エピソード1(脚本)
〇公園のベンチ
望「・・・」
望「・・・・・・」
望「はぁ・・・」
望「もうダメかもしれない・・・」
〇綺麗な部屋
──回想・朝──
ひな「・・・」
望「どうした? 早く食べないと保育園に遅刻するぞ」
ひな「ひな、パンが食べたい!」
望「パンは明日出してやるから 今日はご飯食べてくれ」
ひな「いや!パンがいい!!」
望「わがままばかり言ってると 朝ご飯なしにするぞ」
ひな「いや!ひな、パン食べる!!」
望「作ったものは仕方ないだろ! いいから早く食べろ!」
ひな「うわ〜〜ん!」
望「なんでこんなことで泣くんだ・・・ もう〜〜!!」
〇公園のベンチ
望(離婚してから2ヶ月・・・)
望(アイツが何を考えているのか、どうすれば言うことを聞いてくれるのか、さっぱりわからない・・・)
望(やっぱり妻に任せたほうが良かったのか・・・?)
望(いや、ダメだ。 あの女に任せていたら、ろくな人間にならない)
望(陽菜を立派な人間に育てると決めたのは俺だ)
望(俺が頑張らないといけないんだ)
望(俺が・・・)
望(・・・)
望(いや、俺けっこう頑張ってるよな?!)
望(朝も夜もちゃんとご飯作ってるし、髪も結んでやれるようになった!)
望(仕事も手を抜かず家事と両立してるつもりなのに・・・)
望「これ以上どう頑張ればいいんだ・・・」
望「どうすれば・・・」
「佐々木先輩・・・?」
望「お前は・・・」
望「春汰?!」
〇公園のベンチ
春汰「はい!春汰っす! いや〜まさかこんなところで佐々木先輩と会えるなんて・・・!」
望「まじでびっくりしたよ・・・! 最後に会ったのって卒業式だよな・・・?」
春汰「そうっすね! 高校卒業したのが10年以上前?だから まじで久々っす!」
望「ていうかお前、どうしてここに? 今この辺に住んでいるのか?」
春汰「まぁ・・・そんなところっすね」
春汰「先輩こそ、こんなところでどうしたんっすか?」
春汰「なんか俯きながらぶつぶつ言ってましたけど・・・」
望「あー・・・ それは・・・その・・・」
〇公園のベンチ
春汰「なるほど・・・ 先輩も人生色々あったんっすね〜」
望「久々に会った後輩にこんな話をして、 ほんと情けない先輩だよな・・・」
春汰「いえ!仕事も育児も頑張っているなんて すごいと思います!」
春汰「でもあんまり自分にも陽菜ちゃんにも厳しくしちゃダメっすよ?」
春汰「”ほどほどに”頑張ってください!」
望「・・・ありがとな」
望「おっと、もうこんな時間だ。 そろそろ娘の迎えに行かないと・・・」
春汰「・・・あの!」
望「ん?」
春汰「えっと・・・ もし良かったらなんですけど・・・」
春汰「今晩泊めてもらえないですかね・・・?」
望「はぁ?!なんで?!」
春汰「実は俺、今家なくて」
望「はぁあああ?!だからなんで?!」
春汰「詳しいことはあとで話すんで! お願いします・・・!」
望「えぇ・・・でも・・・」
春汰「お願いします! 佐々木先輩しか頼れる人がいないんっす!」
春汰「俺を見捨てないで・・・!」
望「あぁもう騒ぐな! 周りの視線が痛い・・・!」
春汰「・・・!」
望「はぁ・・・わかったよ」
望「陽菜の迎えに行くからとりあえずついて来い」
春汰「やったー!ありがとうございます!」
〇街中の公園
ひな「・・・」
ひな「パパ、この人だぁれ・・・?」
春汰「ひなちゃんはじめまして!」
春汰「お父さんの後輩の住谷春汰って言います! お家に泊まらせてもらうことになったんだ!よろしくね!」
望「おい!泊めるとはまだ言ってないぞ!」
春汰「えぇ〜? さっき『わかった』って言ったじゃないっすか〜!」
望「あれはお前の主張を理解したっていう意味で、泊めるのを了承したわけじゃない!」
