転生士(脚本)
〇黒背景
転生士「・・・・・・」
転生士「はぁ」
転生士「今日も今日とて、人様を転生・・・・・・」
転生士「いろんな人がいて面白いけど、やっぱり疲れるわね」
転生士「はぁ」
コンコン
転生士「・・・・・・っと、さっそくきた」
転生士「どうぞ」
雪村康介「・・・・・・どうも」
転生士((あらら〜、なんだか今回のは訳ありっぽいわね))
転生士((っていけないいけない。ちゃんと説明しなきゃね))
転生士「いらっしゃい。 そこにある椅子に腰掛けて?」
雪村康介「あっ。 はい・・・・・・」
転生士「そんなに固くならなくて大丈夫よ。 気楽に気楽に」
雪村康介「・・・・・・」
転生士「・・・・・・まぁ、とりあえず説明するね」
転生士「ここは【転生の間】と言ってね。 死と生の狭間みたいな所なの」
雪村康介「転生・・・・・・」
雪村康介「・・・・・・やっぱり僕、死んだんですね」
転生士「そうよ。 察しが良くて助かるわ」
雪村康介「・・・・・・どうも」
転生士「あっ、自己紹介が遅れたわね。 私は【転生士】」
転生士「ここの案内人よ」
雪村康介「転生士・・・・・・」
転生士「まぁいっちゃえば神様よ神様。 異世界転生の話とか見たことない?」
雪村康介「・・・・・・一応、あります」
転生士「そう。 イメージとしてはそれで構わないわ」
転生士「とりあえず、あなたには2つの選択肢があるの」
雪村康介「選択肢、ですか」
転生士「うん。 まず1つは、単純に異世界へ転生すること」
転生士「もう1つは──」
・・・・・・
転生士「──っていう感じなんだけど。 どうする?」
雪村康介「・・・・・・後者の方で」
転生士「あら・・・・・・」
転生士「・・・・・・条件は、聞いたわよね?」
雪村康介「分かってます。 覚悟も決まってます」
転生士「・・・・・・そう」
転生士「・・・・・・分かったわ。 じゃ、あなたの願いを聞いてあげる」
雪村康介「・・・・・・お願いします」
翌日
〇男の子の一人部屋
北村流斗「・・・・・・」
北村流斗「・・・・・・退屈だなぁ」
北村流斗「外も曇っててじめじめするし・・・・・・」
「あらあら。 退屈そうね?」
北村流斗「そうなんだよなぁ・・・・・・ 何かこう面白い──」
北村流斗「──って誰だ!!?」
転生士「これは失礼したわね。 私は転生の神様よ」
北村流斗「うぉっ! 美人!」
転生士「あらどうも」
北村流斗「なんで神様がここに?」
転生士「あなたが退屈そうにしていたからよ」
北村流斗「説明になってないんですが・・・・・・?」
転生士「あらそう? じゃあ、まず私の仕事について話そうかしら」
北村流斗「あ、お願いします」
転生士「転生の神様って言ったけど、正確には転生士っていう職業についてるの」
北村流斗「転生士?」
転生士「私の住む天界の職業でね。 これまでも、あらゆる人々を異世界に送り込んだわ」
北村流斗「へぇ〜」
北村流斗「・・・・・・えっと、じゃあ尚更なんで俺の前に?」
転生士「まぁまぁ慌てなさんな」
転生士「要するにあなたみたいに退屈そうにしている人を、異世界に送るのが私の仕事なの」
北村流斗「えっとじゃあ、今すぐにでも俺を異世界に・・・・・・?」
転生士「えぇそうよ」
北村流斗「まじですか! 俺、異世界にいけるんですね!」
転生士「ただし条件があるの」
北村流斗「条件?」
転生士「転生だからもちろん──」
転生士「──死んでもらわないといけないの」
北村流斗「あぁ・・・・・・そりゃそうですよね」
北村流斗「分かりました! 死にます!」
