夏休みのおわり

縁ノ下 雀

夏休みのおわり(脚本)

夏休みのおわり

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〇山道
  蝉があちこちの木々からがなり立てる。
  急かされるように、俺は道を急ぐ。
  ——夏だ。
  季節が巡り、また、この季節がやってきた。

〇古めかしい和室
  俺は今年も、三日間のお盆休みを
  祖母の家で過ごす予定だ。
美羽「今年も来たんだ・・・はあ。 もう来なくていいよ」
  祖母の家で俺を出迎えた美少女は、これ見よがしにため息を吐いた。
俺「なんだよ、そのため息とふくれっつら! せっかく会いに来てやったっていうのにさ。 喜びに咽び泣いてくれたっていいんだぞ?」
美羽「咽び泣くわけないでしょー?」
  目の前にいる、俺と同い年の美少女——
  ——美羽(みはね)は、俺のいとこだ。
  普段は遠方に住んでいるけれど。
  毎年夏休みの間だけ、俺たちは祖母の家で同じ時を過ごす。
俺「素直になれって、俺が来て嬉しいだろ? ほれほれ少しは笑えよな!」
  彼女の柔らかなほっぺたを掴んで、無理やり笑わせようとしたけれど。
美羽「ふふん。もう捕まらないもーん」
  俺の手はスカッとからぶり、美羽はくすくすとイタズラっぽく笑う。
((相変わらず元気そうだな、 良かった・・・))
  変わりない美羽の様子にホッとしていると、美羽はぴょんぴょんとその場で飛び跳ねていた。
俺「なんだよ美羽。陸に打ち上げられた魚の真似か?」
美羽「バカ、違うよ!」
美羽「・・・また背が伸びたねって思って」
  美羽は目線の高くなった俺を見上げて、少し寂しそうな顔をする。
俺「俺は高校一年生。成長期だからな。 にしてもお前は数年前から変わんねえな」
美羽「む・・・仕方ないでしょ! いいもん、このくらいの小ささがかわいいはず!!だもん!!」
俺「はいはい、かわいいかわいい。 ま、今日含めてあと3日、世話になるぜ」
美羽「むー・・・ 適当に返事された気がする・・・!」
  ・・・こうして、毎年恒例の、祖母の家で過ごす夏休みが始まった。

〇風流な庭園
  近くの海へ泳ぎに行ったり
  カブトムシを取ったり・・・・・・
  小さな子供に戻ったみたいに、遊んではしゃぎ回って。疲れて眠る。
  暑い日差しも気にならないくらい、美羽と一緒に遊ぶ3日間は楽しくて仕方がない。
  だからこの3日間が終わるのは毎年、寂しかった。
  この年になってもまだ別れには慣れない。
俺「美羽、お前もやらないか?」
  2日目の夜。
  パチパチとはぜる花火を持っているのは俺だけだ。
  美羽は気だるげに俺にもたれかかって、俺が持つ花火を見つめるだけ。
美羽「やらないよ。やれるわけないでしょ。 ・・・できないの、わかってるくせに。 いじわる」
俺「意地悪じゃねえって。 ほら、花火が持てないなら 俺の手に自分の手を重ねてみ?」
美羽「・・・・・・」
  美羽は黙って俺の手に自分の手を重ねる。
  俺にもたれる美羽の体も、
  重なった美羽の手も、
  どちらも羽のように軽い。
美羽「明日が夏休みの最終日だね」
  ぽつりと美羽がこぼす。
  その声音には切なさが滲んでいて。
  彼女も俺との別れを悲しんでくれているのがわかった。

〇墓石
  一夜明け、夏休み最終日。
  夏休みが終わる前日だ。
俺「・・・よし、こんなもんか」
  墓の掃除を終えて額の汗を拭う。
美羽「墓の掃除なんか真剣にやっちゃって、じじくさーい。それに汗くさーい」
俺「茶化すな、大事なことだろ。 汗だくにだってなるさ」
俺「ここにはお前が眠ってるんだから」
美羽「・・・・・・」
  ほっぺたに触れようとして触れられないのも。
  身長が伸びないのも。花火を持てないのも。
  美羽が数年前に事故で亡くなったからだ。
  夏休みの三日間。
  お盆の間だけ、美羽は先祖の霊とともに、
  祖母の家に戻ってくる。
  こうして、俺と夏を過ごしてくれる。
  明日になれば、美羽はいなくなる。
  この世の何処からも、いなくなる。
俺「・・・また一年のお別れだな。織姫と彦星みたいだ」
美羽「・・・もう、来なくていいよ」
  くしゃりと美羽の顔が悲しみに歪む。
俺「俺がここにきた時も、それ言ったよな。 ・・・絶対来年もくるよ、俺は」
美羽「でも・・・幽霊の私にかまったって何もできないよ? 彼女とかつくってさ、遊びに行ったらいいじゃん」
俺「・・・俺がお前と一緒にいたいんだ。 だからそんな悲しいこと言うなよ」
  限りのある短い間でも、大好きな君と過ごしたい。
俺(——そんな告白は、もうできなくなってしまったけれど)
俺「来年も再来年も、そのまた次も。 美羽に会えるならずっとここに来る」
俺は「美羽が若いままで、俺がおじいちゃんになっても、美羽が寂しくないように毎年来るから」
美羽「・・・ありがと」
  俺の宣言に美羽は涙を流す。
  それを拭ってあげられないのがもどかしい。
  ああ、明日になれば夏休みが終わる。
  お盆が終わり、美羽は天へと帰ってしまう。
  夏休みが終わらなきゃいいのにと。
  俺は夏休みの前日に祈る。
  君と過ごす夏の日が、永遠に終わらなければいい。

コメント

  • お盆というのはきっと、亡くなった方にとっても残された方にとっても、過去の想い出を振り返り、再会するためでもある特別な日なんでしょうね。

  • とっても切ない切ない恋のお話しでした。離れていても、やはりお互いを求めあうからこそ、お互いを認識できるんですよね、とても甘酸っぱいです。素敵なストーリーでした。

  • お盆の時期になると、昔はナスやキュウリで馬をつくりました。
    確かに亡くなった人と繋がる気がして。
    最近はやってなかったなぁ…今年はやろうかな!

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