硝子の花瓶 全十楽章

藤野月

第一楽章 愛の面影(脚本)

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藤野月

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〇大樹の下
  よく晴れた春の日の事だった。3歳になったばかりの野ノ花は、家族で家から5分の公園へピクニックに来ていた。
藤沢野ノ花「わー、たんぽぽいーっぱい!見て!蝶々が舞ってるよ。たんぽぽの蜜っておいしいの?」
母さん「そうね、甘い蜜を吸いに来てるんだね。 日差しが暑いね。風が気持ちいい。」
  小さな兄弟達は、皆で追いかけっこを始めた。5歳の姉、野ノ花、2歳の弟。皆スピードはどんぐりの背比べだった。
藤沢野ノ花「もー、無理!お腹空いた!」
母さん「よーし、じゃあそろそろお昼にしようか。皆ビニールシートひくの手伝って!」
藤沢野ノ花「はーい!」
母さん「よし、準備が出来たね。さあ今日のお弁当は・・・サンドイッチでした!タコさんのウィンナーもあるよ」
藤沢野ノ花「おいしい!お母さんの卵サンド大好き。タコさんもおいしいなー」
母さん「タコさんウィンナーっていうけどね、タコでできてるわけじゃないんだよ」
藤沢野ノ花「え!本当?ずっとタコだと思ってた。タコにそっくりなのに・・・」
母さん「うふふ、そうだね。材料は豚さんかな」
藤沢野ノ花「豚さんがタコになるんだ・・・不思議」
母さん「ね!今日もいっぱい発見があったね。 あ、こら、ちゃんとお野菜も食べること。 タコさんばっかり食べてると豚さんになるよ」
藤沢野ノ花「あははは!はーい!皆でお野菜も食べます。 あ、本当だおいしい。ほうれん草」
母さん「好きなのばっかりじゃなくて、色んな食べ物をバランスよく食べよう!」
藤沢野ノ花「はーい!」
  今振り返ってみると、誰にもまんべんなく愛を注いでくれた母が、野ノ花の人生観を形成していく元となった。
  そして、楽しかったピクニックは終わり、家へと帰る時のことだった。

〇川に架かる橋
藤沢野ノ花「あっ、母さん!小さな鳥が電柱のところに落ちてる。怪我してるみたいだよ!」
母さん「あら、本当。可哀想に、電柱の巣からカラスに落とされたんだね」
藤沢野ノ花「このままだと死んじゃうよ!病院に連れて行こう!」
母さん「あ、でも何とか歩けるみたい。骨は折れてなさそうだよ」
  一緒にいた父は大反対して、このまま踏まれないようにしてあげて帰ろう、と言った。
藤沢野ノ花「絶対いや!お家で餌を上げて飛び立てるようになるまで育ててあげる!」
母さん「ののちゃん。じゃあ、約束できる?小鳥さんがお腹空いたら、ののちゃんが食べさせてあげてね。そうできたら、いいよ」
藤沢野ノ花「うん!大丈夫!私が餌をあげる!」
  その時は分からなかったけれど、鳥は病気を持っていることもあるし、育てるのを許してくれる親はほとんどいなかっただろう。
  母の優しさに後押しされて、野ノ花は小鳥の「ピーちゃん」を育てることになった。

〇実家の居間
藤沢野ノ花「ピーちゃん!朝ごはんだよ。はいあーん」
  小鳥は元気よく餌を食べた。最初はどんな餌なら食べてくれるか試行錯誤しながらだったが、母さんが液状の餌を見つけてくれた。
藤沢野ノ花「おいしい?」
ピーちゃん「ぴー!」
藤沢野ノ花「よかった!ピーちゃんが元気になって」
母さん「あらほんと、羽を動かせるようになってきたね。もう巣立ちも近いかな」
藤沢野ノ花「えっ・・・ピーちゃん飛んで行っちゃうの?」
母さん「そうね。こんな狭い籠の中じゃ、ピーちゃん幸せになれないかな。広い空のを飛んでいたいんだよ」
藤沢野ノ花「ピーちゃんいなくなっちゃうんだ」
母さん「ちいママさんありがとうね、ののちゃん。よく頑張ったよ。でもいつか、子供は巣立っていくからね。ののちゃんも」
藤沢野ノ花「うん・・・また遊びに来てくれるかな?」
母さん「そうね。近くに住んでくれるといいね。さあ、籠を開けよう」
藤沢野ノ花「うん。さよなら!ピーちゃん」
  お互いの暮らしを考えたら、いつか離れる時が来る。そうでない関係のほうが少ない。
  だけど、愛し合えた時間を喜べたらそれって幸せだよね。そう思わせてくれた母さんは

〇広い和室
藤沢野ノ花「お母さん。今日も寝る前に本を読んでよ」
母さん「うん、いいよ。今日はどの本にする?」
藤沢野ノ花「この前の続編のがいい!」
母さん「うん、わかった。じゃあ・・・」
  寝る前に母さんに本を読んでもらうのが、藤沢家の習慣だった。小さなランプに照らされながら本を読む母さん。
藤沢野ノ花「母さんの声聞くと落ち着く・・・。この時間が大好きだな」
母さん「そう?よかった。じゃあ、もう眠そうだから終わりにしようか」
  ランプのスイッチに手を伸ばす母さんに、つい野ノ花は聞いた。
藤沢野ノ花「物語には色んな家族が出てくるけど、母さんはなんで父さんと結婚したの?」
母さん「ねー、ふふふ。ボランティア結婚だよ」
藤沢野ノ花「なにそれ!母さん変なのー」
母さん「はいはい、じゃあいい子はお休みなさい。ランプ消すよー」
藤沢野ノ花「おやすみ!」
  この言葉の本当の意味を知るのは、20年後。そんな事は少しも思いもせずに、幸せに包まれた野ノ花は眠りに落ちていった。

〇川沿いの原っぱ
  誰にも忘れたくないものってあるよね。その時は気づかなくても、いつの間にかかけがえのないものだった事に気づくことも。
  私にはそれが母の愛に包まれた幼少期でした。溢れるほどの想い出をありがとう、母さん。

次のエピソード:第二楽章 苦しみの足音

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