読切(脚本)
〇ケーキ屋
一ノ瀬倫子「おや?タマかい・・・今年もやってきたね」
一ノ瀬康夫「ほう、タマ元気だったか」
一ノ瀬康夫「今夜のおかず魚の煮付け・・・おいしいか?」
一ノ瀬倫子「さっ、明日も仕込みで早いから寝ようかな」
一ノ瀬康夫「でも、ケーキ作っても売れんから」
一ノ瀬倫子「なに弱音を吐いてるんだい・・・店潰す気かい?」
一ノ瀬康夫「・・・・・・」
一ノ瀬倫子「康夫の腕が悪いから先代のお父さんのように売れないんだろ」
一ノ瀬康夫「近くにできた大型洋菓子店「シャナール」には・・・」
一ノ瀬倫子「康夫の愚痴は聞き飽きたから寝るよ」
一ノ瀬康夫「参った・・・どうしよう」
〇実家の居間
一ノ瀬武志「あっ、猫だ」
一ノ瀬薫「お早うございます・・・あっ、タマ」
一ノ瀬武志「タマって言うの?猫」
一ノ瀬薫「そうよ、毎年クリスマスのこの時期にウチにやってくるの」
一ノ瀬武志「フーン・・・そうだエサ」
一ノ瀬薫(そう言えば今年もクリスマスか・・・どうするのかしら康夫さん)
一ノ瀬康夫「おはようタマ・・・昨日の煮付けうまかったか?」
一ノ瀬薫「ねぇパパ、どうするの?店」
一ノ瀬康夫「ど、どうするったって・・・大型店にお客さんはとられちゃうし」
一ノ瀬薫「とにかく今年のクリスマスの結果次第では店を畳む事も考えてくださいね」
一ノ瀬康夫「わ、わかったよ」
〇アパートの中庭
一ノ瀬武志「ほらタマ ・・・食べろ、ウチのケーキ」
一ノ瀬武志「どうだ旨いか?」
一ノ瀬武志「明日小屋を作ってやるからな」
〇実家の居間
一ノ瀬武志「どうしたの?タマ」
一ノ瀬武志「ママ、ママ・・・チョットきて」
一ノ瀬薫「どうしたの?そんなに慌てて」
一ノ瀬武志「タマが・・・苦しそう」
一ノ瀬薫「直ぐに動物病院に連れてゆきなさい」
〇病院の診察室
獣医師「どうしたの?」
一ノ瀬武志「タマが苦しそう」
獣医師「どれどれ・・・」
一ノ瀬武志「大丈夫?」
獣医師「何か与えました?」
一ノ瀬武志「お昼にケーキ」
獣医師「猫に人間の食べるケーキは毒なの」
一ノ瀬武志「ええっ!そうなの」
獣医師「これからはキャットフードを与えてね」
一ノ瀬武志「ウンそうする」
〇実家の居間
一ノ瀬武志「ねぇ、パパ猫はケーキ食べられないの?」
一ノ瀬康夫「ええっ!」
一ノ瀬倫子「そうだよ、」
一ノ瀬武志「クリスマスに猫がケーキ食べられないなんて可哀想」
一ノ瀬倫子「大丈夫、猫用ケーキがあるんだよ」
一ノ瀬武志「ねぇパパ・・・猫用ケーキ作ってよ」
一ノ瀬康夫「う、ウン・・・ネットで調べてみるか」
一ノ瀬武志「ありがとうパパ」
〇システムキッチン
康夫はそれから、店の台所で猫用ケーキを一心不乱に作り始めた
一ノ瀬薫「できるの?パパ」
一ノ瀬康夫「う、ウン。チョコレートと砂糖はダメだから・・・それにスポンジの代わりに・・・そうだ鳥のひき肉」
一ノ瀬薫「人間のケーキもそれくらい熱心に作れば店は繁盛するわよ」
一ノ瀬康夫「ホイップクリームは・・・豆乳でやってみるか」
〇システムキッチン
その日の深夜猫用ケーキが出来上がった
一ノ瀬康夫「出来た」
一ノ瀬康夫「ついでにクッキーも作ってみるか」
一ノ瀬康夫「米粉を生地に」
一ノ瀬倫子「まだ起きてたのかい・・・もう寝たら」
一ノ瀬康夫「そうですね・・・このクッキーが焼けたら」
一ノ瀬倫子「人間用の洋菓子もそれだけ熱心に研究してくれたらいいわね」
〇クリスマスツリーのある広場
照子「おや、倫子」
一ノ瀬倫子「久しぶり・・・猫の弥助は元気?」
照子「ええ、お陰様で・・・もう、クリスマスね」
一ノ瀬倫子「ケーキどうするの?」
照子「連れ合いを亡くしてから一人で食べるのもね」
一ノ瀬倫子「康夫が猫用ケーキを作ったのよ弥助にどう?」
照子「本当かい、それじゃぁ、買いに行くかね」
〇アパートの中庭
一ノ瀬薫「だいぶ元気になったわね」
一ノ瀬武志「ウン、パパの猫用ケーキあげてもいい?」
一ノ瀬薫「いいわよ・・・でも食べるかしら」
一ノ瀬武志「ねぇ、赤いのはなに?」
一ノ瀬薫「ジャガイモを食紅でイチゴに見立てたものよ」
一ノ瀬武志「スポンジケーキは?」
一ノ瀬薫「鳥のささ身よ」
一ノ瀬武志「あっ、食べてる」
一ノ瀬薫「よかった~」
〇ケーキ屋
一ノ瀬康夫「いや~よく売れた・・・猫用ケーキがこんなに売れるとは」
一ノ瀬薫「良かったわね、これで店を閉めなくて済むわね」
一ノ瀬康夫「ウン、これで大型店に対抗できそうだし」
一ノ瀬倫子「全くタマ様様だね!」
一ノ瀬倫子「さてと今日はご褒美に上等なエサをあげなきゃ」
一ノ瀬康夫「さてと猫用ケーキだけでなく人間用のも考えなきゃ」
一ノ瀬薫「頑張ってね!」
一ノ瀬武志「タマが・・・」
一ノ瀬康夫「どうしたんだい?」
一ノ瀬武志「いなくなっちゃった」
「ええっ!」
一ノ瀬薫「みんなで探しましょう」
一ノ瀬康夫「そうだね」
〇クリスマスツリーのある広場
一ノ瀬康夫「ハァ何処にもいない」
一ノ瀬倫子「また来年来るでしょ」
一ノ瀬康夫「折角飼い猫にしようと思ったのに」
一ノ瀬倫子「で、タマにケーキのヒントをもらうのかい?」
一ノ瀬康夫「そんなぁ」
一ノ瀬倫子「帰るよ」
一ノ瀬武志「あっ、タマの鳴き声」
一ノ瀬薫「タマの自由にさせてあげましょ武志」
一ノ瀬武志「ウン」
股旅猫のタマは、まさに幸福の「招き猫」なんですね。人間用より猫用ケーキが売れるというのも昨今のペットブームでは本当にありそうでクスッとしました。一ノ瀬家の人たちがみんなタマに優しくてほのぼのしました。
最後の場面でタマが泣いていたのは、猫ちゃん用のケーキを作ってもらえて嬉しかったからだったら良いなあと思いました😌✨可愛がってた猫ちゃんがいなくなって寂しがる息子くんの気持ち、わかる気がします。またこのお家に戻ってきて、家族になれたら良いなと思いました!