読切(脚本)
〇シンプルな一人暮らしの部屋
辰部 仁郎「また君か・・・」
辰部の家族「僕以外は健康だからね、言いたいことはないんだろう」
辰部 仁郎「何か言いたいことがあるのか?」
辰部の家族「君は目の手術受ける気はないのかい?」
辰部 仁郎「あぁ手術が成功しても完全に回復するわけじゃない」
辰部 仁郎「病気の進行が止まるだけだっていうじゃないか」
辰部 仁郎「眼帯でもして片目に慣れておけば大丈夫だ」
辰部 仁郎「それに失敗したら金が勿体無いだろう」
辰部の家族「そんなこと言わないでくれよ」
辰部の家族「僕は今の限られた視界だけでも」
辰部の家族「まだ…」
辰部の家族「君と同じ景色を見ていたいんだ」
〇児童養護施設
今日は久しぶりに恩人に挨拶に来た
辰部 仁郎(明日は店の予約が入っているしそろそろ帰るか)
辰部 仁郎「今日は久しぶりに会えて良かったです」
柳牛 一人「私も久しぶりに会えて嬉しいよ そういえば今仕事は何をしているんだい?」
辰部 仁郎「今は店を経営してるんです」
辰部 仁郎「分かりやすく言えばカウンセラーみたいなものなんですけど」
あなたの悩み解決します
悩みを解決出来なければ料金はいりません
【家族サービス】
辰部 仁郎「家族サービスっていうのが店の名前なんですが」
辰部 仁郎「明日予約も入ってるのでまた今度ゆっくり話しましょう」
柳牛 一人「そうかやりたいことが見つかったのか 良かったよ」
柳牛 一人「私も残された時間はすくないからねまた近いうちに会うとしよう はっはっは」
辰部 仁郎「ふふ、それも数十年前から言っていますね 元気そうで安心しました」
振り返ると手を振っていたので振り返した
今日は久しぶりに会えて良かった
たまには会いに行かないとな・・・
〇パールグレー
俺は天涯孤独だった・・・
いつの間にか見えるようになった
そいつらを家族と呼んだのも
俺のことを知っている
家族と呼べる存在が欲しかったから
なのかも知れない
〇暖炉のある小屋
辰部 仁郎(そろそろ来る頃か・・・)
殻空 輝「どうも、初めまして」
辰部 仁郎「初めまして、ご依頼ありがとうございます」
辰部 仁郎「こちらに座ってください」
辰部 仁郎「この店はどうやって知りましたか?」
殻空 輝「以前知人がこの店で世話になったらしくて」
殻空 輝「他の人では解決できないこともここなら解決できるというので来てみたんです」
殻空 輝「解決できなければ無料でいいところなんて他では見たことないですしね」
辰部 仁郎「紹介でしたら、この店のシステムは聞いてますか?」
殻空 輝「いえ、それが言ってみてからのお楽しみだというので言ってくれなくて・・・」
辰部 仁郎「ふふ、そうですか、では最初に料金の説明等をするので少し時間をください」
殻空 輝「はい」
辰部 仁郎「説明は大丈夫でしたか?」
殻空 輝「はい、大丈夫です」
辰部 仁郎「分かりました」
辰部 仁郎「まずはあなたの悩みを教えてください」
殻空 輝「私は殻空 輝って名前で漫画を描いてるんですが」
辰部 仁郎「本当ですか!? 人気作家じゃないですか」
殻空 輝「えぇ、ありがたいことに皆見てくれてるんですが・・・」
殻空 輝「最近利き手動かなくなる時があって・・・病院に行ったんですが」
殻空 輝「漫画家をやめようか迷っているんです」
辰部 仁郎「どうしてです?」
殻空 輝「病院で診てもらったら悪くなると絵が描けない状態になるらしいんだ」
殻空 輝「それでまだ書けるうちに綺麗に終わらせてやめようと思うんです」
辰部 仁郎「手術したら治ったりしないんですか?」
殻空 輝「手術したらうまくいけば治るらしい」
殻空 輝「だが・・・」
殻空 輝「失敗したら動かせなくなるらしいんだ」
殻空 輝「それで迷っていてね」
辰部 仁郎「アシスタントの人に書いてもらってストーリーだけ考えたりはできないんですか?」
殻空 輝「それも考えた、ただ理由は分からないんだが…」
殻空 輝「ただ、自分の手で書かないとが面白い漫画が描けないんだよ」
辰部 仁郎「・・・分かりました」
辰部 仁郎「輝さんは描き続けたいんですか?」
殻空 輝「当たり前だ、ただ…勇気が出ないんだ」
殻空 輝「今日は背中を押してもらいに来たんだ」
殻空 輝「僕は家族がいなくてね、一人でいると失敗するのが怖いんだ」
辰部 仁郎「そうですか、それなら解決出来そうです」
辰部 仁郎「今から少し話すので待っていてください」
殻空 輝「は はぁ 分かりました」
辰部 仁郎「君はどう思ってる?」
殻空の家族「俺は漫画を続けてほしい、あいつはずっと努力してきた」
殻空の家族「それにあいつが漫画を描くときは俺も一緒に頑張れてる気がするんだ・・・」
