死神と最後のバースデーケーキ

朝永ゆうり

死神と最後のバースデーケーキ(脚本)

死神と最後のバースデーケーキ

朝永ゆうり

今すぐ読む

死神と最後のバースデーケーキ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇大きな木のある校舎
  どんよりとした雲が空を覆っている。
カスミ「こんな天気の日は、あの日を思い出しちゃうな・・・」
死神「カスミさんでいらっしゃいますか?」
カスミ「そうですけど・・・」
カスミ「誰?」
死神「私は死神です。 貴女を迎えに参りました」
カスミ「死神? この人、何を言って・・・」
死神「私が嘘をついているとでも?」
カスミ「え、口に出てた?」
死神「まさか。 分かるのですよ、私は人ではないので」
カスミ「そうなんだ でも、怪しい・・・」
死神「信じて貰えませんか?」
カスミ「信じられません それに、迎えに来たって・・・?」
友人「カスミ、何一人でぶつぶつ言ってんの?」
カスミ「え、私はこの人と・・・」
死神「私はお迎えに上がった方以外には見えないのです」
死神「死神ですから」
カスミ「じゃあ、貴方は本当に・・・?」
死神「ええ」
友人「カスミ、どうしたの? 何か変だよ?」
カスミ「う、うん・・・」
友人「あ、バイト先から電話だ! またね、カスミ!」
カスミ「ま、またね」
死神「またね、ですか」
死神「貴女に明日はないというのに」
カスミ「私、これから死ぬんですか?」
死神「ええ。 死神界のデータベースでは、この後亡くなる予定です」
カスミ「データベース?」
死神「はい。 全人類の死亡する日付の記されたデータベースがありまして、そこに名前が記された方を、私たち死神が迎えに来るのです」
カスミ「そんな・・・ どうにかならないんですか?」
死神「なりません」
カスミ「どうしてもダメですか?」
カスミ「せめて、明日まで!」
死神「どうしてそんなに必死になるのです?」
死神「今日も明日も、変わらないでしょう?」
カスミ「明日、妹の誕生日なんです。 私が祝わないと、あの子・・・」
カスミ「だから、せめて明日に!」
カスミ「妹の誕生日を祝ったら、地獄でもどこでも連れてっていいですから!」
死神「・・・・・・」
死神「いいでしょう。 但し、明日貴女を連れていくまで、監視させていただきます」
カスミ「え、ええ」
  カスミと死神は、こうして明日まで共に過ごすことになった。

〇住宅街の道
  家路につくカスミの横を、ぴったりくっついて歩く死神。
カスミ「本当についてくるんですね」
死神「逃げられてしまっては困りますから」

〇明るいリビング
カスミ「ただいまー」
死神「誰もいらっしゃらないのですね」
カスミ「ええ」
カスミ「両親は5年前の事故で他界して──」
カスミ「今は叔母の家に引き取られたのですが、帰りが遅くて」
死神「そうだったのですね」
カスミ「着替えてきますので、待っていてください」

〇綺麗なキッチン
  二人はキッチンに移動した。
死神「これから何を?」
カスミ「ケーキを作ります。 妹の、誕生日ケーキを」
死神「そうですか・・・」
  シャカシャカ・・・
  シャカシャカ・・・・・
  チーン
カスミ「出来ました」
死神「豪華ですね」
死神「きっと、妹さんも喜ばれますよ」
カスミ「そうだと、いいんですけど・・・」

〇女の子の部屋
  翌日。
カスミ「死神さんは気になるし、死ぬんだって思ったら全然眠れなかった・・・」
  カスミは出掛ける準備を済ませる。
死神「どちらへ?」
カスミ「妹の所に」
死神「分かっていらっしゃると思いますが──」
死神「お誕生日のお祝いを終えたら、貴女は・・・」
カスミ「はい・・・」

