この恋は譲れない!

浮雲

読切(脚本)

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浮雲

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〇住宅街
  梅雨。
  髪の手入れも苦労が多く
  通学路の水たまりがローファーに染み込んでいく。
  嫌な季節である。
  ふと前を見ると見覚えのある相手が
  道にしゃがみ込んでいる。
望(のぞみ)「おはよう、弓弦。どうしたの?」
弓弦(ゆづる)「ああ、望か。おはよう」
  弓弦の頭上から覗きこんでみると
  子猫がいた。
  段ボールの中で物珍しそうに私たちを見ている。
弓弦(ゆづる)「雨が弱くなるまではと思ってね」
弓弦(ゆづる)「濡れると、可哀そうだろ?」
  これだ。
  この優しさがあるから私は弓弦のことが好きになったのだ。
望(のぞみ)「けど、夕方まで雨だよ?」
弓弦(ゆづる)「参ったね」
望(のぞみ)「こうしようよ。 私の傘を置いていくからさ」
弓弦(ゆづる)「え?」
望(のぞみ)「傘、半分だけ貸して下さい」
  声が震えていないだろうか。
弓弦(ゆづる)「それは名案だね。 そうしよう」
  私はおずおずと傘の中に入る。
  良い匂いがする。
  雨も、そう悪くない。

〇街中の道路
???「ヒューヒュー熱いねぇ。お二人さん」
  こいつさえ、来なければ。
  冷やかしながら近づいてくる男子生徒は、涼だった。
望(のぞみ)「おはよう、お邪魔虫」
涼(りょう)「虫って言ったか!?幼馴染に対して!」
弓弦(ゆづる)「相変わらず仲が良いな。二人とも」
涼(りょう)「まぁな」
涼(りょう)「で、何で相合傘なんてしているんだ?」
弓弦(ゆづる)「猫にあげてしまってね」
涼(りょう)「・・・・・・肩ずぶ濡れだぞ。ほら、俺の使え」
望(のぞみ)「え、でもBは」
涼(りょう)「俺には予備がある」
  有無を言わせない雰囲気だった。
  私は傘を受け取る。
望(のぞみ)「あ、ありがとう」
涼(りょう)「どういたしまして」
  ・・・・・・
  濡れたままでも良かったんだけどなぁ

〇教室
  Cは鈍い。
  Cと出会って一年。
  先程のように様々なアプローチを仕掛けてみたが、効果なし。
  そもそも意識されていないようだ。
  私は、そっと溜め息をついた。

