この二度目の恋は、「初恋の延長線上」にある。

しのぐ

エピソード2(脚本)

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〇学校の校舎
  私立 分条学園(ぶんじょうがくえん)。頭が良すぎず、悪すぎず。校則も緩すぎず、厳しすぎない、どこにでもある中高一貫校。
  俺————松田 ハルは、ここの最上級生だ。

〇バスの中
アヤカ「でさぁ聞いてよマツダ~。アイツったらウチが勉強してたらさぁ~」
「へえー・・・・・・」
  学校の帰り。俺と目の前の女子校生だけしかバス内にいない。
  彼女の名は、小和田 彩花(こわだ あやか)。
アヤカ「そういえば新任の田中先生、スゴイ真面目だよね~。結構イケメンだし!」
「そうだな〜」
  毎日最終便に乗る生徒なんて、俺とこの小和田くらいだ。
  お互い、部内で一番ストイック。部活終わってからも自主練しているから、帰りが二十一時の最終便になってしまう。
  ――――ただし――――、

〇学校の体育館
  バスケ部内での俺の実力は、下から数えた方が早い。

〇家庭科室
  一方、小和田は料理部部長。学生料理コンテストで一位を取る程の腕前。
  コイツの料理の才能を、俺のバスケの才能に変換して分けて貰いたいくらいだ。

〇バスの中
アヤカ「あ! 松田、いつもの上げる!」
  小和田は、スクールバックからチョコレートの入った箱を取り出し――、
「さんきゅう」
  いつものチョコ。
  他の友達にも上げているだろう義理チョコ。
「パキッ! ムシャリッ、ムシャリッ――」
アヤカ「どう? おいしい?」
「(・・・・・・うまい!)」
  甘すぎず、苦すぎない、いつもの味。
  ————小和田にチョコを貰うようになってから調べた事ではあるのだが————、

〇黒
  世界的に有名なフランスのパティシエ「ニコラ・クロワゾー」によると、
  美味しいチョコレートとはカカオの割合が70%を超えないチョコレートのことを指すらしい。
  完璧な調和を持つ美味しいチョコレートには、1グラム単位の調整が非常に重要なのだと。
  小和田のチョコは、まさにソレだ!

〇バスの中
「・・・・・・うん、いつも通り」
アヤカ「え~、何その無表情。少しはリアクション取ってよ!」
  いつも通り、上手い。
  それだけの言葉を、何故かいつも正直に言う気になれない。

〇バスの中
アヤカ「・・・・・・」
「・・・・・・」
アヤカ「・・・・・・」
アヤカ「・・・・・・ねえ松田・・・・・・ウチの悩み、聞いてくれない?」
「どうした?」
アヤカ「ウチさ・・・・・・好きな人が出来た」
「へえ~・・・・・・誰?」
アヤカ「三―Bの水城(みずしろ)くん」
アヤカ「この間体育の授業のバスケで一緒のチームになってさ、スゴイカッコ良かった!!」
アヤカ「ウチ、今度水城くんに告ろうと思うんだ」
「・・・・・・水城君のどこが好きなんだ?」
アヤカ「それはもちろん————、」
  バスが最寄り駅につくまで、俺はひたすら水城君が如何に性格イケメンかを語られ続けた。

〇男の子の一人部屋
  夜二十三時、自室。
  飯も食ったし、風呂も入った。後は寝るだけ。
  ベッドに寝転がり、天井を見上げる。
「(水城君・・・・・・か・・・・・・)」

〇黒
  水城君はサッカー部のエース。
  見た目よし、スポーツよし、勉強よし、三拍子揃っている。それでいて誰にでも優しい。
  体育のサッカーで、俺がノーマークのシュート外した時なんかも――、
水城君「(ドンマイ! 松田!)」
  ――隣の席になった時なんか、学校休んだ次の日に――、
水城君「(松田、昨日授業休んだだろ? ノート写させてやるよ!)」
  ――と、わざわざ向こうから声をかけてくれた。
  非の打ち所がない程、人間として良く出来たヤツ。
  ・・・・・・まぁ、アイツと小和田ならお似合いだろう。
  小和田はおてんばだが、根から明るいヤツだ。裏が無い女。
  水城君となら裏が無い者同士、上手くやっていけるだろう。
「(・・・・・・アレ?)」

〇男の子の一人部屋
「(・・・・・・アレ?)」
「(おかしい・・・・・・)」
「(胸が痛い・・・・・・)」
「(あつい・・・・・・)」

〇黒
  水城君はサッカー部の活動が終わるとすぐ帰る。
  小和田は、水城君の帰宅時間に合わせるだろう。

〇男の子の一人部屋
「(モヤモヤする、モヤモヤする・・・・・・)」
  何で小和田に対してこんな気持ちになるんだろう?
  ブー、ブー、ブー・・・・・・
「・・・・・・もしもし」
黒居「『おい松田。お前最近部活ばっかで付き合いわりーな』」
黒居「『なんか小和田と一緒に帰ってるらしいけど・・・・・・デキてんのか?』」
「・・・・・・んなワケないだろ」

