ぼくは明日、天女になる君に恋する

桜舞衣

天女の舞(脚本)

ぼくは明日、天女になる君に恋する

桜舞衣

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  ――僕が20歳のころ、天女の舞で

〇雪山
  僕は純平。20歳。大学生。
  そのとき奈良の大峯山にひとりで登山していた。

  雪原の「天女の舞」で、僕は天女に会った。

〇雪山
  白衣をまとった長い髪の女が、華麗な舞を舞う。

〇雪山
  彼女は舞をやめ、黒々とした目で僕を見つめる。

  清楚で品があり、見るのが恐ろしいような美少女だ。

  年のころは僕と同じ。

〇雪山
純平「純平「君は・・・・・・誰?」」
  そう言った瞬間、その女性は泣いた。

〇雪山
舞「「おぼえていない? 私は、舞」と女が言った」
純平「純平「どうしてここに?」」

〇雪山
舞「舞「あなたに会いに来た」」
純平「純平「僕に?」」

〇雪山
舞「舞「そう。生れ出ることが怖かった。でも、あなたに会いたかった」」
  彼女は僕に抱きつき、キスをした。

  その瞬間、彼女は・・・・・・消えた。

〇ボロい山小屋

  ――僕が21歳のころ、避難小屋で

  舞が消えた瞬間、僕は大峯山の避難小屋でうずくまっていた。

  小屋には暖房器具も明かりもない。寒さで身体がマヒしてくる。

  僕は深い眠りに入ってゆく。このまま凍え死ぬのだろう。

  暗闇の中、唇に優しいぬくもりを感じる。

  舞だ。あのときのキスの感覚は、身体の奥にずっと残っている。

  温かな息が、口移しで僕の身体の中に運ばれてくる。

〇ボロい山小屋
純平「純平「君は・・・・・・舞なのか」」
舞「舞「そう」」

〇ボロい山小屋
純平「純平「僕の名前は純平。君はどこから来たの?」」
舞「舞「あなたの隣の世界」」

〇ボロい山小屋
純平「純平「隣の世界・・・・・・」」
舞「舞「あなたの世界の、すぐ隣。私も同じ世界にいる。でも、時間の流れが違うの」」

〇ボロい山小屋
純平「純平「さっき、天女の舞で君に出会った。なのに、なぜ?」」
舞「舞「あの時、私たちは二十歳。でも今、あなたは二十一歳で、私は十九歳」

「すでに一年が過ぎたの」

〇ボロい山小屋
純平「純平「君はいったい、誰?」」
舞「舞「私は五歳のころ、あなたに助けてもらった。今度は、私があなたを助ける」」

  あれは夢だったのか。

〇雪山
  翌朝。目覚めると、吹雪は止み、青空が広がっていた。

  舞の姿はなかった。

  僕が大峯山を下山すると、すでに一年が過ぎていた。

〇渋谷の雑踏

  僕は行方不明となり、大騒ぎになっていた。

〇大きな木のある校舎

〇教室

  ――僕が24歳のころ、高校の教室で

  僕は職員室から教室へと向かう。今日から新学期。

  今は二十四歳。

  僕は高校教師になっていた。

〇教室
  授業が始まる。

  一番後ろに座っている女子生徒に目が入った。

  舞だ。

  若い。

  だが、確かに舞だ。

  彼女の黒々した瞳が、僕を見つめている。

  彼女も、僕だと気づいている。

〇植物園のドーム

  次の日曜、僕たちは植物園で会った。

〇植物園の中
  僕たちは手をつなぎ、互いに見つめあい、微笑んだ。

〇植物園の中
純平「純平「舞に会いたかった」」
舞「舞「私も、純平に会いたかった」」

〇植物園の中
純平「純平「君は十六歳。どんどん若返ってゆくのか?」」
舞「舞「最初に出会った時、私たちは二十歳。それは、あのとき、ほんの一瞬だけ」」

〇植物園の中
純平「純平「舞、僕には君を助けた記憶がない」」
  舞の目から突然、大粒の涙があふれた。

〇植物園の中
純平「純平「君は、僕の未来を知っているんだね」」
舞「舞はうなずいた」

〇植物園の中
舞「舞「私は転生し、二十歳となって生まれ変わる」」
純平「純平「君にとって、二十歳が、0歳なのか?」」

〇植物園の中
舞「舞「そう。あなたに会いたかった」」