ひな「おじさん、パパのともだち?」
春汰「おじ、さん・・・?!」
春汰「俺、お父さんの一個下なんっすけど・・・」
望「あははは!」
望「友達ではないよな〜? 春汰”おじさん”?」
春汰「ちょっと! 俺がおじさんなら先輩のほうがおじさんっすからね?!」
望「俺は”パパ”だから」
春汰「も〜!父親マウントはズルいっす!」
ひな「・・・」
ひな「おじさん!ひなの家泊まっていいよ!」
春汰「だからおじさんじゃ・・・」
春汰「え?!」
春汰「いいの?!」
ひな「うん!おじさんとパパ仲良しだから!」
望「待て、陽菜! 春汰はただの後輩で別に仲良しじゃ・・・」
春汰「よっしゃ〜! ありがとう!ひなちゃん!」
春汰「改めてよろしくっす!」
ひな「うん!よろしくね!」
望「あ〜〜もう!今日だけだからな?!」
春汰「え〜?」
春汰「あ!そうだ!」
春汰「ひなちゃん!お近づきの印に この春汰さんがクロワッサン買ってあげる!」
望「クロワッサン? 明日の朝ならもう食パン買ってあるぞ」
春汰「いいや! ひなちゃんはクロワッサンがいいもんね〜?」
ひな「うん・・・!クロワッサン食べたい!」
望「・・・?」
春汰「先輩、これっす」
望「・・・? 陽菜の髪飾りがどうした?」
春汰「『クッキングアイドル☆こころちゃん』! この前の回、一緒に見てないんっすか?」
春汰「こころちゃんがフランスから来た転校生・マイクくんの心を開くために作ったのが クロワッサンっす!」
春汰「クロワッサンを半分こにしてマイクくんと一緒食べるシーンを見たら、クロワッサンを食べたくなるに決まってるっす!」
望「そう・・・なのか・・・?」
ひな「(コクリと頷く)」
望「なら、そう言ってくれれば良かったのに・・・」
ひな「ひながこころちゃん見てるとき、 パパ、パソコンしてた」
望「あー・・・」
望「そういえばあのときは仕事に集中していた気がする・・・」
望「ごめんな・・・ 陽菜の話、ちゃんと聞いてなくて・・・」
望「春汰より陽菜のことをわかっていないなんて、俺はダメな父親だな・・・」
春汰「・・・先輩はダメな父親じゃないっすよ」
春汰「今こうしてひなちゃんに面と向かって謝ることができているのが、その証拠っす!」
春汰「俺、先輩のことだから『もっとはっきり言ってくれないとわからん!』って怒ると思ってました」
望「いや、俺だって自分に非があれば素直に謝るからな?」
春汰「そ・れ・に! まだたったの2ヶ月ですから!」
春汰「これから陽菜ちゃんのこと、ちゃんと見ていけばいいんすよ!」
春汰「焦らない、追い詰めない♪」
望「お前に言われると癪だが・・・」
望「そうだな・・・ これからはもっと陽菜に目も耳も向けるようにするよ」
春汰「さ!ひなちゃんがパンを食べたいって言った理由もわかったことだし、コンビニ行くっすよー!」
春汰「クロワッサン♪クロワッサン♪」
ひな「クロワッサン♪クロワッサン♪」
望「晩飯前だし一個だけだからな?」
ひな「はーい!」
ひな「ひなと、パパと、はるたで、 ”さんぶんこ”する!」
春汰「おぉ〜!?ひなちゃん優しいっすね〜!」
ひな「えへへ♪」
望「”さんぶんこ”か・・・」
望「まぁ、今日くらいは春汰を仲間に入れてやるか」
久々に聞いた娘の造語に和んでいた俺は
春汰が1日どころか数年に渡って我が家に住み着くことになることを、想像もできなかった・・・
現代社会は複雑でいろんな種類の家庭があるから、こんな三人の家族があってもいいですよね。何よりもひなちゃんが楽しそうだし。それにしても、「さんぶんこ」って可愛い言葉だなあ。
タイミングがピタッとあって3人の同居が始まった、っという潔い印象です。離婚して娘を育てるって女性でも男性でも大変なところ、嬉しい後輩の出現でしたね。