"家族"の履修って必要?(脚本)
〇綺麗な一戸建て
〇豪華なリビングダイニング
綾瀬 圭吾(けいご)「お父さん、お母さん。 おやすみなさい」
綾瀬 誠次(せいじ)「おやすみ、圭吾」
綾瀬 環(たまき)「おやすみ」
〇一階の廊下
綾瀬 圭吾(けいご)「あ、お姉ちゃん」
綾瀬 圭吾(けいご)「って、くさっ! また飲んでるの?」
綾瀬 花梨(かりん)「飲んれないことの方が 少ないわよぉ」
綾瀬 花梨(かりん)「けーごはもう寝るの?」
綾瀬 圭吾(けいご)「うん、子供は夜更かししちゃ だめなんだ」
綾瀬 圭吾(けいご)「おやすみ、お姉ちゃん」
綾瀬 花梨(かりん)「んー。また明日ねぇ~」
〇家の廊下
綾瀬 紘(ひろ)「圭吾。もう寝るのか?」
綾瀬 圭吾(けいご)「お兄ちゃんはまだ寝ないの?」
綾瀬 紘(ひろ)「ああ、受験勉強ってやつ」
綾瀬 紘(ひろ)「早く寝れるお前が羨ましいぜ」
綾瀬 圭吾(けいご)「そう?」
綾瀬 圭吾(けいご)「本当のこと言うと、 僕もまだ眠くはないんだ」
綾瀬 圭吾(けいご)「でも、子供は夜早く寝るもの ・・・「らしい」から」
綾瀬 紘(ひろ)「まあ、そうだよな」
綾瀬 紘(ひろ)「子供には子供の。 高校生には高校生の」
綾瀬 紘(ひろ)「”タスク”ってやつがあるからな」
綾瀬 紘(ひろ)「お疲れ。また明日」
綾瀬 圭吾(けいご)「うん、おやすみ。お兄ちゃん」
〇男の子の一人部屋
綾瀬 圭吾(けいご)「・・・」
綾瀬 圭吾(けいご)「ログアウト」
〇本棚のある部屋
家族単位50、取得しました
AH051669「ふう」
AH051669「なかなか疲れるね」
AH051669「”家族”っていう世界はさ」
〇未来の都会
AH051669「西暦3720年、人類は生殖をやめた」
AH051669「人は工場で作られるようになったんだ」
〇近未来の開発室
AH051669「工場っていうと聞こえが悪いかな」
AH051669「デザインされた遺伝子を 人工子宮で培養するんだよ」
AH057069「遺伝子の組み方を変えながら 健康で、長寿の個体を生む」
AH041658「そうやって僕たちは 未来へ繋いでいくんだ」
〇渋谷の雑踏
AH051669「けど僕らが発展し続けるために」
AH051669「セントラルAIはあることが 絶対必要だという計算結果を出した」
〇豪華なリビングダイニング
AH051669「それが、VRオープンワールド『家族』」
AH051669「僕らはこの世界を 履修しなくてはならない」
〇本棚のある部屋
AH051669「でも正直、だるいよな」
セントラルAI「”家族”の履修は必要です」
セントラルAI「社会生活なしに 人類の発展はありえません」
AH051669「でもさあ、"タスク"も多いし 面倒くさいよ」
セントラルAI「諦めるのは構いませんが 家族単位を取得していないと」
セントラルAI「不適切な人類として 処分される可能性があります」
AH051669「何それ。怖っ。やるよ!」
セントラルAI「それがオススメです」
〇空
AH051669(そんなわけで、家族の 必要性もわからないまま)
AH051669(今日も僕はVR世界へダイブする)
〇綺麗な一戸建て
綾瀬 圭吾(けいご)「ただいまー」
綾瀬 環(たまき)「お帰りなさい、圭吾」
〇豪華なリビングダイニング
綾瀬 圭吾(けいご)「お父さんは?」
綾瀬 環(たまき)「まだ会社よ」
綾瀬 環(たまき)「ああ、”タスク”?」
綾瀬 圭吾(けいご)「うん。『家族と買い物』だってさ」
綾瀬 環(たまき)「私も家でやることあるから・・・」
綾瀬 環(たまき)「花梨ー! 降りてきなさーい!」
綾瀬 圭吾(けいご)「何この音」
綾瀬 花梨(かりん)「お母さん、水・・・」