〇学校の屋上
  オレンジ色の夕日を眺める。
  きっと、卒業の日までこのままなのかもしれない。
  それはそれで心地よくもあり
  残酷だ。
望(のぞみ)「と言う訳で、手伝って涼」
涼(りょう)「何を?」
望(のぞみ)「告白練習を!」
  私は名前だけは省いて
  涼に全ての事情を説明した。
涼(りょう)「で、その」
望(のぞみ)「仮の名前でD!」
涼(りょう)「に明日告白したいけど、いきなり本番だと緊張するので、今ここで練習したいと」
望(のぞみ)「そう!」
涼(りょう)「分かった」
涼(りょう)「お前の頼みだ、付き合ってやるよ」
望(のぞみ)「じゃあ、告白するよ」
涼(りょう)「おう、来い」
望(のぞみ)「D!」
涼(りょう)「ん」
望(のぞみ)「ずっと前から好きでした!」
望(のぞみ)「私と一緒の墓に入ってください!」
涼(りょう)「一人で入ってろ」
望(のぞみ)「酷い!」
望(のぞみ)「ってかDはそんな反応しない!」
望(のぞみ)「真面目にやってよお!」
涼(りょう)「こっちのセリフだ!もっと真面目に考えろ!」
涼(りょう)「怖すぎるんだよ!」
涼(りょう)「ってか重いわ!!」
望(のぞみ)「やっぱり」
望(のぞみ)「はしたないと思われるかなあ」
涼(りょう)「お前さては、人の話半分も聞いてねえな?」
望(のぞみ)「良し分かった、他の告白にしよう」
涼(りょう)「おう」
望(のぞみ)「D!」
涼(りょう)「ん」
望(のぞみ)「あなたの好きなところを本にできるほど あなたが好きです!」
望(のぞみ)「付き合ってください!!」
涼(りょう)「え、怖い」
望(のぞみ)「ちょっと!!」
望(のぞみ)「Dはそんな反応しないんだってば!」
望(のぞみ)「真面目にやってよ!」
涼(りょう)「これは正常な反応だよ!」
涼(りょう)「さっきから愛が重いんし怖いんだよ!」
望(のぞみ)「むむむ」
望(のぞみ)「これもはしたないと思われるかなあ」
涼(りょう)「そんな、軽い反応で済むと思うなよ」
涼(りょう)「二度と口きいてもらえなくなるぞ」
望(のぞみ)「じゃあ、どうすればいいの!?」
涼(りょう)「普通に告白したら?」
望(のぞみ)「と言うと?」
涼(りょう)「D君、あなたのことがずっと前から好きでした」
涼(りょう)「付き合ってください」
望(のぞみ)「・・・・・・っはっ」
涼(りょう)「今、鼻で笑ったか?」
望(のぞみ)「そんなんじゃDの心には響かないよ もっとインパクトがないと」
涼(りょう)「止めとけ いらん捻りをいれるな 特にお前は」
望(のぞみ)「ええええ?」
涼(りょう)「これで練習するぞ、ささっと告ってこい」
望(のぞみ)「分かったよ」
望(のぞみ)「あなたのことが、ずっと・・・好きでした」
望(のぞみ)「付き合って下さい」
涼(りょう)「・・・・・・」
涼(りょう)「ま、いいんじゃねえの」
  涼が砕けた笑顔を見せる。
  私もつられて肩の力を抜く。
望(のぞみ)「グラっと来た?」
涼(りょう)「自惚れんなよ 悪くはなかったけどな」
望(のぞみ)「何だか自信がついた気がするよ 涼、ありがとう」
涼(りょう)「おう、頑張れよ」
望(のぞみ)「涼が好きな人ができた時、手伝うから」
涼(りょう)「ああ、ありがとよ」
望(のぞみ)「じゃ、帰ろうか」
  階段に向かって歩みを進める。
  そんな私の背中に涼の声が突き刺さった。
涼(りょう)「最後に一つさ」
涼(りょう)「結局お前、誰に告白するんだ?」
望(のぞみ)「茶化さない・・・?」
涼(りょう)「茶化すかよ」
  涼ならきっと約束を守ってくれるはずだ。
  私は覚悟を決めた。
望(のぞみ)「弓弦君、だよ」
  一瞬、困惑した顔を見せるB。
涼(りょう)「やっぱり、そうか」
涼(りょう)「そうなんじゃないかと思っていたんだけどな」
望(のぞみ)「涼?」
涼(りょう)「望、悪いな」
涼(りょう)「これ以上、お前の恋には 協力できそうにないぜ」
望(のぞみ)「え・・・・・・」
涼(りょう)「俺も弓弦のこと好きなんだ」
望(のぞみ)「!!!!」
涼(りょう)「だからお前には負けられねえ」
涼(りょう)「俺も、明日告白する」
望(のぞみ)「え!!」
涼(りょう)「あばよ。『また明日』な」
  去っていく涼。
  先程の言葉は
  涼なりの宣戦布告の合図だ。
望(のぞみ)「まじすか・・・・・・」
  涼はきっと手ごわいライバルになる。
  でも・・・・・・
望(のぞみ)「明日は絶対譲らないから涼」
  私は決意を胸にそっと屋上から出た。

コメント

  • 涼くんてっきり彼女が好きなんだと思ってましたが、そっちでしたか!
    ということでライバルになってしまったわけですが、どっちの告白を受けるのかが気になります。

  • 涼君がわざわざ傘を貸したのは、焼きもちからだったのはわかったけど、まさか彼女に対抗しているとは想像していなかったです。みんないい子だから、それぞれに傷ついてほしくないですね!

  • 涼くん、望ちゃんが好きなのかと思いきや、まさかの弓弦くんだったのにびっくり!笑弓弦くんモテモテ!
    微笑ましい三角関係ですね。

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