第六話「ディベート(前編)」(脚本)
〇黒背景
教育再生プログラム
最終課題『ディベート』一日目
〇教室
サクマ「さあ、自由にディベートをしてください」
サクマ「この中で、社会に不必要だと思う人を 決めてください」
サクマ「どうしたんですか? 自由に話し合ってください」
伊良部輝明「なんだ・・・ どうしてみんな何も言わないんだ?」
伊良部輝明「最終投票まではディベートする 振りをしようって約束だったのに」
伊良部輝明「よし・・・ なら俺がうまく議題を誘導すれば──」
楠木良太「どいつもこいつもだんまりか。 なら俺から喋ろう」
伊良部輝明「! 楠木から・・・?」
楠木良太「俺は、社会の役に立つことができる」
楠木良太「つまり、必要な人間だ」
伊良部輝明「根拠は? 根拠はどこにある?」
楠木良太「俺は非情になれる。 そして正しい決断を選択できる。 二つ目の課題でも、それを実証した」
伊良部輝明「ただの人殺しをしただけじゃないか」
楠木良太「違う。あれも生き残るための最善の選択だ」
伊良部輝明「人殺しを正当化する気か?」
楠木良太「この世は弱肉強食だ。弱い者は食われる、 ただそれだけの話だろ?」
楠木良太「生き物が生存していくためには、 集団の中に非情になれる人間が必要なんだ」
楠木良太「俺にはその資質がある。 俺は社会でリーダーになれる器だ」
伊良部輝明「・・・違うな。 お前は、ただの快楽主義者だ」
楠木良太「なんだと?」
伊良部輝明「人間は助け合って生きているんだ。 強いものが弱いものを虐げ、利用する だけなら、それは人間とは言わない」
楠木良太「なんだと・・・?」
伊良部輝明「よし・・・いい形で楠木を論破した。 あとはみんなの後押しがあれば──」
楠木良太「小沼・・・とか言ったな? お前はどう思うんだ?」
小沼雄一郎「ぼ、僕? 僕は・・・」
伊良部輝明「小沼・・・! 僕に賛同してくれるだけでいいんだ。頼む」
小沼雄一郎「僕は・・・輝明君の言葉は ちょっとキレイごとに聞こえる」
伊良部輝明「なっ・・・!」
楠木良太「そうだよなぁ」
伊良部輝明「な、何言ってるんだ! 桃子、君はどう思う・・・?」
久保桃子「私は・・・わからない。 正直、どちらとも言えない」
楠木良太「ほう・・・どちらとも、ねえ」
久保桃子「で、でも・・・どちらかと言えば、 楠木のほうが真理を突いていると思う」
伊良部輝明「!」
楠木良太「あはは! これで三対一だな」
伊良部輝明「桃子・・・ 楠木を見て怯えてる風だったが・・・」
伊良部輝明「まさか、 あいつに何かやられたのか・・・?」
〇学校の屋上
伊良部輝明「なあ・・・少し話いいか」
久保桃子「ごめん・・・そんな気分じゃない」
伊良部輝明「昼間のこと教えてくれ。 なぜみんな、あんな暗い顔をしてたんだ」
伊良部輝明「みんなで楠木を嵌めるって 話だったじゃないか」
伊良部輝明「あれじゃあまるで逆・・・ 俺が嵌められたみたいだった」
久保桃子「それは・・・」
伊良部輝明「頼む。山縣にも美里奈にも聞いたが、 答えてくれなかったんだ」
久保桃子「最後の課題・・・ ディベートは結果だけじゃなく、 過程も見られるんだって」
伊良部輝明「は? そんなこと誰が言ったんだ?」
久保桃子「ディベートでは、なるべく意見を分かれ させて対立を作った方が深い議論になる」
久保桃子「そういう働きをしたものが評価されるって聞いた。だからみんな──」
伊良部輝明「おい待て! だから誰がそれを言ったんだ?」
久保桃子「それは・・・」
伊良部輝明「楠木だな? 楠木にそう言われたのか?」
久保桃子「・・・・・・」
伊良部輝明「くっ・・・! 過程なんか見るはずないだろ!」
伊良部輝明「2つ目の課題で楠木が人を殺しているのに 見逃されてたのがいい証拠だ」
伊良部輝明「このプログラムは、 あくまで成果主義なんだよ」
久保桃子「でも楠木は過去にこのプログラムに 参加してるんでしょ!?」
久保桃子「だったら色々知っていても おかしくないじゃない!」
伊良部輝明「ちょ、ちょっと待て! 話を聞いてくれ・・・!」
〇学園内のベンチ
伊良部輝明「桃子こっちに来なかったか?」
小沼雄一郎「み、見て・・・ない、けど」
伊良部輝明「! お前、何かあったのか? なんでそんなに動揺してるんだ?」
小沼雄一郎「べ、べ、別に! 何もない!」
伊良部輝明「もしかして・・・ お前も楠木に何か言われたのか?」
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