エピソード1(脚本)
〇沖合
もしもし・・・あ、ごめん、彼じゃないの、私よ、アカネ
うん、タケルは今ジュース買いに行ってる
そしたら彼のバッグから着信音が聞こえてさあ
見たらあなたの番号じゃない
それならいいかって出ちゃったんだけど、驚かせちゃった?
・・・ならよかった。ていうかさ、聞いてよ、さっき恐ろしい目にあったの
三人しかいない文芸部の部長と副部長の命が危なかったのよ、当然女子部員は拝聴すべきよね
〇教室
・・・今度の市の文学賞に彼の小説を出すってのは知ってるでしょ?
空き教室で原稿の手直しをしてたんだけど、全然進まなくて
苦戦してたら、教頭に見つかって早く帰れって
かわいい生徒が学校の名を高めようと努力してるのに!
やってらんないと思ってたら、彼がもういい、海行こうとか言い出したのよ
私も大賛成で、制服のまま海岸に行ったの
〇沖合
うん?返事に元気ないけど大丈夫?
もう少しだけ待って、ここからが本番。
〇海辺
海岸まで来て、青い空の下で砂浜に波が打ち寄せてるのを見たら、嫌なことみーんな吹っ飛んじゃってさ
ただ、今日って秋祭りの前日でしょ?
砂浜公園からこの浜辺まで、準備とかで人が多くてさ
なんか嫌だなあ・・・って思ってたら、タケルが「二人で静かなところへ行こうか」なんて言い出すのよ
ってわけで、岩場の方に行こうかってことになったのよ
〇海岸の岩場
岩場まで来てみるとさ、波も荒くて、迫力あるなあ・・・って二人で見とれてた
スマホで撮るんだった
波打ち際で落としたら嫌だから、かごにカバンごといれっぱなしだったの
って、ここまではよかったんだけどね
〇沖合
あ、お帰り、タケル・・・こっちの缶ね、ありがと・・・今、彼女に今日のこと話してるの
だーめ、代わってあげなーい!
・・・でさ、帰ろうと思って後ろを振り返ったら、道がないの!
〇海
最初なにが起きたのかわかんなかった
そのままつっ立ってたら、彼が潮が満ちたんだってつぶやいたの・・・
私たち、岩場に孤立しちゃったのよ
ゾッとした
スマホはないから助けは求められない
私、制服のまま海に飛び込もうとした
ひょっとしたらまだ足がつくんじゃないかと思って
ほんと、パニックになってたんだ
そうしたら彼が後ろから・・・抱きしめてくれたの。
〇沖合
痛い!照れることないでしょ、脇から叩かないで・・・
抱きしめて飛び込むのを止めてくれたの・・・これでいいでしょ?
〇海
まったく・・・彼は、この岩の上なら満潮でも水の上だから大丈夫って言うんだ
もう信じて水が引くのを待つしかないのは
わかってたんだけど、不安でしょうがなかった
今までいた場所に波がかかって、少しずつ水の中に消えてくのを見ちゃうとね、だんだん震えが止まらなくなってきたの
〇沖合
ねー、話がいいとこなのにどこへ行くの?
・・・トイレって、デリカシーってものないの?
〇海
ああごめんね・・・それでも彼は私を必死に抱きしめながら、大丈夫だから、大丈夫だからって何度も励ましてくれたの
〇水中
私嬉しさで泣きそうになったのと、このままおぼれちゃうかもって恐ろしさで胸がいっぱいになっちゃって・・・
告白、しちゃったの
何言ってんだと思ってるんだろうけど、
二人ともおぼれ死んだら永遠に伝えられないんだと思って。
彼も最初は落ち着いてとか、助かるから、とかごまかしていたんだけど、どんどん海水が上がってきちゃって・・・
ついに、ついによ、僕も君のことが好きだって言ってくれたの!
もうここで死んでもいいー!って叫びそうになったけど、そうしてたらようやく水が引き始めてさ
満潮のピークとかそんなんじゃなくて、神様が私たちを救ってくれたんだと信じてる
〇沖合
それでね・・・きゃっ、なに、戻ってたんなら教えてよ
ちょ、ちょっとどこに手を入れてるのよ、告白したらいきなりなんて心の準備ってものがあってさあ
あん・・・さっきも言ったでしょ、塩水でベタついてるから、家でシャワーを浴びたあとって・・・
・・・ねえ、さっきから黙ってるけど大丈夫?もしもし、もしもし!
アカネ「・・・切れたか」
アカネ「・・・まあここまできれいに叩き潰してあげたんだ、向こうも未練がなくなって大満足でしょ」
アカネ「まったく二人のための文芸部に土足で踏み込むは、夫を誘惑するは、薄汚い泥棒猫が・・・」
アカネ「でも彼に返す本に手紙を忍ばせるなんて、その程度の知能じゃね」
アカネ「こっちは色々監視してたのに損した」
アカネ「ええと、秋祭りの夜、砂浜で会いたいと」
アカネ「祭りで盛り上がった挙げ句、波打ち際で告白ってやつですか」
アカネ「あと一日だったのに・・・惜しかったわね。可哀想」
アカネ「でも、そのアイデアだけは使ってあげるわ。感謝なさい」
アカネ「もしもし、あ、おばさん?タケル・・・いますか?」
タケル「もしもし、アカネ?聞きたいことが・・・」
アカネ「わかってる、スマホでしょ?」
アカネ「ほんと、ごめん。どこで入り込んじゃったんだろうね」
タケル「・・・まあ、アカネのところなら安心したよ」
タケル「んじゃ、明日の秋祭りのとき、渡してくれれば・・・」
アカネ「待って、そのときついでに・・・いや、ついでじゃないわ、大事な話をしたいの」
タケル「え、それって・・・」
アカネ「うん・・・浜辺で・・・待ってるから・・・」
きれいな情景描写でした。すごく海の描写がきれいで。
でも、タイトル通りで、読んでてすごく臨場感がありました。
ちょっと怖かったです。笑
タイトルの物語の内容がとても綺麗で言葉から情景を思い浮かべながら読み進めました。恋のドキドキ感が伝わってきて面白かったです。
綺麗なストーリーだなと思いました。海って素敵な力がありますよね、神秘的な力、人を輝かせてくれる力。その海での2人のストーリーは綺麗でした。