エピソード2(脚本)
〇田舎の学校
——キーンコーン、カーンコーン
〇学校の屋上
屋上で寝転がり、快晴の空を見ている三人。
秋山裕介「平和だなー」
伊藤伸生「そうだなー」
井戸端学「カズミーの奴、もう3日も学校に来てないもんな」
「・・・・・・」
井戸端学「え、なに、その間? なんかおかしい? 俺?」
秋山裕介「デブ」
伊藤伸生「肉団子」
井戸端学「な、なんだよ!」
秋山裕介「おデブ」
伊藤伸生「ミートボール」
井戸端学「うっせえ! なんなんだ、さっきから」
秋山裕介「俺たちはさ、散々準備してきたわけじゃん、いつだってカズミーをやっつけられるように」
伊藤伸生「ふむ、レベル上げるためにメタルスライムを倒しまくる勇者のようにな」
井戸端学「よくわかんねーから!」
秋山裕介「だからー、考えてみれば俺らが勇者になるためには、カズミーという敵が必要だったわけ」
秋山裕介「カズミーを排除することが目的じゃなくて、カズミーを制圧することに意味がある・・・的なあれだよ」
伊藤伸生「闇なきところに光は生まれん」
井戸端学「要するに、カズミーがいないとつまらないってことだね」
「・・・・・・」
美砂「ちょっと! もう掃除の時間、終わったんですけど」
秋山裕介「!」
秋山裕介「なんだ、美砂(みさ)か」
美砂「なんだとは何よ!」
秋山裕介「ほっといてくれ。 俺たちはいま感傷に浸っているところなんだ」
美砂「掃除さぼったこと和美先生に言いつけるから」
秋山裕介「カァー。出たよー。 学級委員でもないのに学級委員的な決め台詞」
秋山裕介「まいっちゃうねー。 これで美人ならともかくブスだと目を・・・」
秋山裕介「グホッ。 やりやがったな・・・」
美砂「あんたたたちがそんなだから、和美先生が・・・!」
「!?」
美砂「な、なんでもない。 じゃあね」
井戸端学「?」
秋山裕介「あいつ、なんでカズミーが学校来ないのか知ってんのか?」
井戸端学「え? どういうこと? ただの風邪とかじゃないの?」
伊藤伸生「美砂。 知ってることあんなら、話してくれ」
美砂「・・・・・・」
美砂「いや、実はさっき・・・職員室の前で聞いちゃったんだけど・・・」
〇田舎の学校
「婚活〜!?」
〇学校の屋上
美砂「大きな声出さないで!」
井戸端学「じゃあカズミーは、婚活のために学校休んでるってことかよ」
美砂「だから、あくまで噂だって。 鈴木先生と木村先生の立ち話を聞いちゃっただけだもん」
秋山裕介「許せん・・・愛しの生徒たちを差し置いて、婚活だと」
伊藤伸生「愛しいかどうかともかく、ただの婚活で仕事まで休むか?」
美砂「和美先生の親、元小学校の校長先生みたいで、すごく厳しいんだって」
伊藤伸生「強制送還ってやつか」
井戸端学「てか親が元教師なのに、なんでカズミーが教師やるの反対なんだろう」
美砂「さあ、そこまではわかんないけど」
秋山裕介「・・・・・・」
秋山裕介「殴り込みだな・・・」
「は?」
秋山裕介「俺らでカズミーの実家に殴り込んで婚活なんてぶち壊してやろうぜ!」
美砂「バカ! そんなことできるわけないでしょ!?」
井戸端学「そうだよ、だいたい実家の住所とかわかんないじゃん」
秋山裕介「伸生!」
伊藤伸生「ちょっと待て」
『北海道亀田郡七飯町大沼町』
伊藤伸生「ここか・・・」
美砂「なんで!?」
伊藤伸生「カズミーのSNS」
井戸端学「ていうか普通住所までは載せないよね」
秋山裕介「決まりだな。明日は土曜日だし、赤レンガの前に九時待ち合わせで」
井戸端学「えぇ〜! 本気! ?」
秋山裕介「本気」
井戸端学「妹と買い物行く約束してたのに・・・」
秋山裕介「そんなもんは後回しだ!」
秋山裕介「伸生、お前も行くだろ?」
伊藤伸生「・・・・・・」
秋山裕介「なんだよ、返事しろよ」
伊藤伸生「リスキーだな」
伊藤伸生「大沼まで行ったところで、カズミーに会える保証はない」
秋山裕介「・・・・・・」
伊藤伸生「それに貴重な土日を、カズミーのために潰すというのも気に食わない」
秋山裕介「・・・らしくないな」
伊藤伸生「?」
秋山裕介「たとえリスキーでも、僕の脳内コンピューターさえあればって、いつもの伸生なら言いそうなのに」
伊藤伸生「・・・・・・」
秋山裕介「なんか俺らに隠してることでもあんのか?」
伊藤伸生「そ、そんなことあるか! ボクはただ・・・」
井戸端学「もう! 喧嘩はやめてよ!」
美砂「そうよ! バカなことばっか言わないで!」