辰部 仁郎「失敗したら腕は動かせなくなるらしいがそれでもか?」
殻空の家族「それでも・・・だ 俺のためにも続けてほしい」
辰部 仁郎「俺の家族でも一人だけ変わったやつがいるが、お前もそうらしいな」
殻空の家族「お前は俺たちのようなものを家族と呼んでいるのか?」
辰部 仁郎「あぁ俺のことをずっと大切に思ってくれているからな」
辰部 仁郎「身体の持ち主の家族と考えている」
殻空の家族「俺たちを家族何て言うやつは初めて見たな」
殻空の家族「まぁお前以外に姿を見られたこともないはずだがな」
辰部 仁郎「そうだろうな、そんな噂も聞いたことはない」
殻空 輝「すみません、今は何をやっているのでしょうか?」
辰部 仁郎「あぁすみません」
辰部 仁郎「今はあなたの家族と話しています」
殻空 輝「私には家族なん・・・」
辰部 仁郎「私は人の身体の意志を視ることができるんです、例えるなら別人格のようなものですかね」
殻空 輝「別人格を家族と呼んでいるのですか?」
辰部 仁郎「別人格といっても皆性格も違い身体の持ち主のことを思ってるんです」
辰部 仁郎「だから私は家族と呼んでいるんです」
殻空 輝(なるほど、あいつが言ってたのはそのことか・・・)
殻空 輝「その・・私の家族はなんと?」
辰部 仁郎「漫画は続けてもらいたいらしい」
辰部 仁郎「それと俺のためにも続けてほしいとも・・・」
殻空 輝「それを私の家族が?」
辰部 仁郎「ええ」
辰部 仁郎「まだ 話の途中だったのでもう少し話してみますね」
殻空 輝「いや、もう大丈夫です」
辰部 仁郎「始まったばかりですがもういいんですか?」
殻空 輝「私の家族が続けてほしいと思ってるなら」
殻空 輝「それだけで手術を受ける気力になる」
殻空 輝「今度読んでみてくれませんか」
殻空 輝「私の作品を、必ず再開して完結させるから」
辰部 仁郎「ええ、必ず読みます」
殻空 輝「本当ですか、良かったです」
辰部 仁郎「あなたの家族にも聞きたいことかはありませんか?」
殻空 輝「いや、これから連載していく時に毎回聞きたくなっては困りますから」
殻空 輝「私が漫画を描き終えて引退するときに聞きに来ることにします」
殻空 輝「それまで家族サービスも続けていてくださいね」
辰部 仁郎「それは大変ですね」
辰部 仁郎「でも・・・できる限りは続けますよ」
殻空 輝「お互いに頑張りましょう」
殻空 輝「今日はもう帰ります、休載の準備と連載再開の準備をしなくては」
殻空 輝「ありがとうございました」
辰部 仁郎(・・・・・・)
辰部 仁郎(今日は早かったな、早く帰ってゆっくりするか)
〇シンプルな一人暮らしの部屋
辰部 仁郎「そうだ・・・電話でもしておくか」
「おお 仁郎か、急に電話をしてどうしたんだ」
辰部 仁郎「明日にでも相談したいことがあるのでまた会いませんか?」
「あぁ明日は無理だから明後日にしよう、仁郎は大丈夫か?」
辰部 仁郎「はい、大丈夫です」
「そうか、上手い飯でも食べに行くか?」
辰部 仁郎「はい、そうしましょう」
辰部 仁郎「最近人気の漫画を買っていくので、私が施設に迎えに行きますよ」
「前みたいに途中で続きが出なくなる奴はやめてくれよ」
「子供たちが続きを見たがっても私にはどうしようもないからな」
辰部 仁郎「えぇそれは大丈夫です、きっと最後までやってくれますよ」
「そうか分かった、よく分からないが子供たちも喜ぶよ」
辰部 仁郎「はい、明後日家を出る前に一回電話します」
「分かった、またな」
辰部 仁郎「ふう、相変わらず電話だと声がでかいな」
辰部 仁郎(少し横になるか・・・)
辰部 仁郎(そういえば…)
辰部 仁郎(輝さんも知人の紹介って言ってたな)
辰部 仁郎(知り合いの紹介以外の客も増やさないとな・・・)
辰部 仁郎(今度、店の紹介動画でも考えてみるか)
〇歴史
家族サービスなら
あなたの悩みを解決します
あなたの来店をお待ちしております
誰にも言えない悩みでも
一人じゃ解決できなくても
あなたの事を大事に思っている家族は必ずいます
たとえあなたが天涯孤独だとしても…
作品が描く独特な「家族」という存在に惹きつけられました。ご先祖様でも守護霊でもなくて、本人の深層心理を反映した別人格みたいなものなんでしょうか。他人ではないけれど自分でもないその存在を「家族」と称して人生の指南を仰ぐ家族サービス。本当に興味深い世界観の物語でした。
いわゆる一般的な家族サービスという印象を100セント覆されたとても興味深いストーリーでした。彼の手によって、実際の家族より深い想いや理解のある自分の内側にいる家族と交信できること、とても魅力的なサービスですね。