少年とナイフ

jloo(ジロー)

少年とナイフ(脚本)

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〇荒廃した市街地
  生きるためには、諦めなくちゃいけないことだってある。
  例えばそれは、誇りであったり・・・・・・。
ジル「ほら、金を出せば命だけは見逃してやる」
男「なめんなよ、このガキ」
  幸せ、だったり。
男「ぐぶぉっ・・・・・・」
男「ひっひぃいいいいいいい!!」
ジル「さあ、金を」
男「すみません、これで勘弁してください!」
  優しさ、だったりする。
ジル「ち、しけてやがるな。もうちょっと、搾れたか」
  俺は、男たちから奪った財布を懐にしまうと、路地裏の出口に向かって歩き出した。
  ここスラムでは、誰も他人のことなど気にすることは無い。
  気にすることがあるとすれば、金か、自分の命が脅かされた時ぐらいだ。

〇英国風の部屋
母親「ジル。帰ったなら、声くらいかけるもんじゃないか?」
ジル「金なら、ある」
  先程男たちから奪った財布を、机に放り投げる。
  目の前で札束の数を数えているのが、俺の母親。
  自分の子供に乞食をさせるようなくず野郎だが、俺の境遇などまだましな方だ。
母親「乞食にしては、随分な金を稼いで来たじゃないか。よく、やったよ」
ジル「ああ、もう今日は良いか」
母親「しかし財布ごと乞食に恵んでくれるなんて、親切な人も居たもんだねぇ」
ジル「そうだね、俺も驚きだよ」
  俺の声など聞こえていないように、母親は椅子に腰かけてミルクを飲み始めた。
ジル「もう、行っても良いってことだね」

〇荒廃した市街地
  一応確認を取り、スラムの街へ繰り出す。
  道端には、物乞いをする人間が溢れかえっている。
  その誰もが、腕が折れていたり酷いやけどを負っていたり散々な有様だ。
乞食「そこのあなた・・・・・・どうか、お恵みを・・・・・・」
  だが、ここにいる殆どは親にこの様な仕打ちを受けたのだろう。
  何故なら、その方が儲かるからだ。
  俺の様に恐喝でもして稼がない限り、永遠にこの悪循環からは抜けられない。
  稼げば稼ぐほど、子は親によって痛めつけられていく。
ルシフ「スラムの住民にしては、綺麗な格好をしているじゃないか」
ジル「誰? って・・・・・・」
  慌てて、頭を下げる。
  目の前にいるのは、このスラムを縄張りに置くギャングのリーダーであるルシフ。
  どうして。まさか、彼に目を付けられたのか・・・・・・?
  後悔が、次々と頭を過る。だが、彼の放った次の言葉は予想外のものであった。
ルシフ「君の両親を、紹介してもらえるかな?」
ジル「は、はい。今すぐに」
  俺は、ルシフを家まで案内する。
  まさか、俺の親に恐喝の誹りを受けさせるつもりだろうか。

〇英国風の部屋
  家に着くと、母親は慌てた様子で膝をつく。
母親「これは、ルシフさん。ご苦労様です」
ルシフ「うむ」
  母親は俺の存在に気づき、ちらりとこちらを流し見る。
  面倒なことを持ち込んだとでも、思っているのだろう。
  だが、すぐに目の色を変えることになる。
ルシフ「これで、お前の息子を売ってもらえないか」
  机に置かれた札束の山を見て、驚愕する。
  母親は、涎でも垂らさんばかりにその金に食いつく。
母親「も、もちろんですとも。好きなように、お使いください」
ルシフ「と、言うことだ。お前は、これから俺の部下として働いてもらうことにする」
ルシフ「異論は、無いな」
ジル「はい」
  異論など、挟める訳が無い。
  大人しく、俺はルシフの後に続きアジトに向かう。

