読切(脚本)
〇黒背景
『家族すごろく』
それは最高の人生ゲーム
誰しも一度は願ったことがあるだろう
もし今と違う人生だったら・・・
生まれる時代がちがったなら・・・
もっと良い人生を遅れたかもしれないのに
そんな夢のような話
けれどもし、それができたなら?
もし今、子どもに戻れたなら
あなたは何がしたいですか?
〇古い洋館
福引きの懸賞で当たった一泊二日の旅館を訪れた佐々木家
しかし目の前に映るのは、全く別の建物だった
佐々木 茉莉「・・・ねえ、これ写真と違うわ」
佐々木 茉莉「もっと山奥にあるんじゃないかしら」
佐々木 吾郎「いや、地図は間違いなくここを示してる。とりあえず行ってみよう」
三人は車から降り、荷物をもって建物に向かった
〇洋館の玄関ホール
佐々木 茉莉「おかしい、本当におかしいわ。 扉も開いていたし」
佐々木 吾郎「きっと鍵をかけなかったんだよ、事前に電話も入れていたもんだから」
佐々木 吾郎「にしても、驚くほど立派な建物だな」
佐々木 茉莉「あっ、あなた・・・! 太一がいないわ!」
佐々木 吾郎「なんだって! 入るときはいたよな?」
佐々木 茉莉「ええ、少しの間目を・・・ごめんなさい」
佐々木 吾郎「とにかく、捜しにいこう」
〇洋館の一室
佐々木 吾郎「太一、こんな所にいたのか!」
大声を聞きつけ、茉莉がやってくる
佐々木 茉莉「太一どうしてこんな場所に・・・。心配したのよ」
すると突然、太一が右手を差し出した
佐々木 吾郎「何か拾ったのか?」
佐々木 吾郎「へんな形のサイコロだな。数字も飛び飛びになっているし・・・ん、これは」
偶然にも、一番大きな数が自分の年齢である42だと気づいた
佐々木 吾郎「太一、これどこで拾ったんだ」
太一が指を差した先には、テーブルに奇妙なゲーム盤が置かれていた
佐々木 吾郎「なるほどこれは立派な双六盤だな」
木造りの巨大な双六盤の正面には名前が掘られていた
佐々木 吾郎「『家族すごろく』──面白い名前だな。少しやってみようか」
佐々木 茉莉「貴方、もう帰りましょう。太一も見つかったことだし」
佐々木 茉莉「ちょっと気味が悪いわ、ここ」
佐々木 吾郎「心配いらないさ、少し遊ぶだけだ。すぐ終わる」
すると太一がさっそく椅子に飛び乗った
吾郎も空いている席に腰を下ろした
佐々木 吾郎「ほら、君も座りなさい。立っているのもしんどいだろう」
佐々木 茉莉「・・・ええ」
吾郎は盤上を見つめた。古いゲーム盤らしく、分身もすべて木製である
すると、自分の名前が書かれた木片を見せてきた
佐々木 吾郎「なるほど、それを駒に見立てるのか」
吾郎はマジックで木片の表面に姓と名を書き記した
そして太一がもう一つスタート地点に駒を置く
そこには茉莉の名前が記されていた
佐々木 茉莉「太一、あなたまた・・・」
佐々木 吾郎「良いじゃないか、太一も母さんと遊びたいんだろう」
佐々木 茉莉「仕方ないわね、早く終わらせましょう」
〇洋館の一室
まず初めに、太一がサイコロを降った
佐々木 吾郎「六か、まあいいんじゃないか」
太一が駒を動かす
佐々木 吾郎「『学校をサボる』か。いかんぞそんなのは」
続いて吾郎がサイコロを降った
佐々木 吾郎「8か、小さい数字しか出ないな」
言いながらもそのマスに駒を置くと、突然脳裏に別の景色が思い浮かんだ
〇教室
森島 あんず「で、話ってなに?」
吾郎「う、うん。実は・・・」
吾郎「好きだ、あんずちゃん。 僕と付き合ってほしい」
森島 あんず「ふーん・・・ま、いいよ 勇気出してくれたし」
吾郎「ほ、ホント?」
森島 あんず「まあぶっちゃけ? 嬉しいっていうか、言ってくれるの待ってたのはあるし」
森島 あんず「でも、ホントに告白してくるなんて思わなかった」
森島 あんず「やるじゃん」
〇洋館の一室
佐々木 吾郎「っ、うっ・・・なんで今こんなことを」
佐々木 茉莉「あなた、どうしたの?」
