Marguerite(脚本)
〇戦線のテント
「マーガレット・・・」
「こんな所まで連れて来てしまって済まない」
「だがお前には傍にいてほしかったんだ」
曹長「私は明日、突撃する」
曹長「お前は生きてくれ。私の分までどうか・・・」
そして明日が来た。
〇戦線のテント
上等兵「貴様、自分が何をしたか分かってるのか!」
二等兵「・・・」
軍曹「どうしたんだ?」
上等兵「この者が亡き曹長殿の大切な」
少尉「私が命じたのだ」
軍曹「か、閣下」
少尉「ここは戦場である。あのような軟弱者の妾など不要である」
軍曹「妾などと」
少尉「妾のようなものであろう」
二等兵「お、俺は言われた事をやっただけですぜ。褒美を」
少尉「そうだ。ただの命令だ。配置に戻れ」
二等兵「そ、そんな」
少尉「これくらいの勤めしかできぬ、逃げ回ってばかりの臆病者め!戻れ!」
二等兵「ひっ!」
少尉「お前達もだ。この砦はわが軍最後の要。決して気を緩めるでないぞ」
軍曹「やれやれ。曹長殿もとんだ形見を残してくれたな」
一等兵「でも曹長殿は立派なお方でしたよ。我々を庇ってシンガリを務めて下さいました」
一等兵「少尉閣下は妬ましいんです。その勇気と優しさが」
軍曹「口が過ぎる」
一等兵「も、申し訳ありません」
上等兵「軍曹殿。マーガレット殿は今後、私がお世話させて頂いてよろしいでしょうか?」
一等兵「そんな。あのお方は僕達のアイドルなんですよ。僕達全員で・・・」
上等兵「その結果あのような下衆を近づけたではないか!あやつ、マーガレット殿を足蹴にしおったと聞くぞ!」
軍曹「静まれ」
軍曹「ではお前の監視のもとみんなでお世話いたせ。それでいいな」
上等兵「しかし・・・」
軍曹「命令だ」
上等兵「了解しました」
一等兵「良かった。では失礼します」
上等兵「くれぐれもあの男を近づけるな!」
軍曹「確かに閣下の言う通りかも知れない」
軍曹「炎と鉄以外の匂いが若い者達の気を緩ませている」
軍曹「そう考えれば、あれは我々の明日を奪う死神なのかもな」
上等兵「軍曹殿」
軍曹「口が過ぎたな」
〇城壁
一等兵「マーガレット。一緒にいられて嬉しいよ」
一等兵「これからはずっと僕が・・・」
一等兵「だ、誰だ!」
二等兵「上官殿、そいつは呪われてるんでしょ?」
二等兵「そいつに関わったヤツはみんな死ぬんだ。だから曹長殿も」
一等兵「黙れ!僕はお前とは違う!マーガレットも砦も守りきってみせる!命をかけて!」
一等兵「分かったら消えろ!」
二等兵「うひっ!」
一等兵「守ってみせる・・・」
そして明日が来た。
〇戦線のテント
軍曹「我が兵士達も随分減った」
軍曹「息子であり、弟であり、友だった」
軍曹「なのに何故お前は生きている?」
軍曹「何故まだここにいる」
軍曹「答えろマーガレット!」
上等兵「ぐ、軍曹殿!おやめください!」
軍曹「・・・」
軍曹「すまぬ。埒もない真似をした」
上等兵「軍曹殿・・・」
軍曹「いよいよ本当にお前が世話をせねばならぬほど兵士がいなくなってしまったな」
二等兵「へへ、何なら俺がお世話いたしましょうか?」
上等兵「貴様!」
二等兵「お、俺は軍曹殿に聞いてるんだ」
二等兵「そいつは呪われてんだ。そいつに関わったやつはみんな死ぬ。だから俺がいっそ」
軍曹「お前には愛する者はいるか?」
二等兵「へ?」
二等兵「いるわけねえでしょ。いたらこんな所で褒美目当てに戦ってねえし」
二等兵「親も兄弟もみんな戦争で死んじまった。もうどうでもいいっすよ、こんな世の中、こんな未来」
