山の中で宝探し(脚本)
〇山中の坂道
榊原優斗と榊原由那は、
無言で山道を登っていた。
榊原優斗「はぁはぁ・・・・・・」
榊原由那「はぁはぁ・・・・・・」
榊原優斗「ぜぇぜぇ・・・・・・」
榊原由那「ぜぇぜぇ・・・・・・」
榊原優斗(・・・・・・)
榊原由那(・・・・・・)
由那は突然立ち止まり、
前方にいる優斗に声をかけた。
榊原由那「ねぇ」
榊原優斗「なんだよ?」
榊原由那「帰りたいんだけど」
榊原優斗「は?」
榊原優斗「ここまで来て何言ってるんだよ。 多分もう少しだって」
榊原由那「多分って何よ? やっぱり来るんじゃなかった。こんなに大変なんて思わなかったもん」
榊原優斗「いや、正直俺もここまで歩かされるとは思わなかった」
榊原優斗「まったく親父の奴、なに考えてるんだか」
榊原由那「ほんと意味わかんない。 お父さんなんて大嫌い」
榊原優斗「・・・・・・」
〇一軒家
俺たち兄妹には少し変わった親父がいた。
普段家にいても無口で全然会話しない親父。
家族旅行なんて行ったことなかったし、揃って外食をした記憶もない。
そんな親父と当然距離が縮まることもなく、家にいる時でも他人のように接していた。
とても無口な親父。
何よりも変だったのがユーチューバーだったことだ。
画面の前だけ人が変わったかのように、口数が多くなるというおかしな性格の人間だった。
〇明るいリビング
榊原由那「お兄ちゃん。 またお父さんが動画作ったから見て欲しいって手紙が置いてあったよ」
榊原優斗「何、またか!?︎」
榊原由那「どうせろくでもない内容なんだろうけど、とにかく見てみよう」
由那が動画サイトのURLを打ち込み、テレビに映し出す。
画面の前に親父が現れ喋り始めた。
榊原郁蔵「おい。よく聞け優斗、由那。 今からお前たちに指令を出す」
榊原優斗「おい、由那。 親父なんで軍服着てるんだ?」
榊原由那「さぁ?」
榊原郁蔵「私、榊原郁蔵は幻神山に宝物を隠した。 ここから近いお前たちもお馴染みのあの山のことだ」
榊原郁蔵「今からヒントを与えるから、二人で協力してミッションをクリアして欲しい」
榊原優斗「ほんと動画だと普通に喋るな親父」
榊原由那「場面緘黙症らしいよ」
榊原優斗「ばめんかんもくしょう?」
榊原由那「うん。特定の場面や場所で喋れなく症状らしいよ」
榊原由那「お父さんの場合、症状が重くて人の前だと全く会話できなくなるみたい」
榊原優斗「よくそれで結婚できたな」
榊原由那「お母さんも変わってるからね」
榊原郁蔵「最初のヒントは、二つの矢印のある小屋の裏手を調べろだ!」
榊原郁蔵「山を登ってすぐにヒントの場所を発見できるはずだ。小屋の裏手の土の中に箱を隠しておいた」
榊原郁蔵「だが当然この箱が宝物ではなく始まりであることは、これまで様々な指令を受けてきたお前たちならわかっているだろう」
榊原郁蔵「この指令は始まりの序曲に過ぎない。ここから様々な困難が発生することになるのだ!」
榊原優斗「うるせぇ、馬鹿親父」
榊原由那「ホント。なんで私たちがそんな面倒なことしないといけないのよ」
榊原郁蔵「今回は難解なミッションを用意した」
榊原郁蔵「だが、二人揃えば不可能はないはずだ」
榊原郁蔵「どうか私に兄妹の力を見せつけて欲しい」
榊原優斗「何が見せつけて欲しいだ。 勝手に決めやがって!」
榊原由那「そうよそうよ。動画のネタにされるのはもうゴメンよ!」
野次を飛ばし続けるが、動画内の郁蔵は止まらない。
榊原郁蔵「では二人とも行くがよい!」
榊原優斗「何が『行くがよい!』だ」
榊原由那「わたし絶対行かないからね!」
榊原郁蔵「行くがよい!」
榊原優斗「うるせえ、馬鹿!」
榊原由那「消え失せろ社会不適合者」
〇山中の休憩所
結局しぶしぶではあったが、動画を見た二人は結局幻神山へ行くことになった。
そうしてヒントを頼りに小屋を発見する。
言われた通り裏手を調べると箱があり、中からURLの書かれた紙が出てきた。
URLをスマホに打ち込んで見てみると、また郁蔵からの指令動画が映し出されるのであった。
そうして動画の通りの場所へ行くとまた紙が、という風にたらい回しにされてしまう。
優斗と由那が発見した動画の書かれた紙は全部で5つ。
二人の怒りのボルテージはどんどんと上がっていくのだった。
〇山道
榊原優斗「さすがに次で終わりだと思うんだが」
榊原由那「本当よく次から次へとこんなくだらない企画を思いつくものね」
榊原優斗「あれで登録者数50万人いるらしいからな。なんで人気あるのかわからないけど」
榊原由那「世も末ね」
〇古びた神社
榊原優斗「なになに。八つの神を祀られた神社の横。丸太のベンチの地中深くに眠るか」
榊原由那「ここみたいね」
由那が丸太のベンチを発見し、優斗は近づいていく。
榊原優斗「確かに。ここっぽいな」
優斗はスコップを使い掘っていく。