綾瀬 圭吾(けいご)「お酒臭っ!」
綾瀬 環(たまき)「また飲んでたの?」
綾瀬 環(たまき)「大学は?」
綾瀬 花梨(かりん)「普通にサボった」
綾瀬 圭吾(けいご)「お姉ちゃん、大丈夫?」
綾瀬 圭吾(けいご)「僕、お父さんかお兄ちゃんが 帰ってくるまで待つよ」
綾瀬 花梨(かりん)「だい・・・じょうぶ 私も”タスク”あるの」
綾瀬 花梨(かりん)「『兄弟の面倒をみる』っていう」
綾瀬 環(たまき)「はい、お水」
綾瀬 花梨(かりん)「んぐんぐ・・・ 生き返ったぁああ」
綾瀬 花梨(かりん)「よし、圭吾。行こっか!」
綾瀬 圭吾(けいご)「急に元気だね」
綾瀬 花梨(かりん)「的確な対処さえすれば すぐ回復するのよ」
綾瀬 花梨(かりん)「VRアバターって楽よね」
〇商店街
綾瀬 花梨(かりん)「それで、買い物って?」
綾瀬 圭吾(けいご)「ハンバーグだって」
綾瀬 花梨(かりん)「じゃあ、スーパーかな」
〇スーパーの店内
綾瀬 圭吾(けいご)「えーと、挽き肉とパン粉と・・・」
綾瀬 花梨(かりん)「挽き肉は豚? 合い挽き?」
綾瀬 圭吾(けいご)「どっちでもいいみたい」
綾瀬 花梨(かりん)「じゃあ、豚にしよ」
綾瀬 圭吾(けいご)「わかった」
???「あ、圭吾じゃん!」
中井川 史郎(しろう)「偶然だな」
綾瀬 圭吾(けいご)「本当だね!」
綾瀬 圭吾(けいご)「ん?」
綾瀬 圭吾(けいご)「ひょっとして、史郎も”タスク”?」
中井川 史郎(しろう)「そうだよ、ハンバーグの材料を 探しにきたんだよ」
綾瀬 圭吾(けいご)「同じ年代には似たような”タスク”に なるのかな?」
中井川 史郎(しろう)「AIのやつも適当やってんな!」
中井川 史郎(しろう)「あ、そうだ。圭吾。 今から俺んち来ないか?」
中井川 史郎(しろう)「『ファイナルファンタジア』 手に入ったんだよ」
綾瀬 圭吾(けいご)「えーっ、マジで!?」
綾瀬 圭吾(けいご)(VR世界の中でしか遊べない 『ファイナルファンタジア』)
綾瀬 圭吾(けいご)(めちゃめちゃ面白いのに 抽選でしか手に入らないんだよな)
綾瀬 花梨(かりん)「圭吾、遊びたいなら 行ってきたら?」
綾瀬 圭吾(けいご)「えっ、でも”タスク”が」
綾瀬 花梨(かりん)「買い物に来たら多分 完了になってるはずよ」
綾瀬 花梨(かりん)「私も昔そうだったから」
綾瀬 圭吾(けいご)「本当だ」
中井川 史郎(しろう)「決まりだな!」
中井川 史郎(しろう)「じゃあ行こうぜ!」
綾瀬 圭吾(けいご)「うん!」
綾瀬 圭吾(けいご)(この世界も悪くないかも)
綾瀬 圭吾(けいご)「お姉ちゃん、ありがとう! いってくるよ!」
綾瀬 花梨(かりん)「いってらっしゃーい」
綾瀬 花梨(かりん)「ふふふ、はしゃいじゃって。 かわいいわね」
〇一戸建て
〇ツタの絡まった倉庫
ファイナル「遂に来たな、魔王の隠れ家」
ファンタジア「ああ、騙されるところだった」
ファイナル「あの魔王が影武者だったとは」
ファンタジア「見逃せばまた数十年後、 力を蓄えて世界を脅かしただろう」
ファイナル「だかそれもここまでだ!」
「俺たちが──」
綾瀬 環(たまき)「すみません、圭吾いますか?」
〇シックなリビング
綾瀬 環(たまき)「圭吾! いま何時だと思ってんの!」
綾瀬 圭吾(けいご)「えっ、もうこんな時間?」
中井川 史郎(しろう)「おばちゃん、勘弁してやってよ このゲームめっちゃレアでさ」
綾瀬 環(たまき)「そういう問題じゃありません!」
綾瀬 環(たまき)「お姉ちゃんには遊ばせて やってよって、言われたけど」
綾瀬 環(たまき)「さすがに時間が遅すぎるわ!」
綾瀬 圭吾(けいご)「ごめんなさい」
綾瀬 環(たまき)「帰るわよ!」
