父より

めーぷる

息子へ(脚本)

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〇荒野
  いいか

〇湖畔の自然公園
  忘れるんじゃないぞ

〇森の中
  人間を恨むんじゃない

〇黒
  父さんは明日──

〇霧の立ち込める森
  父さんが眠っている森に入る
  霧が死者を弔っている神聖な場所だと昔聞いたことがあった
  どこに埋められているかわからないから、森に入ってすぐのところに花を置いた
  父さん・・・
  魔物たち泣いてたよ・・・

〇荒廃した教会
  なんでこんな・・・
  最後まで反撃しなかったのかよ・・・
  なんでいつも俺たちがこんな目に・・・

〇霧の立ち込める森
  ・・・
  帰ってきてよ・・・父さん・・・
  僕は聞こえるはずのない返事を待つように目を閉じた

〇荒野
  ゴン!!!!
  !!
  父さんの頭に石が飛んでくる
子供「やべ!マジで当たった!」
子供「食べられちゃう!!早く逃げよ!!」
  石を投げてきたであろう子供たちが慌てて村のほうに逃げていく
  父さんはぶつけられた部分を掻きながらやれやれとため息をついた
  父さん・・・
  一部始終を見ていた僕は小走りで父さんに近づく
  あいつら、なんでいつも遠くから石投げてくるんだ
  食べられちゃうから逃げろって・・・父さん一度も人間なんて食べたことないのに
  言ってるうちに悔しくて涙が溢れてくる
  嗚咽がまじってしまいそうで、ぐっと唇を噛み締めていると
  父さんは禍々しいオーラを纏った大きな手を僕の頭にのせた
父さん「人間は弱い生き物なんだ」
父さん「人間を恨むんじゃない」
父さん「いつかわかりあえる時がくる」
  そう言って優しく微笑んだ

〇湖畔の自然公園
村人「う、うわぁぁあああ!!!!!!!!」
村人「化け物だぁあああ!!!!!!!!!!」
魔物「い、いえ・・・私は・・・」
村人「俺たちの村を襲いにきたんだろ!!!!!!」
魔物「そんな、私はただ──」
村人「生きて帰れると思うなよ!!!!」
魔物「ひぃいいいい!!」

〇湖畔の自然公園
魔物「すみません・・・話し合いにもならず・・・」
  傷だらけの魔物が悲しげに頭を下げる
父さん「いや・・・いいんだ・・・大変な役割をありがとう」
  父さんが労うと、魔物は申し訳なさを残したままペコリと会釈してずしりずしりと森へ帰っていった
  父さん・・・
  茂みに隠れていた僕は寂しそうな背中に近づく
  父さんは目を丸くして僕を見た後、ため息をついた
父さん「見てたのか」
  僕は頷く
父さん「領土を決めてお互い仲良く暮らしていこうって伝えたかったんだけどな・・・今回は失敗だった」
  魔物の中でもとびっきりのイケメンに頼んだんだけどなぁと父さんは冗談を言って笑う
父さん「安心しろ」
父さん「父さんが必ず、人間と魔物の隔たりをなくすからな」
  父さんは僕に微笑んだ

〇森の中
魔物「人間共、他所の国から勇者を派遣したらしいですよ」
  父さんが魔物に詰め寄られている
魔物「いよいよ本格的に俺たちを潰しにかかってきますよ」
魔物「俺たちなんもしてないですよね 人間共の村に無断で入ったりもしてないですよね」
  魔物の語気が荒くなっていく
魔物「やれ金だ経験値だって土足で俺たちの森に入って荒らしてくのはあいつらじゃないですか!!」
魔物「俺たちが人間を襲ったことなんかただの一度もねぇのに!!!!!!!!」
魔物「いい加減俺たちも手をうたないと──」
父さん「待ってくれ」
  怒号を遮るように父さんは口を開いた
父さん「俺がなんとかする・・・」
魔物「・・・・・・」
魔物「早くなんとかしてくださいよほんと・・・」
魔物「勇者が来たら魔王のあんたが真っ先にやられますからね」
  うんざりした様子で去っていった魔物の後を見つめたまま動かない父さん
  魔物たちの怒りを一身に抱えた父さんの背中が少し小さく見えて、僕は声をかけることができなかった

〇黒
「・・・が・・・だ・・・」
  真夜中、話し声が聞こえて僕は目を覚ました
  瞼を閉じたまま耳に意識を集中させる
「教会だな。すぐに向かう」
「俺が1人で話をする。皆は森で隠れていてくれ」
  何人かの足音がパタパタと遠ざかっていった
「・・・」
「わかりあいたいんだ」
「お前を拾った日からずっと考えていた」
  静かになった部屋で、父さんが寝ている僕に話しかける
「・・・経験値を積んだ勇者に挑まれれば、間違いなく父さんは生きては帰れないだろう」
「だが、わかりあえると信じて行ってくる」
「お前と堂々と暮らせる日を父さんが作ってくる」
  禍々しくて大きくて優しい手が僕の頭を撫でる
「父さんは明日──」
  ──帰ってくるからな──

〇霧の立ち込める森
  父さん
  禍々しくも大きくもない手に力がこもる
  わかりあえる日は本当にくるのかな
  魔物を侮蔑する人間と同じ瞳から涙がこぼれる
  父さん・・・
  僕は明日──

コメント

  • 何も悪いことはしてなくて、言葉も通じる相手に対してやることではないですよね。
    無差別に魔物を殺していては、どっちが悪かわかったものじゃないですよね。

  • 動物ならそうですが、自分たちより力を持っている人たちに恐怖し、手を取り合うということに抵抗をもってしまう気持ちもわかります…。しかし共存という選択肢をもつ人間がいてくれればと思います。

  • 胸をうたれました。アイデアを父子に引き直してお話を書かれたのが素晴らしいと思います。シンプルなタイトルとサブタイトルが荘厳です。

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