読切(脚本)
〇ファストフード店の席
西山幸子「美彩、お待たせ〜」
高校時代からの友人、幸子に彼氏が出来た。今日は私に紹介したいという
野村速人「どうも〜速人です!!」
伊藤美彩「あ──初めまして」
この男は、配信サイト「ニューマルチ」で活動しているという
二人の出会いを散々聞かされた後、男が配信を始めると言い出した
野村速人「よし、OK。始めるね〜」
野村速人「こんにちは!今日は、彼女の幸子とお友達の美彩ちゃんと俺で女子トークをしていきます!」
『美彩ちゃん、おはつー』
『お前いつから女子になったんだよw』
視聴者は少なく、コメントもちらほら
くだらない話ばかりだったが、何だか心地が良かった
幸子は自分が画面に映っていないことを確認し、トイレに行った
伊藤美彩「えっと、なになにー?」
コメントを読もうと携帯を触っていると、配信終了ボタンを押してしまった
間違えちゃった、ごめんなさい!!
野村速人「美彩ちゃんぶっ飛んでるねー!」
伊藤美彩「ニューマルチって動画もアップ出来ますよね、後で謝罪動画撮りましょ」
野村速人「おーそうしよ、よく知ってるね!」
伊藤美彩「あ、いやあ〜」
〇ファンシーな部屋
速人は連日のように配信し、幸子も参加するようになっていた。
幸子は視聴者からウケがいいようだ
〇男の子の一人部屋
ピエロ『視聴者過去最高の150人になった』
野村速人「あ、ピエロさんいつもありがとう!目標の1000人まで頑張るぞー」
『この調子じゃ1000人無理だろー』
ピエロ『そろそろ幸子ちゃん殺してみた配信してほしい』
『幸子ちゃん死んでも可愛いだろうなぁw』
お茶を運んできた幸子がチラッとコメントを見たが、苦笑いをするだけだった
野村速人「どうやったら閲覧増えるんだよ・・・」
〇男の子の一人部屋
とある夏の日、私は速人の家にいた
会話をしていると、玄関の扉が開き、誰かが家に入ってきた
さ、幸子!?明日来る約束だったろ!?
西山幸子「携帯出ないから来ちゃった〜」
西山幸子「って・・・え?美彩?」
予定が狂った。明日実行するはずだったのに──
野村速人「いやぁ・・・えっと・・・」
西山幸子「何?ちゃんと説明して!」
伊藤美彩「幸子、とりあえず落ち着いて。これでも飲んで」
幸子が速人に気を取られているうちに、睡眠薬を入れた飲み物を渡した
よほど暑かったのか、幸子はすぐ飲み物に口をつけた
伊藤美彩「実は、速人くんが、ニューマルチでの視聴者数に伸び悩んでて・・・」
それから数十分、幸子に迷惑をかけまいと私が相談に乗っていたと適当な事を述べ、弁解するはめになった
西山幸子「それで・・・今日は何をするの?」
そろそろ薬の効果が現れる頃だ
伊藤美彩「幸子を殺してみた配信することにしたの」
西山幸子「え──」
幸子は一瞬驚いたような顔をしたが、スっと眠るようにその場に倒れ込んだ
〇男の子の一人部屋
もう、今日やっちゃおう。携帯貸して
野村速人「えええ!やばい電池無い・・・」
伊藤美彩「てか、幸子いなくなるし、今度は私と付き合おうよ」
野村速人「何の冗談!幸子はずっと一緒だよ。冷凍庫で保存するし、俺の中で生き続ける」
野村速人「あ、美彩ちゃんの携帯で俺のアカウントにログインして撮ってよ」
私の中の何かがプツンと切れた。冷凍庫?幸子への愛情もここまで異常だとは・・・
あなたは私の物にならないわけか。それなら・・・
最後の幸子は私の物だ
〇男の子の一人部屋
伊藤美彩「今日平日だし、配信じゃ人集まらないかもよ?」
伊藤美彩「配信じゃ動画も残らないし、動画撮って後でアップしたら?そしたらいくらでも幸子の姿見れるよ」
野村速人「お、確かに!まぁ沢山の人が見てくれたらそれでいいもんな」
どうにか丸め込めたが、こいつは馬鹿なのか?
ふと幸子の言葉を思い出した
西山幸子「この人、ちょっと人間として欠けてる部分があるから、私が育てていきたいなぁって──」
そして素直で何か憎めないんだよなと心で思っていた
それから行動に移すまで時間はかからなかった
速人が幸子の首を絞め、一瞬幸子の目が開いた気がしたが、すぐに動かなくなった
私達は終始無言で、つまらない動画になってしまったが・・・
〇男の子の一人部屋
速人は手を離し、幸子に抱きついた
野村速人「幸子ぉ・・・今までありがとうなぁ・・・俺有名になるよ」
速人は私に出会わなかったら、今でもただの素直な馬鹿でいてくれたのだろうか・・・
後ろ姿を見てふとそう思った
野村速人「そういえば、どうやって俺のアカウントにログイン・・・」
〇玄関の外
速人がこちらを振り返るのと同時に、私は家を飛び出した
野村速人「え!?おいっ」
〇ファンシーな部屋
猛ダッシュで自宅に戻り、動画を確認した。今となっては、あの時速人の携帯の電池が無くて良かった
速人は、私が普段ニューマルチを視聴しているとは知らない。ましてやいつもあなたの配信にコメントしてるピエロだとは──
それにしても幸子に彼氏紹介されたときはビビったなぁ。好きな人が目の前にいるんだもん
幸子がトイレに立った隙に配信をワザと終わらせて連絡先を聞き出した。あくまでも相談相手として
伊藤美彩「一生バラすつもりなかったのに、こんな形で知られることになるとはね」
私はマイページから撮りたての動画を編集した
タイトル「私の幸子」
伊藤美彩「明日からどうなるんだろう私達──」
そう呟いて、動画を投稿した
閲覧数を増やすために、こんなことまでするとは…なんだかゾッとしました。
でも、極端ではあるけど、現代のネット社会の縮図のような気がしました。
それにしても女性はしたたかです。
女のしたたかさと男の無能さが強調されたストーリー展開に、ぐっと引き込まれていきました。人を好きになると狂ってしまう人がいるのですね。後引くお話でした。
誰も憎しみ合っているわけではないのにこういうことが起きる、という展開に驚きました。興味深かったです。ピエロさんの正体もみんなの本音?本性?も、明かされるまで全然分かりませんでした。