綾瀬 圭吾(けいご)「痛いっ! 引っ張らないでよ!」
中井川 史郎(しろう)「・・・」
〇綺麗な一戸建て
〇豪華なリビングダイニング
綾瀬 誠次(せいじ)「まあまあ、もういいだろ」
綾瀬 誠次(せいじ)「こんな時間だし」
綾瀬 誠次(せいじ)「圭吾は起きてるのだってつらいだろ?」
綾瀬 圭吾(けいご)「うん」
綾瀬 環(たまき)「そうね。もう懲りたでしょ」
綾瀬 環(たまき)「次からは気をつけるのよ」
綾瀬 圭吾(けいご)「わかり・・・ました」
綾瀬 誠次(せいじ)「やれやれ。親の”タスク”とはいえ」
綾瀬 環(たまき)「ええ。叱るのはつらいわ・・・」
綾瀬 環(たまき)「私のお母さんも こんな気持ちだったのかな」
〇一階の廊下
綾瀬 圭吾(けいご)(僕はこの家族という世界を 少しでも楽しもうとしたんだ)
綾瀬 圭吾(けいご)(ゲームはその楽しみの一つなのに こんな目に合うなんて)
〇男の子の一人部屋
綾瀬 圭吾(けいご)「ログアウト」
〇本棚のある部屋
家族単位50、取得しました
AH051669「なあ、AI。 家族は単位を取ればいいんだよな」
セントラルAI「そうです」
AH051669「もっと過ごしやすい家族が いいんだけど、できる?」
AH051669「ゲームをやっても怒られない家族とか」
セントラルAI「了解しました」
セントラルAI「次回から、AH051669の 家族編成を変えます」
セントラルAI「旧家族には本人より申請が あったとお伝えしておきます」
AH051669「わかった」
〇空
〇空
〇本棚のある部屋
AH051669「さて、楽しみだな」
AH051669「『ファイナルファンタジア 』が あるといいなぁ」
AH051669「ログイン!」
〇屋敷の門
池島 大地(だいち)「おっ、これが新しいアバターか」
池島 大地(だいち)「池島・・・大地。 うん、悪くない」
池島 大地(だいち)「ただいまー」
早見 吟子(ぎんこ)「お帰りなさい、お坊ちゃま」
早見 吟子(ぎんこ)「ようこそ、池島家へ。 お手伝いの吟子です」
池島 大地(だいち)「ああ、よろしく」
〇屋敷の大広間
池島 大地(だいち)「こんな美味しいもの、 食べたことないよ!」
池島 雅也(まさや)「ははは、がっつきすぎると 喉に詰まるぞ」
池島 櫻子(さくらこ)「本当、元気がいいこと」
〇古風な和室
池島 大地(だいち)「ゲームをいくらやっても 怒られないなんて」
池島 大地(だいち)「最高すぎるな!」
池島 大地(だいち)「ずっとここにいたいな」
池島 零士(れいじ)「ははは。もちろんさ」
池島 零士(れいじ)「大地はウチの家族になったんだ」
池島 零士(れいじ)「ずっと居ていいに決まってる」
池島 大地(だいち)「ありがと、お兄ちゃ──」
池島 大地(だいち)「えっ・・・」
〇黒
池島 大地(だいち)(なんだ、この心の痛みは)
池島 大地(だいち)(”家族”っていう言葉を 聞いたら急に──)
池島 大地(だいち)(『お兄ちゃん』という言葉を 使おうとしたら急に──)
池島 大地(だいち)(──胸が苦しくなった)
〇豪華なリビングダイニング
池島 大地(どうしてだ)
池島 大地(だいち)(あんなの偶然できた 他人同士の組み合わせだ)
〇豪華なリビングダイニング
池島 大地(だいち)(ただの他人同士の 集まりだっていうのに──)
〇古風な和室
池島 大地(だいち)「あのさ、兄ちゃん」
池島 零士(れいじ)「なんだ?」
池島 大地(だいち)「僕、眠くなっちゃった」
池島 零士(れいじ)「そうか。じゃあ、ゆっくりおやすみ」
池島 零士(れいじ)「また明日、大地」
池島 大地(だいち)「また明日、兄ちゃん・・・」
池島 大地(だいち)「・・・」
池島 大地(だいち)「ログアウト」
〇本棚のある部屋
