第七話「ディベート(後編)」(脚本)
〇学校の屋上
結局、この三日間、
俺の言葉がみんなに届くことはなかった
いや、届いているのに
みんな聞かない振りをしていた
おそらく楠木は、自分に従ったほうが、
利があると周到にみんなに刷り込んだ
このままだと投票で死ぬのは確実に俺だ
伊良部輝明「進・・・俺、 進の仇を討てずに死ぬのかな・・・」
貫地谷進「良くないぜ。そういうとこ」
伊良部輝明「進! なんで・・・?」
貫地谷進「輝ちゃんは頭いいけど、すぐに諦める 癖があるのは良くないと思う」
貫地谷進「最後まで諦めないって大事だよ」
伊良部輝明「で、でも俺──」
貫地谷進「輝ちゃんなら大丈夫だよ」
伊良部輝明「進・・・!」
輝明が手を繋ごうとすると、
進の姿は消えてしまった。
伊良部輝明「進・・・俺、やるよ。 最後まで足掻いて見せる・・・!」
〇黒背景
教育再生プログラム 最終日
〇教室
サクマ「さあどうしたんですか? 残り時間はあと15分・・・ 最後まで討論してください」
伊良部輝明「くっ・・・! もう時間がない」
楠木良太「ふん・・・どうせもう誰に投票するかは 決まっているってことだろ?」
サクマ「まあいいでしょう。 少し早いですが、投票用紙を配ります」
サクマ「そこに社会に不必要だと思う人を一人書いて、この投票ボックスに入れてください」
楠木はスラスラと
名前を書いて立ち上がる。
楠木良太「冥途の土産だ。 俺が誰の名前を書いたか教えてやる」
楠木良太「俺が書いた名前は・・・ 伊良部輝明、お前だよ」
伊良部輝明「・・・っ!」
楠木良太「お前の生意気な顔を見るのも あと少しだと思うとせいせいするよ」
楠木が投票ボックスの前に立つ。
次の瞬間、輝明が駆け出し、
投票ボックスを抱え込む。
伊良部輝明「い、入れさせるか・・・!」
楠木良太「バカか! 見苦しいぞ!」
伊良部輝明「残り10分・・・もし時間内に 投票できなかったらどうなる?」
楠木良太「はあ? 何言ってるんだ?」
伊良部輝明「答えろ! 答えられるはずだ! お前はこのプログラムの全容を 知っているんだろ!?」
楠木良太「それは──」
楠木は救いを求めるようにサクマを見るが、サクマは肩をすくめている。
楠木良太「そ、それは・・・その・・・」
伊良部輝明「小沼。見てみろ。 楠木は何も答えられない」
伊良部輝明「こいつが、このプログラムの全容を 知っているなんてデタラメだ」
小沼雄一郎「そ、そんな・・・」
楠木良太「い、いい加減にしろ! さっさとその投票ボックスを渡せ!」
伊良部輝明「もし投票用紙を二つに千切って、二人の 名前を書いたらどうなる? 無効なのか?」
楠木良太「そんなの無効のはずだ!」
伊良部輝明「はず・・・? ということは、 確証はないんだな。何一つ」
楠木良太「貴様ぁ・・・!」
伊良部輝明「みんな、騙されるな。 こいつは政府側の特派員なんかじゃない。 何も知らない、俺たちと同じ参加者だ」
楠木良太「黙れ!」
伊良部輝明「俺はこんなプログラム自体 間違っていると思う」
伊良部輝明「それでも政府の決めたルールに 従わないと殺すっていうなら・・・」
伊良部輝明「俺はそのルールに従って、 政府とだって戦ってやる・・・!」
藤井美里奈「それ・・・本気で言ってるの?」
伊良部輝明「ああ。俺たちはモルモットじゃない」
伊良部輝明「俺は必ずいつか、 この教育再生プログラムを 廃止してみせる・・・! だから──」
楠木良太「うるさい! 貸せ!」
楠木は投票ボックスを輝明から奪うと、
そこに投票用紙を捻じ込む。
楠木良太「クックックッ・・・あはは! どうだ! 見たか! これで貴様は終わりだ! さあお前らも投票しろぉ!!!」
だが、誰も動こうとはしない。
楠木良太「なんだよ・・・時間がないぞ。 さっさとこのバカの名前を書け!」
楠木良太「無能なお前たちでも、タイマーの 時間くらいは見えるだろうがっ!」
久保桃子「わかった・・・書くわよ」
小沼雄一郎「ぼ、僕も・・・!」
藤井美里奈「私も・・・覚悟は決まった」
山縣修一「俺もだ!」
輝明と4人の生徒たちはそれぞれ
投票用紙に書き込んで、投票する。
サクマ「皆さん、お疲れ様でした。 さっそくですが、このまますぐに 開票させていただきます」
サクマが投票用紙を取り出して、
中を確認する。
楠木良太「さあ、さっさと発表しろ! そして伊良部輝明を殺せ!」
サクマ「・・・大変残念ですが」
楠木良太「?」
サクマ「得票数1位は・・・5票を獲得した 楠木良太さん、あなたです」
楠木良太「なっ・・・!」
楠木良太「嘘だ・・・! 何かの間違いだ!」
伊良部輝明「進・・・どこかで見てるか? 俺、最後まで諦めなかったよ」
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