〇黒
  この黒居という男を短い言葉で表すならば――「小悪党」。
  学校帰りに、校則で禁じられているゲーセン行く為、私服をバッグに詰めて登校したり――、
  あるいは宿題を解答丸写して提出したりと————ずる賢い男。
  一応、高校のクラスメイトだ。
  法律は破らないが、校則は破るレベルの不良────いいや、「小悪党」。
  俺だけが唯一、コイツと小学校からの腐れ縁だから、「小悪党」である事を知っているが・・・・・・。

〇男の子の一人部屋
「小和田も俺も、自主練で最終バスまで残ってるから、たまたまバスが一緒になってるだけだよ」
黒居「『ふ~ん・・・・・・』」
  ・・・・・・疑われている。
黒居「『でさ、小和田とどんな話するんだ?』」
「・・・・・・別に、何も」
黒居「『一緒にいて「何も」なんてあるワケねえだろ? 教えろよ?』」
「・・・・・・アイツの恋愛相談だよ」
黒居「『恋愛相談? 小和田って、誰か好きな人いんの?』」
「・・・・・・・・・・・・」
黒居「『聞かせろよ、小和田の好きな男。お前、小和田のコト好きなんだろ?』」
「ハア!? 何で俺が・・・・・・」
黒居「『お前の心の中なんか、教室で観察してたらすぐ分かるんだよ』」
「・・・・・・」
黒居「『俺に「小和田の好きな男子」、教えてくれたら、お前に協力出来ると思うぜ?』」
「・・・・・・」
  俺は、この黒居と幼馴染である事を、小和田も含め学校の誰にも話していない。
  黒居が誰から「小和田の好きな人」の情報を得たか、誰も知る由も無い。
  そして黒居は――――口が軽い。

〇まっすぐの廊下
黒居「(おいお前、知ってるか? 小和田のヤツな――)」
  色恋沙汰を話せば、あっという間に噂を広めるだろう。

〇教室
  そして小和田という女子は、誰にでもフランクだ。
  きっと自分の好きな男子が誰かなんて、アイツの周りに集まる女子の一人や二人に、既に話しているに決まっている。
  だから、学年中に噂が広まったって、発信源が俺だなんて分かりっこ無い筈。

〇男の子の一人部屋
「小和田の・・・・・・好きな人は・・・・・・」
黒居「『・・・・・・ホ〜・・・・・・』」
  俺は自分の欲望に負けて、悪魔の誘いに乗った。
「(・・・・・・フッ。な~にが『悪魔』だ)」
「(黒居が『悪魔』なら、俺はただの『クズ男』じゃないか)」
黒居「『へえ・・・・・・水城か。小和田のヤツも、良い趣味してんなあ』」
  電話越しに、悪友の楽し気な声が聞こえる。「台風が来る日の前にテンションが上がる子供」のような声が。
  ・・・・・・ああ・・・・・・しかしこの台風を起こそうとしているのは、間違いなく、この俺だ。
  こんな性格だから、【アイツ】と結ばれなかったのだろうな・・・・・・。

〇体育館の中
謎の少女の声「【五年間も想い続けてくれてありがとう。本当にありがとう】」
謎の少女の声「【そんな事が出来るハル君なら、私なんかよりもっと良い人が見つかると思います】」
謎の少女の声「【私もようやく見つかりました。これから先、変わるつもりはありません】」
  優しい少女の声が、脳内で木霊する。

〇男の子の一人部屋
「ゲホッ! ゲホッ・・・・・・!」
黒居「『おい! お前大丈夫か!』」
「わ・・・・・・わるい・・・・・・」
  ・・・・・・思い出したくもない事、思い出しちまった・・・・・・。

〇田舎のバス停
  二日後、夜二十一時。最終バスの到着を待つ俺と小和田。
アヤカ「バラしたでしょ?」
「え・・・・・・なんで・・・・・・?」
アヤカ「ウチ、松田にしか好きな人の話してないもん」
「・・・・・・俺にしか・・・・・・?」
アヤカ「・・・・・・ウチ、帰る」
「待てよ! どこ行くんだよ?」
アヤカ「歩いて駅まで帰る」
「夜道だぞ!? それに歩いて一時間はかか————」
アヤカ「松田といるよりはマシ!!!!」
  彼女の罵声が暗闇に響き渡る。

〇男の子の一人部屋
  家に帰ってからすぐに、黒居のヤツに電話した
  小和田の水城君への想いが本人に知れ渡り、水城君は小和田をフッたらしい
  小和田は自分から告らずして、フラれたのだ

