リリカルルララ

jloo(ジロー)

リリカルルララ(脚本)

リリカルルララ

jloo(ジロー)

今すぐ読む

リリカルルララ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇渋谷のスクランブル交差点
  都会の夜は、昼よりも活気が溢れている。だが、そんな中に居ても私は孤独を感じていた。
  むしろ人間同士の触れ合いの中に居る程、その気持ちは強くなる。
波間凜々花「仕事、疲れたな・・・・・・」
  ここのところ働き詰めだったから、ネオンライトが一層眩しく目に刺さった。
  早く帰って寝たい。そんなことばかり考えていたら、ふと背後から声を掛けられる。
教団員の女性「頭おかしい人、認定~」
波間凜々花「はい?」
  私のこと、だろうか。
  目が合った。どうやら、目の前にいる彼女は私のことを頭がおかしい人だと認定したようだ。
教団員の女性「ぐひひ、よろしくね。名前は、何て言うの?」
波間凜々花「いや、いきなり何ですかあなたたちは? 名乗る訳が、無いじゃないですか」
教団員の男性「いやはや、これは失礼。私たちは、頭おかしい教団と言うものでして」
  博士風の老人が、名刺のようなものを差し出してくる。
  そこには、こう書かれていた。
波間凜々花「頭おかしい人、探しています?」
教団員の男性「えぇ、そうです。我々は、この世の理を外れた存在。つまりは、あなたのような方々を集めております」
波間凜々花「いや、私は別に何でもないただの会社員なんですけど」
教団員の女性「ちがうよぉ。君は、魔、法、少、女!」
波間凜々花「いや、宗教のお誘いでしたらお断りさせて頂きますので」
教団員の男性「いえいえ、勧誘ではございません。我々は、あなたのような方をお救いしたいだけです」
波間凜々花「はぁ・・・・・・」
  胡散臭いにも程がある。
  このまま、話を聞かなかったことにして通り過ぎることも出来る。
  だけど私は、何故か彼らの話を無視することが出来なかったのだ。
教団員の男性「よろしければ、私たちの拠点にご案内いたしますが」
波間凜々花「いや・・・・・・でも・・・・・・」
教団員の女性「まあ、細かいことは気にすんな! さあさ、れっつご~」
  無理矢理腕を引かれて、何処かに連れて行かれる。

〇ジャズバー
  やがて辿り着いたのは、寂れたバーだった。
  マスターが私たちの姿を見ると、笑顔を浮かべながら話しかけてくる。
マスター「ようこそおいでくださいました。新しい、ご客人ですね」
教団員の男性「彼女は、魔法少女。ですが、まだご自身では気づいていないご様子で」
マスター「なるほど、それでは覚醒もまだですか」
波間凜々花「覚醒?」
教団員の女性「狂気に、身を任せることだよ? 私たちは、そのサポートを役目としているの」
波間凜々花「狂気に、身を任せるって物騒な響きに聞こえるけど・・・・・・」
教団員の男性「それは、大丈夫です。狂気は自身に内包するものですから、極限の狂気というものは他者に干渉することはありません」
波間凜々花「私が魔法少女って言ったけど、一体何が出来るの?」
教団員の女性「そうだね、世界をひっくり返すことだって出来るかもしれないよ」
波間凜々花「ひっくり返す?」
教団員の男性「すみません。実は私たちも魔法少女のサポートはあまり行ったことが無く、信用に足りるデータをお示し出来ないのです」
教団員の男性「ですが、覚醒に至る経緯は示すことが出来ます。とにかく、やりたいことをしてください」
波間凜々花「やりたいことって、言われても・・・・・・」
教団員の男性「それは、私から教えることは出来ません。ご自身の心に直接聞いてみてください」
教団員の女性「自分が、抑えつけている感情。それを、解放するってことだよ~」
波間凜々花「自分が、抑えつけている感情か・・・・・・」
  私の心には、一つだけ漠然と浮かび上がるイメージがあった。
  彼らと話している内に、そのイメージは具体的なものへ変貌していく。
  夜も明けかけた頃、ようやく私はバーを出て帰路に就いた。

〇電車の座席
  土曜日、休日の昼下がり。
  私は、電車に乗って秋葉原へと向かっていた。目的地は、玩具売り場だ。

〇玩具売り場
店員「いらっしゃいませー」
  店内に入ると、店員さんが元気よく挨拶してくれる。
  私は、早速目当ての商品を探し始めた。
波間凜々花「あった!」
  それは、『きゃんでぃポップガール』というアニメに登場する魔法のステッキだ。
  内容は、魔法少女である主人公が悪者を退治するという単純なもの。
  女児向けのようなタイトルだが、実際は大きなお友達にも人気の作品となっている。
波間凜々花「ぐ・・・・・・」
  手に取ってから、躊躇いの気持ちが湧いてくる。
  大人になって、こんなものに心が躍るなんて恥ずかしい。
波間凜々花「狂気に、身を任せるか・・・・・・」
  こんなことが、狂気であるとは思えない。
  くだらない。だけど、私は胸に秘めた熱い想いを誤魔化すことが出来なかった。
店員「ありがとう、ございました」