〇海岸線の道路
  途中花屋に寄り、二人は妹の元へ向かう。
死神「妹さんはこの先に?」
カスミ「ええ。もうすぐ着きます」

〇墓石
カスミ「着きました」
  カスミは墓石を綺麗に磨いてお花を活け、その前にケーキをお供えした。
カスミ「妹はここに。 両親と共に、事故で亡くなりました」
死神「なぜ、誕生日を?」
カスミ「普通は命日にお参りに来るんでしょうけど──」
カスミ「私には、家族がここにしかいないから」
カスミ「普通の家族のように、お誕生日をお祝いしたかったんです」
死神「そうだったのですね」
  お墓の前で手を合わせるカスミ。
  しばらくすると、閉じていた目を開けて死神の方を振り返った。
カスミ「もう、いいですよ」
死神「はい?」
カスミ「妹の誕生日、お祝いできました。 私を連れていくんですよね?」
死神「・・・・・・」
死神「気が変わりました」
カスミ「え?」
死神「貴女は、お強くなられたのですね」
カスミ「・・・?」
  死神はふっと頬を緩めると、カスミの目をじっと見つめる。
死神「5年前のことを、ずっと後悔しておりました」
死神「なぜ貴女を残してしまったのだろう、と」
カスミ「え?」
死神「5年前のあの日、貴女のご家族を連れていったのは私です」
死神「貴女だけがデータベースに載っていなくて、連れていけなかった」
死神「あの日、唯一取り残された貴女の表情が忘れられず──」
死神「いつか貴女をお迎えに来れるよう、データベースの改竄(かいざん)を試みておりました」
カスミ「そんな・・・」
死神「やっとデータベースを書き換え、貴女をお迎えできるようになったのですが──」
死神「その必要は無かったようですね」
カスミ「じゃあ、私は・・・」
死神「ええ、死にません」
死神「いや、死なせません」
死神「先ほどの姿を見て、貴女には生きて欲しいと思いました」
死神「生きて、毎年妹さんのお誕生日をお祝いして欲しい」
死神「来年も、ケーキを作ってあげてください」
カスミ「・・・」
  お墓を振り返るカスミ。
カスミ「また、来年もお祝いさせてね」
死神「では、私はこれで」
カスミ「え、行っちゃうんですか?」
  カスミが言い終わる前に、死神は消えていなくなってしまった。──
カスミ「ありがとう、死神さん・・・」

〇謁見の間
  死神界に戻った死神は、王に自身の罪を告白した。
死神「データベースの改竄・・・重刑も免れないだろう」
死神「まあ、それも覚悟の上だ。 悔いはない」
  やがて王がやってきて、死神に刑を言い渡す。
死神界の王「そなたの犯した罪は重罪」
死神界の王「よって、消滅を言い渡す」
死神「やはり。 私の存在は、抹消される」
死神界の王「異義はあるか?」
死神「いいえ」
死神界の王「明日、そなたの消滅の儀を行う」
死神「はい」
死神「消えてしまう前日に、彼女に会えて良かった」
死神「彼女が強かに生きていてくれて、良かった」
  翌日、彼の消滅の儀が行われた。
「あのケーキ、私も食べてみたかった・・・」
  彼は消え行く直前、柔らかな笑みを浮かべていた。
  Fin.

コメント

  • ども、イチです✌🏻
    コレが初めての作品なんですか!?
    スゴイ!素晴らしい展開で驚きました🤭
    影響受けちゃうな〜✍🏻

  • 物悲しいけれど、優しいお話だなと思いました。
    自身の行いに後悔したり、データを改ざんしたり、人間味あふれる死神のキャラクターが魅力的です。
    彼の消滅後を色々と想像したくなるストーリーでした。

  • 死神さんがせつせつと後悔と願いを伝えるシーンにぐっと来ました。死神としての消滅の先、優しい彼が彼女と再び出会える未来を夢想してしまいますね…
    素敵な作品を生み出してくださりありがとうございます。

コメントをもっと見る(7件)

成分キーワード

ページTOPへ