〇体育館の中
  俺は中学時代・・・・・・そして、今どこかの高校にいるだろう【アイツ】の姿を、想い浮かべる事が出来ない。
  小学生時代のアイツの姿しか、想い浮かべる事が出来ない。
  もし【アイツ】と再会したら、きっと小和田瓜二つな容姿に成長している事だろう。
  小和田彩花は、俺にとって、「初恋の延長線上にいる少女」なのだ。

〇学校の校舎
  あれから一週間。
アヤカ「・・・・・・」
「あ・・・・・・、」
アヤカ「────────」
  小和田は俺を無視するようになった。
  すれ違っても目を合わせない。
  口も利かない。
  帰りは、終電から二本前のバスに乗っているようだ。

〇教室
「(嫌われた、嫌われた・・・・・・)」
アヤカ「・・・・・・」
  授業中。一番後ろの席の俺は、最前席の小和田の後ろ髪を見る。
  まさか・・・・・・あの友達にはまるで困らない小和田が、俺以外の生徒に恋愛相談をしていなかったなんて。
「(どうすれば良い? どうすれば?)」
  小和田に謝る方法。
  きっと「ゴメン」だけじゃ済まない。
「(ちゃんと心から謝りたい。どうすれば?)」
  ・・・・・・ふと、小和田が俺にくれたチョコを思い出す。
  俺が一番小和田にして貰って嬉しかった事を。
「(それだ!)」

〇綺麗なキッチン
  帰宅して、すぐにキッチンに向かい、取り掛かる。
  砂糖、ココアバター、粉乳、etcエトセトラを取り出し────、
  料理本を開きながら。
「(料理なんて生まれて一度もした事がない)」
「(でも、やるっきゃない)」
「(超一流高校生料理人の小和田に美味しいと言わせられる程の詫びチョコを、作るしか)」
  その日、俺は一睡もせずにキッチンで朝を迎え――、
  五十五回目にして、最高の詫びチョコを完成させた。

〇家庭科室
アヤカ「なに? 用って?」
  次の日────小和田と俺の部活が休みである水曜日。
  放課後、彼女を家庭科室に呼び出した。
「あ、あのさ・・・・・・ゴメン」
アヤカ「何にゴメンよ?」
「・・・・・・」
アヤカ「はっきり言いなよ?」
「喋っちゃって・・・・・・ゴメン」
アヤカ「・・・・・・」
  ────無言。
  無言が室内を包む。気まずい。
  空気の流れを変える為、俺はリュックからリボンで包んだプレゼント箱を取り出し、
「コレ・・・・・・お詫び」
アヤカ「・・・・・・」
  小和田が、箱を受け取り────、
  俺手製のチョコを取り出す。
アヤカ「ピキッ! モグ、モグ・・・・・・、」
「・・・・・・どう?」
アヤカ「?!?!?!?!?!」
「うぷっ!」
  かじりかけのチョコを俺の口に突っ込む。
  俺の口の中で、塩辛い味が広がる。
  ・・・・・・・・・・・・塩?
「かっらっ!!」
アヤカ「松田、砂糖と塩、入れ間違えたでしょ?」
「えっ? うっそ? 何で・・・・・・?」
「(寝不足で舌ボケしてたのか!?)」
「ゴメン! また作り直すから!」
アヤカ「いいよ、松田の作るチョコよりウチが自分でチョコ作る方が美味しいに決まってるし」
アヤカ「ていうか、何で詫びチョコ? 普通に謝るだけで良いじゃん」
「それは————、」
  それは・・・・・・の続きが出なかった。
「(小和田が好きだから?)」
  でも、それを彼女に伝える事は出来ない。フラれるのが怖いから。
  ────ふと、ある事に気づいてしまった。
「(フラれる事を怖がっているような男が、女の子を男にフラれるように仕向けてしまうなんて・・・・・・)」
「(それも、ただの「嫉妬心」から)」
「(最低のクズだ・・・・・・・・・・俺・・・・・・)」
アヤカ「・・・・・・」
「・・・・・・」
アヤカ「フー・・・・・・」
アヤカ「帰る」
「ま、待って!」
アヤカ「!?」
「お、俺を料理部に入れてくれないか?」
アヤカ「・・・・・・ハァ!?」
「料理部で腕鍛えて、小和田に許して貰えるくらい美味しいチョコ作るから!」
アヤカ「プッ・・・・・・・・・・・・アハハハッ!」
アヤカ「松田、ちょっと必死過ぎじゃない? ウチの事好きなの?」
「いや、チッ、チゲェよ! 本当に申し訳なく思ってるんだよ!」
アヤカ「・・・・・・いいよ。料理部部長として、先生達に松田が家庭科室使えるように頼んであげても」
「え! いいの!?」
アヤカ「ただし――、」

〇白
アヤカ「今まで松田の為に作ってあげたチョコ分、これから毎日ウチの為にチョコを作って貰います」
  この日から、俺の「美味しい詫びチョコの作り方」を学ぶ料理修行の日々が始まった。

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