慈悲なきマキゅべりずむ?

岡田拓也

第1話 すき焼きパーティー(脚本)

慈悲なきマキゅべりずむ?

岡田拓也

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〇綺麗な一戸建て
「緊急召集ーーー!!! 緊急召集ーーー!!! 緊・急・召・集ーーー!!!」

〇綺麗な一戸建て

〇男の子の一人部屋
北条恭介「ふぁ・・・何だ、こんな時間に・・・?」
ポン「くぅぅぅ〜〜ん・・・?」

〇綺麗な一戸建て
「早く集まれアホォォォォーーーッ!!」

〇男の子の一人部屋
北条恭介「とりあえずリビングに行こっか、ポン。 真希のやつが暴れ出す前に」
ポン「くぅん・・・」
北条恭介(一体なんなんだ、こんな真夜中に・・・)

〇空
  北条真希。
  そう、僕の妹だ。
  真希は長らく引きこもり生活を過ごしていた。
  どうやら学校の同級生と上手く馴染めなかったのが原因みたい。
  心配したお母さんが「部屋から出てほしい」と真希に懇願したんだけど、部屋から出る条件として真希が提示したのは・・・
  “家族全員あたしに絶対服従”
  僕を含め家族全員が混乱した。
  でも、このまま真希が部屋に引きこもって出てこない状態が続くのも問題だ。
  だから・・・この条件を承諾してしまった。
  部屋からは出たのだけれど、学校には行けていないのが現状。
  これはこれで問題なんだけど。
  真希は常に家に居る。
  そして、提示された条件によって北条家の日常は大きく変わってしまったんだ──

〇一階の廊下
北条秀蔵「おお、恭介!」
北条恭介「お父さん。 いきなり緊急召集って・・・今、夜中の2時だよね。 真希は一体何を考えてるんだろ?」
北条秀蔵「いやぁ、さっぱり分からんな。 緊急召集っていうくらいだからきっと大変な事態が起きたのかもしれん」
北条恭介「そうかなぁ〜? この前も緊急召集って全員呼び出されて何事かと思ったら『消しゴム落としたから拾え』ってだけだったじゃん」
北条恭介「全然たいした事ではなかったし、家族全員を呼び出す意味が分からないよ。 というか、自分で拾えるでしょ」
北条秀蔵「確かに。 だが【マキゅべりずむ】の掟に逆らうわけにはいかないからな。 どんなに理不尽な内容だとしてもだ」
  【マキゅべりずむ】
  
  北条真希が再び部屋に引きこもらない限り、北条真希には北条家を支配する権利があるという考え・決まり
北条恭介「マキゅべりずむの掟かぁ。 たくさんあって覚えきれないんだよね」
北条恭介「あ、でも、緊急召集がかかったってことは・・・」
  マキゅべりずむの掟 第312条
  
  どのような状況下においても緊急召集の呼びかけには応じること。守れなければ、財布没収。
北条秀蔵「そう、財布を没収されてしまうんだ! 行かざるを得ない」
  ⚠︎ ポンはおもちゃ没収。
ポン「くぅぅ〜ん(泣)」
北条恭介「ポンは寝坊助だったから何度もおもちゃを没収されてるね。 今や掟のせいで小さな物音にも敏感になっちゃって・・・かわいそうに」

〇綺麗な一戸建て
「くおぅらぁああああああああーーーッ!!」

〇一階の廊下
北条秀蔵「・・・おっと、いかん。 ここで不満を言っている場合じゃないぞ。 早くリビングに行かねば!」
北条恭介「う、うん! 財布没収されちゃう〜〜っ!」

〇明るいリビング
北条恭介「ハァッ・・・ハァッ・・・! 真希、遅れてごめんっ!」
北条秀蔵「すまなかった、真希! 財布の没収だけは勘弁してくれ・・・!」
ポン「くぅぅん・・・」
北条真希「・・・」
北条真希「・・・・・・」
北条真希「呼び捨てするなああああーーー!!! タメ口使うなあああああーーー!!!」
「あっ」
  マキゅべりずむの掟 第200条
  
  北条真希への呼び捨て・タメ口を禁ずる。守れなければ、発言の語尾に動物の鳴き声。
北条真希「というわけで、うーーん・・・」
北条真希「お兄ちゃんは語尾にお豚さんの『ブー』 パパは語尾にお牛さんの『モー』 を付けるように! はい、決定っ!」
  ガァァーーーーーーーーン
北条秀蔵「あ、あの・・・財布はどうなりますかモー?」
北条真希「きゃははっ! モーモー、お牛さん♪」
北条真希「・・・うん。 遅れはしたけど、ちゃんと来てくれたから財布は没収しないぞっ!」
北条秀蔵「ほ、本当ですかモーッ!? ありがとうございますモーッ! ありがとうございますモーッ!」
北条恭介(完全にマインドコントロールされてる・・・)

〇明るいリビング
北条恭介「それであの、真希様・・・今回の緊急召集はどのような件でかけられたのでしょうかブー?」
北条秀蔵「はい、私もこんな真夜中に何事かと驚きましたモー。 真希様の身に何かあったのかと大いに心配しましたモー・・・」
北条真希「フフフ、それはだな」
北条真希「ドゥルルルルルル・・・ダンッ! すき焼きパーティーをするから緊急召集をかけたのだっ!」
北条恭介「え・・・」
北条秀蔵「こ、こんな時間にすき焼きだなんて体に良くないと思いますモー!」
北条真希「ん? パパ・・・何か文句あるのか?」
北条秀蔵「え、いや、その、あ、はい・・・ないですモー・・・」
北条真希「よし! それじゃ、決まり! すき焼きパーティーだーーーッ!」
北条秀蔵「トホホだモー・・・」
北条真希「ふふふん♡」
北条真希「ちなみにママは一足先に来て、もう台所で準備してるぞ。 ママはえらいっ!」
北条恭介(・・・・・・)

