エピソード1(脚本)
〇街の全景
18年ぶりに戻ってきた函館の街は、あの頃とはだいぶ変わってしまった。
「竹に短冊七夕祭り、大いに祝おう、ローソク1本頂戴なー♪」
〇街の全景
函館では、七夕の時期に子どもたちが提灯を持って近所の家を回る。
そして、子どもたちは両手いっぱいのお菓子をもらうのだ。
北のハロウィンと呼ばれるこの行事は、ローソクもらいと呼ばれ、北海道の伝統行事の一つとなっている。
秋山裕介「・・・・・・」
もう覚えている人は少ないかもしれないが、当時十二歳だった僕たちは、あのとき一つの奇跡を起こした。
——7月7日、七夕の夜に
〇白
7月6日のスタンド・バイ・ミー
〇田舎の学校
18年前 7月1日
〇体育館裏
秋山裕介「・・・・・・」
伊藤伸生「・・・・・・」
秋山裕介「・・・で、どうなんだよ、作戦は」
伊藤伸生「偏差値72の、ボクの脳内コンピューターで出した計算だ。作戦に抜かりはない」
秋山裕介「ほんとかよー」
伊藤伸生「カズミーの弱点は蛇だ」
伊藤伸生「あれを教壇の下に忍ばせれば、奴はパニックになり、最後は泡を吹いてぶっ倒れる」
秋山裕介「なんで泡吹くってわかんだよ」
伊藤伸生「マンガではたいていそうなる」
秋山裕介「マンガかよ! あてになんねーよ!」
伊藤伸生「すでに作戦の下準備は済んでいる」
秋山裕介「下準備?」
伊藤伸生「優秀な特派員を先に忍び込ませてある」
秋山裕介「まさか・・・!」
〇役所のオフィス
こいつがカズミーこと佐々木和美(ささきかずみ)、28歳独身。うちの学校の膿(うみ)だ。
趣味は酒と競馬と生徒いじめ。
だが残念なことにこいつはクビにならずにいる。親が元校長とか、色々噂はあるが・・・
ハラリ、と和美の顔から新聞が落ちる。
佐々木和美「・・・・・・」
先生も生徒も、この悪魔的美貌にやられてしまうのだ。
〇体育館裏
秋山裕介「お前、特派員って・・・」
井戸端学「おおい! 教壇の下に蛇を忍び込ませてきたよ!」
秋山裕介「ば、ばかやろう! でかい声で言うな!」
伊藤伸生「蛇、見つかったのか?」
井戸端学「本物の蛇なんて無理だよ! 駄菓子屋でおもちゃの蛇調達してきた」
伊藤伸生「チッ。でかい図体してるくせして」
伊藤伸生「まあいい。蛇は蛇だ」
秋山裕介「てか、なんでカズミーは蛇が苦手なんだ?」
伊藤伸生「なんでも、小さいときに蛇にかまれたことがあるらしい」
伊藤伸生「3組の授業のときに、カズミーが自分で言ってたらしい」
井戸端学「あっ。蛇の目にも涙ってやつだね」
伊藤伸生「・・・それを言うなら鬼の目だ」
秋山裕介「どうでもいいけど行くぞ!」
秋山裕介「今日という今日こそ、奴を退治してこの学校に平和を取り戻す!」
伊藤伸生「今まで泣かされてきた、多くの生徒たちのために!」
井戸端学「てか主に俺たち3人だけど!」
秋山裕介「いざ、出陣!」
〇教室
——ガヤガヤ
秋山裕介「ふっ、これからここが地獄になるとも知らないで」
伊藤伸生「ああ、今日という今日がボクたちの独立記念日だ!」
美砂「あっ、また悪ガキ三人組が悪だくみの顔してる!」
秋山裕介「うっせえ! 何が悪ガキだ! 女はすっこんでろ!」
美砂「何よ! 悪ガキは悪ガキじゃない!」
美砂「和美先生も言ってたもん! あいつら三人は顔面も心も偏差値低いから近づくなって」
秋山裕介「あのやろう! 差別だ! 偏見だ! 訴えてやる!」
伊藤伸生「まあ落ち着け、裕介(ゆうすけ)」
伊藤伸生「キレるのは偏差値が低いと証明しているようなもの。ボクのように——」
美砂「伸生(のぶお)くんは、メガネがのび太みたいだって言ってた」
伊藤伸生「誰がのび太だ!」
伊藤伸生「このやろう! ぶっ殺す!」
——ガチャリ
美砂「あっ、先生来た!」
〇教室の教壇