二等兵「こんな明日なんか、どうでも」
軍曹「そうか」
軍曹「我々はそんなものの為に戦っている」
二等兵「・・・」
軍曹「お前にマーガレットは任せられんな」
二等兵「ケッ!」
軍曹「似ているのか?誰かに・・・」
上等兵「娘に似ています」
上等兵「だから戦います。だから守ります」
軍曹「俺も亡き妻に見える時がある」
軍曹「全く、どうかしてるな」
上等兵「どうかしてるのは、戦争です」
そして明日が来た。
〇城壁
軍曹「随分元気がないな、マーガレット」
軍曹「すまぬ。もう俺くらいしか相手をしてやれぬ」
軍曹「それともお前が面倒をみるか?」
二等兵「・・・」
軍曹「俺達は多分、国の為にこの砦を守ってるんじゃない」
軍曹「恋人の為、娘の為、アイドルの為に戦ってるんだ」
軍曹「お前に言わせれば、それが呪いというヤツなんだろうな」
二等兵「俺にはもうそんな人間はいねえです」
軍曹「俺にもいない」
軍曹「だが『愛』ってヤツはまだ生きてる。今も俺の中で」
軍曹「お前はどうだ?」
二等兵「・・・」
そして明日が来た。
〇戦線のテント
二等兵「・・・」
少尉「矢尽き刀折れ、今はお前とマーガレットだけとはな」
二等兵「か、閣下・・・」
少尉「臆病者め。卑怯者め」
少尉「隠れ、潜み、逃げ回って生き延びたか」
少尉「失うものも守るものも無い人生ならば、いっそここで私が終いにしてくれようか」
二等兵「か、閣下は!」
二等兵「閣下は何の為に戦っておられるのですか!」
少尉「なに?」
二等兵「俺は死ぬのが怖い。でも生きるのも辛い。たったそれだけの人間です」
二等兵「俺は何の為に生まれてきたんだ。ただ妬んで、僻んで、恨んで、憎んで、怯えて、泣いて、それだけの・・・人生・・・」
少尉「何の為に戦う・・・」
少尉「ふむ・・・確かに考えた事もなかった」
少尉「お前達卑小な者と違って、戦う事を宿命づけられた家柄ゆえな」
少尉「いいだろう」
少尉「ではお前を逃がす為に戦うとしよう」
二等兵「え?」
少尉「せいぜい逃げ延びて、生きる理由とやらを見つけてみせろ」
少尉「逃げた先で見つけられるものならばな・・・」
二等兵「・・・」
そして明日が来た。
〇戦場
敵兵「生き残っている者はおらぬか!潔く出てこい!」
敵兵「投降するならば捕虜として命だけは助けてやる!」
二等兵「・・・」
敵兵「投降兵か」
敵兵「何だ『ソレ』は?」
二等兵「へへっ・・・」
二等兵「『愛』だよ」
二等兵「守ってんのさ。命をかけてな!」
敵兵「もの狂いめ」
二等兵「ぐわっ!」
二等兵「マーガレット・・・」
敵兵「こんなもの・・・」
敵将「どうした?」
敵兵「狂人が紛れ込んでおりました。戦で頭をやられたのかと」
敵将「それは?」
敵兵「こやつが守っておりました。愛だそうです・・・」
敵将「・・・」
敵兵「気味が悪い。踏み潰しておきましょう」
敵将「よせ!」
敵将「・・・捨て置け」
敵兵「はっ」
敵将「愛か・・・」
戦場での極限状態と、そこで心の拠り所とした”マーガレット”、、、ヒトの姿を描き出したキレイな物語だと感じました。美しいラストですが、そのお花の素材は……(←無粋)
何かを守るために戦っているつもりでも、いつの間にかそれらを見失ってしまうことが多いと思いますが、彼らはマーガレットだけは大切にしていたんですよね。
心のよりどころだったんでしょうか。
戦争って何のためにしてるんだろう?戦争で負けた者は死んでいくだけで虚しい。これからの時代は核戦争が主流なのかな?そしたら、人は守れるものが何もなくなる。