トラックキング

ミツメノヨイチ

トラックキング(脚本)

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〇パドック
小橋健一「すごいじゃないか!自己ベスト更新だ!」
仲野翔太「はぁ・・ありがとうございます!小橋さんのおかげですよ!」
小橋健一「このタイムなら来週の全日本で優勝すれば世界大会も見えてきたな!」
仲野翔太「任せてください!ってことで今日はもう上がっていいすかね?」
小橋健一「おいっ!まだメニューが残ってるだろ?」
仲野翔太「大丈夫っすよ!俺本番で発揮するタイプなんで!」
小橋健一「おいっ待て!まだ話は終わって・・・」
  仲野翔太。こいつは日本一の実力を誇る陸上選手だ。実力はピカイチだが過信しすぎるタイプ。

〇病院の診察室
  俺の名前は小橋健一。元陸上競技選手。今はスポーツトレーナーだ。
  練習中の事故から足に大怪我をし選手生命は終わった。今は歩くのがやっとだ。
  怪我をした当時、海外遠征で合宿を行っていたせいで満足な治療を受けることが出来なかった。
  羽村というヤブ医者に手術をされたことを覚えている。ろくな治療を出来なかった医者を今でも恨んでいる。
  今はトレーナーとして大学時代の後輩仲野翔太と二人三脚で頑張っている。翔太を世界一の選手にすることだけが俺の生きがいだ
  自分の夢を翔太に託しているような瞬間があって情けなくなる時もある。だけど今でも陸上に携われていることに誇りを持っている。
  はずだ。

〇パドック
  全日本トラックキング大会前日。
  翔太がいつまで経っても練習に現れなかった。
  トラックキングとは陸上競技の世界大会。様々な陸上競技の頂点に立つ世界で唯一無二の存在を決める大会。
  全日本で優勝すればいよいよ世界大会、トラックキングの称号も見えてくる。
小橋健一「あいつ何やってんだ!」
  何度も電話をかけているが留守電のままだ。すでに夜になっていた。
  小橋は愛用の杖を持って歩き出す。

〇街中の道路
  翔太の家にも行ってみたが不在だった。
  俺は街中を歩き回った。
小橋健一「あいつ!この2年間どんな思いでやってきたと思ってんだ!」
羽村「やっと見つけた!探したよ!」
小橋健一「あんたは羽村!何でこんなとこに!? 悪いが今あんたに構ってる暇はない!」
  重い足を引きずり杖を付き歩いていく小橋。
羽村「まぁ落ち着きなさい。君こそ、どうしたんだ足なんか引きずって。杖まで」
小橋健一「何だと・・・」
  立ち止まる小橋。
小橋健一「あんたのせいだろうが! このヤブ医者が! この怪我さえ無ければ俺だって!」
羽村「おや、おかしいな。確かに治るまで時間はかかるとは言ったが、感謝されても良いくらいにパワーーアップ!!させたはずだが」
小橋健一「はっ?パワーアップ?ふざけんな! 歩くことだって満足に出来ないんだぞ!」
羽村「それは君が勝手に決めつけているからだろ?せっかく足をパワーアップ!してあげたのに!」
  無視して行こうとする小橋。
羽村「仲野くんを探しているね?」
小橋健一「知ってるのか?翔太の居場所!教えてくれ!」
羽村「もちろん教えるさ!捕まえてごらん!」
  不格好に走り出す羽村。
小橋健一「おいっ!待て!」
  構わず走っていく羽村。
小橋健一「頼むっ・・待ってくれ!」
小橋健一「置いていくなっ!チクショー!くそ!」
  左足を引きずり、杖を手放す。クラウチングスタートの構えに入る小橋。体はぐらついている。
  脳内でスタートの合図がけたたましく鳴る。

〇幻想空間
  飛んでいるようだった。
  羽村の姿はすでにはるか後ろ。
  足は嘘のように早く軽やかに動いていた。
  どれくらい経ったか、後ろの方から羽村の声が聞こえ我に返った。
羽村「はぁ・・はぁ・・わたしに・・・まちがい・・はっ・・なーい!すっばらしー!」
羽村「君こそがトラックキング!!」

〇渋谷のスクランブル交差点
  気がつくと街中に出ていた。本当に走れたんだ。それも速い。
小橋健一「本当に・・・治ってる!」
羽村「だから言っただろ!おまけにちょーパワーアップだ!」
小橋健一「何なんだあんた? それより追いついたんだ。翔太はどこだ?」
羽村「何言ってんだ!仲野くんのことなんてもうどうだっていいだろ!?君の方が早いに決まってる。君の実力は世界だって狙える!」
小橋健一「俺が?また世界を目指せる・・・いや、とりあえず翔太を見つけたいんだ。頼む」
羽村「はぁどんだけお人好しなんだ君は・・まぁいいでしょう。ついてきたまえ」
小橋健一「・・・」

〇ホストクラブ
仲野翔太「みんな飲んでくれー今日は俺の奢りだ!」
羽村「いやー盛り上がってるね!明日は大事な大会だっていうのに困った子だ」
小橋健一「翔太何やってるんだ!こんなところで!」
仲野翔太「小橋さん!どうしてここが!」
小橋健一「お前自分が何してるのかわかってるのか!」
仲野翔太「ははっすいませんついプレッシャーに負けて」
小橋健一「いい加減にしろっ!お前の実力は認めるが真面目に取り組めない奴に成功は無い!」
  翔太の腕を掴み連れ出そうとする小橋。
小橋健一「帰るぞ!」
仲野翔太「離せよ!」
  小橋の腕を振り払う翔太。
仲野翔太「あんたの夢を俺に押し付けんな!もううんざりなんだよ!重いんだよ!」
小橋健一「翔太・・・」
羽村「だから言ったじゃないか小橋くん。君が付き添ってあげる必要は無いよ。トラックキングは君だ小橋健一」
仲野翔太「あんた誰だ?」
羽村「ただの友達だよ」
仲野翔太「小橋さんがトラックキングになるって?小橋さんはとっくに現役引退して・・足だって・・?」
  いつも杖をつきながら歩いていた小橋の手にすでに杖は無く堂々と立っている。
仲野翔太「小橋さん、杖は?」
小橋健一「ついさっき必要なくなったんだ。それに・・・お前に夢を託す必要も無くなった」
仲野翔太「え?」
小橋健一「お前の気持ちもよくわかった。 俺も・・・プレーヤーとしてもう一度参加させてもらうことにする!!」

コメント

  • 足が治ってたのに本人は気づかず…なんでしょうが、意図してなかったとは言え、荒療治が効いたのかな?とも思いました。
    もう一度自分で夢を追いかけられますね!よかったです!

  • 登場人物の会話のテンポがよくて最後までリズムよく読ませて頂きました。会話の内容から場面が想像できて読みやすかったです。もう少し続きが読んでみたい気がします。

  • 展開が面白くて、どんどん引き込まれました。とても続きが気になります!主人公は本当に治っているのか!?大会でどんな成績を残せるのか。そしてその先は…?

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