純平「純平「僕もだ。君と一緒にいたい」」

〇植物園の中
舞「舞「私も。初めてあなたに会った時、なんて素敵な大人の男性と思った」」
純平「僕は、舞の髪にふれようとした」

〇植物園の中
  舞は美しく微笑した。

〇植物園の中
  舞は、ひょんと消えた。

〇植物園の中

〇大学病院

〇古い図書室

  ――僕が30歳のころ、診療所で

  高校教師はクビになった。

〇手
  匿名の人から、おたくの学校の教師と生徒が手をつなぎ、キスをしていたとの情報が寄せられたからだ。

〇水たまり
  僕は心を病み、社会で生活することができなくなった。

〇幻想
  診療所に強制入院させられた。

〇壁
  僕は三十歳になっていた。

〇雪山

〇ボロい山小屋

〇古い図書室
  朗読の時間だった。

  僕はソファーに座って目を閉じていた。

〇古い図書室
  いつもと違う少女の声が聞こえた。

〇モヤモヤ

〇モヤモヤ
  そっと目を開ける。
  天使のような可愛い少女。

〇雪山

〇古い図書室

〇幻想
  舞だった。

〇幻想
  舞はにっこり微笑む。

〇幻想
  詩を朗読する。

〇幻想
  眠ってゐた
  夢のない眠りだった

〇モヤモヤ
  見まはすと
  わたしはどこにもゐなかった

〇雪山
  こはかった

〇古い図書室
純平「純平「誰の詩?」」
舞「舞「吉原幸子よ」」

〇幻想
純平「純平「舞に会いたかった」」
舞「舞「私も、純平に会いたかった」」

〇幻想
純平「純平「君は幾つになる?」」
舞「舞「十歳よ」」

〇幻想
純平「純平「君は幾つになっても可愛いなあ。きっと、お婆ちゃんになっても可愛いよ」」
舞「舞「ありがとう」」

〇幻想
純平「純平「一緒にいよう」」
  舞はうつむく。

〇幻想
舞「舞「あと少しだけ。どんな姿になってもいいから、純平に会わせて下さいって、神さまに祈ったの」」
純平「純平「舞、愛している」」

〇幻想
舞「舞「純平、愛している。それだけ伝えに来た。もう長くいられない」」
純平「純平「お願いだ。もう少しそばにいて欲しい。もう少し」」

〇幻想

〇幻想

〇幻想
  その瞬間、十歳の舞も消えた。

〇幻想

〇壁

〇壁

〇雪山

〇雪山

〇教室

〇教室

〇幻想

〇モヤモヤ
  ――永遠の眠りの中で

〇幻想
  僕は三十五歳。

〇幻想
  診療所を抜け出し、雪の大峯山へと向かった。

〇星座
  この不確かで不完全な世界のどこか。

〇雪山
  雪が舞う。

〇雪山

〇雪山

〇リンドウ
  純平「舞、僕の命をあげよう。君は僕に会いにくればいい」

〇水たまり

〇水の中
  僕は青い水脈のひとつになった。

〇ソーダ
  春の雪解け水となった。

〇水たまり
  ブルーに透き通る水の中に、溺れている少女を見つけた。

〇幻想空間
  僕は青龍となり、少女を救う。

〇水中
  少女の唇にキスする。暖かな息を吹き込む。

〇山中の滝
  君への想いがあった。

〇森の中
  どこでもない

〇村に続くトンネル
  どこか

〇霧の立ち込める森

〇宇宙空間

〇地球

〇幻想空間
  明日、

〇幻想空間
  天女の、

〇幻想空間
  舞の、
  隣で。

コメント

  • 切ないラブストーリーでしたが、捉えようによってはこれでハッピーエンドなのかもしれない…と思いました。
    住む世界が違う二人が、一緒になるにはこうするより他なかったのかもと。

  • 切ない、切ない、切ないです。本当に愛しあ合う2人には、心さえあればそれでいい、そんな気持ちが十分に伝わってきました。いいストーリーでした。

  • 風景と心情が伝わってきました!
    時間軸、年齢が違えど愛は変わらない、うーんなんか切なくもありあったかくもありますね…。
    どこの世界でも変わらないんだろうなぁ。

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