聞 蜜柑「乙女の胃袋です!」
多聞三十五「くっ‥」
多聞三十五「お前ら、わしの努力を好き放題言いおって‥」
多聞 桃「じい様!にっかつが1960年代にヤクザ映画を制作していました!」
多聞三十五「なんじゃ、急に! だからなんだ?」
多聞 桃「にっかつ にっかつ につかつ にんかつ 任活!」
多聞三十五「‥‥」
多聞三十五「お前は10歳じゃろ!? 1960年代のことなど知らんじゃろ!」
多聞 桃「知りません!」
多聞三十五「その頃ではお前が生まれてないどころか、お前の父母も生まれておらん」
多聞 桃「じい様は?」
多聞三十五「わしは1962年生まれじゃからな‥」
多聞三十五「だからちょうどその頃は、わしの父母がまさに日夜励んでおった‥」
多聞 蜜柑「じい様!妊活ですね!」
多聞三十五「うむ!まさにじゃ!」
多聞三十五「思わぬところで繋がったのう」
多聞 蜜柑「妊活!」
多聞 桃「任活!」
多聞 草「じい様!認活はどうしたらいいですか?」
多聞三十五「いや、特にどうもせんでよいぞ」
多聞 草「では、じい様のチャンネルでもっとも再生数の低い動画!」
多聞 草「「金賞のからあげを買って食べてみた!」について話したらいいですか?」
多聞三十五「むむむ‥」
多聞三十五「確かにあれは再生数が低い‥」
多聞 草「そもそも、なぜ老人がからあげを食べるだけの動画に世間が興味を示すと思われたんですか?」
多聞三十五「‥‥」
多聞 草「じい様は動画を大衆へ認知させるために必要な、ターゲットと訴求に対する知識が甘すぎます!」
多聞三十五「だが!からあげは揚げたてで美味かったんじゃぞ!」
多聞 桃「じい様!揚げたてのからあげはみんな美味しいです!」
多聞三十五「なに!」
多聞 草「それに世間には金賞をとった唐揚げが多すぎます!」
多聞 蜜柑「ここ数年、以上に多い!」
多聞 桃「銀賞と銅賞はいずこへ!?」
多聞三十五「知らん!」
多聞 草「いいですか、じい様! まずは大衆のニーズを掘り下げ!」
多聞 蜜柑「巧みなキャッチコピーで購買意欲を煽り!」
多聞 桃「さらに、法律の隙間をくぐる狡猾な販売手段を使って!」
多聞三十五「待て待て待て!」
多聞三十五「お前らはなぜわしにガチの説教をしておるのじゃ!」
多聞三十五「それと桃よ、いろいろとアウトじゃぞ!」
多聞三十五「ならば、わしからも言わせてもらおう!お前たち!その髪の色は何だ!小学生としてあるまじきじゃぞ!」
多聞 桃「じい様!今は髪の毛をピンク色にしとけば何とかなるんです!」
多聞 蜜柑「じい様!オレンジ色の髪の毛も、割とそんな感じです!」
多聞 蜜柑「ほら、海賊とかで、露出多めの服着てて‥」
多聞三十五「蜜柑よ、強気に言う割には主張が弱いな‥」
多聞三十五「草よ!お前の緑髪もそんな感じか?」
多聞 草「じい様!緑髪って言われるとミドリガメみたいで何か嫌です」
多聞三十五「ややこしいな、お前は‥」
多聞 草「じい様!それに私には疑問があります!」
多聞三十五「うん?なんじゃ?」
多聞 草「桃、蜜柑と来て、 なぜ私の名前が草なんですか?」
多聞三十五「それはわしに聞かれても‥」
多聞 草「他の二人は果物なのに、なぜ私は植物の総称のような名前をつけられたんでしょうか?」
多聞三十五「いや、それはお前の母親が付けた事だから‥」
多聞 草「母様が?じゃあ、母様に聞いてみます! 母様はどこですか?」
多聞 桃「草、母様はシンガポールにいるって連絡があったわ」
多聞三十五「桃よ、あいつは市役所で働いているはず、なぜ海外に?」
多聞 蜜柑「母様はもうじき同級会があるので、そのためにシンガポールいると言ってました!」
多聞三十五「蜜柑よ、あいつは日本の学校にしか行っていないはずじゃが‥」
多聞 蜜柑「それは同級会の日、日本の友人へ‥」
〇船着き場
多聞 藍「ごめん、同級会にはいけません いま、シンガポールにいます」
〇屋敷の大広間
多聞 蜜柑「って連絡したいからだって言ってました!」
多聞三十五「‥‥」
多聞 草「じい様!なぜ!なぜ! 私は果物の名前じゃないのですか?」