転生士「・・・・・・!!」
転生士(・・・・・・これは、予想以上ね)
北村流斗「どうしたんですか?」
転生士「えっ!? あぁ、なんでもないわよ?」
北村流斗「??」
転生士「じゃあ、死ぬ覚悟は決まっているのね?」
北村流斗「はいもちろん!」
転生士「じゃあそうね・・・・・・ 目を瞑ってもらえる?」
北村流斗「こうですか?」
転生士「そう・・・・・・。 それじゃ最期に言うことはある?」
北村流斗「あはは・・・・・・やだなぁ神様」
北村流斗「それじゃあ、まるで死刑の執行みたいじゃないですか・・・・・・?」
転生士「えぇそうよ」
北村流斗「え?」
転生士「さよなら。 【いじめっ子】の北村君」
「がっ!!?」
〇黒背景
転生士「・・・・・・ふぅ」
転生士「・・・・・・終わったわよ。 雪村君」
雪村康介「・・・・・・ありがとうございます」
転生士「・・・・・・あなたは、これで良かったの?」
雪村康介「・・・・・・えぇ。 僕は大満足ですよ」
転生士「・・・・・・」
転生士「・・・・・・【北村流斗】。 あなたと同い年で、性格は楽観的」
転生士「そして、あなたが死んだ原因・・・・・・」
転生士「「いじめっ子」ねぇ・・・・・・」
雪村康介「・・・・・・」
雪村康介「耐えられなかったんですよ・・・・・・」
雪村康介「僕だって、好きで死んだわけじゃないです・・・・・・」
転生士「・・・・・・いや、別に死ぬ理由にケチをつけているわけじゃないわよ?」
雪村康介「・・・・・・そうですか」
雪村康介「・・・・・・それで、奴はどうなるんですか?」
転生士「・・・・・・ん? あぁ、転生の話かしら?」
転生士「安心して。 転生させるのは、基本的に善人だけだから」
転生士「当然、彼は当てはまらないから。 魂は消滅することになるわ」
雪村康介「・・・・・・そうですか」
雪村康介「それなら、安心しました」
転生士「・・・・・・」
転生士「あなたも、消滅することになるわ」
雪村康介「・・・・・・分かってますよ」
転生士「・・・・・・もう1つの選択肢」
転生士「・・・・・・【自分の存在を犠牲にして神様へ願う】」
転生士「ごめんなさいね。 これも私の義務なのよ」
雪村康介「・・・・・・えぇ」
転生士「・・・・・・惜しいわね。 あなたみたいな人こそ、異世界で幸せを掴んでほしかったわ」
雪村康介「・・・・・・神様は優しいですね」
雪村康介「でも、僕が決めたことです。 それに・・・・・・」
転生士「それに?」
雪村康介「生きるのは、苦しいですから」
転生士「・・・・・・」
転生士「・・・・・・さよなら。 雪村君」
雪村康介「・・・・・・はい。 お世話になりました・・・・・・」
転生士「・・・・・・」
転生士「・・・・・・ほんと、やるせないわね」
転生士「あのいじめっ子も、思った以上にたがが外れてたし」
転生士「雪村君も・・・・・・ 環境が違えばきっと・・・・・・」
転生士「・・・・・・」
転生士「・・・・・・ううん。 考えるのは良くないわ」
転生士「・・・・・・」
転生士「生きるのは苦しい、か・・・・・・」
end
職業柄多くの人々の声を聴いてきた【転生士】さん、達観した一面もあるも、誰よりも【人間】臭く見えてしまいますね。他のケースも見てみたくなりますね。
いじめを苦に…ならたしかにこの選択は頷けます。
たとえ転生できなくても、一矢報いたくなりますよね。
それほどまでに辛かったと言うことでしょう。
生きたい人と死にたい人の違いって何だろうと考えさせられる作品でした。転生士は、良い人間に対しては人情に熱い神様なんですね。