佐々木 吾郎「いや、なんでもない・・・っ、ああ」
佐々木 吾郎「ほら、君の番だ」
佐々木 茉莉「え、ええ・・・13、かしら」
〇教室
花園 三咲「ねえこれ、見てみて」
女子A「あ、それ見たことある。かわいい!」
花園 三咲「いいでしょ、お母さんに買ってもらったんだ」
花園 三咲「アクセとか付けてデコるのとか楽しいしオススメだよ!」
茉莉「あの、それ。わたしも持ってて」
花園 三咲「えっ、そうなの? ちょっと見せて」
花園 三咲「へー、かわいいじゃん。あたしのと同じくらい」
茉莉「そ、そう・・・かな」
花園 三咲「ねえ、今度あたしの家おいでよ。いっしょにデコろ」
茉莉「う、うん!」
〇洋館の一室
佐々木 茉莉「っ、うっ・・・」
佐々木 吾郎「ま、茉莉!? 大丈夫かい!?」
佐々木 茉莉「ごめんなさい・・・ちょっと昔の記憶が」
佐々木 吾郎「いや、いいんだ。僕もそうだから」
佐々木 吾郎「さあ、続けよう」
佐々木 太一「・・・」
佐々木 吾郎「職業マスか、どれ私も」
〇汚い一人部屋
???「仕事? うん、まあ夜関係」
???「こっちでも稼げるけど、一応固定給もらってた方が安心できるでしょ?」
???「彼女? うーん、まあ一応いるよ。いや○○○とかないわ」
扉の音「コンコン」
???「じゃあそろそろ切るね、みんなお疲れ様ー」
???「お疲れ様、中入れよ」
???「うん」
〇ネオン街
キャッチ「お姉さん美人だねー、こういう仕事興味ない?」
???「おう兄ちゃん、俺の女に用でもあるのか?」
キャッチ「いやいやそんな違いますよ、勘弁してくださいよダンナ」
???「あっ」
???「まあ月百万払えるなら考えてやってもいいけどな。ほら、いい声だろ」
???「いや、ちょっと・・・もうやめて」
キャッチ「確かに良い声だ・・・わかりました。百万払いましょう。そんかし、たんまり稼がせてもらいますよ」
〇結婚式場の廊下
神父「では、あなたは彼女を生涯を共にし、愛すと誓いますか?」
???「誓います」
神父「あなたは彼の者を夫とし、生涯愛し続けると誓いますか?」
???「はい、誓います」
神父「では指輪を通して誓いの口づけを」
〇大きい病院の廊下
医者「佐々木さん、生まれました。元気な男の子ですよ」
佐々木 吾郎「ほ、ほんとですか!」
佐々木 吾郎「ああ・・・本当だ。なんて・・・かわいいんだろう」
佐々木 吾郎「本当によく頑張ってくれたな、ありがとう」
「ええ、あなた」
〇洋館の一室
佐々木 吾郎「っ、うう・・・ッ」
佐々木 茉莉「ウウッ、どうして・・・こんな」
佐々木 太一「父ちゃん、母ちゃん・・・どうしたの?」
佐々木 吾郎「なんでも無いんだ・・・ただ、なんだか急に悲しくなってきて」
佐々木 茉莉「忘れていたことを思い出したみたい」
佐々木 吾郎「ああ、このすごろくのお陰だ。 憑き物が落ちたような気分だよ」
佐々木 太一「なんでえ、変なの・・・」
佐々木 太一「ほら、早く帰ろーよ」
佐々木 吾郎「そうだな、帰ろう」
佐々木 茉莉「そうね、でもその前に。太一・・・」
佐々木 茉莉「元気に育ってくれて、本当にありがとう」
佐々木 太一「へへっ・・・」
〇黒背景
『家族すごろく』
それは最高の人生ゲーム
もし見つけたときは、ぜひ一度プレイしてみてはどうだろう
きっと、あなたのいま一番大事なものが見つかるはず
途中で意味深なシーンがあったけど、この夫婦は今の幸せが実感できたようで何よりでした。でも双六の上がりまでの道のりはサイコロがどこに止まるかによって全然違ってくるからやっぱりまだまだ油断できませんね。
人生と言う道筋には、確かにいろんなイベントごとがあり、あたかも双六のようなものですね。この家族すごろくで過去を懐かしむのも未来に思いを寄せるのも魅力的ですね。
人の歩む道はほんとに双六でコマを進めるようなものなんだなあと改めて考えさせれらました。その道筋を辿って振り返った時に誤りを見出すのも又人生ですね。