多聞三十五「草よ!見事なタイミングでの再質問じゃ!」
多聞三十五「あのままシンガポールネタで進むと、ちと面倒じゃからな!」
多聞 草「じい様!私はメロンやマスカットがいいです!」
多聞三十五「草よ!名前がメロンやマスカットでは、 どう考えても源氏名としか思えんじゃろ!」
多聞 草「じゃあ、せめて西瓜とか?」
多聞三十五「西瓜は割と中身の赤のイメージが強いからな、緑色に適しておらんかもしれん」
多聞 草「だけど私も二つに割ると、中身は真っ赤な血肉がびっしりと!」
多聞三十五「草よ!表現としてグロい!」
多聞三十五「お食事中のちびっこが聞いたらびっくりするでは無いか!」
多聞 草「ごめん!ちびっこ!」
多聞 草「だけど‥草もかわいい名前が良かったです‥」
多聞三十五「‥確かにな」
多聞三十五「そうじゃ、昔わしが聞いた、名前についての話をしてやろう」
多聞 草「はい!」
多聞三十五「昔、シンジュクと言う山の山奥に、カブキチョウという森があったそうじゃ」
多聞三十五「そこで働く女人には、魚介類の名前が付いておってな」
多聞 桃「じい様!それは国民的アニメ・サ○エさんのようなお話ですか?」
多聞三十五「もちろん、そうじゃ ほのぼのした癒し系の話じゃ」
多聞三十五「そこでは皆、それはそれは精を出して働いていたんだそうじゃ」
多聞 蜜柑「‥大丈夫かしら、いろいろと」
多聞 桃「大丈夫よ、あえて触れなければ誰も気がつかないわ」
多聞三十五「ただな、自分の名前が魚介類なのに不満を持った者もおってな‥」
多聞三十五「マグロと言う名前の娘はな‥」
〇歌舞伎町
マグロ「私、割とやれる子なのに、この名前のせいで、何にもしないタイプだと思われる」
〇屋敷の大広間
多聞三十五「と言っておった」
多聞三十五「そして、タコと言う名前の娘はな‥」
〇歌舞伎町
タコ「この名前で呼ばれると、軽くディスられてるみたいでモチベーションが下がる」
〇屋敷の大広間
多聞三十五「と言っておった」
多聞三十五「そして、イクラと言う名前の娘はな‥」
〇歌舞伎町
イクラ「とりあえず、バブーって言っとけば、軽くウケるんで、割と気に入ってるー!」
〇屋敷の大広間
多聞三十五「と言っておった‥」
多聞 桃「国民的アニメがここで!」
多聞三十五「要はな、人は皆、置かれた場所で咲けば良いという話じゃ」
多聞三十五「わかったかな?」
多聞 草「じい様!これは公序良俗に反する話ではありませんか?」
多聞 桃「下ネタ的な気配がします!」
多聞 蜜柑「いろいろと心配です!」
多聞三十五「大丈夫じゃ、これがそのように思える人間はな、己の心がびっしりと下という暗く深い闇で覆われておるのじゃ‥」
多聞三十五「だが、健全な人ならば何の問題も無い! よいか!健全な人なら問題無い!」
多聞 草「じい様!健全を何度も強調するのはやめて下さい!怪しさが増します!」
多聞 蜜柑「そしてじい様!そんな戯言はともかく!」
多聞三十五「戯言とは何じゃ!」
多聞 桃「ちなみにざれ言とたわ言、どちらも字は戯言と書きます!」
多聞三十五「うんちくはいらん!」
多聞 蜜柑「もう学校に行く時間です!」
多聞三十五「何と!これは気がつかなんだ!」
多聞三十五「よし!続きはまた明日じゃ!」
多聞三十五「気をつけて学校にいってまいれ!」
多聞 草「はい!」
多聞 蜜柑「はい!」
多聞 桃「ドロン!」
多聞三十五「うーん‥」
多聞三十五「消え方が忍者っぽく無いんじゃよな‥」
おしまい
妖怪から人間になりたくて人活に励んでいる私ですが、なかなかうまくいかないので忍活や任活も検討してみます。同窓会に出ないでシンガポールでインフラ作ってるあのCMとこんなところで再会するとは、感慨もひとしおでした。
うわー、楽しい!このやりとり、いつまでも読んでいられます!会話がお笑い要素で巧みに続いていくこの展開、たまりませんねー!
タップしながら、この3人このままずっと爺様と話していて学校に遅れてしまうんでは!とハラハラしていました。世代が違うのに、なかなか通い合っていますね。