こどもの命が輝く場所(脚本)
〇桜並木
私がどれだけ呼びかけても
あの子は振り返らない、、、
どんな想いで
桜の花びらを
見上げているのだろうか、、、
伝えたい想いも
届けたい言葉も
抱きしめたいカラダも
一陣の風が
私とあの子の間を
遠ざけてしまう、、、
〇林道
北海道の某所
真奈美「もう少し、歩いたら着くはずよ」
タケオ「・・・」
真奈美「・・・」
真奈美「ヒナも楽しみよね、、 久々の退院なんだもの、、」
ヒナ「・・・」
〇田舎の病院
自然豊かな郊外に佇む、木造建築の施設
こどもホスピス『サアラのおうち』
小児がんや重度の障害など
日本には約2万人の「命の危機に瀕したこども」がいる。
ここは、そんなこども達や家族が訪ねてくる、日本でも数少ない場所。
真奈美「こんにちは。 先日、お電話した平野というものですが」
お待ちしてましたーーー!!
マコ「ようこそ!! こどもホスピス「サアラのおうち」へ!!」
マコ「はじめまして! ジェネラルマネージャーのマコです!」
真奈美「はじめまして。 平野真奈美、、です」
タケオ「・・・」
ヒナ「・・・」
真奈美「主人のタケオと娘のヒナです」
真奈美「ヒナ、ご挨拶は?」
ヒナ「・・・」
真奈美「す、すみません、、、」
マコ「全然、大丈夫ですー ヒナちゃん、宜しくね!」
ヒナ「・・・」
マコ「今日は、ゆっくり 見学しちゃってください!!」
タケオ「・・・」
〇中庭
マコ「ここの施設のプレイグラウンドです」
マコ「こども達はここで、ボール遊びやプール遊びもするんですよ!」
真奈美「わー、プール遊びができるなんて!」
真奈美「ヒナも、入院する前は良くプールに行ってたもんね!」
ヒナ「・・・」
真奈美「・・・」
タケオ「プール遊びって、、、 感染症とか問題あるんじゃ無いんですか」
真奈美「タケオさん、、 そんな言い方しなくても、、、」
マコ「お父さんが心配されるのも ごもっともです、、、」
マコ「お子さんの状態によっては 出来ない時もあります」
マコ「でも、私たちのモットーは、 こども達の「やりたい!」を形にしてあげることです」
マコ「そのために、お子さんからヒアリングして、私たちに何ができるかを一緒に考えていきます」
マコ「ここに来るこども達は、 いつも、ツライい入院生活で「やりたいこと」を我慢しています」
マコ「だから、ここに遊びにきてそれを思いっきり形にして欲しいんです」
タケオ「・・・」
タケオ「こどものやりたい事?」
タケオ「ヒナは、いつ体調が悪くなるかわからないんだ!」
タケオ「この子に何かあったら、アンタは責任が取れるのか!?」
マコ「・・・」
マコ「こども達の容体には 私たちは常に、細心の注意を払っています」
マコ「地域の病院やクリニックと連携をとりながら、あらゆるケースに対応できるようにしています」
マコ「看護師のニッシーです!」
ニッシー「はじめまして!」
ニッシー「ここに来る前は、小児病棟で看護師をしてました!」
ニッシー「ヨロシクね! ヒナちゃん!」
ニッシー「ヒナちゃんは、ここでどんなことがしてみたい??」
ヒナ「・・・」
真奈美「ヒナは、入院する前はピアノを弾いてたんです、、、」
真奈美「色々な事情があって、、 ピアノのレッスンにも行けなくなってしまったんですが、、、」
真奈美「ヒナは、 またピアノ、弾きたいよね?」
ヒナ「・・・」
ニッシー「ピアノ!」
ニッシー「ちょうど先週、グランドピアノが届いたんです!」
マコ「楽団の方々が寄贈してくれたやつだね〜」
ニッシー「グッドタイミングです!」
ニッシー「ヒナちゃん、一緒にグランドピアノ 見に行こっか!!」
ヒナ「!!」
真奈美「お母さんも、グランドピアノ見たいなー!」
ヒナ「・・・うん」
ニッシー「さっそく、行ってみましょー!」
マコ「・・・ お父さんは、行かないですか?」
タケオ「・・・」
マコ「お父さんには、こどもホスピスの事」
マコ「もっと知って欲しいです!」
タケオ「・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
マコ「ここは、ご家族が利用して頂ける部屋です」
マコ「自由にキッチンで料理したり、 もちろん泊まって頂くこともできます!」
マコ「おっきいお風呂もあって、家族全員で入れるから」
マコ「親御さんからも大人気なんです!」
タケオ「・・・」
タケオ「結構、本格的なんだな、、」
マコ「ここにある物は全て、最高の物を揃えてます」
マコ「『神は細部に宿る!』」
タケオ「・・・なんです、、、それ?」
マコ「オーナーのアタルの口癖です」
マコ「この「こどもホスピス」は、幼なじみのアタルと作ったんです」
マコ「私たちもニッシーも 色々な想いがあって、ここを作りました」
マコ「ここに来るこども達は、今できることをやらないと」
マコ「この次は、出来ないかもしれないんです」
マコ「だから、その時にできる 最高のものを与えてあげる!!」
マコ「それが、私たちが大切にしていることです」
タケオ「・・・」
タケオ「これだけの施設を使うには 結構な料金を取るんだろ??」
マコ「いいえ」
マコ「全部、無料です!」
タケオ「は?」