〇街中の道路
  店員の挨拶を受けて、逃げるように店外へ飛び出す。
  結局、買ってしまった。
  それからは、買い物袋を隠すように自宅へと急いだ。

〇部屋のベッド
  自宅に着いた頃にはもう夜も更けており、月明かりが室内を照らしていた。
波間凜々花「うん・・・・・・疲れた・・・・・・」
  私は、買ってきた魔法のステッキを掴みくるくると回してみる。
  そして私は意を決して、魔法の言葉を口にした。
波間凜々花「マジカル・チェンジ!」
  何も、起きない。そりゃあ、そうだ。
  私は、魔法少女なんかじゃ無いんだから。
波間凜々花「馬鹿みたい」
  だが、次の瞬間。全身が、光に包まれていく。
波間凜々花「え・・・・・・何これ!?」
  光が収まると、私は見たこともない衣装に身を包んでいた。
  これは、『きゃんでぃポップガール』の主人公であるポプ子の着ている衣装だ。
波間凜々花「嘘でしょ!?」
  全身が、熱を帯びていく。私は、魔法少女になったのだ。
  魔法のステッキをくるりと回すと、身体が宙を浮き始めた。
  私は窓を開け、外に飛び出す。

〇街の全景
波間凜々花「綺麗・・・・・・」
  上空から見上げる都会の夜景は、とても幻想的だった。
  私は、夢中で空を飛び回る。だが、心に引っかかることがあった。
  胸の奥に潜む寂しさは、私が普通では無くなった証拠なのだろう。
  何となく、私はもう元の生活には戻れないという予感を感じていた。
波間凜々花「そうだ、教団の彼らはバーにいるのかな」
  絶え間なく湧き上がってくる孤独感を誤魔化すように、私はバーへと向かう。

〇ジャズバー
  そして、扉を開けると彼らは居た。
波間凜々花「ねえ、見て。私、覚醒したみたい」
  くるりと踵を回し、衣装を見せつける。
教団員の男性「お~流石だね。もう、覚醒したのか」
教団員の女性「私の、サポートのおかげだね。いやぁ、めでたいめでたい」
波間凜々花「でも、私はこれからどうしたら良いんだろう」
教団員の女性「どゆこと?」
波間凜々花「この世界には、私の居場所はもう無いかもしれない」
教団員の男性「覚醒したばかりの方々は、皆あなたと同じことを言うのです。でも、すぐに慣れますよ」
教団員の女性「そうだ、教団においでよ。仲間が、たくさんいるからさ」
波間凜々花「そうだね、私を連れて行って」
教団員の男性「かしこまりました。では、こちらへ」
  老人は、バーの奥へと私を案内する。
  そしてしばらく進むと、そこには巨大な空間が広がっていた。

〇空きフロア
男性「ぐぅ、へっへっへへへへ」
女性「ぴにゃ~ぴにゃ~」
波間凜々花「何、これ・・・・・・」
  空間を埋め尽くすように、人間が蠢いていた。
  その誰もが狂気に満ちた笑顔を浮かべており、奇声を発している。
教団員の男性「さあ、あなたもこれからは仲間です」
教団員の女性「ちょっと怖いかもしれないけど、次第に慣れるから」
波間凜々花「違う・・・・・・」
教団員の女性「え?」
波間凜々花「違う。こんなことを、求めていた訳じゃ無い!」

〇黒背景
  その場を、逃げ出した。
  部屋を埋め尽くす狂気の笑顔が、私を現実に引き戻した。
  違う、と感じた。狂気の本質は、きっと人それぞれ違う。
  私が求めていたものは、この孤独を癒してくれる存在。
  ここにいるとより一層孤独は牙を剥き、爪を立てる。

〇部屋のベッド
波間凜々花「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」
  自宅に戻った私は、衣装を脱ぎ私服に着替える。
  これまで、仮面を被って生きてきた。
  社会で生きるためには、自分を押し殺して偽らなければならないと思っていたからだ。
  ある意味で、それは正しい。
  言語も思想も何もかもが違う個人を結び付けるには、それぞれが普通である努力をしなければならないからだ。
  常識は、絆だ。その前提があって初めて、言語会話は成立する。
  それが社会であり、狂気を内包した美しい世界の在り方なのだろう。

コメント

  • 最後に凛々花が放った「常識は、絆だ」という一言が深い。お互いにありのままの自分をさらけ出したからといって孤独が癒えるわけではないのが人間社会なんですよね。登場人物それぞれの役割になりきった声色の変化がすごかったです。

  • 街中を歩いていていきなり頭おかしい人認定なんて言われたら私なら笑っちゃいます😂
    でも人によってはブチギレて来そうなので、博士たちがうっかりヤンキーとかに頭おかしい人認定してしまわないように切実に願わせて頂きます🙏笑
    魔法少女になる場面は、私も魔法使いになりたいなーって憧れちゃいました☺️

成分キーワード

ページTOPへ