通夜の前日

長谷川ハカル

エピソード1(脚本)

通夜の前日

長谷川ハカル

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〇明るいリビング
田中みらい「お義母さん ツカレ君は12月まで頑張ってくれました・・・ もっと私に出来る事があったんだと 後悔ばかりです」
小野カヤ「みらいさんと11年も一緒にいたんですもの ツカレは幸せでしたよ 仕事もあるのに毎晩お見舞いに来てくれて本に当ありがとう」
田中みらい「私の勝手なお願いで婚約指輪だけ遺品に頂いて・・・」
小野カヤ「いいの、ツカレも喜んでるわ」

〇明るいリビング
佐々木ユイ「遅くなってごめんね 残業があって! でもお通夜の明日まで休みはとってきたから みらいと今日は過ごすね」
小野カヤ「あら、みらいさんお友達が来たみたいだから 私はそろそろお邪魔するわ 今日はゆっくり休んでね」
田中みらい「ユイ、ありがとう お義母さんも・・・ 小野さんもありがとうございました 私は大丈夫です」

〇明るいリビング
佐々木ユイ「みらい、大丈夫? ツカレ君が余命より1ヶ月も長く生きてくれて私も嬉しかったけれど・・・ 婚約も破棄になって、大変だったね」
田中みらい「ありがとう・・・ ユイとも大学時代からの友達だものね 婚約破棄も、もうツカレ君がいないのは悲しいけれど 大変ではなかった」
佐々木ユイ「大変じゃないなんて・・・ やつれて疲れてるよ 今日は夕食も私が作るからゆっくりしてね」
田中みらい「私がツカレ君と一緒にいた最期の3ヶ月は 10年よりも濃密だった気がするの 亡くなる直前ツカレ君、なんか変な事を言ってた」
佐々木ユイ「変な事を? ツカレ君、 最期は点滴で最期はもうろうとしていたもんね どんな事?」
田中みらい「『これが始まりだよ』って その後またすぐに眠りについたから分からなかったけど」
佐々木ユイ「『これが始まり』? その、最期なのに・・・ どういう意味だろ」
田中みらい「お義母さん・・・ 小野さんにも聞いてみたんだけど 『分からない、息子がそんな事を言うなんてねえ』って心当たりはないみたい」
佐々木ユイ「そっかあ でも、大学時代からツカレ君少し変わり者だったじゃない! 『みらいは俺の女神だ』って10年ものろけられたし!」
田中みらい「もう、ユイは変な事ばかり覚えているんだから! 確かに変わってはいたけどね ふふっ」
佐々木ユイ「やっと久しぶりにみらいが笑った! 今から夕食を作るから 食べてゆっくり眠って 明日のツカレ君のお通夜で見送ってあげよう」

〇豪華なベッドルーム
佐々木ユイ「じゃあ、私はリビングのソファー借りるから ゆっくり眠ってね」
田中みらい「いろいろ、ありがとう 夕食おいしかった」
佐々木ユイ「いいの! ツカレ君が生きてた時は私がよく二人にごちそうしてもらってたんだもん ゆっくり眠ってね おやすみ」
田中みらい「よく3人で食べたね お酒も3人で飲んで1番弱いツカレ君がつぶれて それ見たユイがよく笑ってたね」
佐々木ユイ「そうそう!普段は静かなくせに酒に強い私に対抗してつぶれてたわ! 懐かしいね みらい今日はゆっくり眠るんだよ? おやすみ」
田中みらい「うん おやすみ」

〇豪華なベッドルーム
田中みらい「何だか、いろいろ疲れたな 何でツカレ君あんな事をいったんだろ....」
田中みらい(眠い...ほとんどこの3ヶ月は眠ってなかったっけ....(寝息))

〇東京全景
小野ツカレ「・・・だから、これが始まりだよ」
田中みらい(あれ、ツカレ君 確か外出許可が最後に出た日に2人で レストランに行った帰りだ... 夢か...)
小野ツカレ「だからね みらいちゃんは僕が死んでも楽しんでよ! 楽しみな事だと思わない?」
田中みらい「えっ・・・ 思い出せない ツカレ君が言った言葉 楽しむ?こんなに悲しいのに...」
小野ツカレ「僕にとっての最高の最期の晩餐だよ! レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた絵は裏切り、でも僕の最期の晩餐はみらいちゃんとの幸せ」
田中みらい(ああ、そうだ ツカレ君は最後までこんな事を言う人だった 最後まで泣かない人だった)
小野ツカレ「今より幸せになるよ! みらいちゃんは、僕が見つけた女神だもん!」
田中みらい(この言葉、懐かしい・・・ この言葉は覚えてる ユイが茶化しても周りが笑っても 笑ながら言うからなれちゃってたなあ)

〇病室のベッド
小野ツカレ「仕事帰り、毎日毎日お見舞いありがとう」
田中みらい(ツカレ君が最期に話した日だ・・・ 確かこの夜から昏睡状態になって・・・)
田中みらい(あっ!確かこの日にあの忘れた言葉を聞いたんだ!)
小野ツカレ「あー、あ! みらいちゃんと婚約までしたのに 神様もかなりの意地悪だよね〜 女神との結婚、神様が嫉妬したのかな(笑)」
田中みらい「まだそんな事、言ってるの? 早く・・・元気になって戻ってきてよ」
小野ツカレ「泣かないでよ これでも病とは闘ったんだよ 女神のみらいちゃんのために 負けちゃったけどね..でも」
小野ツカレ「でもさ 「みらいちゃんにとってはこれからが始まりだよ!」」
田中みらい(この後の言葉だ!)
小野ツカレ「僕と過ごした11年は過去になる ずっと泣いてないで少し休んだら みらいちゃんの新しい人生の始まりだよ!」
田中みらい「えっ?」
小野ツカレ「悔しいけどさ、この世界にいない僕より みらいちゃんを大切にしてくれる人と出逢って、いろんな季節を観てさ」
田中みらい「そんな・・・」
小野ツカレ「たくさん幸せになって おばあちゃんになって また僕に会いにいつか来るだろ?」
小野ツカレ「だから、僕にとってもみらいちゃんにとってもこれからが始まりだよ!」

〇豪華なベッドルーム
田中みらい「あっ! 夢?違う・・・ツカレ君の最期の言葉だ」
田中みらい(そうか、ツカレ君のいない世界が終わりじゃなくて、2人がまた出逢う始まり 最期なんかじゃない・・・)
田中みらい(最期までツカレ君らしいな・・・ 出逢ってくれて ありがとう・・・)

〇空
小野ツカレ(だから、これが始まりだよ! みらいちゃん!)

コメント

  • 最期にこんな言葉を出せる彼の、強さと優しさにうるっとしました。
    そうですよね、数十年後再び会える時を楽しみに、彼女には今を幸せに生きて欲しいです。

  • 彼は本当に彼女のことを愛しているということ、だからこそ自分がいなくなっても彼女に前に進んでほしいという想いが存分に伝わってきて読みながら涙しました。最後の晩餐という言葉で表現したことで、彼はもう自分の死を受け入れているんだなということ、彼女と過ごしてきた時間の大切さもわかりました。彼は強くて優しい人ですね。

  • 若いのに、最期の時にこんな言葉を彼女にかけられるなんて、素晴らしい人なんだなあと思いました。
    死ぬのが怖くないのかなあ。また二人が再会できるといいです。

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