榊原優斗「お、ビンゴだ。箱がある」
箱を取り出す優斗。
土を払い、箱を開けると中からURLの書かれた紙がでてきた。
優斗はスマホにそのURLを打ち込むと、動画が流れる。
郁蔵がこちらに向かって喋りかけてきた。
榊原郁蔵「よくぞここまで辿り着いた!」
榊原優斗「うるせぇ馬鹿」
榊原由那「移動中に最新動画、全部バットボタン押しといたわ」
榊原郁蔵「次が最後の動画になる。ここからやや北上したところに黒い門が見えるはずだ。その近くにある一番太い木の下を探せ!」
榊原郁蔵「発見できたらそのまま山頂の景色が眺められる場所で見て欲しい。理由は動画を見ればわかるだろう」
榊原優斗「場所まで指定すんのかよ」
榊原由那「早く帰りたい」
榊原郁蔵「ではな。怪我に注意をして山登りを楽しんで欲しい。また次の動画で会おう」
その言葉を最後に動画が終了する
榊原優斗「・・・・・・」
榊原由那「・・・・・・」
ここまでのミッションで疲れ果てた二人は、反論すらする元気がなくなっていたのだった。
〇山の展望台(鍵無し)
最後の箱を発見した二人は、
景色の見える場所で動画を見ることにした。
榊原優斗「ようやくこれが最後か」
榊原由那「早く動画見てとっとと帰ろう」
榊原優斗「ああ。そうしよう」
優斗がURLをスマホに打ち込むと、
画面に郁蔵が現れる。
榊原郁蔵「よくぞミッションをクリアした! まずはおめでとうと言っておこう」
榊原優斗「偉そうにしやがって」
榊原由那「早くアマギフのコード教えて」
これまで明るい調子で話していた郁蔵が、突然悲しげなトーンに変わる。
榊原郁蔵「お前たちには黙っていたが、今回は動画のネタではない」
榊原優斗「そうなの!?︎ てっきり隠し撮りされているのかと」
榊原郁蔵「今回は個人的な目的でこうして動画を取らせてもらった」
榊原由那「なんでわざわざ?」
榊原郁蔵「純粋にお前たちと山登りを楽しみたかった。それだけなんだ」
榊原優斗「じゃあ普通に一緒に登ればいいのに」
榊原郁蔵「お前たちに、こうして動画でしか話せないことは申し訳ないと思っている」
榊原優斗「急にしんみりするのはやめてくれ」
榊原郁蔵「この山は父さんの思い出の詰まった山でな」
榊原郁蔵「子供のころよく遊びに来たものだ。 母さんとのデートでもよくここに来た」
榊原郁蔵「今回箱を埋めた場所は、それぞれ私の特に思い出深い場所だった」
榊原郁蔵「少しでもお前たちに楽しんでもらおうと思ってやったことだが、もしかしたら私の自己満足になっていたかもしれないな」
榊原優斗「・・・・・・」
榊原由那「・・・・・・」
榊原郁蔵「私が話せなくなった理由はいつかお前たちにも語ろうと思う」
榊原郁蔵「ここまで付き合ってくれて悪かったな。 動画の最後にアマギフのコードが出てくるから好きなものを買うがいい」
榊原郁蔵「ではな」
そう言い郁蔵は画面から消える。
榊原由那「お父さん、私たちと山登りしたかっただけなのかな?」
榊原優斗「そうかもな。 親父不器用なところあるし、こういった形でも俺たちと絡みたかったのかもしれない」
榊原由那「ふ〜む」
榊原優斗「ま、途中嫌だったけど、ほんの少しは楽しかったかな」
榊原由那「そうね。 ほんとちょびっとだけだけど」
二人はそう言って笑う。
だが。
榊原優斗「ん? ってあれ?」
榊原由那「どうしたの?」
榊原優斗「動画まだ続いているぞ」
榊原由那「嘘っ?」
暗くなった画面から、
突如として動画が流れ始める。
そしてそこには郁蔵ではなく、
別の人物が写っていた。
榊原郁恵「よくぞ郁蔵のミッションをクリアした!」
榊原優斗「げっ! 母さん!」
榊原郁恵「我は春の微風に揺られやってきた、ユーチューバー界の天使こと榊原郁恵」
榊原郁恵「我こそが大天使のウリエルの生まれ変わり、我こそが美しさで世界を牛耳るもの」
榊原優斗「やべぇ、完全に頭がいってる」
榊原由那「まぁ、普段通りだけどね」
二人は呆れるが動画の郁恵は止まらない。
榊原郁恵「郁蔵に変わり私が新たなミッション用意した」
榊原優斗「へっ?」
榊原郁恵「今から山へ降りる途中に、 私の指示する場所を探せ!」
榊原優斗「今からまた同じようなミッションをやるだと」
榊原優斗「それだけはゴメンだ!」
榊原由那「私も絶対いや!」
郁恵が滔々と語る中、
二人の悲痛な叫び声が山の中に響き渡るのだった。
お父さんが場面緘黙症とは驚きました。最後の動画でしんみりしてたら、まさかまさかのお母さん登場で茶吹いた。でも、なんだかんだで結局は仲の良い素敵な家族なんだなあ、とほのぼのしました。
この兄妹の毒舌っぷりがおもしろかったです😂
うるせえ馬鹿と社会不適合者がいちばん面白くて
めっちゃ笑っちゃいました!😂
とても辛辣な発言を繰り返していたけど、お父さんの真意を聞いた時には馬鹿にしたりせず受け入れていたところが、優しいなあと思いました😊