オリジナルホラー『夜の海底トンネルを歩く男 feat.オウマガトキFILM』

貴島璃世@りせチャンネル

深淵(脚本)

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〇地下に続く階段
  自分の足音が、灰色の壁に囲まれた空間にこだまする
  それ以外は・・・・・・
  壁の上の方に無造作に取り付けてあるスピーカーからの
  ザアァァァというノイズしか聞こえない
  分厚いコンクリートで出来た壁・・・
  長年に渡る汚れが
  その表面にまだらな濃淡を作り・・・
  ジッと見つめていると
  人の顔のように見えてくる
  ただの気のせいだ
  不気味な壁の模様も
  後ろからついて来るひそやかな足音も
  気のせいに決まっている
  この閉鎖的で異質な空間に囚われ
  敏感になっているだけだ
  そう自分に言い聞かせ
  私は地下へ続く階段を、再び降り始めた

〇地下に続く階段
  壁に取り付けられた無機質なプレートには「6階」とあった
  最下層の地下11階まで
  およそ半分の距離を降りてきたことになる
  最下層には真っ直ぐに伸びた通路がある
  その通路は海の底を横切り、対岸へ至る
  この地下通路は水深30メートルの海の底にあるのだ
  もしもコンクリートの壁にヒビが入って
  海水が流れ込んできたら
  ひとたまりもない
  きっと
  あっという間に押しつぶされてしまうだろう
  そう考えたら、息苦しさを感じた
  そういえば・・・・・・

〇水中
  最後に海を見たのはいつだっただろう
  いつか見たはずの海の記憶は
  薄らぼんやりして
  掴みどころがなかった
  確かなのは・・・・・・
  この地下通路の孤独な閉塞感だけだ

〇水中
さまよう男「ああ・・・・・・」
さまよう男「海を見たいな」
さまよう男「海を見に行こう」
さまよう男「通路を渡り地上へ出れば、海が見える」
さまよう男「いつか見た海に会いに行くんだ」

〇地下に続く階段
  地下7階・・・・・・
  8階・・・・・・
  地下9階・・・・・・
  深く、もっと深く・・・
  地下へ、さらに地下深くへ・・・・・・
  そして・・・・・・

〇血しぶき
  ついに私は、深淵にたどり着いた

〇ビルの地下通路
  目の前には
  遥か先まで伸びている通路があった
  黄ばんだ明かりに照らされ
  かすかに湾曲しているためなのか
  通路の終点は見えない
  背後で物音がした
  振り返っても誰もいない
  やはり気のせいだ
  ここには自分しかいないのだから
  今までここで誰にも会ったことはない
  だから気のせいに違いない
  私は前を向いて歩き出す
  あたりに満ちるラジオのノイズ・・・
  そこに混じる苦しげなうめき声・・・
  耳元で囁く女の声が聞こえる

〇地下道
影「おまえぇぇぇ・・・」
影「どこへ行くんだぁ・・・・・・」
影「おまえは・・・・・・」
影「俺たちの・・・・・・仲間なんだぁぁぁ・・・・・・」
影「どこへも・・・・・・いけないのにぃぃ・・・・・・」
さまよう男「うう・・・・・・」
さまよう男「う、うるさい・・・・・・」
影「おまえはぁぁぁ」
影「ここからぁぁぁ出られないぃぃぃ」
さまよう男「黙れぇ!」
影「海なんかぁぁぁぁ・・・・・・」
影「二度と見られないのにいぃぃぃぃ」
さまよう男「私は・・・・・・」
さまよう男「私しいいぃぃはああぁぁぁ・・・・・・」
さまよう男「黙れ・・・・・・黙れぇぇぇ!」
さまよう男「うるさいぃぃぃぃぃ・・・・・・」
  ふふふふふふふふふふふはははははははははははああああああはははははははははははははううううううううひいぃぃぃぃぃぃぃぃ

〇手
さまよう男「私は・・・・・・」
さまよう男「私は耳をふさいだ」
さまよう男「彼らの声はもう聞こえない」
さまよう男「私は前だけを見て進む」
さまよう男「疲れ切った足を引きずりながら・・・・・・」
さまよう男「前へ・・・・・・」
さまよう男「遥か彼方に存在するはずの・・・・・・」
さまよう男「いつか見た海を目指して・・・・・・」

〇水中
さまよう男「海・・・・・・よ・・・・・・」
さまよう男「う・・・み・・・・・・」
  う・・・・・
  ああ・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・

コメント

  • 後半の描写から、さまよう男ももうこの世のものではなくなり、もう一度海が見たいという異常なまでの執着心の残滓みたいなものが彷徨っているのではと感じました。その願望とは裏腹にどんどん地下深く下降していく男の歩みと意識。まさにホラーですね。

  • 私は関門トンネルがある街に住んでいるので、地上からトンネルのある地階まで降りていくエレベターに乗る雰囲気など久しぶりに思い出しながら読みました。海底を感じながら、壁から水が溢れてきたら!とか思ったこと実際にあります。

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