マコ「ここの維持費や運営費の全ては、協賛企業や個人寄付で賄われてます」
マコ「施設で利用してる物のほとんども、寄贈品なんです」
タケオ「・・・」
マコ「たくさんの人たちの支援を受けて 私たちはここを運営しています」
タケオ「・・・正直、驚いた」
タケオ「思っていたのとは、だいぶ違った」
マコ「・・・」
タケオ「はっきり言う。 あんたが、気に食わないんだ」
タケオ「なんで、そんなにヘラヘラ出来る!?」
マコ「・・・」
タケオ「ヒナはな、医者に見放されたんだ!」
タケオ「これ以上、どうする事も出来ないって、、」
タケオ「長い入院生活で、注射や手術や抗がん剤治療を必死に頑張って」
タケオ「医者の言葉を信じて、、、 俺たちの言葉を信じて、、、 あんなに頑張って来たのに、、、」
タケオ「なのに、なんで!!」
マコ「・・・」
タケオ「ホスピスって、死を看取る場所だろ」
タケオ「余命宣告された患者が、ただ死を待つだけの場所じゃないか!」
タケオ「そんな場所に、娘を連れて来るなんて どうかしてる、、」
マコ「・・・」
マコ「ヒナちゃんのお父さん、、、」
マコ「ここは「死を看取る場所」じゃないです」
タケオ「!?」
マコ「ここに来るこども達は、自分のやりたい事で胸を一杯にしてやってきます」
マコ「友達と誕生日パーティーをしたいこども」
マコ「兄妹と泥遊びを思いっきりしたいこども」
マコ「お父さんとお母さんと、ピクニックをしてお弁当を食べたいこども」
タケオ「・・・」
マコ「ここはそれが形に出来る場所」
マコ「辛い入院生活で、我慢していた「やりたい」が出来る場所」
マコ「ヒナちゃんのお父さん、、、」
マコ「こどもホスピスは「生きる為の場所」なんです!」
マコ「こどもが子供らしく、輝ける為に」
マコ「わたし達はここにいるんです」
タケオ「・・・」
マコ「そろそろ、ヒナちゃんの所に 戻ってあげましょうか」
タケオ「・・・」
〇豪華な客間
ヒナ「・・・お母さん」
真奈美「ん?」
ヒナ「あの歌、、歌って」
真奈美「あの歌?」
ヒナ「ヒナがピアノ弾くから、、」
ヒナ「お母さんは、歌って、、、」
真奈美「・・・うん!」
ヒナ「・・・」
真奈美「・・・」
タケオ「・・・」
マコ「・・・ヒナちゃん」
マコ「上手です、、、」
タケオ「・・・」
タケオ「ずっと、、、」
タケオ「忘れてたなぁ、、」
タケオ「ヒナが、、、 あんなに楽しそうに、、、」
タケオ「ヒナが、、また、、」
タケオ「笑ってくれるなんて、、、」
マコ「ヒナちゃんのお父さん、、、」
タケオ「・・・」
タケオ「マコさん」
タケオ「・・・あなたの言う通りだ」
タケオ「ここは・・・」
タケオ「「生きる為の場所」だ!」
マコ「・・・はい!」
ヒナ「・・・」
ヒナ「お父さーん!」
真奈美「タケオさん、、!」
タケオ「ヒナ、、 上手じゃないか、、」
タケオ「また、ピアノ、、、」
タケオ「・・・好きなだけ、弾きなさい!」
ヒナ「・・・」
ヒナ「うん!!」
マコ「・・・」
マコ「・・・」
マコ「・・・」
〇見晴らしのいい公園
マコ「・・・」
アタル「一人で何、やってんだ」
マコ「あ、、アタル、、、」
マコ「・・・」
マコ「なんか・・・」
マコ「思い出しちゃって、、」
アタル「・・・」
マコ「私は、、、」
マコ「ちゃんと、出来てるのかな、、?」
アタル「・・・」
マコ「ちゃんと、娘の想いに」
マコ「向き合えてるのかな、、」
アタル「・・・」
アタル「お前の、心の中で」
アタル「アイツは、、、」
アタル「何て言ってる?」
マコ「・・・」
マコ「・・・」
マコ「・・・」
マコ「・・・」
マコ「・・・」
マコ「まだ、、分からないの」
マコ「あの子が、何て言ってるのかも」
マコ「どんな顔、、」
マコ「しているのかも、、、」
マコ「何にも、、、」
マコ「わからないんだ、、、」
〇桜並木
娘は今も
一人で桜を見上げている
私がどれだけ呼びかけても
背を向けたまま
小さな手のひらで
花びらを受け止めている
伝えたい想いも
届けたい言葉も
抱きしめたいからだも
私と娘の間に
一陣の風が吹き上げ
その全てを
遠ざけてしまう
神様、、、
もう一度だけ、、
どうか、、、
どうか、、、、
ホスピスと聞くと命が燃え尽きる場所というイメージがありますが、最後まで思い残すことなく命を輝かせる場所でもあるということですね。最初は心を閉ざしていたヒナちゃん自身や懐疑的だったお父さんにもマコさんの思いが伝わったようでよかった。重いテーマでありながらも一筋の光が見える展開でした。
マコさんとアタルさんは自分達の心残りな部分を、同じ境遇をもつ親御さん達の為に、後悔のない家族の時間を過ごしてほしいと、こういう場を作り上げたんですね。きっともう彼等の娘さんは桜を見ながら微笑んでいると思います。
色々と考えさせられる作品でした!
娘が大きな病気で苦しんでいて両親は心配や辛い気持ちでいっぱいだろうから、悲観的になってしまう気持ちは、子供がいないながらにも何となく想像出来ます。
子供が元気に産まれてくれて病気も無く健康に育つのは当たり前なことでは無いと改めて実感しました。
辛い気持ちは消えないと思うけれど、この家族にどうか少しでも心癒される瞬間がありますように。