〇荒廃した市街地
  それからの生活は、今までと大して変わらなかった。
  ルシフが、何か指示してくる訳でも無く、俺は相変わらず恐喝で、日銭を稼いでいた。
  ただ、一つ違うのは・・・・・・。
男「はっはっは、どうした? 殴り返してこないのかよ」
男「ほら、立てよ。さっきの、威勢はどうした?」
  一通り殴られた後、俺はいつもの台詞を吐く。
ジル「俺は、ギャングの一員だ」
  その言葉を聞いた男たちの顔色は、面白いほどに青ざめていく。
  彼らの頭の中では、俺が嘘をついたかどうかなど考えていないだろう。
  このスラム街で、ギャングであると偽るなど正気の人間には出来ないからだ。
  もしばれたら、死ぬよりも惨い目に遭わされるのだから。
男「これで、全額です」
ジル「寄こせ」
  男たちが差し出した、財布を抜く。そして、ポケットにしまった。
  力で奪い取るよりも、余程容易い。ルシフには、感謝の気持ちしか無かった。
  だが、俺は背後の気配に気づき戦慄した。
ルシフ「ジル、お前何やってんだ?」
  そこに居たのは、ルシフだった。俺のことを、見下すような目で見ている。
  次の瞬間、強烈な痛みが頬を襲った。
ルシフ「このっ、糞餓鬼が! ふざけやがって!!」
  ルシフの拳で、口の中を切ったようだ。血の味が、広がっていく。
ジル「すみません。これは・・・・・・」
ルシフ「力で奪うのならまだしも、組織の名を使うなど。俺たちの顔に、泥を塗っていることが分からんのか!?」
ジル「すみません」
ルシフ「連れていけ」
  後ろに控えていた男たちによって、無理やり引きずられていく。
  おそらく、懲罰室へと連れて行かれるのだろう。
  全身を、悪い汗が伝っていくのが分かる。
  アジトについた頃には、俺の身体はびしょびしょになっていた。
ルシフ「やはり、放任主義は駄目だったか。これは、俺の責任だな」
  そう言ったルシフが、俺に何かを手渡してくる。
ジル「これは、ナイフ・・・・・・ですか?」
ルシフ「ああ、これで今から会う人間を殺してもらう」
ジル「え?」
ルシフ「さあ、懲罰室に向かえ。そこに、お前が殺すべき相手がいる」

〇地下の部屋
  懲罰室の中には、一人の女の子が座っていた。
  全身傷だらけで、その肌は赤黒く腫れ上がっている。
  その前に立つと、彼女はこちらを虚ろな瞳で眺めてきた。
女性「貴方が、私を殺す人ね?」
ジル「っ・・・・・・・・・・・・」
  その瞳に、引き込まれそうになる。
  死の瞬間までも、端正な顔立ちは美しさを失っていない。
  これまで見た、どんな人間とも違う。
  醜く叫び、命乞いをされれば俺も殺しやすかったかもしれない。
  だが俺はその場に立ち竦むのみで、何をすることも出来なかった。
女性「殺せ!!」
  怨嗟の声が、室内に響き渡る。
  彼女の過去は何も知らないが、その声は酷く耳にこびり付いた。
  泥を啜り、涙も枯れて、最後に行きついた先がここなのだろう。
ジル「殺してやらないと」
  何故か、そう思った。
  まるで何かに憑りつかれたかのように、俺はナイフを振り上げる。

〇黒背景
  それからのことは、あまり覚えていない。
  ただ、懲罰室を出た時に服が血塗れになっていたことは覚えている。
  ナイフを拭き、目の前にいるルシフを見上げた。

〇暗い廊下
ジル「・・・・・・・・・・・・っ」
  その時の彼の顔を、今でも覚えている。
  悲痛に満ちたような、悔しいような、そんな表情だった。
  俺は褒められるものだとばかり思っていたから、それを意外に思ったのだ。

〇上官の部屋
ギャングの構成員「ジルさん! カインが反抗勢力に拷問されたようです。今、治療を受けていますが酷い状態で・・・・・・」
ジル「殺してやれ」
ギャングの構成員「はい、分かりました・・・・・・」
ジル「俺は、彼の家族へ見舞いに行くとするよ。後のことは、頼んだぞ」
  今の俺は、ギャングのボスだ。
  先代のルシフが亡くなる前、彼が跡継ぎに指名したのが俺だった。
  反対する者もいたが、容赦のない弾圧によって次第に誰も口を開くことは出来なくなる。

〇荒廃した市街地
ジル「この辺りを歩くのも、久しぶりだな」
  昔住んでいた、スラム街の一角。
  相変わらず、ここの治安は酷いものだ。あの時から、何も変わらない。
  だがそこである人物に気づき、声を掛ける。
ジル「スラムの住民にしては、綺麗な格好をしているじゃないか」
乞食「え・・・・・・」
ジル「君の両親を、紹介してもらえるかな?」
  あの時ルシフが放ったのと、同じセリフを吐く。
  この男は、俺と同じ道を辿るだろうか・・・・・・それとも、抜け出ることが出来るのだろうか。
  俺はあの時踏み外した道を、目の前の男に託すことにした。

コメント

  • ナイフというのは少年から大人の男=一人前になる通過儀礼のメタファーなのかもしれない。その悲しくも美しく残酷な通過儀礼とナイフのイメージは相性がいいんでしょうね。

  • 少年とナイフ、そのナイフは物質的なものより、彼の心の奥底に置かれたもののように感じました。目の前に現れた女性を殺すことができたのは
    、決して恐れからではなく彼の揺るぎない決心からだったんだろうと思います。

  • 世の中には酷い母親がいるんだなあと思わされました。
    自分も元気で働けそうなのに子供に汚いお金稼ぎさせたり、大金積まれたらあっさり子供を売ったり、酷いなあと思いました🥲
    でもジルが女の子を殺さないといけない場面で、躊躇っていたのを見て、親があんな感じでも、優しい心が少しは残っているんだなあと思いました🥲

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