「ありがとう」を伝えるべきだよ

Sylph

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〇一人部屋
凛「そういえばさぁ、はじめて会ったときのこと覚えてる!?」
雅「えっ? 急にどうしたの?」
凛「いいじゃん!」
雅「そうだなぁ。 俺がまだ、高3だから・・・」
雅「かれこれ5年前になるのか・・・」
雅「随分、日が経つのがはやいなぁ・・・」
凛「・・・だよねぇ・・・」
雅「あの頃は、 少しでも同じ時間を過ごしたくて、 毎日のように会ってたっけ!?」
凛「ええ~!! 今は!?」
雅「いまは・・・ ほら・・・ いっしょにいるよ!?」
凛「そうだね・・・ うん」
  彼も、彼女も、すでに知っている。自分たちの他愛もない話が、限りある時間を侵食していること。
  それでも、「伝える」ことが出来ないこと。

〇一人部屋
凛「えへへ・・・」
凛「はじめて会ったとき、 すっごいドキドキしたんだよっ!」
雅「ええっ~!そんなことないだろ!?」
雅「ずっと下向いて黙ってなかったっけ!?」
凛「恥ずかしかったからだし・・・」
雅「まぁ、俺も緊張してたかも」
凛「ふふっ じゃあ、一緒だね!?」
凛「けど、 クリスマスの頃には慣れてきたかも・・・」
雅「それは、それでさみしいね」
凛「はじめて貰った クリスマスプレゼントは うれしかったなぁ・・・」
雅「あのときは・・・ ほらっ」
凛「なぁ~に~?」
雅「はじめてのプレゼントだったから」
雅「ちゃんとしたかったんだ」
凛「す~ッごい! 嬉しかったんだよッ!」
凛「バイト! いっぱい頑張ってくれてたの覚えてる!」
雅「バイトのこと知ってたの?」
凛「知ってたよ。 会う時間が少なくなってたし・・・」
凛「さみしかったし・・・」
雅「そっか、バレてたのか」
凛「大学入ってからも、 バイトばっかしてたし・・・」
雅「ほら、それは」
雅「いろいろと社会経験を積んでだな」
凛「いいよ!! わかってるから」
凛「イベントがあるたびに、 プレゼントも用意してくれて・・・」
凛「すっごいうれしかったの!! 今でも、覚えてる」
雅「いま思えば、 ちょっと背伸びしすぎてたかも・・・」
凛「いろんな友だちも出来たよね!?」
雅「そうだったね」
凛「一緒にいろんなところに 出掛けていったり、」
凛「みんなでワイワイ楽しかったなぁ・・・」
雅「そういえば、あいつらどうしてるんだろ!?」
凛「なんだか・・・ 懐かしいね」
  刻一刻とそのときは近づいてくる。このときの「時間」はこちらから近づいているのか?それとも「時間」が近づいてくるのか?
  いずれにしても、何も「伝える」ことが出来ないまま、そのときは確かに近づいてくる。

〇一人部屋
凛「あっ! 思い出した・・・!」
凛「・・・浮気!?」
凛「浮気してたでしょ!?」
雅「えッ!? どういうこと!?」
凛「ワタシ知ってるんだから!!」
雅「ええぇぇぇ! なに言ってるかわからないよ~っ!」
凛「だって、みんなで海行ったあと、 全然、会ってくれなかったし・・・」
凛「会いに来てくれても、 ちょっとだけだったし・・・!?」
雅「いや、あのときは・・・」
雅「バイト掛け持ちしててさ、 それで・・・」
凛「えっ! そうなのっ!」
凛「学生だったのに!? 働きすぎじゃない・・・!?」
凛「けど、他の子にプレゼント 渡してたんでしょ!?」
凛「知ってるんだから・・・!」
雅「いや、違うんだ!」
雅「ほらっ、 あの頃ってイベント続きでさ・・・」
雅「メンバー減ってきてたんだよね」
雅「だから、サポーターの娘に・・・」
雅「力をつけてもらってたんだ」
凛「ホントに?」
凛「浮気じゃ・・・ないの・・・?」
雅「もちろん」
凛「・・・じゃあ・・・」
凛「そういうことにしとくね!」
雅「うん」
凛「フフフ・・・」
凛「バイト掛け持ちって・・・ 大変だったでしょ!?」
雅「かなりね・・・」
雅「若さで乗り切ってきたのだよ!」
凛「さっすがぁ!」
雅「まだまだ、若輩者ですけどね」
凛「い~っぱい! 頑張ってくれてたんだね!!」
凛「嬉しい・・・」
雅「ホント・・・ 寝る暇惜しんで、バイトして」
雅「全部が!」
雅「キミの・・・た・・・!?」
凛「・・・うん」
雅「ホントに、 キミの・・・」
凛「・・・」
凛「・・・うん」
  「彼」も「彼女」も、そのときが来たことを察知していた。「伝える」のか?「伝わる」のか?わからないことだけがわかっていた。
  あと、90秒
  90秒も「ある」と考えるのか?
  90秒しか「ない」と考えるのか?
  誰かが言った。好きにすればと良いと・・・

〇一人部屋
凛「もっと、たくさんの時間、一緒にいたかったなぁ・・・」
雅「そうだね・・・」
凛「せっかく逢えたのに・・・」
雅「・・・そうだね」
凛「ねぇ、 忘れないでいて・・・ くれますか・・・?」
雅「えッ! なんだよ!?突然!?」
雅「そんな言い方されると、 もう会えないみたいだろ!?」
凛「・・・」
凛「忘れないで・・・ いてください・・・」
凛「忘れないで・・・ ほしいです・・・」
凛「ワタシ、 ここにいたよ!?」
凛「だから、ここにいたこと・・・ 忘れないで欲しいです・・・」
雅「・・・」
雅「あたりまえだろ!? 忘れるわけないだろ!?」
凛「フフッ! うれしい」
凛「けど、いつかは・・・ 誰かにプレゼントしたりするんだよ!?」
雅「・・・そうかもな・・・」
凛「あぁ~! 浮気だぁ!!」
雅「どうしても、ダメなのかな・・・?」
雅「もっと、一緒に!」
凛「ほら、メソメソしてたら・・・ダメだよ・・・」
雅「・・・うん」
雅「忘れないよ!? ぜったいに」
凛「・・・うん」
凛「ありがとう」
雅「どういたしまして」
「・・・」
「本アプリは終了しました」
  【重要】サービス終了のお知らせ
  平素よりご愛顧頂き、誠にありがとうございます。この度、本アプリは、サービスを
  終了させていただくことになりました。ご愛顧いただいたお客様には突然のお知らせとなりましたことを、お詫び申し上げます。

コメント

  • 読んでいて感じた”違和感”がラストで解消されました。それにしても、現実の恋愛よりも切なく悲しい感情がひしひしと伝わってきました。

  • 最後のオチで全部わかって「そうだったの?」ってなりました。
    サービス終了するアプリも多い中、結構長く続いているのでは?と思いました。
    クリスマスプレゼントって、ひょっとして課金?かなと。

  • ありがとうって誰かに言うと自分も自然に優しい気もちになれますよね。私もありがとうを欠かさない日常を心がけているので、とても共感できるお話でした。

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