〇システムキッチン
北条恭介「お母さん、これって・・・」
北条紗綾「うん。 先週の恭介の誕生日パーティー、すき焼きにできなくてゴメンね。 恭介の大好物のすき焼きを作るって約束してたのに」
北条恭介「ううん、気にしないで。 スーパーの卵が売り切れてたんだから仕方ないよ。 お母さんは悪くないから」
北条紗綾「ありがと。 恭介も真希もお肉を卵につけて食べるのが好きだから、卵の無いすき焼きは考えられなかったの」
北条紗綾「だから急遽、ファミレスでお祝いすることになっちゃって・・・本当にごめんね」
北条恭介「だから気にしないでいいってば。 それより、どうして今になってすき焼きパーティーをすることになったの?」
北条紗綾「・・・」
北条紗綾「真希よ。 真希はずっと、恭介の誕生日パーティーがすき焼きじゃなくなったことに納得していなかったの」
北条恭介「えっ!」
北条紗綾「うふふ。 恭介はマキゅべりずむの掟の第34条がどんな内容だったか覚えてる?」
北条恭介「う〜ん。 覚えてないや」
北条紗綾「第34条の内容はね・・・」
  マキゅべりずむの掟 第34条
  
  誕生日パーティーの料理は、絶対に誕生日の者の大好物にしなければならない。北条真希は寿司。
北条紗綾「ってわけ。 まぁ、自分の誕生日には必ず寿司が食べられるようにという真希の願いから生まれた掟なんだけどね」
北条恭介「そういうことかー。 いや、でもなんでこんな真夜中に?」
北条紗綾「・・・」
北条紗綾「実はね、すき焼きの仕込みをしたのはほとんど真希なの。 お母さんは最後にちょっと手伝っただけ」
北条紗綾「真希はまともに料理なんかしたことがなかったから・・・先週からずーっと、すき焼きを作る練習を隠れてしてたみたいね」
北条紗綾「こんな時間になったのは、きっと準備している所を恭介に見られたくなかったからじゃないかな。 覚えたてで手こずったのかも」
北条紗綾「サプライズ・・・だね、恭介っ」
北条恭介「お母さん、どうしてそんなに真希のことが分かるの?」
北条紗綾「うん。 真希が中心の北条家にはなってしまったけれど・・・」
北条紗綾「お母さんだから、分かっちゃうんだ」

〇明るいリビング
北条真希「それでは・・・」
北条真希「すき焼きパーティーの〜〜〜〜〜〜・・・」
北条真希「はじまりはじまりぃぃぃーーー!!」

〇明るいリビング
北条恭介「うまーい! やっぱり、すき焼きには卵っ!」
北条真希「うん、わかる! わかるぞっ!」
北条紗綾「ほんと美味しい。 頑張りましたわね、真希さm・・・」
北条真希「ママ、しーっ!」
北条紗綾「あっ、すみません! つい口が滑って・・・」
北条真希「むぅぅ〜〜〜」
ポン「ワーンッ! ワンッ! ワンッ!」
北条真希「ポンも美味しいか! ちゃんと加熱してるから、遠慮なく食べろ♪」
北条秀蔵「真希様、どうして私は牛肉を食べてはいけないのでしょうかモー・・・しくしく」
北条真希「ん? だって、パパはいまモーモーお牛さんだから共食いになってしまうだろ」
北条秀蔵「そんなぁ〜、ですモー・・・」

〇明るいリビング
北条恭介「ふぅ〜〜・・・。 美味しかった、お腹いっぱいっ!」
北条真希「そうか! そんなに美味しかったか!」
北条恭介「はい、とっても美味しかったです真希様。 今まで食べてきたすき焼きの中で一番でした」
北条真希「そそ、それは! よ、良かったなっ・・・!」
北条恭介「はい!」
北条恭介「あっ」
北条恭介「語尾にブーを付けるの忘れてました。 すみません・・・」
北条真希「んー・・・」
北条真希「許す! タメ口も解除だっ!」
北条恭介「・・・」
北条恭介「ありがとうね、真希!」
北条真希「うん!」

〇黒
  そして、朝。

〇明るいリビング
北条恭介「ふぁぁ。 ん〜、寝不足だぁぁーーー・・・」
北条紗綾「さすがにそうなるわよね・・・」
北条秀蔵「だが、今日は日曜日だからゆっくり寝れ・・・」

〇綺麗な一戸建て
「緊急召集ーーー!!! 緊急召集ーーー!!! 緊・急・召・集ーーー!!!」

コメント

  • わー!!まき・・・困ったちゃんすぎる・・・と思っていたら、なかなかの家族想いなところがあったり、可愛いところもあったりで、憎めない感じで可愛かったです✨😊

    お父さんがマインドコントロール完了してて笑っちゃいましたモー🐮✨

    面白かったです✨

  • マキゅべりずむの掟、一体何条まであるの…と思っていたら、楽しい仕掛けですね!
    これもひとつの家族内のコミュニケーションですね、真希ちゃんの心根が真っ直ぐであることが前提ですがww

  • ある意味目的のためには手段は問わないスタンスは、マキャベリズムに通じるものがありますね。面白かったです。

    厳しさと子供らしさがある掟、ほかのはどんなモノがあるか楽しみですね。

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