明日こそ成仏する!

NekoiRina

読切(脚本)

明日こそ成仏する!

NekoiRina

今すぐ読む

明日こそ成仏する!
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇怪しいロッジ
  小屋の中はとても綺麗だった。
ハーキマー「お前・・・誰!」
野村灯香(のむらほのか)「ご、ごめんなさい、勝手に入って!」
ハーキマー「どうして中に入ることが出来た!?この小屋は私が結界をはっているのに!」
野村灯香(のむらほのか)「け、結界!?」
ハーキマー「お前・・・何者だ!?」
野村灯香(のむらほのか)「何者って言われても普通の人間・・・」
  違う。私は死んでしまったのだから、普通の人間・・・ではない。
野村灯香(のむらほのか)「普通の・・・幽霊です!」
ハーキマー「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊・・・」
ハーキマー「うわあああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい祓ったりしないから出て行ってくれ怖い怖い怖い」
  目の前にいる気の強そうな女の子は、急に慌てふためき涙目になった。
アベンチュリ「ハーキマー、落ち着いて?幽霊が怖い魔法使いなんて聞いたことないですよ?」
野村灯香(のむらほのか)「うわああ犬がしゃべった! って、え?魔法使い・・・?」
アベンチュリ「驚かせてすみません。私はアベンチュリ。こちらはハーキマー。これでも一応魔法使いなので、ある程度なら何でも出来ます」
ハーキマー「ある程度って・・・適当な紹介だな・・・」
野村灯香(のむらほのか)「私はホノカです。あの!魔法使いなら、私を成仏させてくれませんか!?私、どうしてここにいるのか自分でも分からなくて・・・」
ハーキマー「いや成仏とか専門外」
アベンチュリ「かと言って放り出すわけにもいかないでしょう?成仏出来ないってことは・・・何か心残りでもあるのですか?」
  そう言われても・・・この世界に心残りなんて全く無い。正直「死ねてラッキー」と思っているぐらいだ。
  それぐらい、私の毎日は苦痛だった。
  「勉強しろ」しか言わない親。
  受験勉強のストレスを
  私にぶつけるクラスメイト。
  いじめられている私を
  見て見ぬフリする学校の先生。
  私の世界には敵しかいない。
  川に落ちたのだって、
  誰かに突き飛ばされたような気がする。
野村灯香(のむらほのか)「あぁ、そう言えば・・・受験が終わったら読もうと思っていた漫画があったなぁ」
  ハーキマーはすぐに魔法で漫画を出してくれた。漫画の世界は、白々しいぐらいのハッピーエンドだった。

〇森の中の小屋
  目が覚めたら、見知らぬ森の中にいた。
  私は野村 灯香(ノムラ ホノカ)。
  中学3年生。
  だったが、あっけなく死んでしまった。
  課外授業で来ていたキャンプの最中、
  足を踏み外し川に落ちたのだ。
  泳ぐのは得意だったけれど、
  川は学校のプールとは違い流れがある。
  水の深さが膝ぐらいまでしかなくても、
  流れが速いと立っていることさえ難しい。
  それに、海は塩分を含んでいるから体が浮きやすいけれど、川の水は空気が多いから浮きにくいのだ、と理科の授業で習った。
  死ぬ間際に思い出すのが理科の授業だなんて・・・と、川に流されながら呑気なことを考えていたら、気付けば森の中だったのだ。
野村灯香(のむらほのか)「私は・・・死んだのよね?」
野村灯香(のむらほのか)「ここは・・・天国?」
  とにかく私は、目の前にある小屋へと足を進めることにした。

〇貴族の部屋
アベンチュリ「ではこちらのベッドへどうぞ。眠りから覚めた時、きっと成仏しているはずです」
  アベンチュリに促され、
  私は深い眠りについた。

〇怪しいロッジ
  そして翌日。目が覚めるとそこは
  小屋のベッドの上だった。
野村灯香(のむらほのか)「どうして成仏してないの?」
ハーキマー「他にも何か心残りがあるんじゃないか?」
野村灯香(のむらほのか)「そう言えば来週、この前受けた模試の結果が返ってくるの。勉強頑張ったから、結果が楽しみだったんだよね・・・」
  そう言うと、ハーキマーは魔法で
  成績表を見せてくれた。
野村灯香(のむらほのか)「うわあ!見て?志望校の合格判定、初めてのA判定だ!嬉しいなあ!」
ハーキマー「その高校を選んだ理由とかあるのか?」
野村灯香(のむらほのか)「・・・親が選んだだけ。ここ、制服ダサいの」
野村灯香(のむらほのか)「よし、明日こそ成仏するぞー!」

〇貴族の部屋
  それから私はまた、ベッドに横たわり
  深い眠りについた。
  そして翌日。目が覚めるとそこは
  小屋のベッドの上だった。

〇怪しいロッジ
野村灯香(のむらほのか)「えええ?もう!早く死にたいのに! どうして成仏しないの!?」
アベンチュリ「まだ心残りがあるのでしょう」
野村灯香(のむらほのか)「ええ・・・?えっと、えっと・・・ あ、隣町のケーキ屋さん!」
野村灯香(のむらほのか)「誕生日しか買ってもらえないケーキ、あれが大好きなの。最後にもう1回食べたい!」
  ハーキマーは魔法でケーキを出してくれた。優しい甘さが口に広がっていく。
野村灯香(のむらほのか)「美味しかったあ! 来年の誕生日も楽しみ・・・あ・・・」
  そうだ、私はもう死んでいる。
  来年なんて来るはずがない。
ハーキマー「生きたい・・・という欲が出てきたか?」
野村灯香(のむらほのか)「そ!そんなことない、死にたいよ!だって私が生きていても誰も喜ばないもの!」
ハーキマー「誰かの為じゃなく、 自分の為に生きればいい」
野村灯香(のむらほのか)「自分の・・・ため?」
ハーキマー「お前が好きなあの漫画。 続編が出るらしいぞ」
野村灯香(のむらほのか)「続編!?」
アベンチュリ「貴方が目指している高校。 来年から可愛い制服に変わるのですよ」
ハーキマー「ケーキだって、 生きていれば何度だって食べられる」
アベンチュリ「辛いことの先には、 何か喜びが待っているかもしれない」
ハーキマー「たとえ小さな喜びだとしても・・・自分の未来に何が待っているのか。知りたくないか?」
野村灯香(のむらほのか)「知りたい・・・ 私・・・もっと・・・生きたい!」
  途端に私の体は光に包まれた。
ハーキマー「お前は死んだわけじゃない。 幽体離脱していたんだ」
アベンチュリ「「生きたい」と願う気持ちが弱すぎて、 身体に戻れなかったようです」
ハーキマー「周りの悪意に負けるな。 負の感情に振り回されず生きるんだ」
野村灯香(のむらほのか)「二人とも・・・ありがとう・・・!」

〇総合病院
  目覚めるとそこは病院で、心配そうに手を握る両親がベッドの脇にいた。

コメント

  • いい話だなぁと読んで思いました。
    生きてると嫌なことはいっぱいですが、いざ…となると小さな楽しみや幸せがあるものだと、教えてくれたお話でした。

  • 成仏…ってしたくてするものなのかな?
    どうなんだろ…死んだ事ないからわかりませんが…。
    でも生きていれば楽しいことはいくらでもある!結果論かもしれませんが、私の人生もそう思います!

  • ”生きること”の未練や思い残し、主人公のような環境下にならないと、なかなか本音が出てこないですね。楽しく読む一方で、考えさせられることも多い物語に大満足です。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