秋山裕介「うるせえ!」
美砂「・・・っ」
秋山裕介「女はすっこんでろ」
美砂「・・・・・・」
秋山裕介「・・・お、おい。 今のはみぞおちに・・・」
美砂「皆さん、どうぞご自由に! もう知らない!」
伊藤伸生「とにかく・・・ボクは行かん」
井戸端学「伸生!」
伊藤伸生「行くなら二人で行ってくれ」
井戸端学「伸生〜」
秋山裕介「ほっとけ!」
〇綺麗な一戸建て
〇男の子の一人部屋
秋山裕介「・・・・・・」
——コンコン
秋山有紀「裕介、晩ごはんできたって」
秋山裕介「・・・姉ちゃん。 変なこと聞いていい?」
秋山有紀「え? いいけど バストのサイズとか教えないわよ」
秋山裕介「興味ねえよ!」
秋山有紀「なんだ、珍しく深刻な顔してるから、思春期特有のあれかと思って心配しちゃった」
秋山裕介「余計なお世話だよ!」
秋山有紀「お母さーん!」
秋山有紀「裕介、思春期特有のあれじゃなかったって!」
秋山裕介「いちいち報告すんな!」
秋山有紀「で、なんなのよ」
秋山裕介「ここから、大沼までどれくらいかかるかな?」
秋山有紀「函館から大沼? 車で40〜50分じゃない?」
秋山裕介「電車だったら?」
秋山有紀「30〜40分くらい?」
秋山裕介「そっか・・・てことは・・・」
秋山有紀「え? なに?」
秋山有紀「家出でもすんの?」
秋山裕介「しねえよ!」
秋山有紀「お母さーん! 裕介、大沼までーー」
秋山裕介「あー! もう! うっさいから早く戻ってくれ!」
〇高級一戸建て
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
伊藤伸生「・・・・・・」
机に向かって勉強する伸生。「中学受験」に関する本が、たくさん並んでいる。
ブー・・・ブー・・・
伊藤伸生「・・・今日は帰りが遅くなります、ご飯は食べておいてくれ、父より・・・」
伊藤伸生「って、今日は、 じゃなくて、今日も、だろ」
壁にかかったカレンダーを見る伸生。
カレンダーには、7月6日の日付に丸がつけてある。
伊藤伸生「お父さん、どうせ忘れてるんだろうな、約束なんて・・・」
〇赤レンガ倉庫
7月6日
ミーン・・・ミーン・・・
秋山裕介「・・・・・・」
秋山裕介「・・・遅い!」
秋山裕介「あいつはいつも人を待たせやがる!」
井戸端学「おーい!」
秋山裕介「!」
学、背中に大きなリュックを背負っている。
秋山裕介「おせえよ! って、なんだよ、その大荷物は!」
井戸端学「いやあ、何かのときに食料が必要かと」
秋山裕介「いらん! 山登りか!」
井戸端学「ねぇ、本当に行くの?」
秋山裕介「男に二言はない」
井戸端学「ほんとに?」
秋山裕介「しつこい。 そんなにカズミーを怖がってどうする」
井戸端学「違うよ、そうじゃなくて」
秋山裕介「?」
井戸端学「2人で行くの? って意味」
秋山裕介「・・・・・・」
井戸端学「やっぱり、伸生いないの変じゃない? 一年のときから、どこ行くのにもずっと一緒だったのにさ」
秋山裕介「それは・・・」
「・・・・・・」
「伸生!?」
伊藤伸生「気が変わった。 ボクも行く」
井戸端学「伸生〜!」
秋山裕介「お、お前、なんで?」
伊藤伸生「お前たちだけじゃ不安だからな」
秋山裕介「フン。別にお前なんかいなくても——」
井戸端学「とーにーかーく。 3人揃ったんだからいいじゃん!」
井戸端学「行こうよ! えっと市電は・・・」
秋山裕介「ちょっと待て。 市電は使わねえ」
井戸端学「へ? じゃあ函館駅まで行くの? ちょっと距離あるよね」
秋山裕介「JRも使わねえって」
井戸端学「じゃあバス?」
秋山裕介「車も使わん。 歩いていくんだよ」
井戸端学「えええっ!? 歩き? 大沼まで!?」
秋山裕介「イエース」
井戸端学「何時間かかると思ってんの!?」
井戸端学「ていうかなんで歩き!? この真夏の炎天下に!?」
秋山裕介「歩かなきゃ冒険っぽくないじゃん」
井戸端学「そんだけ!? そんだけの理由!?」
秋山裕介「どう思う? 伸生」
伊藤伸生「非効率的ではあるが、道中を楽しむという点ではありだな」
伊藤伸生「ボクの脳内コンピューターでは日暮れまでには着く予定だ」
秋山裕介「そうこなくっちゃ!」
井戸端学「ムリムリムリ! 絶対ムリ!」
秋山裕介「いいダイエットになるな、学」
伊藤伸生「いい汗かく前に、日差しで豚の丸焼きになるなよ」
井戸端学「ふざけんな〜!!」