AH051669「AI、質問だ!」
セントラルAI「はい、なんですか」
AH051669「僕、変なんだ」
AH051669「満足する環境を手に入れたのに」
AH051669「なんだか胸が苦しくなるんだ」
AH051669「どうしてだと思う?」
セントラルAI「お答えできません」
AH051669「えっ!?」
セントラルAI「それが家族という単位を 履修する意味でもあるので」
AH051669「そ、そんな・・・」
セントラルAI「もし、その答えを知りたいなら」
セントラルAI「もう一度、元の家族に会うことを お勧めします」
セントラルAI「ただし──」
セントラルAI「面会には先方の家族による ”全会一致の賛成”が必要となります」
セントラルAI「ちなみに家族を辞めた人間の 面会受諾率ですが・・・」
セントラルAI「平均22パーセント」
AH051669「少ないね」
セントラルAI「一度別れた家族に再度 会う意味を感じないからだそうです」
AH051669(当然だ)
AH051669(僕は怒られたからって 勝手に家族を辞めた人間だ)
AH051669(あの人たちだって 僕にはもう会いたくないよね)
セントラルAI「面会はどうされますか?」
AH051669「申請する・・・一応」
セントラルAI「わかりました」
〇空
その日の夜は、よく眠れなかった
〇空
そして三日後──
〇本棚のある部屋
AH051669「申請が通った?」
AH051669「三日も経ったから 断られたのかと・・・」
セントラルAI「申し訳ありません」
セントラルAI「申請システムのメンテナンスが 重なりまして」
セントラルAI「申請自体は当日すぐに 受理されておりま──」
AH051669「すぐログインする!」
〇綺麗な一戸建て
綾瀬 圭吾(けいご)「・・・」
綾瀬 圭吾(けいご)(急いで来たけど、 どんな顔で会えばいいのか)
綾瀬 環(たまき)「い、今転送音したわよね!」
綾瀬 紘(ひろ)「母さん、走ると躓くぞ!」
綾瀬 環(たまき)「──っ」
綾瀬 圭吾(けいご)「あ、あの・・・久しぶ──」
ぎゅっ
綾瀬 環(たまき)「おかえり・・・なさい」
綾瀬 圭吾(けいご)「!!」
綾瀬 圭吾(けいご)「う・・・」
綾瀬 圭吾(けいご)「うわあああん!」
こうして、僕は元の家族の元へと
戻ることになった
〇空
AH051669「わかんないんだよなぁ」
〇本棚のある部屋
セントラルAI「何がでしょうか」
AH051669「なぜ僕はあの時、 泣いたんだろうって」
セントラルAI「それは──」
AH051669「答えられません、だろ」
AH051669「わかってるって」
〇綺麗な一戸建て
綾瀬 圭吾(けいご)(だからそれがわかるまでは)
綾瀬 圭吾(けいご)(この家族で単位を とり続けようと思う)
綾瀬 紘(ひろ)「お、圭吾。おかえり」
綾瀬 花梨(かりん)「やっほー、おかえりー」
「おかえり、圭吾」
綾瀬 圭吾(けいご)「──ただいま」
家族の単位
──終──
自分もこの設定かなり好きです😆
好きな作家さんで「家族」をテーマにしたら、システムだったり、常識が違う世界観だったりする作品が多い方がいるんで。
疑似家族が絆を築き上げる王道ストーリーで、完成度の高さもkomarinetさんらしさを感じる作品です!
(´;ω;`)また感動でうるうるときました・・・✨
素敵なお話ありがとうございます・・・✨
家族の単位・・・素敵なお話です・・・
凄く素敵で好きなお話です!!
高い完成度のSF世界なのに、めちゃ泣ける!
タスクという淡々とした作業のハズが、そこはやっぱり人間。人情が入ってしまうのですね。
そして、AIは全てを答えないけど、やっぱり優しい気がするのは何故でしょう。
AIがXに見えました。