絶望の前日

有薗 花芽

エピソード1(脚本)

絶望の前日

有薗 花芽

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〇宇宙空間
  これは私が絶望した前日の物語です。
  私は恐ろしい真実を知ってしまいました。
  きっかけは、渋谷の交差点です。
  そこで、私は幽霊とぶつかったのです。
  ええ、そう。死んだ人の幽霊です。
  でも、この話は怪談などではありません。
  その幽霊のせいで、私は今、救いのない恐ろしい絶望の中にいるのです。
  そして、そのわけを知ったら・・・
  今日が、あなたにとっての「絶望の前日」に、なるかもしれません・・・

〇渋谷のスクランブル交差点
  あの日までは、ごくありふれた日常が続いていました。
  私は仕事が休みだったので、親友の誕生日プレゼントを買うために渋谷に行ったのです。
  今年は理由があって、いつもよりも、特別なプレゼントをあげたいと思っていました。
  私は長い時間、あちこち歩き回って、プレゼントをさがしました。
  ようやく見つけました!
  きっと親友も、これならずっと長く大切にしてくれるでしょう。
  私は良いプレゼントが見つかったことに、心から満足しました。
  そして家に帰ろうと、駅前の交差点を渡っていた時・・・
  ・・・私は、幽霊とぶつかったのです。

〇渋谷のスクランブル交差点
私「ごめんなさい!」
  私はとっさにあやまりました。
  相手は私と似た背格好で、ぶつかる直前に、一瞬だけ目があったように感じました。
  ところが、ぶつかった!と思って衝撃を覚悟したその瞬間・・・
  なんとその女性は、スーっと煙のように私の体を通り抜けていったのです・・・
  私はゾクリとしました。
  もちろん、ただの勘違いだと思いました。
  でも、やっぱり気味が悪いことには変わりません。
  私は振り向かずに、足早にその場を立ち去ることにしました。

〇綺麗な部屋
  ところが、自分の部屋に戻ると・・・
  なんと部屋の真ん中に、黒くて濃い影のような幽霊が立っていたのです。
  その姿はまるで、人の輪郭をした得体の知れないブラックホールのように見えました。
  私の体はガタガタと震えました。
私「な、なな、何なの・・・」
  幽霊はゆっくりと私に近づいてきます。
幽霊「せっかく目があったことだし、あなたには教えてあげようかと思って・・・」
幽霊「ちょっと私のことをさわってみて」
  冗談じゃありません。
  私がブンブンと首を横に振ると、幽霊はゆっくりと手を振り上げました。
  そして水平にした手のひらで、私の首を切るようなしぐさをしたのです。
  とっさにギュッと目をつぶりましたが、幽霊の手はただ、私の首を通り抜けただけでした。
  痛みはおろか、何の感触もありません。
幽霊「ふふ・・・あなたはきっと、私は幽霊で、気体のような薄い存在だから、自分の体を通り抜けたとでも思っているのでしょうね」
私「・・・・・・」
幽霊「違うわ、逆よ。 気体のように薄い存在なのは、生きている人間のほうなのよ」
幽霊「この世に存在するものは全て、小さな粒子が空虚の中で、ただブンブン飛び回って形を作っているだけなのだもの」
幽霊「でも死んだら、水蒸気が水になって、それから氷になるように、ずっしり重くて固い存在となるの」
幽霊「私があなたを通り抜けられるのは、私が岩で、あなたが水蒸気だからよ」
私「う、ウソ・・・」
幽霊「ウソじゃないわ。 実体のない幻のように存在していられるのは今のうちだけよ」
幽霊「死んだ途端、みっしりと密度が高くなって・・・地面にゴロリと転がされるはめになるのだから」
私「死んだら消えて、無になるのではないの?」
幽霊「フフ、まさか。 むしろ、無からは遠ざかることになるわね」
幽霊「人の魂って、生きている間はどこにあるのか見えないけれど、死んで肉体を失うと、ようやく形と重みをもって実体化するのよ」
私「じゃあ、死んでも魂はずっと消えずに、この世に残っているということ?」
幽霊「ええ、もちろん。 強固な岩のようになった死んだ魂に、霞のようにふんわり重なりながら、生きた人間は暮らしているのよ」
私「な、なぜ、重なっても見えないのかしら?」
幽霊「密度の次元が違い過ぎて、お互いに影響しあうこともないから、感知する必要もないからよ」
幽霊「だけど、あなたみたいに、つい見えてしまうこともある」
幽霊「そして、こんな風に真実を知ってしまうこともね」
幽霊「もし、消えて無になることを、死と呼びたいのなら・・・ そもそも、死なんてものはないわ」
私「・・・・・・」
  ショックでした・・・
  死んで無になるどころか、むしろ実体を得るなんて・・・
幽霊「別に信じなくたって、全然かまわない。 どうせいつか・・・分かることだし」
  それから幽霊は、スーっと壁に吸いこまれるように出て行ってしまったのです。

〇渋谷のスクランブル交差点
  生きていることは幻で、死ぬことが実体を得ることだと知った私は、絶望しました。
  自分が幻影のように空疎な存在であることが、虚しくてたまらないのです。
  生きることが、ただフワフワと霞のようにこの世を彷徨っているだけだなんて・・・
  ああ、まるで幽霊のようではありませんか。
  ただ・・・
  ただ、本当に絶望したことは・・・

〇渋谷のスクランブル交差点
  親友に誕生日プレゼントを形見として渡した次の日に、私が自ら選んだ死が・・・
  潔くも美しい消滅には、決してならないと、知ってしまったことなのです。
  これほどの絶望
  他にあるでしょうか?

コメント

  • 死んだ後の世界とか、死んだらどうなるの?って考え出すと眠れなくなること、ありますよね。
    物理的、科学的、色々な観点から見ても、証明できなければ存在してもしてなくてもおかしくはないですよね。

  • たしかに、「それ」が存在してる理由って説明出来ませんよね。
    ってだいぶ哲学的な話になってしまいますが。
    自分がそう認識してるからそうなんだと、色々と考えさせてくれる作品でした。

  • 死とは何か?生存とは何か?人間が死んだらどかに向かうのか?死んだら魂はあるのか?死んだ後のことは誰も教えてくれない。誰か教えて❗️

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