佐々木和美「さてさて、かわいい生徒諸君。 今日も元気かなー」
〇教室
伊藤伸生「くっそー、あのやろう!」
井戸端学「伸生、落ち着けって」
伊藤伸生「お前だって、どうせデブの芋虫って言われてんだぞ!」
井戸端学「なんですと!」
〇教室の教壇
佐々木和美「コラコラ。また悪ガキ3人組か、朝からやかましいのは。さては便秘だな」
生徒たちから笑い声が漏れる。
〇教室
秋山裕介「くっそー。 笑っていられるのも今のうちだぞ」
伊藤伸生「裕介!」
秋山裕介「ああ!」
ゆっくりと手を上げる裕介。
秋山裕介「先生!」
秋山裕介「あの、先ほど教壇の下に、変なものがありました!」
秋山裕介「確認してから授業に入った方がいいかと!」
佐々木和美「変なもの?」
教壇の下を探る和美。
佐々木和美「これか・・・」
秋山裕介「生徒の安全を第一に考えれば、空けて中を確認したほうがいいかと!」
佐々木和美「あ、そう」
佐々木和美「そんなに言うなら・・・」
ゴソゴソと箱の中に手を入れる和美。
佐々木和美「うーん、取れないなぁ」
佐々木和美「ちょっと裕介、学(まなぶ)。 あんたたち手伝って」
「!」
秋山裕介「へ? 俺たち? なんで?」
佐々木和美「あんたたち、お手伝い係でしょ?」
井戸端学「出た! お手伝い係という名の雑用なんでも係・・・」
佐々木和美「早く来なさい!」
秋山裕介「くそ。伸生!」
伊藤伸生「行け、怪しまれるぞ」
秋山裕介「あー。もう! なんなんだよ!」
〇教室の教壇
箱の中に手を入れる、裕介と学。
秋山裕介「うわっ! なんだこれ!」
井戸端学「へ、へ、蛇だ〜!!」
〇教室
佐々木和美「ふっははは!」
佐々木和美「かかったな! 愚か者ども! あたしをハメようなんざ、一億二千万年早い!」
秋山裕介「蛇が苦手なんじゃなかったのかよ!」
佐々木和美「愚かな! 有能な教師がいつまでも弱点を持ったままだと思うな!」
井戸端学「ていうか、なんで本物!?」
佐々木和美「あんたらの悪だくみに気づいて、あたしが裏庭で調達したんだ」
秋山裕介「くっ! 悪魔かっ!?」
佐々木和美「ふっははははは!」
秋山裕介「・・・ダメだ。 完敗だ・・・」
〇田舎の学校
結局、仕込んだ蛇は失敗。
悪だくみのバレた俺たちは、散々掃除をやらされる羽目になり、今に至る。
〇学校の屋上
秋山裕介「夕日が、眩しいなあ」
井戸端学「なあ、もうカズミー退治するのやめねえ? いつまでも勝てない気がする」
伊藤伸生「諦めたらそこで試合終了だぞ」
伊藤伸生「・・・って昔マンガで言ってた」
「・・・・・・」
秋山裕介「あー! くそ! カズミーのやろう!」
秋山裕介「なんとかギャフンと言わせてえ!」
伊藤伸生「あ、噂をすれば!」
〇グラウンドのトラック
「先生、さようなら!」
佐々木和美「さようなら〜」
〇学校の屋上
井戸端学「・・・美人だよなあ、カズミー」
秋山裕介「ば、ばかやろう! 誰があんな!」
井戸端学「彼氏とかいんのかな」
伊藤伸生「ボクの脳内コンピューターでは、99%、その可能性はない」
秋山裕介「彼氏なんかいるか! あんなやつ!」
裕介の大声で、校庭の和美が三人に気づく。
秋山裕介「や、やばい! 気付かれた!」
和美、三人にニコッと笑いかけ——
伊藤伸生「あ、あのやろう・・・」
秋山裕介「こ、このままで終われるか!」
秋山裕介「明日こそ! 明日こそやり返す! そんで函館の街に平和を取り戻す!」
「おう!」
手を重ね、誓いを立てる三人。
〇田舎の学校
カズミーこと、佐々木和美、28歳独身。
一部の生徒(俺たち3人)には嫌われているが、多くの生徒や、男の先生からは慕われている。
がさつで野蛮な女・・・。
〇黒
そんなカズミーを学校で見たのは、今日が最後になった。
こんなことになるなんて、その時の俺たちは少しも知らないままだった。